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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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― 蠱惑の魔眼 ―





 ミレイ、キララ、ソルティア。3人を背中に乗せて、フェンリルが街道を疾走していく。

 あくまでも、快適な旅を楽しみたいため。速度は控えめである。



「何だか、新鮮な香りがする。」


 ミレイとソルティアに挟まれながら。

 キララはゆっくりと深呼吸をした。


「ソルティアさんと”密着”するのは初めてだから。こんな匂いなんだ。」


「……わたし、臭いますか?」


 ソルティアも、一応は女としてのプライドがあるので。それは気になる指摘であった。


「いや、まっさか! すっごく良い匂いだよ! 例えるなら、そう。”凛々しい花の香り”、みたいな。」


「は、はぁ。」


 ソルティアは反応に困る。


「……キララ。あまり”変態っぽい面”は見せるなよ。」


「えぇ〜、なんでぇ? 女の子同士だから、何の問題も無いって。」


 そう言いつつ。

 キララはミレイへのホールドを強める。


「うっ、抱き締めんな、こら。」


「……はぁ。」


 これは、重大な選択を間違えたかも知れない、と。

 ソルティアは後悔の溜息を吐いた。


「ちなみにミレイちゃんは、”パッと明るいお花”、みたいな香りかなぁ。」


「はいはい。ジータンで暮らしてたから、全部花の香りに感じるようになってるんだよ。」


「ふっふーん。それはどうかな?」


 キララは自信ありげに笑う。


「……ミレイちゃん。白くなる前と比べて、ちょっと匂いが強くなってるかも。」


「えっ、嘘!?」


 ミレイは咄嗟に、自身の体臭を確かめる。

 くんくん、と。


「……怪人っぽい臭いが、する?」


「どうかなぁ〜」


 キララは真実を語らない。


「……はぁ。」


 ソルティアは頭を抱え。

 これからの旅を、若干不安に感じ始めた。









 帝都までの道のりは、未だ遠く。

 夜を迎え。3人は街道沿いで野宿をすることになった。


 3人揃って、焚き火を囲んで。

 フェンリルは小さくなり、眠りにつく。



「この調子で行けば。明日にはアセアンに着く予定です。」


 地図を広げて。

 3人は帝都への道のりを確認する。


「ふむ。」


「アセアンって、どんな町なんだろう。」


 田舎暮らしのキララにとっては。全てが新鮮で、楽しみで仕方がない。


「そう、ですね。わたしも行くのは初めてなので、詳しくはありませんが。流通の要となる土地で、冒険者の数もかなり多いそうです。」


「へぇ〜、何だか楽しみ。」


「……ですが。全体的な特徴として、”金が物を言う町”、らしいですよ。」


「何だそりゃ。」




 色々と、気になることはあるが。


 明日になれば分かると、話は終わった。







 焚き火に手をかざし。

 キララは静かに魔力を込める。


 すると、炎の勢いが急激に増していく。


 炎は、ハリケーンのように渦を巻き。

 暗い夜空の下を、真っ赤に、美しく染め上げた。



「修行ですか。精が出ますね。」


「……も、もちろん。当然だよ!」


「いや、遊んでるだけだろ。」


 ミレイにはお見通しだった。


「えへへ。」



 魔法の制御を外れ、焚き火が正常に戻った。


 穏やかな夜が過ぎていく。




 ミレイは魔導書のページを開き、中のカードを整理していた。


 そこへ、ソルティアがやって来る。


「わたしも、見ても良いですか?」


「あぁ、うん。もちろん。」


「では、失礼します。」


 ミレイとソルティアが、隣り合わせで座る。


 魔導書の中には、カードの図が存在しており。

 ミレイがそれを指でなぞると、カードもその位置を変える。


「なるほど。そのようにページで整理して、複数のカードを制御しているわけですか。」


「うん。師匠に貰ったんだ。」


 ミレイは魔導書を大事そうに撫でる。


「やっぱり、アビリティカードを何枚も持ってるのは、相当珍しいらしくて。」


「珍しいというか。普通、人間は心臓が1つですよね? それと、ほぼ同意義かと。」


「確かに。そう考えたら、ちょっとおかしいかも。」



「ミレイさん。そのうち、”爆発”でもするんじゃないですか?」


「え”っ。」



「――なんて。ふふっ、冗談ですよ。」


 ソルティアは、くすりと笑う。


「ただ、原則として、1人1枚しか持てないはずのカードを、際限なく所持して。”何の代償も無い”というのは、むしろ不気味と言いますか。」


「あー。」



 確かに。

 今まではそのメリットだけに目が行ってしまい。

 これがどういう仕組みなのか。なぜ、そしてどこからカードがやって来るのか。

 ミレイは、深く考えることを止めていた。



「その、ただでさえ”体が小さいので”。余計心配になりますね。」


「……うん。」



 考えてみれば。

 1人1枚が原則のアビリティカードを、毎日毎日貰い続ける。


 もしもこれがゲームなら、”致命的なバグ”と言っても過言ではない。



「――ま、どのみちもう”手遅れ”でしょうから。じゃんじゃん増やしましょう。」



「えっ。」


 予想だにしない一言に、ミレイは凍りつく。


「今日はもう、召喚しましたか?」


「いや、まだだけど。」


「ぜひ、やりましょう。」


「えぇ? なんか、すっごく怖いんだけど。」


 いつもなら、何気なく黒のカードを振っていたが。

 今までの会話で、ミレイは軽い恐怖を刻まれていた。


 ミレイは引き攣り顔で、キララの方を向く。


「ねぇ、キララ。もしもわたしが、急に爆発したとしても、驚かないでね。」


「えぇ!? 急にどうしたの?」


 キララにとっては、意味不明であり。


 ミレイは黒のカードを取り出すと。

 恐る恐る、その力を起動した。


 黒のカードの上に、光の輪が発生し。

 そこから新たなるカードが出現する。



 星の数は”3つ”。

 カード名は、”エクスプロージョン”と書かれていた。



「どんなカードですか?」


 ソルティアが脇から覗く。


「えっと、説明文は。」


『火炎魔法の力を所有者に宿す。遠距離へ放つことが可能で、強力な爆発を引き起こす。』


「――だって。」


「なるほど。わかりやすい魔法ですね。」


「うん。普通に、戦闘でも役立ちそう。」


 ミレイの反応はその程度であったが。



 ソルティアには一つ、気になることがあった。



「しかし、同じ炎の力なら、この間のガントレットの方が強いのでは?」


「……それは、まぁ。」


「使い勝手がどうかは知りませんが。完全に、”下位互換”になるような。」


「うっ。」


 ミレイは、痛い所を突かれた。


「まぁ、選べないんだよね。どんなカードが手に入るのかは、神のみぞ知るというか。」


「……なるほど。あの時、4つ星のガントレットが出たのは、まさに奇跡ということですか。」


「うん。」



 もしも、望む通りのレアリティ。

 望む通りの能力を得られたなら。


 もはや問答無用で、ミレイは敵なしの”絶対者”となっていただろう。


 しかし、黒のカードは気まぐれで。

 全くの不規則で、1日に1度、運命を手繰り寄せる。


 ワイバーンの脅威を前にして、星1つの”ワクワク花火セット”を出すことがあれば。



 なんとなく、トイレの中で召喚して。

 予想だにしない、”規格外のカード”を出すこともある。



「もしよろしければ。どんなカードを所持しているのか、教えて貰えますか? いざ戦闘になった場合、どういうサポートを期待できるか知りたいので。」


 ソルティアに、そう尋ねられて。



「……えっと、あー、うん。もちろん、イイデスヨ。」


 ”とある事情”から。

 ミレイは若干顔を引き攣らせながらも、魔導書の中身を見せた。


「あっ、わたしにも見せて!」


 キララも寄って来て。

 今現在、ミレイの所持するアビリティカードが明るみになる。




RANK.1


・地球儀

『地球を模した天体模型。武器としては不向きである。』


・スッポンのぬいぐるみ

『可愛らしいスッポンのぬいぐるみ。それ以上でもそれ以下でもない。』


・ミニスタン

『ちょっと痺れる程度の電気を発生させる、安全な魔法。』


・丈夫な布

『どこにでもある丈夫な布。その可能性は無限大。』


・単6乾電池

『国産品。対応する機器に電力を供給する。』


・ワクワク花火セット

『大きな花火から、小さな花火まで。これで君も人気者。』


・バクダンおにぎり

『大きくて美味しいおにぎり。中身は唐揚げである。』



RANK.2


・電動スケートボード

『科学の力で造られた乗り物。軽車両に分類される。』


・即効性キズ薬

『ちょっと効き目の良いキズ薬。みるみるうちにキズが癒えていく。』


・太っちょピエロ人形

『不思議な踊りをしてくれる太ったピエロの人形。太ってはいるが、キレはある。』


・安眠男爵のオルゴール

『安眠を得られるように、ちょっとした魔法がかけられたオルゴール。寝付きが良くなる。』


・お喋りタンポポ

『最果ての地に咲き誇る特殊な花。それぞれ個体差があるものの、皆等しく人の言葉を喋る。』


・癒やしのクマさん人形

『可愛らしいクマのぬいぐるみ。抱いて眠ると癒やしを与える効果を持つ。』



RANK.3


・ザザの斧

『盗賊ザザが愛用していた斧。とても大きくて重い斧だが、所有者にとっては羽のように軽く扱える魔法がかかっている。』


・悪食のムチ

『凶暴な植物モンスターを加工して造られたムチ。獲物を自動追尾するが、獲物が居ないときに呼び出すと所有者を襲い始める。』


・フォトンバリア

『光属性のバリアを発生させる。並の盾よりも強力だ。』


・ドリロイド

『工業用に開発されたロボット。腕に付いたドリルで、どんな硬い鉱物も砕く。』


・パンダファイター

『格闘術を習っているパンダ。人を壊す術を知っている。』


・魔導式スナイパーライフル

『精鋭部隊向きの特殊装備。持ち主の魔力を弾丸へと変換し、敵を狙い撃つ。』


・イルル族の大盾

『イルル族の戦士が決闘の際に用いる盾。長年に渡る祈りが蓄積されており、悪しき魔法を防ぐ効果を持つ。』


・落とし神の右手

『世界一の落とし穴職人が編み出した魔法。そこに穴があるとは、誰も気づかない。』


・チキンハンター

『人間に食われ続けた怨念が蓄積し、形を成したモンスター。一番近くにいる人間を襲う。』


・モンスターボックス

『近未来の技術で生み出された猛獣用の檻。どんな大きさの獲物にも対応できる。』


・エクスプロージョン NEW!!

『火炎魔法の力を所有者に宿す。遠距離へ放つことが可能で、強力な爆発を引き起こす。』



RANK.4


・魔獣フェンリル

『神にも届きうる、最強の魔獣。その鋭い爪と強靭な肉体で、あらゆる敵を葬り去る。』


・RYNO

『悪しき竜王の魂が宿ったガントレット。全てを消滅させる、獄炎の咆哮を放つ。』


・蠱惑の魔眼

『かつて、傾国の美女が持っていたとされる能力。この魔眼に魅入られた者は、どんな命令にも逆らえない。』




 以上が。

 ミレイが毎日、コツコツと召喚し。増やしてきたカードの全てであった。


 なのだが。

 キララとソルティアの視線は、”一番最後のカード”に釘付けになる。



「あの。色々と、聞きたいことはありますが。」


「ミレイちゃん、そんなカード持ってた!?」


「いや、まぁ、ね。」



 4つ星カード。”蠱惑の魔眼”。


 ずっと同居していたキララにも、まったくの初見のカードであった。



「別に、ずっと隠してたとかじゃないんだよ? 昨日、寝る前にトイレで召喚したら、なんか出てきて。」



 余りにも、”理不尽な能力”であるため。

 ミレイはつい、その存在を隠していた。



「……要するに、”他者を自在に操る能力”、ですよね。もはや無敵では?」


「まぁ、そうなんだけど。」



 どんな能力でも、どれほど使い道の無い能力でも。

 今まで思ったことはないのだが。


 この能力を得た時。

 ミレイは初めて、”手に入れたことを後悔した”。



「”こんな能力”を持ってるって知られたら。ちょっと、嫌われないかなって。」



 蠱惑の魔眼。

 それは今までにミレイが入手したカードとは、明らかに毛色が違っていた。



「なるほど、そういう。」


「……ミレイちゃん。」


 2人はミレイの意図を汲み取る。



「大丈夫だよ! どんな能力だって、わたしは気にしないから。」


「ええ。そもそもわたしは、ミレイさんのカードの量にドン引きしてるので。」


「……そっか。」


 それを正直に喜んで良いのか、ミレイには分からなかった。



「そうだ! わたしに使ってみてよ。本当にどんな命令も聞くのか、試してみよう!」


「えっ、本当に?」


「もっちろん!」



「まぁ、確かに。いざという時のために、確認は必要か。」



 ミレイは魔導書を開くと。

 ”蠱惑の魔眼”を発動させた。



 すると、ミレイの瞳の中に”ハートの模様”が浮かび上がる。



「よしっ、使うぞ!」


 ミレイは意気込み。


 間違ってもかからないように、ソルティアは顔をそらした。



 蠱惑の魔眼が、キララの瞳を射抜く。



「おおおー! 何だか、魅了されちゃったかも。」


 頬を赤く染めるキララだったが。



 いつも通りと言えば、いつも通りである。



「キララ、その場で逆立ちをしろ!」


「りょうかいです!」


 ミレイの命令に従って。

 キララは身軽な動きで、逆立ちを行った。


「凄い凄い!」



「さぁ! ミレイちゃん。もっと命令をお願い!」


「ええっ? えっと、じゃあ、おすわり!」



「わかった!」


 キララは忠実に従い。

 ササッと素早く、ミレイの前でしゃがんだ。



「……すごい。これが、”魔眼の力”か。」


 途方も無い能力を手に入れてしまい。

 ミレイは自分が恐ろしく感じられた。


 それと同時に、絶対に乱用はしない事を胸に誓う。



 その様子を、ソルティアは呆れ顔で見つめていた。



(……魔眼。これって、本当に効いてるのかしら。)


 いつもと何が違うのかと、問いただそうとも思ったが。


 その場合、自分相手に検証されそうなので、ソルティアは黙ることにした。




 実際問題。


 蠱惑の魔眼は、キララの”強い魔力”によって、完全に無効化レジストされていたのだが。


 ミレイたちには、知る由もなかった。





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