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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
26/153

思い立ったが吉日





「すみません、ロッチさんのお宅ですか? ネズミ駆除の依頼で来た、ギルドの者です。」


 玄関の扉をノックして。ミレイは凛とした声で要件を伝えた。

 いつも通り、すぐ隣にはキララも居るが、こういう挨拶はミレイの役割である。キララは、知らない人間、特に男性とは話したがらない。


 ノックしてから、少し経つと。ドタバタとした音を鳴らしながら、気配が近づいてきて。

 玄関の扉が開いた。


「やぁ、君たちか。良かった良かった。さぁ、入ってくれ。」


 扉を開けて出てきたのは、家主であるロッチという名の男性だった。髭面の中年男性と言った容貌で、ミレイたちとの面識はない。

 だが、先日の一件によって、ミレイたちの活躍は街中に知れ渡ったため、このように好印象を持たれることが多くなった。


「じゃあ、失礼しまーす。」


「ます。」


 家主に迎え入れられて、2人は家の中へと入っていく。

 外から見た家の印象は、よくある一軒家という感じだったが。

 中に入ると、その印象は崩れ去った。



「おっぷ。」


 朝食に食べたサラダが、ミレイの喉から逆流しかける。

 家の中は、とにかく汚かった。

 以前、この世の地獄と化していた、カミーラの家を掃除したことがあるため。それほどのショックは受けなかったが。


 少なくとも、まともな神経の人間が暮らすような環境ではない。

 何を包んでいたのか分からない紙袋の残骸や、風化した食べ物のカス。割れたガラス瓶。

 それに加えて、嫌な湿気。


 それ以外に目に入るのは、とにかく大量の本の山だろう。本を読むのが趣味なのか、それとも無駄に集めるのが趣味なのか。

 崩れる寸前のような本の山が、この家の全貌を物語っていた。


「来てくれて助かったよ。夜中になると、もうゴソゴソとうるさくてね。少しは家賃を払えってんだよ。」


「はぁ。」


 部屋が汚すぎて。

 ミレイには話の内容が入ってこない。


「とりあえず、頑張ります。」


 あくまでも、目的はネズミの駆除である。この部屋を片付ける必要はない。

 そう自分に言い聞かせて、ミレイとキララは仕事に取り掛かった。



「どうやって駆除しようか。」


 家主のロッチ氏には、一旦外出してもらい。

 家の中には2人だけ。


「一応、小動物用の毒は調合してあるけど。」


「それって、大丈夫なの?」


「うん、もっちろん! たとえ家主が死んだとしても、検出されないほどの微量の毒だから。」


「……何だって?」


 毒の信頼性について、いささかの不安は残るものの。


 それ以外に良い手も思い浮かばないため、キララの毒を使うことになった。



「じゃあとりあえず、巣を見つけようか。」


 ミレイは魔導書を取り出すと。最も頼りになる相棒を召喚する。


 魔獣、フェンリルである。


 ただし、サイズはかなり縮小され、普通の犬と変わらないほどの大きさであった。



 あの怪人騒動以来、フェンリルは新たなる力に目覚めていた。

 死を否定するほどの強力な再生能力と、必要に応じて大きさを変える能力である。


 特に戦闘力に影響するわけではないが。

 たまには普通のペットが欲しいと思っていたため、ミレイ的にはちょうどよかった。



「さあ、フェンリルよ。ネズミの巣を探すのだ!」


 犬の嗅覚は、人間の数千倍は優れているとされる。

 とは言え、フェンリルは偉大なる魔獣であり、そこいらのペットとは違う。

 誇り高きプライドを有していた。


 だがしかし、悲しきかな。

 カードと所有者という関係上、フェンリルに抗う術は無い。


「クゥン。」


 フェンリルは自分の役目を全うするため、ゴミ溜めの中へと入っていった。



 それから、約一時間後。

 フェンリルの鼻もあって、壁に空いたいくつかの穴を発見することに成功した。

 その数、およそ”20箇所”ほど。


「思いの外、数が多いな。」


「ネズミ、いっぱい居るかもね。」


 穴を見つめながら。

 ミレイとキララはまだ見ぬネズミたちのことを思う。


(……思いの外、”穴が小さい”な。この世界のネズミって、そんなに大きくないのか?)


 小さい穴を見ながら、ミレイはそんな事を思う。


 まだ1度たりとも、ネズミの姿を確認していないというのに。

 依頼内容を鵜呑みにして、ミレイたちは考えることを放棄していた。

 この家にはネズミがいる。わたしたちは、それを駆除しようとしている。

 そう、信じていた。


「じゃあ、一気にやるね。」


 キララは毒の入った瓶を開けると。その中身を、魔法によって取り出し、空中に浮かべた。

 そしてそれを、霧状に分解すると。それらを一斉にして、空いた全ての穴に侵入させた。


 キララの魔法により。壁の中の隅々にまで、毒霧が回っていく。

 するとすぐに、変化は訪れる。



――カサカサカサ。

 最初は、そんな音が聞こえて。


 次第に、家全体が揺れ始める。



「へっ?」


 想定外の現象に、ミレイの思考は止まる。

 家の揺れは止まらない。


 何か、とんでもない事が、確実に起ころうとしていた。

 だが不思議と、ミレイの体は動かない。



 ”黒い何か”が、穴の中から飛び出してきて。



 ミレイの断末魔が、周囲一帯に鳴り響いた。









 ネズミ駆除改め、”害虫駆除”を終えて。

 ミレイとキララはギルドに報告に訪れていた。


「……お、お疲れさまでした。こちらが報酬金となります。」


 若干、引きつった表情で。

 受付嬢のソニーが、報酬金を用意する。


「あ、あはは。」


 キララに関しては、いつも通りの変わらない様子だが。


 その隣のミレイは、完全に目が死んでいた。

 軽く腕を抱きしめて、いつもよりも縮こまって見え。もはや、暴漢に酷い乱暴を受けた後のような有様である。

 まぁ、ある意味。乱暴は受けたのかも知れないが。


「話によると、”数千匹”はいたらしいですね。」


「はい。幸いにも毒が効いてて。ひとしきり暴れた後、”アレ”は全滅したんですけど。」


 キララは哀れみの視線をミレイに送る。


「ミレイちゃんは、もろに襲われてたので。」


 その時の光景は、まさにこの世の終わりであった。

 潰したら潰したで悲惨なので。

 キララも必死になって、ミレイに群がる”それ”を取り除こうとしたのだが。


 結果として、ミレイは心に深い傷を負ってしまった。




 クエストの報告をし終わり。

 2人はギルドの受付を後にする。


「ミレイちゃん、お腹空かない?」


「……そうだね。朝食べた分は、さっき全部出ちゃったから。」


 心なしか、ミレイは朝よりも痩せたような。



 2人がギルドを後にしようとすると。


「あれ、ソルティアさんだ。」


 クエストボードの前で、何やら物思いに耽るソルティアの姿が目に入る。


 その服装は、いつもの受付嬢スタイルではなく。

 黒一色の、動きやすい私服姿であった。


「まだ、”クエスト”決まってないのかな。」


 今の彼女は、もうギルドの受付嬢ではない。


「一緒に、ご飯誘おっか。」


「そだな。」



 ”先輩冒険者”として。キララとミレイは、彼女に声をかけることした。




「――あっ、ミレイちゃん。髪にゴキブリ付いてるよ?」











 つい、昨日のことである。

 新しくギルドに登録した”2人の新人冒険者”と、ミレイたちは顔を合わせた。



「どうも。21歳、新人のソルティアです。」


 見覚えしか無い、黒髪の女性と。


「僕は未来の英雄、アルトリウスだ! よろしく頼むよ、レディたち。」


 どっかで見た、領主のバカ息子である。



 色々と、思うことはあったが。

 とりあえず、金髪の方は無視して。


 ミレイたちはソルティアと話をする。


「えっと。ソルティア”さん”は、どうして冒険者に?」


 今までずっと、”年下”だと思っていたため。

 ミレイは思わず、さん付けで呼んでしまう。


「さんはいりませんよ、ミレイさん。……それと、”理由については内緒”です。」


「えぇ……」


 貴方達に感化されました、などとは。

 口が裂けても、ソルティアは言えなかった。



「……そんで、お前は?」


「よくぞ聞いてくれたね! 実はこの間の君たちの戦いを見て、思ったんだよ。あの英雄的な活躍、僕もああなりたいって。」


「へぇ。」


 ミレイは、そうとしか言えなかった。


「ソルティアは、めっちゃ強いから大丈夫そうだけど。お前、戦ったり出来るの?」


「心配無用さ。冒険者になりたいって言ったら、父が立派な剣を買ってくれてね。これでどんな敵も、斬り伏せてみせるよ。」


 買ってもらったばかり。

 おニューの剣を、アルトリウスは見せびらかす。


「……そっか。まぁ、頑張れよ。」


 これだけの自信である。

 何か根拠があるのだろう。


 もしも無かったら、それはもうただのバカである。


「見えるぞ! 栄光の道が。この僕に来いと言っている!」



 そう言いながら、アルトリウスは何処へと消えていく。



 相変わらず、話の通じない奴だと。

 ミレイは思った。


「あの人、すごい自信だよね。どこから湧いてくるんだろう。」



「……そうだね。あはは。」


 なんとなく、笑ってみせたミレイだが。

 思い出してしまった。


 自分が冒険者になった日のことを。


 ソルティアに止めるよう説得されていた、あの時の自分を。



(……あの無謀さ。わたしも大して変わらないんじゃ。)



 チラリと、ソルティアの方に視線を送ると。

 彼女も同じことを思い出していたのだろう。


「ふ。」


 愉快そうに、表情が歪んでいた。





 つい昨日、そんな出来事があったのだが。



 それから一日経って。

 ソルティアはまだ、最初の依頼を決めかねていた。


 近くの喫茶店で昼食を食べながら。

 そのことについて、ミレイたちは話をする。



「……なんと言いますか。パッとする依頼が無いですね、この街は。」


 元受付嬢とは、思えないような発言が飛び出す。



「冷静に考えて、とか言う以前に。高ランクの冒険者を目指すのならば、この街は拠点として”論外”です。」



「……まぁ、確かに。それは言えてるかも。」


「う〜ん。」



 ミレイも、キララも。

 とりあえず、この街が近かったが故に、活動拠点にしているに過ぎない。

 もしも仮に、Sランク冒険者を目指すのならば、それ相応のクエストのある街を拠点にするべきである。


 そしてそれは、ソルティアも考えている事だった。



「……お二人共、”貯金”はありますか?」



「貯金? 一応、これまでの報酬は、ちゃんと貯めてあるけど。」


「師匠の依頼も手伝ったし、”5000G”くらいはあるかな?」



 この町にやって来て。

 家賃の心配もなく、これまで依頼をこなしてきた結果。

 最初と比べ、2人はかなり潤沢な資金を有するようになった。


 アルトリウスに、スマホを高値で売りさばいた結果でもあるが。


 その言葉を聞いて。

 ソルティアは少々悩みつつ、内に秘めた”考え”を口にする。




「――でしたら、一緒に”帝都”へ向かいませんか?」




 それは、ミレイたちの想像だにしない提案だった。


「帝都なら、高ランク向けの依頼には事欠きませんし。何よりも立地的に、最も多くの依頼をカバーできる場所です。」



 それこそが、ソルティアの出した答え。

 高ランクを目指して、着実にステップアップするための方法だった。



「……帝都?」


 それがどこかは、ミレイだって知っている。

 かの皇帝陛下が住んでいる場所であり、この国の首都。


 だが、実際にそこへ向かおうなどとは、考えたことすら無かった。


 いや、そもそも。今の生活に完全に馴染んでしまい。

 この街を離れるという選択肢が、ミレイの脳内には存在しなかった。


(……考えても、いなかった。)


 だが、今この瞬間、ソルティアに提案されたことにより。

 他の街で冒険者をする、という選択肢が、ミレイの脳内に浮かび上がる。


 そして、一度意識してしまったが故に。

 その選択肢が、こびりついて離れない。



(キララは、どう思ってるんだろう。)


 気になって、キララの顔を見てみると。

 いつもと何も変わらない、大きな瞳がそこにあった。

 表情は柔らかくて、にこやかで。楽しそうで。


 そして相変わらず、何を考えているのか分からない。



「すみません、急にこんな話を。」


 すぐに、決められるような話ではない。

 それは、ソルティアにも分かっていた。


「ですがお二人の力は、この街で腐らせるには、かなり勿体無いと思います。」


 そう、最後に呟いて。

 ソルティアはその場を後にした。







 その後。

 新しい依頼を探すのも、家に帰るのも気分ではなく。


 ミレイとキララの2人は、何気なく街の様子を見つめていた。



 黙って、ただ眺めて。

 それだけでも時間は経過していき。


 いつしか、街には夕焼けが訪れていた。


 だがしかし。

 やはり黙っているだけでは、答えは導き出せず。



 長い沈黙の果てに、ミレイが問う。



「……キララは、どうしたい?」



「うーん? なにが?」


 キララの表情は、いつもと変わらない笑顔だが。



 ミレイは誤魔化されない。


「分かってるくせに。」



「えへへ、ごめん。」


 バツの悪そうに、キララは笑う。



「……”ミレイちゃんに任せる”って言ったら、怒るよね?」



 主体性が、全く無いわけではない。

 キララにだって夢はあるし、自分なりにやりたいこともある。


 しかし今のキララには、それよりも優先するものがあった。

 ただ、それだけの事。




「ううん、怒んないよ。だってわたしも、”同じ事”を言おうとしてたから。」




 結局の所、それが”2人の結論”であった。



 考えが、想いが。

 芽生えてしまった以上、立ち止まる選択肢は無い。



「一緒なら、大丈夫だよね。」



 これまでが、そうだったように。


 ミレイとキララは、夕焼けに染まる街を見つめていた。









 ミレイ達が、家に帰ると。



「どうだ、中々見事なものだろう?」


 珍しいことに、カミーラが夕飯の用意をしていた。

 普段は、調理をキララとパンダに任せ。

 自分は、食料を口に投入するだけだったというのに。


 それがどうして、中々に見事な料理の数々がテーブルに並べられていた。



「さぁ、遠慮せずに食べてくれ。」


「は、はい。」


「りょうかいです。」


 明らかに、カミーラはいつもと様子が違ったが。


 ミレイとキララは、気にせずテーブルに着いた。




(あ、美味しい。)


 カミーラが作った、というだけで。

 若干不安ではあったものの。


 料理はどれも美味で、ミレイは次々と口に運んでいく。


 キララも。

 少々、意外そうな顔をしつつも、同様に食べていた。



 そんな2人の様子を、カミーラは満足気に見つめている。



「そっちのやつは、昔、マーフォークの友人に教えてもらったんだ。」


 魚料理を指差して、カミーラが呟く。



「そっちのは、イライザという街の特産品だ。さっき市場で見つけてな。懐かしくて買ったんだ。」


 また別の料理を指差して、呟く。



「……なるほど。」


 やはり、いつもとは違う様子に。

 ミレイは戸惑う。



「カミーラさん?」


 キララが問いかけると。



 カミーラは優しく微笑み、2人の顔を見つめた。



「街を出るんだろう?」



「……えっ、どうして。」


 なにも言っていないのに、なぜ知っているのか。

 ミレイたちは驚く。



「いや、昼過ぎにな、お前たちを偶然見かけて。まぁなんとなく、そんな気がしただけだ。」


 そんな、些細なことで。

 カミーラは全てを察していた。



「……実は、ソルティアに、一緒に帝都に行かないかって誘われて。」


「ふっ、だろうな。まぁそもそも、お前らみたいのが、この街で冒険者をやってる事自体、おかしな話なんだよ。」



「……カミーラさん。」


 この街を。しいては、この家を出ていくという話なのに。

 彼女のあまりにもあっさりとした反応に、キララは言葉を詰まらせる。



「おいおい、そんな辛気臭い顔をするなよ。このわたしの手料理だぞ? もっと嬉しそうに食え。」



「……はい。」


「は〜い。」


 家主の言葉には逆らえぬゆえ。

 ミレイとキララは、黙って食事を続けた。



「……バカどもめ。」


 小さく、カミーラは呟く。



(この家も、静かになるな。)


 思い返せば。

 2人が来る前と後とでは、何もかもが一変してしまった。


 前までは家はゴミ溜めで、庭で酒を飲むだけの毎日。

 それが、良い悪いというわけではないが、変わってしまったのは確かである。


 そして今日、また環境が変わろうとしていた。



(”こういうのが嫌い”だから、冒険者を辞めたんだったか。)



 出会って、別れて。出会って、別れて。

 出会って、別れて。出会って、別れて。

 出会って、別れて。出会って、別れて。

 出会って、別れて。出会って、別れて。

 出会って、別れて。出会って、別れて。



 気づけば。

 地上へ来て、すでに70年かそこら。


 たとえ100年の月日を生きたとしても。

 体も心も成長しない。

 成長しないからこそ、天使は死なないのだろう。



(この街に来た時、ソルティア達はまだ赤ん坊だった。だが、わたしが飲んだくれている内に、気づけばもう、独り立ちする年頃か。)


 どれだけ酒を飲んで。

 どれだけの記憶を飛ばしても。


 時間はあっという間に過ぎていき、カミーラはそこに取り残される。



 どのみち、別れを避けられないのなら。



「……そろそろ、”復帰”しても良いかもな。」



「復帰? 真面目に医者をやるってこと?」


 ミレイには意味が分からなかった。



「いや。わたしも20年前までは、お前らと同じ冒険者をやっていた。」


「えっ、冒険者だったんですか!?」


 キララには驚きであった。

 まさか、仕事をしていた時期があったとは。



「じゃあ、一緒に帝都に向かいます?」


「行くかバカ。マイホームだってあるんだし、この街で活動するに決まってるだろ。」


 ミレイの提案を、カミーラは突っぱねる。



「それに、お前と一緒だと”酒”が飲めんからな。」


 何よりも。

 それが最も大きな理由であった。


 ”出会った日のショック”が大きすぎて。

 あれ以来、カミーラは酒に手を出せていない。



「えぇ? 別にわたし、お酒くらいなら気にしないですけど。」


 意味が分からないと。

 ミレイは首を傾げる。



「ああっ、もう。この際だから言っておくが、”お前は酒を飲むと人が変わるんだよ”!」



 これが最後のため。

 カミーラはずっと言いたかったことを吐き出す。



「いや、わたし。今までお酒飲んだこと無いような。」


「飲んだんだよ、ここへ来た初日に。お前は忘れてるだろうが。」



「本当に?」


「うん。飲んでたよ?」



 多数決の結果。

 ミレイは初めて、自分が酒を飲んだことを知った。



「いいか、これだけは言っておくぞ? ”友達を減らしたくなければ、絶対に酒は飲むな”!」



「うっ、そんなに?」


 真剣な表情で忠告されて。

 ミレイは落ち込む。



「まぁ、確かに。それでキララに嫌われたら、イヤだし。」


 それだけは、ミレイは絶対に避けたかった。



「――あ、いや。それは気にするな。」


 カミーラは、ミレイの懸念を否定する。



「こいつに関しては、”絶対に大丈夫”だ。」


「えへへ。」


 照れくさそうに、キララが笑う。



「……どゆこと?」



 若干の疑問を残したまま。

 それは解消されずに。



 そうして、最後の夜は過ぎていった。









「……来ましたか。」


 街の門付近で、ソルティアが一人立っていると。


「うん!」


「やっほー!」


 旅支度を終えた、ミレイとキララが。

 彼女の元へとやって来る。



「挨拶は済ませました?」


「うん。こっちはあらかた。」


「ソルティアさんも、オッケーですか?」



「――あ、いいえ。わたしは誰にも言っていません。」



「「えっ?」」


 衝撃的な言葉に、ミレイとキララは静止する。



「誰にも言ってないって、父親にも?」


「はい。今朝も、何食わぬ顔でおはようと。」



「うわ。」


 いつもながら、無表情なソルティアの顔が。

 ミレイには恐怖に見えた。



「まぁ、ギルドの受付に書き置きを残してきたので。ソニーちゃん経由で、話は伝わるでしょう。」


「……ギルドマスター。ちょっと、可哀想かも。」


 キララでさえも、これは僅かばかり同情した。



「あっ、そう言えば。アルトリウスとは話してないや。」



「あぁ、彼なら無駄ですよ。」


「無駄?」



「はい。実は彼も、この街ではろくな仕事無いと嘆いていまして。昨日の時点で、すでに旅立っています。」



「えっ、マジで? アグレッシブだな、アイツ。」


「えぇ〜。じゃあ、あの金髪も帝都に向かってるってこと?」


 キララは一瞬で不機嫌になった。



「ああ、いえ。彼はドラゴン狩りをすると息巻いて、”ヴァルトベルク”へ向かいました。」



「――あっ。」



 この瞬間。

 ミレイは不思議と、確信を持って思った。



 ”アイツ死んだわ”、と。



 そしてキララは、満面の笑みを浮かべていた。



「……不謹慎だぞ、キララ。」







 3人分の荷物は、フェンリルの胴体に結ばれて。


 フェンリルは文字通り、馬車馬のごとく働かされようとしていた。



「――よぉし、わたしたちの冒険はこれからだ!」


「おおー!!」


「……お、おー」



 魔獣の背に乗って。

 3人の冒険者が、帝都を目指す。





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