表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
花の都の冒険者
24/153

一握りの希望





 その手に宿した、新たなる力。

 赤き魂を秘めたガントレットを、敵に向けて構えながら。



(……ヤバいな。)


 ミレイはその内心で、ガクガクに震えていた。



(とりあえず出したけど。この武器って、どうやって使うんだ?)


 この武器で何が出来るのか。どうやったら攻撃できるのか。

 そもそも、これは本当に武器なのか。


 思わず、ノリと勢いで。

 カードの説明すら読まずに、その能力を発動してしまった。


 そんな彼女の様子を、好機と捉え。



「――ふざけるなッ!」


 その拳を構えながら。

 ザイードがミレイの眼前へと迫る。



 だが。



 拳を振るう最中で。

 彼の動きが、突如停止する。


 まるで、時が止まってしまったかのように。



「何だ? なぜ動かない。」


 ミレイを目の前にして。


 彼女に攻撃するという選択を、”彼の身体”が拒んでいた。



 双方ともに、攻撃を出来ない状態で硬直し。



 それを黙って見ているほど、周囲の人間も愚かではない。


 息が合った動きで。

 カミーラとソルティアが各々の武器を持ち、ザイードに斬りかかる。


「くっ。」


 ザイードは、それを何とか回避すると。

 戸惑いながらも、彼女たちから距離を取る。



「おい、本当に戦えるのか?」


「……はい。ちょっと、クラクラはしますけど。」


「無理は止めてくださいね。」


 カミーラとソルティアが、ミレイの身体を気遣う。



 すると、そこにキララも合流し。


「ミレイちゃん。」


 複雑な感情で瞳を揺らす。



「――大丈夫。わたしに任せて。」



 自分のせいで、随分と心配をかけてしまった。

 それを、謝罪するように。



 ミレイとキララは、そっと手を絡める。


 互いの温かさを感じ合って。

 不思議と、震えは止まっていた。



「おい、”ライノ”とか言ったか? お前はどうやって使えばいい?」


 戦いを終わらせるために。

 ミレイは、ガントレットに声をかける。



『俺様を装着してるんなら、感じねぇか? 煮えたぎるような熱いソウルをよぉ。』


「……あー、感じるかも?」


 ガントレットの言ってることは、全くもって理解が出来なかったが。


『そいつを敵にぶつけりゃ良いんだよ。技の名を教えてやる。』


「分かった。」


 理解できたと思い込んで、ガントレットに意識を込める。


 すると、宝石の部分が輝きを放ち始め。



 ガントレット全体が、燃えるようなオーラに包まれる。



 明らかに、周囲の空気が変わっていき。


「あれを食らうのは、まずいな。」


 ザイードも、それを肌で感じていた。



 これで準備が整ったと。

 そう確信し。


 ミレイは右手を突き出すと。




「いけっ、――”覇竜滅来砲はりゅうめつらいほう”ッ!!」



 その必要は無いのだが。

 ガントレットに教えられた、必殺の名を叫ぶ。


 すると。まるで太陽のように、凝縮された超高熱のエネルギーが。

 ガントレットの先、掌の部分から放射される。



 それはオーラと合わさって。

 炎で形作られた、”巨大な竜の顎”へと姿を変えると。


 真っ直ぐと直進し。




 ザイードの、斜め上の方向へと通り過ぎていった。




 当たれば全てを焼き尽くす、その一撃が。

 掠ること無く役目を終えた。




『オイオイオイ! なんてノーコンだぁ。どんなセンスしてんだよ。』


 あまりの結果に、ガントレットから呆れ声が響く。



「うるさいなぁ。体の調子が悪いんだよ、ちょっとだけ。」


 なぜ、命中補正機能が付いていないのか。

 そう思いながらも、ミレイは己のセンスの無さを呪った。



『敵がノロマでよかったぜ!』


「……確かに。」



 無駄話をするミレイとガントレットだったが。

 その間にも、ザイードは動かない。



 いや、動けなかった。



(……何なんだ、さっきから体の調子が。思うように動かん。)




 止まっている敵を、ただ眺めることはせず。


「よく分からんが、畳み掛けるぞ!」


 カミーラは大量の魔法陣を開放し。

 それを砲塔に見立て、無数の”光の弾丸”を発射する。


 残る全ての魔力を注ぎ込んで。

 機関銃のように放たれる弾丸の雨に。


「くっ。こんな、馬鹿な。」


 ザイードは明確なダメージを受け、その身体より血を流す。



 弾丸の雨が止まると。



 タイミングを見計らっていたかのように。

 ソルティアが刀で斬りかかる。



「人間風情がッ!」


 これまでと同じように、ザイードは刀を腕で受け止めるも。



「――えぇ、でも。”貴方は負ける”。」


 ソルティアの技は、なおもその鋭利さを増しており。




 無敵と思われた怪人の、その左腕を切り落とした。




「なっ。」


 それほどのダメージを負うとは、全くもって想定しておらず。



「そんな、馬鹿な。馬鹿なああァァァア!!。」


 ザイードは怒りと動揺の叫び声を上げた。



 なぜ、こうまで遅れを取るのか。

 彼には、何一つとして理解が出来ない。


「俺の身体に、何をした!? 毒か、ウイルスか!?」


 ザイードは疑問を叫ぶも。



「……キララさんの毒が、効いてるんでしょうか?」


「さぁな。見た所、もっと深刻そうだが。」


 その答えを知る者は誰もいない。



「まぁ、こちらとしては都合が良い。」


 明らかに動揺している敵を見て。

 カミーラたちは勝機を確信する。



「ミレイ、とどめを刺すぞ。」


「はいっ。」



 もう一度。

 今度こそ、確実に倒すために。



 再びミレイは、ガントレットにオーラを纏わせた。



 それを前にして。

 ザイードは明確な死を幻視する。


「こんな場所で、死んでたまるか。」


 どうにかして、現状を変えられないか。

 そう考えたザイードは、周囲を見渡すと。



 ひょっこりと顔を出し。

 戦いを覗いていた、アルトリウスと目が合う。



「へっ?」


 その瞬間、アルトリウスは呼吸の仕方を忘れた。



「そこを動くな人間!!」


「ウッソだろ!?」



 戦う力を持たない人間。

 それを盾にすれば、この場を切り抜けられると確信し。


 ザイードはプライドを投げ捨て、アルトリウスの元へと駆けた。

 


 こんな場所では負けられない。人間相手に負けるなど許されない。

 その一心で駆けるも。



――怪人である彼の速さに、迫るうる”化け物”がもう一匹。



 鋭い爪と、暴力の化身たる剛腕によって。

 ザイードは地面に叩きつけられた。



「ガハッ!?」

 身を砕くような痛みに、ザイードは悶絶する。



 そんな彼を、死んだはずの魔獣、”フェンリル”が見下ろしていた。



 まだ、”再生したて”なのか。

 血管の浮いた顔に、怒りの形相を浮かべながら。



「馬鹿な、首を失ったはず。」


 再生能力か。

 それとも、不死なのか。



 フェンリルという存在は、その能力を確実に進化させていた。



 地面にうずくまるザイード。

 そんな彼を、決して逃さないようにと。


 キララは渾身の魔力と共に狙っていた。



「――これが、わたしのありったけ!!」



 放たれた一撃は、正真正銘の最後の力であり。



 ザイードの身体に、威力そのままに直撃すると。

 その下半身を、完全に”凍結”させた。



 怒涛の攻撃を受け、ザイードは身動きを取れない。



 そんな彼に、引導を渡すため。



「……ありがとう。キララ、フェンリル。」



 ガントレットを構えたミレイが、彼の元へと歩みを進める。




「これなら、当てられる。」


 その手には、再び破壊のエネルギーが集っており。



(――氷を砕け。あの小娘を殺せ。)


 逃れるために、ザイードは身体を動かそうとする。



 だが、彼の身体はまるで言うことを聞かず。

 氷を砕くことすらままならない。



(怪人が、人間に負けるなどと。)


 怒りと恐怖に、その身を震わせ。




(――”いや、お前は負ける”。)




 頭に響いた、知らない誰かの声に。

 驚いたザイードは、思わず自らの顔に触れる。


 だが、それはもう、彼自身の顔ではなく。




「――”俺は、そう信じてる”。」




 彼の意志とは関係無しに。


 その口が、言葉を発した。



(……口が、勝手に動いた。俺の口が。)


 自分の中に、自分ではない誰かが存在する。


 その原因は、一つしか考えられない。



(”あの女”の能力かッ。)



 怪人になったはずの彼女、ミレイの瞳が。

 ”輝ける真紅の瞳”が、ザイードを真っ直ぐと見つめている。



 そんな、彼の内側での戦いなど知る由もなく。


 ミレイはザイードの眼前へと迫ると。

 ガントレットをかざし。



 ゼロ距離で、その力を解放させる。




「――”この世界から、出てけ”っ!!」




 ミレイの声とともに、膨大なエネルギーが放射され。




 ザイードの身体を燃やしながら、そのまま後ろへ吹き飛ばしていく。


 門を封じていた、光の槍を砕いて。




「がああァァアア!?」


 異界の門を通過し。


 その先の世界。

 彼らの居た世界まで送り返す。




 莫大なエネルギーを、その身に受けながら。




(……俺は怪人、いや――)


 怪人ザイードは、微かに笑った。





 力の放出が、終わると。


 もうその場所に、凶悪な怪人の姿はどこにもなく。




「……終わった。」


 確かな勝利を、ミレイたちは噛みしめる。



 全員で勝ち取った、その結末を。











「ふぃ。」


 危機は去り。

 緊張の糸が切れたことで、ミレイはその場に座り込んだ。



「……やった。やったった。」


 湧き上がるのは、今まで感じたことのないほどの達成感。


 ミレイがそれを噛み締めていると。



「――うっ、くぅ。」


 今にも泣きそうな顔で、キララがそばに寄ってくる。



 ミレイも、涙を流しそうだったが。

 それを堪えて、立ち上がると。


 優しく、キララを抱き締めた。



「どうしたの? お腹痛いの?」


「……ううん。大丈夫。」



 滲んだ涙を拭って。

 キララは笑う。



 嬉しいのに。

 涙を流したらもったいないと。



「ありがとね、キララ。」


「うん、ミレイちゃんも。」





「――”生きていてくれて、ありがとう”。」





 絶望的な恐怖に抗って。


 生き延びた2人は、ただそれだけのことに感謝した。





「……あー、水を差すようで悪いが。」


 カミーラが頭を掻きながら声をかける。



「このままだと、いずれ他の怪人が出てくるぞ?」



 確かに、強大な怪人は倒した。


 だが、彼らがこの世界に来た原因である異界の門は、未だに原型を保っており。

 この世界と、怪人たちの世界とを繋いでいた。



「これって、勝手に閉じないんですか?」


 ミレイが希望的観測を口にするも。

 カミーラの表情は優れない。



「……そもそも、異界の門は長続きするようなものじゃない。”開くこと自体が奇跡”で、数秒から数分の内に閉じるのがほとんどだ。」



 それこそが、多くの異世界人がこの世界に迷い込み、なおかつ帰ることの出来ない理由でもある。


 門を潜ったと思ったら、次の瞬間には消えていた。

 そんな事例ばかりなのだから。



「奴らが何をしたのかは知らんが。この様子だと、ずっと開きっぱというのも有り得る。」



 怪人たちは消えたものの。

 異界の門は、依然として消える様子はない。



「……えっ、それって滅茶苦茶ヤバいんじゃ。」



 通り道があるということは、自由に行き来が可能ということ。


 あの強さの怪人が、再びこの街に来ようものなら。

 今度こそ、敗北は必至である。



「魔法で、壊せないんですか?」


 キララが尋ねるも。

 カミーラは首を横に振る。



「”今さっきの火力”で、びくともしないんだぞ? 空間に作用するような、特別な力でも無い限り――」


 彼女たちが、門への対処法を話し合っていると。




 その意思に関係なく、突如として。

 ミレイの目の前に、黒のカードが出現する。




『”ターミナルに不具合を検知。遠隔操作による停止を試みます”。』



 頭の奥に響くような。

 不思議な声が聞こえてくる。



『”接続失敗、ターミナルにアクセスできません。応急処置のため、該当箇所の修正を行います”。』



 黒のカードが、光を発すると。



 異界の門が歪み始め。

 その規模を小さくしていく。



「……そんな芸当もできるのか、お前のカードは。」



「――おお。」


 理屈は、不明だが。


 とりあえず門が閉じていくことに、ミレイは喜んだ。



 

 繋がりが無くなれば、もう怪人たちの脅威に晒されることはない。 


 この世界に、彼らの力は届かない。


 そんな事を思いながら。

 ミレイは、門の先の世界を見つめた。



 崩壊した街並みは、かつて彼女が暮らしていた地球と、どこか似ているようにも思える。


 違うのは、唯一つ。

 怪人が居るか、居ないかというだけ。



 ”もしも、自分がそんな世界で生きていたら”。


 暮らしていけるのだろうか。

 戦っていけるだろうか。


 果たして、そこに希望は有るのか。

 想像するだけでも恐ろしい。




――”その世界は救えない”。 


 少なくとも、今はまだ。









「どうやら、無事に終わったようですね。」



 ギルドの屋根の上。

 広場全体を見渡せる場所に、セラフィムとマキナは立っていた。



「ああ。力ずくで壊さずに済んだ。」


 自分の力は必要ない。

 セラフィムは、そう判断し。




――発動しかけていた、”虹色のカード”を消失させた。




 広場を見下ろしながら。

 ”友人たち”の中に、一人として欠けた者が居ないのを確認すると。



「帰るぞ。」


 セラフィムは身を翻し、その場を後にする。



「挨拶は、よろしいのですか?」


 後ろに追従しながら、マキナが問う。



「時が来れば、向こうから会いに来るだろう。それに、”プレゼント”もある。」


 見習いを卒業した、2人の弟子のことを思い。

 師として、セラフィムは微笑んだ。




 だが、ここから先は別であり。


 彼女は、”この国の皇帝”へと戻る。



「――剣を全員。それと、ペドロを呼び出せ。」



「つまりは帝国の全て、ですか。それほどの敵でしたか?」


 マキナの所感では。

 セラフィムが対峙していた怪人も、街で暴れていた怪人も。


 ”自分一人で屠れる程度の脅威”、としか思えなかった。



 しかしセラフィムは、この一連の騒動を重く受け止める。



「今回は、運が良かったに過ぎん。戦闘可能な人材が、たまたま現場に居合わせ。なおかつ迅速に対応できたからこそ、被害が最小限に抑えられた。」



 何か一つでも欠けていれば、この結末には辿り着けなかっただろう。



「それに、敵はあれでも”下っ端”だ。」



「……それは。」


 あのレベルの生命体が、他にもゴロゴロ存在する。

 マキナからしてみても、それは信じがたい事実であった。




「――”数多ある世界の中で、ここが最強とは限らない”。」




 そんな次元の話をしても、今までは意味を成さなかっただろう。


 だが、異界の門が存在する限り。

 異世界からの脅威は、必ずまた訪れる。


 いつどこで、どんな世界と繋がるのか。

 それは誰にも分からない。






◆◇






 β−Earth

 ■■■の手帳




 20XX年2月14日

 噂によると、東京では”人間牧場”という大規模施設が作られているらしい。

 黒の帝国の目的は、単に人類滅亡では無いのかも。





 20XX年3月8日

 放棄されたクロノス社の施設から、スカルレンジャーのプロトスーツと思われる物を発見。

 もしもこれを起動できれば、もう一度自力で歩けるはず。





 20XX年3月11日

 プロトスーツの試運転中に、”角の生えた全身傷だらけの怪人”を発見。

 話してみてびっくり、彼には人間だった頃の記憶があるみたい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ