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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
花の都の冒険者
23/153

― RYNO ―





――怪人。



 彼らがどこからやって来たのか。

 知る者は居ない。


 元々、地球に生息していた彼らが、この時代になって表に出てきたのか。

 それとも、遠い星からやって来たのか。


 彼ら自身、その口から語ることはなく。

 未だに起源は、謎に包まれたまま。

 残された人類達に、それを解明する手立てはないだろう。



 彼らについて、人類が知っていることは少ない。


 非常に優れた身体能力、超能力の類を持ち。

 なおかつ、人類を見下している。


 だが、何故か。

 彼らは人間を襲うものの、殺すことはなく。

 ただ捕まえて、連れて行くだけ。


 捕まえられた人間がどうなるのか。

 人類がそれを知るのに、そう時間は掛からなかった。



 怪人は、増えていった。

 消えた人間の数だけ。



 やがて人類よりも、怪人のほうが多くなった。









「――あ、あっ。」


 ザイードに、謎の液体を投与され。

 その影響で、ミレイは体を震わせる。


 これで、もう用はないと。

 ザイードはミレイを地面に投げ捨てた。



「ミレイちゃん!」


 咄嗟に、キララがミレイのそばへと駆ける。


 優しく、その身を抱きかかえても。

 ミレイの体の震えは止まらない。


 目に見えて、体に異常をきたしていた。



「フッフッフッ、ハッハッハッハ。」


 悶え苦しむミレイと、それを案じるキララ。

 2人の様子を見ながら、ザイードは高笑いを上げた。


「ミレイちゃんに、何をしたの!?」


 枯れるような声で、キララが問いただす。

 その瞳は、不安に揺れていた。


「なに、悲しむことはない。ただ彼女を、”進化させた”だけだ。」


「進化?」


 ザイードは、手に持った注射器をキララに見せた。



「これは、”パンドラ=ゲノム”。こいつを人間に投与すると、その人間の遺伝子を書き換え、より高次元の生命体へと進化させる。」



 残酷な真実を、淡々と説明する。


「俺たちと同じ、”怪人”へと。」



「……そんなっ。」


 キララの瞳が、恐怖へと染まり始める。


「まぁ待て、驚くのはここからだ。」


 悪意が、嘲笑う。



「お前たちに問おう。これを投与された人間は、どんな怪人になると思う?」



 その場にいる全員に、ザイードは声を届かせた。


 それを冷静に考える頭を持っていたのは、ただ1人。


「……お前たちを見るに。”強くて言葉を話す個体”か。もしくは、”その他大量の雑魚”か。」


 カミーラは、そう推測する。



「そう、その通り。まぁ、お前のような種族だと、どうなるかは知らんが。」


 そのまま、ザイードは説明を続ける。



「人間はこれを投与されると、9割以上の確率で”白仮面の怪人”になる。」


 街を襲う、大量の怪人たち。


「そして、残りのごく僅かの確率で、俺たちのような”特別な怪人”が生まれる。」


 ザイードやダース、クォークなどが、それに当てはまる。


「……その理論でいくと、お前も”元は人間”だったのか?」


「まぁ、そうなるな。」


 何でも無い事のように、ザイードはそれを認める。


「とは言え、人間だった頃の記憶など、微塵も残ってはいない。考えるだけで虫酸が走る。」


 彼の中に、怪人以外は存在しない。



「これは1種の救いだ。人間という下等で愚かな生き物から、怪人という上位の存在へと進化できる。なのになぜ、人間はそれを受け入れない?」



「……9割以上の確率で、あの白仮面になるんだろう? ただ奇声を上げて、人を襲うだけの獣に。」


 カミーラ自身、すでに何体かの怪人を屠っており。

 ”おぞましい”存在であると、そう認識していた。


「アイツらに自意識はあるのか? 怪人になって、喜んでいるようには見えんが。」



「……残念ながら。白仮面の連中には、ほとんど自我がない。肉体的には、人間よりも優れているがな。」


 哀れむように、蔑むように。

 ザイードは白仮面の怪人を思う。


「奴らの持つ”機能”は、俺たち上位怪人の命令を聞き、それを遂行する”だけ”だ。命令が無ければ何もせず、一日中突っ立っているだろうな。」



「……そんな存在に、ミレイを変えたのか。」


 説明を聞けば聞くほど。

 カミーラの中には、あらゆる負の感情が湧き上がってくる。



 その間も、変異は起き続け。

 苦しむミレイの瞳が、”赤い輝き”を放ち始める。



「ミレイちゃん、だめ。」


 キララが必死に抱き締めるも。

 その想いだけでは、現実は止まらない。



「あぁ、1つ言い忘れていた。さっきの、ほとんどが白仮面になるという話。あれは”男の場合”だ。」


「なに?」


「悲しいことに、女は細胞との適合率が”極端に低くてな”。白仮面になれるのすら、全体の1割程度。」




「――”残りの9割は、破裂して死ぬ”。」




「……は?」


 彼が何を言っているのか。


 他の誰も、理解できない。

 理解をしたくない。



「白仮面の連中とは戦ったな? あいつらは倒された後、どうなった? 真っ黒な、”ドロドロの塊”に変わっただろう。」


 カミーラたちの脳裏に、その光景が思い出される。


「あれは自らの形状を保てなくなった結果だ。適合率が低いとああなる。」


 怪人は嘲笑い。 


「そして、この娘もな。」


 最悪の未来を告げる。



 良くて隷属化。

 悪くて即死。



「……そんなの。」


 どちらにしろ、ミレイの意識は消えてしまう。

 その事実に、キララは耐えられない。



「まぁ。運が良ければ、白仮面程度にはなれるだろう。」


 想像した通りの未来になり。

 ザイードは勝利に余韻に浸る。



「そうしたら、こう命令してやる。”目の前の女と戦え”、と。」



 悪意は、とどまる所を知らない。


「さあ、そうなったらお前たちはどうする? かつての友であった存在を、その手で殺せるか?」


 それこそが、最も残酷な方法であると確信するように。




「――これだから、怪人はやめられない。」


 ザイードの表情は、恍惚に満ちていた。




「……あぁ、ミレイちゃん。」


 キララの腕の中で。



 黒かった彼女の長髪が、”真っ白”に染まっていく。



 ザイードの話した説明とは、真逆の方向へと。

 ミレイは、変異する。



「良い表情になったな。」


 キララだけでなく。

 カミーラとソルティアの顔を見て。


 たまらなく、ザイードは笑う。



「さぁ、絶望するが良い!!」


 両手を広げて。

 楽しいショーの始まりを、高らかに宣言した。



 だが、しかし。



 そんな彼の思惑とは裏腹に。

 周囲には、静寂が満ちる。


 絶望故に、声の一つも出ないのか。

 そう考えるも。



 ようやく彼は、異常に気づく。



「……随分と、変異が遅いな。とっくに怪人化するか、破裂しても良い頃だが。」


 未だに、髪の色しか変異していない。

 そんなミレイの様子に、違和感を覚える。


 ザイードは、彼女たちのそばへと近づき。



「おい娘、一体何をしている?」


 ミレイの髪を掴み、その顔を上げさせた。

 すると。




 ”輝ける真紅の瞳”が、ザイードを睨みつける。




「――いったいなぁ。」


 髪を引っ張られた痛みで。

 ミレイは怒りを口にした。



 そんな、彼女の言葉に。

 思わずザイードは後ずさる。



「なんだ、その瞳は。なぜ怪人化しない? なぜ人間としての姿を保っている。」


 理解できない存在を、彼の脳が拒絶する。



「……まさか、”完全に適合した”のか?」



 輝ける真紅の瞳に、色素を失った髪の毛。

 ミレイの変化は、それだけだった。



「あ、有り得ない。こいつが、こんな奴が、”あの方”の。」



 怪人の定義。

 ”その存在理由すら揺るがしかねない存在に”。


 彼は、戦慄を覚える。



「――うるっさいなぁ。」


 変異が終わり。

 ようやく自由になった体で、ミレイは立ち上がる。




「怪人だか何だか知んないけど。お前の命令なんか、聞くわけが無いだろっ!!」



 これまでの、全ての鬱憤を晴らすように。

 ミレイは大声で言い放つ。


 その声、その瞳の輝きを正面から浴びて。

 ザイードの胸の奥で、何かが脈動した。



 その同時刻。

 死した狼王の身体が、再び動き出す。




「こっちはまだ、負けてない。」



 それが正しいという確信を持って。

 ミレイは黒のカードを出現させる。



 守るための力を、その手に願った。











 花の都の外、広大なる草原にて。



 パーシヴァルと呼ばれていた存在は、幻想のように消えてしまい。

 代わりとして、全くの別人が出現する。



――それは、若く美しい女性だった。



 全体的に色素が薄く、髪も瞳も銀色で。

 氷のように冷たい視線は、全てを見透かすように。



「なにそれ、変身かなんか?」


 姿かたちだけでなく。

 身に纏う魔力すら、全くの別物。


「若くなったし、”壊しがいのある顔”になったな。」


 人形のように整った、その女の顔を見て。

 怪人、ダースは笑う。


 だが彼女は、怪人の戯言には付き合わない。



「――悪いが。無駄話の時間は、もう終わりだ。」



 その場で、右手を前に向けて。

 何かを掴むような動作をすると。



 それと同時に。

 何もない空間に、ダースは身体を掴まれる。



「う、ぐっ。何だ、これ。」


 空中で、持ち上げられる形になり。

 ダースはもがこうとするも、その力には抗えず。



 女は冷たい視線で、それを見つめている。


「――”何でも無い”。ただこの世界にあるものに、お前は殺される。」



 今度は、左手に魔力を収束させて。

 命を刈り取るための魔法を発動させる。



 だがしかし。

 捕らえた怪人の”真横”に。




 先程までは居なかった、”メイド服の女性”が立っていることに気づき。

 彼女は攻撃を止めた。




「……”マキナ”か。いくらお前でも、流石に速すぎではないか?」



 メイド服を来た女は、彼女の知り合いのようで。

 その視線が微かに、柔らかくなる。



「数日前に。ほんの一瞬ですが、”陛下”の魔力を感じたので。アンテナを張っていました。」


 メイド服の女性、マキナはそう答えた。



(なるほど、あの時か。)


 つい先程まで、パーシヴァルであった彼女は。

 ”可愛い弟子”に、初めて魔法を教えた時のことを思い出す。



「それにしても、お取り込み中の様子で。」


 マキナはそっと顔を動かし、捕らえられたダースを見る。



「この、個性的な方は?」


「異世界からの侵略者だ。これから殺す。」


「……なるほど。」


 マキナは事情を察すると。

 捕らえられた怪人に、そっと笑みを向け。




「――でしたら、これでよろしいですね。」




「は?」


 その瞬間、何が起こったのか。

 ダースには理解が出来ず、情けない声を漏らした。


 ただ、分かっているのは。

 ”切断された首”から、おびただしい量の血液が溢れ出ていること。


 そしてそれを、何故か地面から見つめているということ。




「……相変わらず、手が早いな。」


「優秀な懐刀であると、そう自負していますので。」



 怪人の命を、一瞬の内に奪い取り。

 マキナは自らの主人の元へと足を運ぶ。



「――お久しぶりです、”セラフィム陛下”。」


 その場で膝を付き、頭を垂れる。



「あぁ、半年ぶりくらいか。」


 ”皇帝セラフィム”は、久方ぶりに家臣との言葉を交わした。



「……”色々と”、質問したいことはありますが。」


「そうだな。わたしとしても、”その格好”には疑問を抱く。」


 なぜ、彼女がメイド服を着ているのか。

 セラフィムには理解が出来なかった。


 マキナは無表情のまま、小さく溜息を吐く。


「貴女の指示で着ています。もっと、”まともな影武者”を用意してください。」


「ふっ、それはすまんな。」


 他愛のない会話をしながら。



 セラフィムとマキナは、街の方に目を向ける。


 その中心からは、眩い光が溢れてた。



 怪人たちのそれとは違う。

 どこか安心するような、そんな”力”の出現を感じ取る。



「……街へ向かうぞ。」


 戦いは、終結へと近づいていた。









 ミレイには、知る由もないことだが。



 黒のカードは、”自分以外の誰かの為に使う時”、その真価を発揮する。



 過去も未来も、世界すら超えて。

 遥か彼方の運命を引き寄せる。



 それ故に。

 他者の持つアビリティカードとは、”根本的に異なる力”を顕現させる。



 いつもより、ずっと大きな光の輪が発生し。

 その中から、新たなるカードが出現する。



 黄金に輝く、2枚目の”4つ星カード”。


――その名は、”RYNO(ライノ)”。



 目の前の困難に、打ち勝つためのカードであり。

 ミレイはカードの力を解き放つ。



 すると、彼女の小さな右手に。

 機械じみた、”真っ赤なガントレット”が装着される。


 手の甲に当たる部分には。

 ミレイの瞳にも似た、真紅の宝石が嵌め込まれていた。



 そのフォルムに。

 思わず指パッチンをしたい衝動に駆られるも。


 ミレイは格好良く、ガントレットを構える。

 だが、しかし。




『――ヘイ! ヘイ! ヘイッ!! こりゃあ、楽しそうな場所に呼び出してくれたなぁ!!』


 場違いなハイテンションボイスが、ミレイの”ガントレットから”鳴り響く。


『このライノ様の、破壊の炎を見せつけてやれ!!』





(……めっちゃうるさい。)


 思わぬ機能に、ドン引きするミレイだが。



「まぁ、いっか。」


 とりあえず、ガントレットの声は無視して。

 改めて、目の前の敵と対峙する。




「――これで、戦える。」




 ”真っ白な髪と、輝ける真紅の瞳”。

 そして右手には、”新たな力”を装着し。



 怪人ザイードとの、”最終決戦”が始まる。





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