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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
花の都の冒険者
18/153

兆しと、再会

誤字報告等、ありがとうございます。





 β−Earth

 ■■■の手帳




 20XX年4月19日

 ニュースで、大量殺人とか、誘拐がどうとか言ってた。

 どのチャンネルもそのニュースばっかで、なんだかお祭りみたい。





 20XX年4月28日

 銃で撃たれても死なない、”怪人”だって。

 なんか凄そう。





 20XX年5月10日

 例の怪人のせいで、子供とか女の人が誘拐されてるっぽい。

 怖いなー









 花の都ジータンへと続く街道。

 平坦で穏やか、暖かい日差しの元で。



「――はぁ、はぁ、はぁ。」



 ミレイはひたすらに、走り続けていた。



 生まれてこの方、まともに運動に取り組んだことはなく。

 学校のマラソン大会では、常に最下位争い。

 おまけにパワーも貧弱である。


 当然ながら、走り方のフォームなども滅茶苦茶であり。


 すでに息切れ状態で、脇腹を押さえながら走っていた。



「――ひ、ひぃ。」



 もはや、走っているというよりは、止まらないようにしている、と言うべきであろう。


 ちょっと歩くのが速い人、程度のスピードである。


 そんな、ミレイのもとに。

 彼女の召喚獣である、フェンリルが近づいてくる。


 その背中には、パーシヴァルがまたがっていた。


「ミレイさん、”魔力”を全身に巡らせてください。でなければ、身体能力の強化は見込めません。」


「はぁ、はぁ。……わ、分かってはいるんですけど。」


 ミレイはもう、走るだけで精一杯であり。

 パーシヴァルの助言に従う余裕など無かった。






 これも、修行の一環である。

 昨日、ミレイの魔法訓練に限界まで付き合った結果。

 パーシヴァルはほぼ全ての魔力を使い果たし、馬車の構築すらもままならなくなった。


 そのまま、魔力が回復するまで待つのも無駄と判断し。

 パーシヴァルは街への帰還がてら、2人に修行を課す事にした。


 その内容は、魔力を応用した”身体能力の強化”。

 ギルドマスターなど、一流の強者なら誰しもが会得している技術である。


 この技術も、魔法同様にセンスを問われるものであり。

 キララはとっくにコツを掴み、ミレイの遙か前方を走っていた。

 もとより、その片鱗を見せていた影響もあるのだろうが。


 ミレイとキララの間には、明確なまでの差が存在しており。

 その様子を見ながら、パーシヴァルはどうしたものかと考える。



「ミレイさん。移動に使えるカードは、他には無いのですか?」


 フェンリルの背には、パーシヴァルが乗っており。

 おまけに胴体には、ワイバーンの首が繋がれている。


 修行ということを抜きにしても、全員を乗せる余裕は無い。


「えっと、あるっちゃあるんですけど。」


「でしたら、ぜひ使ってみてください。アビリティカードの力も、れっきとした”貴女の一部”なのですから。」


 そう、師匠からの指示を受けて。


 ミレイは、自身の持つ2つ星のカード、”電動スケートボード”を召喚する。


「……大丈夫かなぁ。」


 今までの人生で、1度たりとも、こういった乗り物に乗ったことはなく。

 おまけに街道は、大して舗装されていない。


 怪我をしないように祈りながら。

 ミレイはスケートボードを起動した。






「――ハッ、ハッ。」


 ミレイが、電動スケートボードによる巻き返しを図っている頃。

 キララは純粋に、その身一つで、さらなる境地へと至ろうとしていた。



 淀みない魔力が、全身の隅々まで行き渡り。

 ひたすらに身体を強くする。



 もとよりキララには、ワイバーン相手に”単独で勝ちを拾える”だけの能力が有った。

 天才的なセンスと、微かに魔力を帯びた体力によって。


 だが、それはあくまでも、”原石”が磨かれる前の話であり。

 それを自覚した今のキララは、凄まじい勢いでその才能を開花させていた。



 あの日、苦戦した異界の存在をも、遥かに凌駕するほどに。



「ふぅ。」


 立ち止まって、振り返ると。

 ミレイたちの姿はどこにも見えず。


 キララは夢中になって、走り過ぎたのだと気づく。



 そのまま、1人で進み過ぎても暇なため。

 キララはその場で一休みし、2人の到着を待つことにした。





 その手に魔力を纏い。

 昨日学んだ、魔法の基礎を復習する。


 すでに、生み出した水の塊を、ワイバーンと瓜二つに変形させることを可能にしており。


 その卓越した集中力で、動きをも模倣していく。


 この先も、”彼女”の隣りで戦っていくために。


 ただ立ち止まるという選択肢は、キララには存在しなかった。






 舗装されていない街道を、スケボーに乗ったミレイと、フェンリルに乗ったパーシヴァルが疾走する。



「……うっ。」


 スケボーは、時速40kmに迫るかなりの速度で走行しており。

 車の運転すらしたこと無いミレイにとっては、とてつもない恐怖であった。



 だが、幸か不幸か。

 その恐怖は、唐突に終りを迎える。



「……あれ?」


 何の操作もしていないのに、スケボーの推力が落ちていき。


 ついには完全に、その機能を停止してしまう。



「どうか、しましたか?」


 パーシヴァルが不思議そうに尋ねるも。



 ミレイは黙ったまま。

 静かに、スケボーの実体化を解く。



「……エネルギー切れです。」



 電化製品であるがゆえに。

 それは、アビリティカードであっても、抗いようのない宿命であった。


 カードの色は薄くなっており。

 恐らくは、これが元に戻る頃には充電が終わっているという具合であろう。





 先はまだ遠く、キララの姿も見えない。


 スケボーのおかげで、ある程度の体力は回復したものの。

 バランスを取るのに必死だったため、足はもう限界だった。



「――くっ。」


 キララのように、魔力で身体を強化しようとしてみるも。

 ほんの僅かに力を感じる程度で、すぐに感覚が消え去ってしまう。



「……師匠。わたしの魔力って、機能してますか?」


 自信が湧かず、問いかける。



「そうですね。魔力は、確かに宿っています。その”潜在量だけ”で考えるなら、キララさんをも上回る才能です。」


 そうでなければ、”複数のアビリティカード”を所持することは不可能であろう。


「ですが致命的なまでに、貴女本人との”相性”が悪い。性格的な問題か、もしくは別の要因か。」


 それは、熟練の魔法使いであるパーシヴァルにも分からなかった。


「兎にも角にも。キララさんのように、すぐに実践レベルで機能させるのは、難しいかも知れませんね。」


 皆が皆、同じ要領で成長できるとは限らない。

 人はそれぞれ、”異なる長所”を持っているのだから。


「他には、使えるカードは無いのですか?」


「そう、ですね。強いて言うなら、パンダが1匹居るんですけど。今は街の方に居るので。」



「……なるほど。どうやら、アビリティカードの仕組みを、まだ完全には理解していないようですね。」


「どういう意味ですか?」



「アビリティカードは、正確には”所有者の一部”であると考えられます。手や足と同じように、その繋がりは常に途切れること無く存在している。故に所有者が望めば、カードはその手に戻ってきます。」



 その話を聞いて。

 ミレイは、ギルドマスターと戦った時のことを思い出す。



「確かに。ギルマスの槍が、パッて空中で止まって、手元に戻って来てたような。」


「あー。あれは”そういう能力”なので、気にしないでください。」



 ギルドマスターのアビリティカードは、3つ星ランクの”ガリバーランス”。

 手放しても、遠隔操作が可能という能力を宿している。



「いつもと変わらずに。その手に望めば、カードは姿を現します。」


 その助言の通りに。

 ミレイは手をかざし、その手にカードを呼び寄せる。



 すると、他のカードと何ら変わらず。

 パンダファイターのカードが出現する。



「ホントだ。こんなに距離が離れてるのに。」


 カードは体の一部という。その言葉の意味を、ミレイは理解する。



「複数のカードを持つ。それは貴女だけの長所です。ならばそれを、最大限活かしていきましょう。」


 無理に、不得手な魔法を覚える必要は無い。

 優れた冒険者になる道は、ただ一つとは限らないのだから。



「――よしっ、行くぞパンダ!」



 新たなる移動手段として。

 ミレイは意気揚々と、パンダファイターを召喚した。







 同時刻、カミーラ邸にて。


 巧みなフライパン捌きで、パンダが昼食の調理を行っていた。


 その背中を、カミーラが欠伸あくびがてらに見つめている。



 だがその最中、突如としてパンダの姿が消失し。

 制御を失ったフライパンが宙を舞う。



 カミーラはただ、呆然と眺めることしか出来ず。

 そのまま、無惨な音が鳴り響いた。



「……わたしの昼飯ひるめしが。」



 まさに悲劇である。











 遠くの木を見つめながら、キララは弓を構えている。


 その手に矢は握られていない。

 けれども、何かをつがえる動作のまま、ひたすらに集中力を高める。


 すると、徐々に”その形”が出来上がっていく。


 物質的な硬度を有すほど。

 高密度の魔力で編まれた、”魔法の矢”が。




 その完成を、確信すると同時に。

 キララは矢を解き放つ。




 鋭い音が、鳴り響いて。



 目標としていた木には、”大きな風穴”が空いていた。





「――素晴らしい魔法です。」



 その妙技を間近で見て。

 パーシヴァルは素直に弟子の成果を褒め称える。



「つい昨日、魔法に目覚めたばかりだと言うのに。あれ程の一撃を放つ魔法使いが、この世にどれだけ居ることでしょう。」


 そう絶賛するほど、キララの放った一撃は凄まじいものであった。

 才能のない者では、恐らくは一生をかけても再現できないほどに。



「……そう、ですか。」


 けれども、褒められたキララは、それほど嬉しそうではなかった。

 心ここにあらず、といった様子で。



 キララの視線は、当然のようにミレイの方へ向けられている。



 疲労が溜まっているのか、突っ伏しているパンダの隣りで。


 ミレイは1人、初歩的な魔法の練習をしていた。



 だが、成果が上がっていないのは遠目から見ても明らかであり。

 パンダを背もたれにして、すでにサボりモードへ移行していた。



 そんな様子を、キララは遠目で見つめている。



「彼女のことが、気になりますか?」


「はい。」


 どんなときも、意識せずとも。

 つい視線が、彼女の元へ向かってしまう。



「……仲が良いというのは、素晴らしいことです。嬉しいことも、悲しいことも、何だって共有できるのですから。」


 パーシヴァルは、この2人のコンビを、とても尊く感じていた。



「ですが、無理に”同じ”になる必要はありません。」


 遠い視線の先で。

 ミレイが黒のカードを使い、新たなるカードの召喚を行っている。



 その表情から見て、今日のカードは”当たり”だったのだろう。



 ミレイが、銀色のカードをかざすと。

 この世界では珍しい、真っ黒な”スナイパーライフル”が出現する。



「なんだろ、あれ。」


「……恐らくは、銃のたぐいでしょうか。」


 2人が見つめる中。


 ミレイはおもむろに、そのライフルを構えると。

 そのまま、引き金を引いた。



 すると、鋭い音とともに、”光り輝く弾丸”が発射される。



 弾丸は、遥か彼方へと飛んでいった。



「見た所。”所有者の魔力”を、弾丸として発射出来る銃のようですね。これで彼女は、遠距離への攻撃手段を得たという事です。」



 射撃の技量にも左右されるだろうが。

 その威力は、先程のキララの魔法と比べても遜色が無かった。



「下手な魔法を覚えた所で、彼女にはいずれ無駄になるでしょう。”そういう才能”の持ち主ですから。」




 魔法の才能と、戦いの才能。

 そして、生まれ持ったカードの才能。


 それらは決して、望んで手に入るものではない。


 短所も長所も、分け合うことなど出来ない。




「不安ですか? 彼女と自分との間に、様々な違いがあるというのは。」


「……わかりません。初めて出来た、友達なので。」



 始まりは、理屈ではなかった。

 ただ一目見て、仲良くなりたいと思ったから。


 でも実際は、身体的特徴や、年齢、生まれた世界、才能、好きなものまで。

 何もかもが違っていて。


 今この瞬間にも、ミレイが何を考えているのかが気になって、心が浮ついてしまう。



「――大丈夫ですよ。貴女たち2人は、とても良いコンビになると思います。」



「本当、ですか?」


「ええ、もちろんです。相手のことを強く想っているのは、貴女だけでは無いのですから。」



 目を向ければ。

 ライフルを抱きかかえたミレイが、こちらへ向かって走ってきている。


 何か話したいことがあるのか、とても楽しそうな表情で。


 だが、足元がおぼつかない様子で。

 そのままぺたんと、地面に転んでしまった。



「――あっ、ミレイちゃん!」


 キララの動きは早かった。


 すぐさま転んだミレイの元へ向かい、そっと寄り添う。


 そんな2人の姿を、パーシヴァルは微笑ましく見守っていた。



「……いいですね。」


 自分にも、あんな時代があったのかと。

 昔を懐かしむように。







 その日の夜。


 パーシヴァルの魔力が戻ったこともあり。

 3人はなんとか街へと帰還し、無事にクエストを終えることが出来た。




 そして、カミーラ邸にて。


 リビングのドアが開くと同時に、待ち構えていたカミーラが愚痴を飛ばす。



「おい、お前達。パンダを呼ぶのは構わんが、おかげでわたしの昼飯が――」 



 だが、ミレイとキララと。

 その”後ろにいた人物”の顔を見て。


 カミーラは、完全に機能を停止してしまう。



「?」



 ミレイたちには意味が分からず。

 唯一、パーシヴァルのみが、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。



「お久しぶりですね、カミーラさん。」



「……パーシヴァル? いや、”そういう事”か。」


 カミーラは何かを察した様子で。

 大きなため息を吐く。



「どこか、良いお店を紹介してくれませんか? 色々と、積もる話もありますし。」


「それは構わんが、わたしは飲まんぞ。」



 天使と魔女。

 それは思いがけない、旧友との再会であった。









 街外れの小さな酒場。

 その端のカウンター席で。


 カミーラとパーシヴァルは、隣同士に座っていた。



「で、いつから冒険者なんてやってるんだ?」


「そうですね。登録を行ったのは、20年ほど前です。」


「なるほど。ちょうど、わたしが辞めた時期か。」


「ええ、その通りです。」


 パーシヴァルが酒を口にする。



「貴女がどうして辞めたのか、どうしても気になってしまって。」


 そう、言葉を投げかけられても。

 カミーラは表情を変えない。



「単に飽きただけだよ。何十年も同じ仕事をするのは、流石にな。」


 酒は飲まないと決めているため、ただ頬杖をつくのみ。


「それに、一緒にバカをやる奴も居ないからな。」


「……それは、ええ。確かにそうですね。」



 50年以上前、世界は最悪だった。

 ボルケーノ帝国は他国への侵略を繰り返し、異種族への差別も苛烈。


 だがそんな世界で、”変わり者の天使”と、”白き忌み子”は出会った。



「久々に、ちゃんと顔を見せてくれよ。喋り方も気持ち悪いし、”師匠の真似”をしすぎだ。」


「いえいえ、とても優秀な部下が居るので。魔力も容姿も誤魔化さないと、すぐに見つかってしまうんです。」


 その身を覆う魔法を、パーシヴァルは解かない。


「今度また、遊びに来てください。貴女ならいつでも歓迎しますから。」



 そうして、静かな夜は過ぎていく。



 ”崩壊”へと繋がる、小さな歪みに気づかずに。





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