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二人で最強






 思い返せば。この世界に召喚されてから、わたしはずっと”幸せ”だった。


 自らの運命を呪い、世界を呪い。

 最後には、大切な家族によって命を絶たれた。


 もしも。もしも、もっと平和な世界で生まれたら。

 もしも、普通の友達ってやつができたら。

 そんな、もしもを考えながら死んで。


 気づけば、”氷の少女”はアヴァンテリアに召喚されていた。

 小さくてよくわからない、愛しいマスターによって。




――だからわたしは、誰よりも強くなれる。




 うちに秘めた少女の心と共鳴し、ミレイの力が際限なく上昇していく。


 背に輝く、12枚の翼。


 それはまるで、世界を包み込むような神々しさに満ちていた。





『行くわよ!』


「うん!」





 二人で一つ。

 怪人の王を倒すために、”ミレイ/フェイト”は飛翔した。








「……ミレイちゃん」




 そんな彼女たちの姿を見つめながら。

 それでもキララは、ただ見守るだけを良しとせず。


 胸の中にある、白のカードを起動。

 ”可能性の海”の中から、たった一つの希望を模索する。

















 天上に君臨する、怪人の王。


 今まで違うのは、赤き瞳の輝きが増したこと。

 そして、頭の上に”光り輝く輪”が存在することだろう。


 見た目の変化はその程度。

 だがしかし、力は別次元へと至っていた。


 もはや生物の領域にあらず。

 たとえ神であろうと、彼の行く手を阻めない。


 そんな領域へ、立ち入る者が1人。




「やぁ。よく来たね」




 フェイトとの憑依融合により、天使と化したミレイ。そんな彼女に対し、プロメテウスは紳士のように声をかける。

 力を覚醒させた時は、同時に感情を爆発させていたものの。今となっては冷静になり、まるで世界の全てを知ったような顔をしていた。


 ミレイとプロメテウス。共に超常的な力を有し、世界の命運は彼女たちの行く末にかかっている。

 だがしかし、ミレイはまだ”別の道”を模索しようとしていた。




「今すぐ、その力を収めて。この世界で平和に暮らすって言うなら、わたしも乱暴は止めてあげる」


『ちょっとミレイ!? アンタ、今さら何言ってんのよ!』




 心の中でフェイトが叫ぶも、ミレイは諦めない。




「君の気持ち。わたしを好きって気持ちには応えられないけど。それでも、この世界なら君を受け入れてあげられる。だから――」


「いいや、その選択はあり得ないよ」




 プロメテウスは、きっぱりとミレイの提案を拒絶する。

 言葉で解決できるのなら、こんなことになっていない。




「僕が欲しいのは君だけだ、世界じゃない。君一人が居ればそれで良い」


「それは無理。わたしは、この世界でみんなと暮らしたい。あなたのお嫁さんにはなれない」




 ミレイも、彼の要求を拒絶する。

 もう力には屈しない。みんなが信じてくれたように、自分も”自分の力”を信じると決めたのだから。




「……そうか。なら、どうしたら良いんだろうね」




 言葉でも、力でも手に入らないのなら。どうすれば彼女を手に入れられるのか。


 プロメテウスは考え、地上の世界を見下ろした。




「例えば。世界に、僕と君だけになれば。君は僕を選んでくれるかな?」


「ッ、そんなことは、絶対にさせない!」




 片方は、世界を滅ぼすため。

 もう片方は、世界を守るため。


 とても単純な理由で、両者の戦いは始まった。















 プロメテウスの持つ力は、小細工なしの”サイコキネシス”。

 ものを触れずに動かしたり、衝撃波を放ったり、バリアを展開したり。

 また、超重力を発生させることもできる。


 天上へと至った今の彼は、その力が更に増しており。

 大陸を割るほどのエネルギーが、衝撃波として解き放たれる。




「ッ」




 それを受け止めるのは、ミレイが展開した氷の大剣。

 そこに秘められた力も、もはや以前のフェイトのそれとは比べ物にならず。




 世界全体を揺らすほどの、力の衝突が発生する。




 衝撃波と、氷の大剣が同時に弾け。


 周囲の雲が吹き飛ばされたことにより、晴天が両者を照らす。




 ミレイもプロメテウスも、戦うための”技術”など有していない。

 両者ともに、得意なのは一つだけ。


 ”圧倒的なパワー”を解き放つこと。




「これなら、どうだ!」




 12枚の翼を輝かせ、ミレイが力を行使。



 すると、海から”巨大な氷の龍”が出現し、プロメテウスめがけて上っていく。



 全力のエネルギーを込めた、その龍は。プロメテウスの張っている障壁を食い破り。

 そのまま、彼とともに空の彼方へと。




「ッ、面倒な」




 氷の龍は、プロメテウスの力にも負けず。

 上へ、上へと飛翔していく。


 その先にある、”宇宙(そら)”を目指して。


 だがしかし、





「僕は。――僕はっ!!」





 彼の、力ずくの拳により、氷の龍は砕かれ。


 そのお返しとばかりに、彼の手に”光”が集っていく。





「あわわっ、どうしよう」


『馬鹿! こっちも力を溜めんのよ!』




 フェイトのアドバイスに従って、ミレイも魔力を溜めていく。

 これから放たれるであろう、彼の強力な一撃に対抗するために。



 しかし、ミレイは忘れていた。

 プロメテウスにとっての敵が、”ミレイではない”ことに。




「――さぁ、滅びろ!」




 手中に集めたエネルギーを、彼は二つに分割し。

 地上に向けて放出した。


 ミレイを避けて、”世界”を壊すために。




「ッ、やばっ」




 とっさの判断で、ミレイは氷の剣を生成。

 プロメテウスの放った、一つのエネルギーを吹き飛ばす。


 だがしかし、もう片方への対処には間に合わず。




 大陸を潰すほどのエネルギーが、帝国の大地へと。





 衝突する前に、”バラバラに斬り裂かれた”。





「……馬鹿な。あれを止められる者が、他にいるはずが」




 プロメテウスは知っている。この世界の強者たちを。

 今の一撃に対処できるのは、天使と化したミレイのみ。他の誰にも、その力は止められるはずがない。


 しかし、そんな彼の予想を打ち砕くように、”もう一人の少女”が空へとやって来る。





「――ようやく見つけた。”最強のわたし”」





 可能性の海を越えて、たった一つの自分。

 キララと呼ばれる存在の中でも、最強であろうモノ。



 ”大きな純白の翼”を広げて、その手には身の丈を超える”鋼鉄の大剣”。



 翼は自由を、剣は力を。




 黒と白、対になる二つのカードのように。




 ミレイとキララ。

 二人の天使が、肩を並べた。

















 数多の並行世界。数多の可能性。

 キララという存在は、多くの世界において”正義の側”であり。

 その可能性もまた、一つの正義の存在であった。


 種族としての天使なのか、それとも人を超えた存在なのか。

 ただ、確かなのは。


 それが紛れもない”キララ”であり、数多の可能性の中で”最高峰の力”を持つということ。




 翼による加速は、音速を遥かに超え。

 大剣による一撃をプロメテウスに叩き込む。




「ッ」




 純粋なる物理攻撃。

 ただ、圧倒的に強く、圧倒的に速い。


 それだけの斬撃、だというのに。

 プロメテウスの障壁は砕かれ、彼は衝撃で吹き飛ばされる。



 一体、どれほどの力が彼女の華奢な体に秘められているのか。



 プロメテウスの持つエネルギーと、キララの内包する未知なる力。

 それはほぼ、”互角”に見えた。






「すっご」




 キララの戦いを見て、その力に瞳を奪われるミレイだが。

 その中にいる人物は、冷静に物事を判断する。




『あいつ、多分死ぬほど無茶してるわよ』


「どういうこと?」


『バカ。わたし達の力は、”絆”によって発揮してる力なの。だから、お互いにお互いを支えて、憑依融合とかいう奇跡を起こせてる』




 しかし、キララの力は似ているようでまるで違う。




『平行世界の自分と繋がる? わたし達の力と違って、キララの力は”一方的”なのよ。だから、とんでもない負担がかかってるはず』


「そんなっ」


『あいつのことだから、きっと平気な顔で無茶してるけど。さっさと決着付けないと、どうなるか分かんないわよ』


「……そう、だね」





 思えば、全てが奇跡の連続だった。


 この世界に連れてこられて、キララと出会って。みんなと出会って。


 フェンリル、RYNO、フェイトと、多くの仲間に助けられて。


 だからこそ、今のこの戦いが成立している。





「――倒そう」





 キララと同じように、”全力を込めた大剣”を生成し。


 12枚の翼をもって、ミレイは加速した。















 思えば、ずっと一緒に居たはずなのに。

 こうやって”肩を並べて”戦ったのは、どれくらいあったのだろう。





 始まりの日。

 異界からやって来た怪物と、キララが戦い、ミレイは逃げ。

 その後、ミレイの召喚したフェンリルが怪物を倒した。



 黒き怪人たちが花の都を襲った日。

 みんなが必死に怪人と戦う中、ミレイは何もできず。

 それでもどうにかしようと、RYNOの力で怪人を追い返した。



 モノリスの調査で戦った、黒き竜。

 Sランク冒険者、イリスでも敵わない相手に、暴走したミレイが全てを終わらせた。



 霧の都が、雪の都へと変貌した日。

 ミレイとフェイトの活躍に、キララは居合わせず。



 深海での戦いでは、ミレイが”憑依融合”という力に目覚め。



 突如出現した遊園地での戦いでは。

 ミレイとアリサの勇姿を、キララは見つめることしかできなかった。





 キララがミレイを助け、ミレイがキララを助ける。そんな戦いばかり。

 二人が本当の意味で協力した戦いは、花の都にいた頃に一度だけ。


 空から飛来した魔獣、ブラスターゴーレムの討伐を師匠に頼まれた時。


 歩く火山のように強力な魔獣を相手に、ミレイとキララは作戦を立てて挑んだ。




――冷やして、ズドンかな。


――そうだね。




 たったそれだけの作戦会議をして。キララの魔法と、ミレイの召喚の力で魔獣を倒した。


 あの、”灼熱の戦い”以来であろうか。




「キララ、敵の防御を崩して!」


「オッケー!」




 神速の翼、大剣を手に。

 圧倒的な戦闘力をもって、キララがプロメテウスを追い詰めていく。




「くっ」




 プロメテウスは、それを防御するのに精一杯で。

 キララの後方で力を束ねる、ミレイの姿に気づけない。





 氷の大剣に、サフラの触手を纏わせて。

 そこに宿らせるは、自分にある全て。





 その一撃に、全てを込める。





「――キララ!」


「――お願い、ミレイちゃん!」





 キララの斬撃によって、無防備になったプロメテウス。


 その体めがけて、ミレイは飛翔した。





 一つの世界、一人の人間では成し得ない。

 ”究極の一閃”が。





 プロメテウスを、貫いた。

















「終わった、のか?」




 帝都。


 ギルド本部の外で、皇帝”セラフィム”が空を見上げている。

 その側には、この世界の神である”アリア”と。

 セラフィム同様に治療中の、”赤き竜王”が佇んでいた。



 本来なら、彼女たちが守るべき世界だが。今はただ、見上げることしかできず。

 世界の命運は、二人の少女に委ねられていた。




「……」



 空を見つめながら、アリアの表情が険しくなる。




「あれじゃ、ダメ」




 神話の如き戦い、それが行われていた空では。

 ”予期せぬ異常事態”が発生していた。















 ミレイの一撃によって、胴体には大きな風穴が。

 それはプロメテウスにとっても、致命傷となりうる傷だったのだが。



 ”ある領域”を超えた彼にとって、死という概念は生物のそれと異なるのか。

 もしも仮に、”星”が致命的なダメージを負ってしまった場合、どのような現象が起きるのだろう。



 本物の星ではなかったとしても、神に等しいプロメテウスには星に匹敵するほどの”膨大なエネルギー”が内包されていた。



 そして今、プロメテウスという入れ物が壊れ。





 制御を失った力が、彼の体から溢れようとしていた。

 この世界、アヴァンテリアを滅ぼすほどの勢いで。






(……あぁ、これが僕の結末か)




 自らの終わりを悟りながら、プロメテウスは自分という存在を思う。


 人間の支配する地球で、自分は生まれ。

 なぜ生まれたのか、何のために存在するのか。

 それすら理解できぬまま、自らと同じ存在を探し続け。


 遠い世界で見つけた、あの少女に拒絶され。

 その結末が、これである。




 ミレイとキララ。


 それが、自分を倒した人間の名前。

 愛する存在に殺されるのなら、それほど悪い終わり方ではないのかも知れない。


 そんな事を、考えていると。





――くっ。





 彼の体より溢れるエネルギー。

 膨大な熱量をかき分けて、その”二人の少女”が彼のもとへと近づこうとしていた。


 膨大な熱量に耐えきれなかったのか、それとも力を使い果たしたのか。

 ミレイとフェイトの憑依融合は解け、その代わりに機械の翼を。


 しかし、その機械の翼すらも融解しかけており。

 そんな彼女を、キララが必死に支えていた。




(なぜ、今さら)




 彼女たちに、もう力は残っていない。星をも飲み込むこの力の濁流を、止めることなどできないはず。

 それならば、どこか別の世界へ逃げるなり、生きる道を探せばいいのに。


 どうして、まだ諦めようとしないのか。

 なぜ、手を伸ばそうとしているのか。





(どうして、君は。――”君たち”は)





 膨大なエネルギーに抗いながら、力を合わせて二人はプロメテウスのもとへ。


 ミレイが、彼の頬に触れる。





「――ごめんね」





 ”この方法”だけは使いたくなかった。


 ”大粒の涙”を流しながら、まるで大罪を背負うかのように。






 ミレイは。


 プロメテウスに、”キス”をした。






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