最終決戦
満身創痍のゼストと共に、この世界にやってきたキララ。彼女の足元ではゼストがうずくまっており、何とか顔を上げてプロメテウスを見た。
「申し訳、ありません……主よ。……侵攻は、失敗に終わりました」
必死に這いながら、プロメテウスのもとへと近づこうと。
「……見たら分かるよ」
彼も、ゼストのもとへと近づいていく。
地面を這うゼストと、空に浮かぶプロメテウス。それはまるで、愚者を憐れむ神のようで。
「希望に沿えず、本当に――」
「いいんだ。最初から、君たちには何一つ期待してないからね」
「それ、は……」
どれだけ主と、王と崇めようとも。その崇拝には何の意味もなく。
プロメテウスは無表情なまま、右手を前に出し。その瞬間、超重力が発生。
「――」
何が起きたのかも分からず、ゼストは圧死した。
「裏切った仲間より、死ぬのが少し、遅くなっただけだったね」
手向けの言葉は、それだけ。何の感情も抱かずに、プロメテウスは部下を粛清した。
「そんなっ、仲間じゃなかったの!?」
パワードスーツを着た、こちらの世界のキララが叫ぶ。
「僕に仲間なんていないよ。……いるとしたら、そう。ミレイだけかな」
プロメテウスは、自らを怪人とは定義していない。人を超えた存在、神の一種だと認識している。
下等生物である人間はもちろんのこと、出来損ないの怪人たちも、決して同列には扱わない。
彼が仲間として、生物として認めているのはミレイだけなのだから。
絶対的な強者として、振る舞うプロメテウスであったが。
「――セオラル」
美しい光弾が彼のもとに飛来し、”障壁を微かに突破”。
プロメテウスの頬に、かすり傷を与えた。
「……そんな」
生まれて初めて受けた傷、始めての出血に、プロメテウスは戸惑い。
それを成した存在、アヴァンテリアのキララへと顔を向けた。
キララは人差し指を伸ばしており、彼女が攻撃をしたのは明らかであった。
「返してもらうよ。ミレイちゃんはわたしの、――ううん、”わたし達”のものだから」
キララの持つ力は、ミレイの対となる白のカード。たとえ異世界でも、その力は行使できる。
だから、彼女が来た。
◆
キララの体から力が溢れ出る。今までに扱っていた魔力ではない。それよりも澄んでいて、何よりも力強い、光り輝くエネルギー。だからこそ、プロメテウスの魔力障壁を突破できる。
『みんな、耳を塞いで』
テレパシーだろうか。プロメテウス以外のメンバーに、キララの声が届き。
みんなが耳を塞いだのを確認すると、キララ自身も耳を塞ぎ。
「――爆音界法、コラーッ!!」
キララの口から、この世のものとは思えない爆音が発生し。凄まじい衝撃が辺り一帯に響き渡る。
思わぬ不意打ちに、プロメテウスも目をつむって耳を塞ぎ。
その隙を待っていたと、キララは彼の真横にテレポート。
右手をかざし、
「激震界法、グアラ!」
次に発生させたのは、物理的な衝撃波。それはプロメテウスの放つそれにも匹敵し。
彼の障壁を打ち破りながら、そのまま異界の門まで吹き飛ばした。
キララは”たった一人”で、プロメテウスをこの世界から追い出した。
「……うっそ」
その圧倒的な滅茶苦茶に、ミレイは唖然とする。
「……何なんだ、今の力は」
地球からアヴァンテリアへと飛ばされて。それでも、ほぼ無傷で立ち直ろうとするプロメテウスであったが。
彼を取り囲む、”数人の影”。
「来ましたね」
帝国の守護者である、光の冒険者。
「……これが、怪人の王」
二振りの聖剣を携えた魔法少女。
「むしろ、神に匹敵する存在かな?」
人の心を取り戻した、最速の怪人。
「ま、まぁ。この面子が揃ってれば、何とかなるんじゃないか?」
七つの聖剣を操る、領主のバカ息子。
「――はっ、リベンジ上等よ!!」
最強を名乗る、氷の少女。
「……なるほど。君たちが、最後の障害というわけか」
ミレイを手に入れるため、プロメテウスの最終決戦が始まろうとしていた。
◇
「ねぇ、キララ。今の魔法って」
「あ、ちょっと待ってて」
プロメテウス相手に使った力について、尋ねようとするミレイであったが。
キララはその前に、他の邪魔者を処理したかったのか。
「エンシス」
ザイードを除いた怪人たちの足元に”ゲート”が出現し、彼らはそれに落ちる形でどこかへ飛ばされてしまった。
「……ありゃま」
またもや知らない力に、ミレイはもう言葉が出ない。
「ふっふっふ。新しい手品だよ」
そんなわけはないのだが、キララは少しおちゃらけてみる。
真面目な話をするよりも、今はただ、再会の喜びを噛み締めたいのだから。
「もう」
「ふふっ」
二人は見つめ合い。
何も言わずに、抱き締め合う。
とても安心するこの匂い。
この温かさ。
やっぱりそう、一緒じゃないとダメなのだと。
それをただ、確かめ合う。
そうやって抱き締め合う中、二人のキララが視線を合わせた。
「ありがとう、もう一人のわたし」
「……う、うん。なんかちょっと、不思議な感じだね」
パラレルツイン。平行世界の同一人物が出会うことなど、滅多に無いのだから。存在を認知していたこっちのキララと違い、地球のキララは流石に動揺が隠せない。
「色々と、話したいことはいっぱいあるけど。向こうの助けに行かないと、だから」
そう。今頃、門の向こう側では激戦が繰り広げられているはず。
「――そっちの怪人と、仲良くね」
「えっ」
最後に、一言アドバイスをして。
「行こう、ミレイちゃん。世界を救うために」
「うん!」
二人は異界の門を通り、アヴァンテリアへと帰っていく。
そして、キララが指を軽く振ると。たったそれだけで、異界の門は消失してしまった。
二つの世界の繋がりは、これにより完全に消えたことになる。
キララとザイードは、何も無くなった空間をただ見つめた。
「行っちゃったね、ミレイちゃん」
「そうだな」
「……向こうのわたし、かっこよかったなぁ」
「ふっ。別に、お前も負けてないさ」
この世界の行く末は、怪人たちの心は、子供たちの未来は。
向こうの戦いに委ねられた。
◆
全方向から放たれる七つの聖剣と。それに合わせて攻撃する、魔法少女アリサ。
しかし、彼女たちの強力な聖剣も、プロメテウスの持つ障壁を突破できず。
「なに、この硬さ」
びくともしない衝撃に、アリサは戦慄。
怪人の王と魔法少女との間には、圧倒的な力の差が存在していた。
しかし、その隙間を縫うように。速度自慢のマキナとソドムが、プロメテウスの背後に接近。
光の斬撃と、蹴りの連打を叩き込むも。
プロメテウスの障壁は、彼を全方向から守っていた。
「雑魚がどれだけ群れようと、僕には届かないよ」
余裕気なプロメテウスに対し。
「誰が、雑魚ですって!!」
上空に浮かぶ8枚羽根の天使、フェイトが。巨大な氷の剣を生成し、彼に向かって射出する。
「食っらえぇ!!」
氷の剣が、障壁に衝突。
他の攻撃よりも威力が高いのか、彼の障壁にわずかにヒビが入った。
「やっぱり、君も少しは特別か。……だけど、足りないようだね」
「ちっ」
これだけのメンバーが集まっても、傷一つ付けられない。
その現実に、苛つくフェイトたちであったが。
「――断絶界法、エグゼニオ」
突如、強烈な光の束がプロメテウスの障壁を襲い。
その鋭さによって障壁を突破した。
「なっ」
驚いた様子で彼が振り向くと。
そこにいたのは、ミレイとキララの二人。
「キララ、本当にどうしたの!?」
その隣では、ミレイがまたもや驚いていた。弓矢を使わずに、強力な魔法を使っているのだから。
「別に、大したことはしてないよ。”色んなわたし”から、少し力を借りてるだけ」
その力を証明するように、キララは体内にある白のカードを操作し。
”ミレイも知っている姿”へと変貌した。
キララが身に纏うのは、人工的な真っ白なアーマー。
地球のキララが装着していた、スカルスーツである。
そんなデタラメに、ミレイは目が点になり。
「――これに、技術を合わせれば」
キララはそのまま、プロメテウスへと突撃。スカルスーツによって得た”パワー”と、異なる自分の持つ”技術”を重ね合わせ。
強烈な拳を叩き込んだ。
まるで空間を吹き飛ばすような、異次元の一撃。
「くっ」
プロメテウスは、それを何とか障壁で防ぐものの。
「隙だらけよ!!」
後方から、フェイトたちが無視できない攻撃を連発してくる。
それには、流石の彼も対応がし切れず。たまらなく、上空へと飛翔した。
「畳み掛けるわ!!」
フェイトを筆頭に、皆がプロメテウスを追従する。
空を飛ぶことができない、アルトリウスとミレイを残して。
「……剣に乗れば、僕も飛べるだろうか」
「いや、無理はやめようよ」
慣れないことをすれば、あの次元の戦いでは足手まといになってしまうだろう。
「君はどうするんだい?」
「もちろん。彼は、わたしが倒さないと」
空を見上げ、ミレイは決意をし。右手を横にかざした。
すると、
『――待ってたわよ』
この世界に残してきた力、聖女殺しと繋がり。
ミレイの体が光りに包まれる。
少女らしい年齢まで成長し、悪魔のような姿へ。
漆黒の翼をはためかせ、上空へ向かおうとするも。
「――ちょっと待った!」
それを、アルトリウスが制止する。
「……アルティマ・セブン、彼女に力を」
そう、唱えると。彼の操る七つの聖剣が、ミレイの周囲を取り囲んだ。
「これで多分、君の助けになってくれるだろう」
「……ありがと、アルトリウス」
聖女殺しの力と、七つの聖剣を纏って。
ミレイは空へと飛翔した。
◇
上空では、これまでにない激戦が繰り広げられていた。
強固な障壁を持つプロメテウスに、全員が本気の攻撃を浴びせる。
フェイトの造り出した氷の剣に、マキナの放つ光線、魔法少女アリサの聖剣。
怪人ソドムも空間を蹴り、障壁に打撃を与えていた。
それだけなら、まだ何とかプロメテウスも耐えられるのだが。
「セオラル!」
「ッ」
キララの放つ鮮やかな光弾が、プロメテウスの障壁を突破し。
それに追従するように、他の攻撃も彼に当たり始める。
氷の刃が腕に刺さり、光線が肌を焼く。
プロメテウスも血を流し、明らかに苦戦を強いられていた。
そして、その戦いにミレイも参加する。
「借りるよ」
ミレイの意思に従って、七つの聖剣が聖女殺しに力を与える。
聖剣に宿る圧倒的な光の魔力と、聖女殺しに宿る闇の魔力が合わさり。
「ッ」
ミレイはそれを、根性で束ねた。
「――こんちくっ、フルパワー!!」
光と闇の合わさった斬撃が、プロメテウスへと飛来。
すでに、彼を守る障壁は存在せず。
「がっ!?」
強烈な斬撃が、深々と彼の体を斬り裂く。
今までとは段違いのダメージに、プロメテウスは衝撃を隠せない。
「やるじゃない!」
「素晴らしい一撃です」
フェイトとマキナが、ミレイの攻撃を褒める。
しかし、
「……これで、終わりね」
アリサの放った一言が、どうやらよくなかったのか。
プロメテウスの纏う雰囲気が、急に変貌した。
誰もが言葉を失う、知らない力。
ミレイによって負わされた深い傷が、見る見るうちに癒えていく。
彼の瞳は、強く、赤く輝いていた。
――君はヒトを超えた存在、神さまになれるんだよ。
忘れていた言葉。
よく知っているような声が、頭に響き。
プロメテウスは”覚醒”する。
「――人間如きが、舐めるなぁ!!」
生まれて初めての、感情の爆発。
それに伴い、膨大なエネルギーが放出された。
「皆さん、防御を!!」
マキナが叫ぶも、迫るエネルギーは余りにも大きく。
激しい光に、ミレイたちは巻き込まれた。
◆
衝撃により、魔獣大陸メビウスは傾き、地上への落下をし始めていた。
メビウスの大地には、何人もの強者が倒れ伏している。
プロメテウスの放ったエネルギーによって、彼女たちはここまで吹き飛ばされていた。
「み、みんな生きてる?」
ミレイが周囲に尋ねる。
七つの聖剣に守られたことにより、ミレイとキララはほとんど無傷であった。
その代償で、ほとんどの聖剣にヒビが入っているが。
それをこなしたアルトリウスは、近くで丸まって耐えていた。
魔法少女アリサは、ダメージにより変身が解けてしまい。
その付近にはマキナが倒れている。
「マキナさん、足が」
彼女の足は、折れてしまったのか変な方向に曲がっていた。
「いえ、お構いなく。わたしは治癒力が高いので、しばらくすれば回復します」
マキナは平常運転という様子で。
「……」
ソドムは上半身が地面に埋まってしまっていた。
とはいえ、彼は怪人なので大丈夫だろう。
だがしかし、
「フェイト!」
一番近くにいたのか、それとも皆を守ろうとしたのか。
フェイトは天使化も解け、全身血塗れになって倒れていた。
心配した様子で、ミレイが近づくも。
「……まだ生きてるわよ、一応」
何とか、彼女に意識はあるようだった。
「しっかしあいつ、まだ”上”があったなんてね」
憎きものを見るように、フェイトは上空へと顔を向ける。
上空には傷の癒えたプロメテウスが浮かんでおり、魔力でもない異質のエネルギーを纏っていた。
彼も完全に、”上位の存在”へと至ったのだろう。本当の意味で、”神”を名乗れるほどに。
ここのメンバーが万全な状態でも、果たして勝負になるのだろうか。
キララも慣れない力の行使で疲労が大きく。まともに動けるのは、ミレイ一人だけであった。
「……フェンリル。いや、RYNOを使っても」
頼りになるカードたち。しかし、それをどれだけ束ねたとしても、プロメテウスの足元にも及ばないだろう。
ミレイが、そんな事を考えていると。
「ちょっと、アンタ」
フェイトに呼びかけられる。
「……フェイト?」
「いいから。ほら、こっちに来なさい」
その言葉に従って、ミレイは彼女の側へと。
フェイトは少しばかり、複雑な表情をし。
それでも何かと葛藤し、決意を固めた。
「……手を」
「……手?」
ミレイが首を傾げるので、フェイトはじれったく思い。
その手をがっしりと掴んだ。
「分かってんでしょ。わたしとアンタなら、”できる”ってこと」
「……それって」
初めから、分かっていたこと。
出会ったときから、ずっと印象も良くて。
守るためなら、いくらでも強くなれる。
繋がる二人の手から、光が生じた。
「証明するわよ! わたし達が、”最強”だってこと」
「うん!」
二人の心が、一つになり。
光が、溢れる。
――憑依融合|《Ver.スノーホワイト》
光が収まると、そこに立っていたのは一人の天使。
身長は少女らしい年齢まで変化し、髪色には微かにブロンドが混じり。
美しい白銀のドレスを身に纏い、その背には”12枚の翼”が存在する。
この世界最強の存在が、異界の神へと挑む。