巡り逢い
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世界と世界をつなぐ、奇跡とも言える超常現象、異界の門。巨大なクレーターの中にそれはあった。
クレーターの側には、怪人たちの築いたであろう拠点のようなものがあり。多くの怪人たちの姿が目に入る。
そんな拠点の様子を、ミレイ、キララ、ザイードの三人が遠方から偵察していた。
「見た限り、上位怪人もそれなりにいるな」
拠点には、上位怪人も雑魚怪人もおり。妙に慌てた様子で異界の門に飛び込んでいっている。門の向こう側で、一体何が起きているのだろう。
「たぶん、ソドムが伝えてくれたんだ。だから、みんなが戦ってる」
あの怪人たちの慌てようは、向こうの戦況によるものだとミレイは判断する。
「ミレイちゃんの友達が頑張ってるなら、このまま様子見してたほうがいいんじゃない? ほら、怪人たちを突破して、こっちまで来てくれるかも」
ミレイの描く理想は、仲間を集めてプロメテウスと戦うこと。向こうから仲間が来てくれるのなら、それに越したことはない。
しかし、ミレイはそれを良しとしない。
「戦うなら、向こうの世界じゃないと」
冒険者たちの持つ、大きな力の源、アビリティカード。それは向こうの世界でなければ使えない。
ミレイはなるべく、万全な状態でプロメテウスを迎え撃ちたかった。こちらの世界で力を使えるのは、ミレイの持つ黒のカードのみ。
そうこうしているうちに、気づけば拠点にいた怪人たちがほとんどいなくなっていた。
大量にいた雑魚怪人たちは姿を消し、上位怪人が数体待機しているのみ。上位怪人たちは異界の門の周辺に集まっており、まるで向こう側から来る何かを待ち構えているようだった。
「あれはまさか、待ち伏せなのか?」
ザイードがつぶやく。
「もしもミレイの仲間がこちらに来ても、あれでは狙い撃ちされるぞ」
門の周辺にいるのは、上位怪人が5体。こちらの3人で相手をするには、少々数が多かった。
「どうにか、しないとね」
「そうだな」
キララとザイードは、すでに戦闘の準備を始めていた。ミレイもやる気はあるものの、手持ちの武器は心もとない。
5つ星の腐敗の王は、未だに復活が間に合わない。ミレイにはさらなる武器が必要であった。
「よしっ」
意を決して、黒のカードを具現化する。昨日は発熱が大変だったが、一晩で元に戻っていた。
勝利のために、今日の召喚に挑む。
だが、しかし。
1つ星 『ムドンコ族の翼』
ムドンコ族に伝わる伝統工芸品。この翼を背負って崖から飛び降りれば、ムドンコの青年は成人として認められる。
ミレイはとりあえず、ムドンコ族の翼を装備してみるも。
「……どう見ても、それは飛べる構造をしていないぞ」
残念なことに、これは見せかけの翼に過ぎず。とても戦闘に役立ちそうにはなかった。
「とりあえず、俺たち二人で不意打ちすれば、2~3体は削れるだろう」
「そうだね。とにかく、ミレイちゃんは身を守ることに専念してて」
「……了解」
静かに、戦いの狼煙が上がる。
◆
異界の門を取り囲むように、5体の上位怪人が待ち構えている。向こう側から来る何かを迎え撃つために、注意を向けていたのだが。
突如、左右から素早い影が接近し。
2体の上位怪人に強力な打撃を食らわせた。
その完全なる不意打ちに、2体の怪人は崩れ落ちる。
「残りは3体」
「まぁ、そこそこのレベルだな」
3体の上位怪人を相手に、キララとザイードの戦いが始まった。
「はぁああ!」
気合と勇気に満ち溢れた、キララの突進。
怪人の1体を正面からぶん殴った。
その攻撃は見事に成功するものの。
すぐ側にいたもう1体の怪人が、横からキララに襲いかかる。
当然、キララもそれに反応するのだが。
その怪人は、手のひらから強烈な電撃を発し。キララはそれに吹き飛ばされてしまう。
「ッ、大丈夫か!」
ザイードは、残るもう1体の怪人と戦闘中。
格闘によって押してはいるものの、瞬殺できるような相手ではない。
「いててっ」
幸いにも、スーツが頑丈なおかげで、キララには傷一つなく。戦闘は十分に可能なのだが。
「――シャア!!」
殴り飛ばした方の怪人が、すでに立ち上がり。キララに襲いかかろうとしていた。
「ッ」
流石に、それにはキララも反応が間に合わず。
怪人の鋭い爪が、彼女の顔に迫ろうと――
「――とりゃあ!」
突如現れた、巨大な白い拳によって、怪人が殴り飛ばされる。
その拳は、白い触手が変形してできたもの。
カードの力がなくても、自分は一人ではないから。
ミレイも戦いに参戦した。
二人は、互いに背中を任せる。
「ミレイちゃん、雷とかは平気?」
「そうだね。この白い触手なら、完全に無力化できるはず」
サフラは、高温に強い。
「なら、あっちをお願い」
「おっけー」
二人は立ち位置を入れ替え。ミレイは雷の怪人と、キララは爪の怪人と対峙する。
怪人は全身に電気を纏い、ミレイを威嚇していた。しかし、ミレイの心は負けていない。
(わたしだって、場数を踏んでるんだ)
たとえカードが無くても、今のわたしにはサフラがいる。
ミレイの全身から触手が溢れ、左腕に盾が、右腕が巨大な拳に変化した。
「行こう」
『ああ』
愛しの寄生生物、サフラを身に纏い。ミレイは怪人との戦いに挑んだ。
「……」
無言の怪人から、激しい雷撃が放たれる。
しかし、ミレイは左腕の盾でそれを完全に防ぎ、そのまま前へと駆ける。
「そんなん、効くか!!」
右腕の巨大な拳を振りかぶり、強烈なパンチを叩き込む。雑魚怪人なら、一撃で倒せるほどの一撃だが。
相手は紛れもない上位怪人であり。ミレイのパンチを容易に回避した。
しかし、ミレイが放ったのは単なる拳ではない。
白い触手、サフラは敵の動きをしっかりと捉えており。
『追撃だ』
拳部分から、無数の白い棘が出現し。
怪人の体を貫いた。
「……そん、な」
『捕縛完了だ』
白い触手が、怪人の体へと絡みついていき。怪人を捕らえた部分を硬質化。サフラはその部分だけを切り離した。
「サフラ、そんなこともできたんだ」
『わたしは、万能生物だからな。君が更に望めば、もっと攻撃的な特性も会得できるだろう』
「そっかぁ。……まぁでも、サフラは今のままでもすっごく頼りになるから」
『……そうか。そういう、ものなのか』
生物として。進化を続けるべきか、あえて今のままでいるべきか。ミレイの言葉を受けて、サフラの中で何かが変わったような気がした。
「そうだ! 他の二人は?」
ミレイは心配を口にするも、それは無用であり。
キララもザイードも、ともに上位怪人を倒し終えていた。
彼女たちは、怪人戦闘のエキスパートなのだから。
「サフラなら捕縛できるから、全員動けないようにしとこう」
倒れた怪人たちが、またいつ起き上がるか分からない。ミレイはサフラの力を使い、5体の上位怪人を捕縛することに。
ミレイの目的は、怪人を殺すことではない。プロメテウスを打倒し、人間の心を取り戻させることである。ゆえに、殺さずに生かす必要があった。
キララとザイードに、倒した怪人を集めてもらい。
サフラの触手を使い、彼らを拘束していると。
「――やれやれ。随分と、お転婆なお姫様だ」
突如、空から聞こえる声。その声に、ミレイは息が止まった。
「あれは、まさか」
ザイードも、本能的に察知する。空に浮かぶ存在が、何者なのかを。
「……?」
しかし、キララにとっては初めて聞く声なので、不思議そうに空を見上げた。
そこにいたのは、宙に浮かぶ白き青年。
怪人の王、プロメテウスである。
◆
「くっ」
ザイードは、動くことすらできなかった。無数にいる上位怪人と、その王であるプロメテウス。あまりの”格の違い”に、体が動かない。
だがしかし、キララは違う。
「もしかして。あなたが、プロメテウス?」
怯えた様子もなく、プロメテウスに声をかけ。彼もその声に反応する。
「……その姿、もしかしてスカルレンジャーかい? まさか、新しい戦士が生まれていたとはね」
プロメテウスは、ひと目でキララのスーツを看破する。
「聞いていた話と、違うようだ」
とはいえ、キララから興味を失くす。
彼にとって、スカルレンジャーなど脅威になり得ないのだから。
プロメテウスが求めるのは、ミレイ一人だけ。
「ソドムと連絡が取れなくなってね。まさかと思って、ここまで来たんだけど」
彼は周囲を見渡し、捕縛された上位怪人たちを見る。
「驚いたよ。君たちにそんな力があったなんて」
そう呟いて。
プロメテウスは右手を前に出す。
「それで、僕とは戦えるのかな?」
その瞬間、強烈な重力がミレイたちに襲いかかる。
「くっ」
ミレイに対しては、やはり手加減しているのか。地面に膝をつく程度だが。
ザイードは完全に地面に倒され。
キララも同様に、それでも必死にプロメテウスを睨みつけていた。
「へぇ。以前の彼らなら、顔を上げることすらできなかったのに。君は随分と強いらしい」
プロメテウスは僅かに感心する。
だがしかし。
「まぁ。僕にとっては、誤差みたいなものだけどね」
今度は、右手をキララに向けて。
かつてフェイトを倒した時のように、強烈な衝撃波を解き放った。
「キララ!!」
ミレイが叫ぶも、重力によって動くことができず。
吹き飛ばされる彼女を、ただ見ていることしかできなかった。
何もできずに、一方的に蹂躙される。
幹部怪人とも次元が違う、まさに王と呼ぶべき力を持っていた。
「さぁ、仕事をするんだ」
プロメテウスが視線を送ると。それだけで、硬質化した触手が砕け、拘束されていた怪人たちが解放される。
「そこの裏切り者と、スーツを着た少女を殺すんだ。決して、お姫様には触れないように」
――了解。
プロメテウスの命を受け、5体の怪人たちが動き出す。
ミレイの横を通り過ぎて、キララとザイードの元へと。
「ッ」
どうしようもない絶望感に、ミレイは打ちひしがれる。
異界の門がすぐ側にあるのに。仲間の待つ世界が、すぐそこにあるのに。
「ぐっ」
3人の怪人に囲まれて、ザイードは首を掴んで持ち上げられる。
「さてと、どうやって殺そうか」
「そうだな。手足を引き千切っていくのはどうだ?」
「ははっ、懐かしいなそれ」
彼らも、元は人間だったというのに。完全に人としての心を失い、残酷な怪人へと変貌していた。
キララの方にも、2体の怪人が近づいていく。
「……うぅ」
先程の衝撃波によるダメージで、キララは動けない。まさに、絶体絶命の状況。
だがしかし。ここまでやってきた行動、意志が無駄になることは決して無い。
2体の怪人の内、片方が手を横にかざし。
「――ギャアアア!?」
もう1体の怪人に、激しい電撃を浴びせた。
何が起きたというのか。
当然、プロメテウスの命令には関係のない行動であり。
「……あ」
ミレイだけが、それに気づく。あの怪人は、自分とサフラで倒したことに。
ミレイに倒された怪人は、プロメテウスの呪縛から解放される。つまり、あの雷の怪人は人の心を取り戻しているのだ。
雷撃を浴びた怪人が、地面に倒れ。
雷の怪人がキララに手を差し伸べる。
「立て、ますか」
「……う、うん」
怪人に支えられながら、キララは再び立ち上がった。
どういうことだ。
ザイードの周囲にいた他の怪人たちは困惑するも、プロメテウスはその意味を理解する。
「そうか。僕と同じ存在である君なら、怪人の制御を奪えるのか」
「……制御なんて奪ってない。ただ自由にしてるだけだ!」
ミレイも奮起して立ち上がる。
「どちらでも同じさ。たかが怪人、たかが人間。君たちがいくら束になろうと――」
その瞬間。
周囲に衝撃が走った。
何かが起きている。
何か、異常が。
皆の視線が、自然と異界の門へと向かう。
何かが、向こう側から来ようとしていた。
門を潜って現れたのは、幹部怪人ゼスト。
だがしかし、彼は何故かうつむいていた。
「やぁ。向こうの制圧は終わったのかい?」
プロメテウスが話しかけるも、彼は反応せず。
「ゼスト?」
声は、届かずに。
ゼストはそのまま、その場に倒れてしまった。
「……なに?」
予想もしない光景に、プロメテウスは驚き。
倒れたゼストに続いて、新たな人物が門より現れた。
現れた、その人物に。
ミレイは瞳を輝かせ、一筋の涙が流れ落ちる。
弓を携えた、華奢な一人の少女。
しかし彼女こそ、ミレイの戦う一番の理由。
「――迎えに来たよ、ミレイちゃん」
世界を越え、キララがやって来た。