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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
花の都の冒険者
15/153

無益と、幻想の魔女

感想、評価等、ありがとうございます。




「……ふぅ。」


 面倒な生き物を、やっとのことで追い返し。

 ミレイは石垣の上で、ほっと一息をついた。


 説明が面倒だという理由で、”音楽プレーヤーが壊れた”と嘘を吐いたものの。結局その後、ミレイは充電という単語を、つい漏らしてしまい。

 金髪の異世界マニア相手に、バッテリーと充電の仕組みを説明する羽目になった。


 だが、恐らくは理解出来ていないだろう。


(なんか、無駄に体力を使ったな。)


 根気よく頑張ってはいるものの、チラシはまだ半分近く残っている。


 ミレイは石垣の上に座り。

 1人、リラックスモードに入っていた。


 そうして、のほほんとしていると。



「――ミレイちゃーん。おつかれ〜」



 相変わらず笑顔なキララが、小走りでミレイの元へやって来る。



「あれ? まだお昼には早いけど。もう休憩しちゃう?」


「うん! チラシもだいぶ配り終わったし、結構疲れたから。」


 そう言って、キララが抱えているチラシの束を見て。


「なっ!?」


 ミレイは驚愕する。


(嘘、だろ。”ほとんど残ってない”じゃないか。)


 見た所、キララの持つチラシは”残り数枚”と言った様子で。

 まだ半分近く残っているミレイとは、まさに雲泥の差であった。


(……一体、どんな手品を使ったんだ?)


 まさかキララが、”正攻法”でチラシを捌いているとは思わずに。


 何かトリックでもあるのではと、ミレイは勘ぐる。


 そんな、相方の心境などつゆ知らず。


「マロアさんに貰ってきたから、一緒に食べよ。」


 キララは袋からパンを取り出し、ミレイに差し出した。


「……うん。そうだね。」


 そうやって、ミレイは平静を装いつつも。


(こうなったら、なりふりかまっていられない。文字通り、”客寄せパンダ”でも使うか?)


 キララに勝つ道を、なんとか模索しようとしていた。







 全部で5つ存在する、浮遊大陸の内の1つ。


 ”観光都市アンヘル”。


 美しき街並みは昼夜を問わず輝きに満ちており。

 夜になると、きらびやかな花火も打ち上げられている。


 そんな都市の中でも、最上級に位置づけられるリゾートホテル。


 ”ホテル・カリオストロ”にて。


 名物である、夜間限定の”屋外カジノ”に。

 その”老婦”は居た。


 いかにも、魔女といった服装ながら。

 ワイングラスを片手に賭け事に興じるその姿は、他の客たちにも劣らない上品さを醸し出していた。




「そう言えば、聞きましたよ? ようやく後継者を選ぶ気になったとか。」


 彼女が話しかけるのは、側に立つ1人の男性。

 この世界では珍しい、”黒のスーツ”に身を包んだ”老紳士”である。


「相変わらず、”パーシヴァル”殿は耳が早いですね。」


 その魔女、パーシヴァルとは旧知の仲なのであろう。老紳士は楽しげに微笑む。


「それで、後継者というのは?」


「ええ。王家の古い血筋を辿った所、実際には存在しない――」


 そのまま、話を続けようとする老紳士であったが。


「――おや?」



 夜のはずなのに。

 空が妙に明るいことに、周囲の人々が気づく。


 そして、その光の”出処”を見つけると。




「――隕石だ!!」




 天より飛来する、光り輝く火球の存在に。



 大声で叫び、急いで逃げ出したりと。

 カジノにいた人々は、パニックに陥っていた。



 だが、そんな中でも。


「まったく。天下のカリオストロだと言うのに、情けない限りです。」


「ふふっ。」


 老紳士と、魔女パーシヴァルの2人だけは、何一つ動じる様子が無かった。


「ご心配なく。”隕石程度”でしたら、私の力でどうとでもなりますので。」


 そう言って。

 老紳士がかざした手のひらに。


 輝ける、”4つ星”のカードが出現する。


 その力を持って、隕石に対処しようとするものの。



「――それには及びませんよ。」



 パーシヴァルは、ワイングラスを見つめたまま。

 老紳士を制止した。


「あの軌道では、どのみちこの大陸には当たりません。」


 どこまでも冷静に。

 その瞳で、全てを見透かすように。


 彼女は自信満々な様子であった。


「いえ、ですが。」


 それでも、老紳士は隕石への対処を検討する。


「まぁ、見ていてください。」


 けれども、パーシヴァルは聞く耳を持たず。


「しかしながら。」


「わたしの計算は完璧なので。」


「いいえ、そうではなく。」


 老紳士の声など気にも留めず。

 パーシヴァルは不干渉を強く推奨した。


 彼女の言葉に、老紳士は逆らえないようで。

 そんな、彼女の予想通り。




 隕石は勢いよく、観光都市アンヘルのスレスレを横切って行き。


 都市への被害は、当然ながら皆無であった。




「言った通りでしょう?」


 パーシヴァルはしたり顔で、ワインを口へと運ぶ。


 だがしかし、老紳士は困り顔のままであった。



「ですが、あの火球は”魔獣大陸メビウス”から飛来した物では? それに現在の軌道からして、真下は帝国領ですし。」



 そう、指摘されて。

 ワイングラスを持った手が、ピタリと止まる。



 パーシヴァルは、事の重大さを完全に失念していた。



「……不味い、ですね。」



 後悔、先に立たず。







 そんな、”つい先日”の出来事を思い出しながら。


 降り立った山を越え。

 平坦なる荒野を越えて。


 魔女パーシヴァルは、花の都ジータンを訪れていた。


 自身が見過ごしてしまった、くだんの火球を追い求め。

 もしも杞憂であれば、ついでに観光でもしようという腹積もりである。



 見た所、街に火の手が上がっている様子は無く。

 ひとまず安心して、彼女は街へと入っていく。



「……おや?」


 街の入口を潜ったパーシヴァルであったが。



 すぐ近くの石垣の上で、楽しそうにくつろぐ、”2人の少女”の姿が目に留まる。


 髪の色も、身長も違い、姉妹というわけではなさそうだが。

 とても楽しそうに笑って、パンを頬張る姿は、とても微笑ましいものであった。



「平和な証拠ですね。」


 街の入口付近で。

 衛兵すら居らず、少女2人が安全に過ごせる。


 このように平和な街は、帝国の中でも珍しかった。


 どうせなら話してみようと。

 パーシヴァルは少女たちの元へ近づいていく。


「美味しそうなパンですね。お店の宣伝ですか?」


 少女たちの側には、パンのイラストが描かれたチラシの束が置かれており。

 パーシヴァルはそう予想する。


 だがしかし。

 パーシヴァルの問いかけに、少女たちは応えず。



 それどころか、目の前にいる彼女の存在にすら、気づいていなかった。



「うん? ああ、そうでした。”認識阻害”がありましたね。」


 自分のうっかりに気づき、パーシヴァルは笑い。

 自身に掛かった魔術を解こうとするも。



 背の低い方の少女。

 彼女の手のひらに出現した、得体の知れない”黒のカード”を見て。



 パーシヴァルはその手を止めた。



(……これは。)


 未知なる存在との遭遇に。

 パーシヴァルは息を潜め、目の前でその展開を見つめた。



「今日はどんなカードが出るんだろ。」


「ピエロ、乾電池と。変なのが続いてるからな。」


 2人の少女は、周囲に誰も居ないと思い込み。


 秘匿すべき”奇跡”を、魔女の目の前で披露する。



 黒のカードの真上に、”異界の門”を思わせる光り輝く輪っかが発生し。

 その中から、存在しないはずのアビリティカードが出現する。



 有り得るはずのない、その現象に。

 パーシヴァルは釘付けになる。



「……2つ星。”安眠男爵のオルゴール”だって。」


「安眠男爵?」


「うん。これを使いながら眠ると、寝付きが良くなるらしい。」


「おお! 便利だね。」


「今日の夜、早速使ってみようか。」


「うん!」


 そのようなやり取りを、間近で観察して。



(なるほど。”カードを生み出すカード”、ということですか。そして恐らく、1日1回という条件付き。)


 パーシヴァルは、少女の持つ”黒のカード”の仕組みを考える。



 アビリティカードという存在と、それに宿った能力アビリティの関係性。

 それらの仕組みについて、”人よりも多くのことを知っている”からこそ。



 目の前の少女、”その本人”の異常性を看破する。



(……これは、思わぬ掘り出し物ですね。)


 予定外ではあるものの。

 明らかに普通ではない、”少女たち”との出会いに。

 パーシヴァルは笑みを浮かべた。


 そしてそのまま、認識阻害を解くことなく。


 パーシヴァルは街の中へと入っていった。









「随分と、お久しぶりですね。」


「これはこれは、高名なるパーシヴァル殿がお見えになるとは。」



 冒険者ギルドの奥。

 来賓用の応接室にて。


 魔女パーシヴァルと、ギルドマスターの2人が対談する。



「今回は、観光か何かですか?」


「ええ、そんな所ですよ。”コッコロ”さんも、お元気そうで何よりです。」



 ”コッコロ”。

 それこそが、屈強なる大男、ジータンのギルドマスターの本名であった。



「……ああ。名前で呼ばれるのは、随分と久しぶりでね。少し驚いていました。」


「まさか貴方のご両親も、”こんな立派”に成長するとは思ってなかったでしょうね。」


「恐らくは、そうでしょう。」



 はるか昔。幼き頃の少年なら、コッコロという名も似合っていただろう。


 だがしかし、”全身傷だらけの大男”には、あまりにも不相応な名前である。


 それ故に、彼は本名を名乗ることは少なく。

 少なくとも、この街にいる間は”ギルドマスター”という肩書で名乗っていた。



「実は、今日ここへ来たのは、少々聞きたいことがありまして。」


「なんでしょう。」


「昨日、もしくは一昨日くらいに、この街の付近に隕石が落ちませんでしたか?」


「隕石? ……あぁ、そう言えば。アセアンとの境界付近に、”何か”が落下してきた、という話は聞きましたな。」


「それで、その落下した物は?」


「一応、魔獣大陸メビウスから、という可能性もあるので。アセアンの冒険者が調査に出たらしいですよ。”Aランク”を含めた、精鋭部隊だそうで。」


「そう、ですか。」


 その話を聞いても、パーシヴァルの中の不安は拭えない。


「……なにも無ければ良いのですが。あの街の冒険者は、少々当てになりませんからね。」


「まぁ、それは確かですな。」


 ”同じAランク”という肩書であっても。全員が全員、コッコロほどの実力者とは限らない。


 箔をつけるために、”街ぐるみ”で御輿を担ぐこともあるのである。


「もしも万が一、この街に危険が迫るようであれば。わたしに優先して、話を回してください。」


 ついうっかり、見逃してしまった事情もあるため。

 パーシヴァルには、この街を守る義務感があった。






「そう言えば、少々話は変わりますが。」


 パーシヴァルは、つい先程の記憶を思い返す。


「街の入口付近で、パンの宣伝をしていた少女たちを見かけまして。彼女たちについて、何か教えて頂けないでしょうか。」


「パンの宣伝? ……あぁ、嬢ちゃんたちか。」


 ギルドマスターである彼には、街の生きた情報が多く集まっており。


 最近よく絡む、例の少女たちであると予想する。


「最近うちに入った、若い冒険者のコンビですよ。まるで姉妹のように仲が良くて、うちの娘とも気が合うようです。」


 少々嬉しそうに、ギルドマスターは少女たちについて語った。



「背の高い方は、白紙化したカード。小さい方は4つ星と、何ともミスマッチなコンビですが。ありゃ”2人とも”、将来化けると思いますよ。」



 自信、というよりも確信を持って。

 ギルドマスターはそう言い切った。



「……確かに、面白い2人ですね。」


 パーシヴァルの関心は、すでに2人の少女に対して向けられていた。



 地上に落下した火球など。

 彼女にとっては所詮、単なる”暇潰し”に過ぎないのだから。







 夕暮れ時。

 ポッケパンにて。


「今日は本当に、ありがとうございました。」


 店主であるマロアが、深々と頭を下げた。


「いやぁ。」


「あはは。」


 お礼を言われた2人。

 ミレイとキララは、照れくさそうに頬を緩める。


「お陰様で、今日の売上は過去最高。まるで天地がひっくり返ったようでした。」


 人見知りの彼女にとって。

 それは文字通り、天地がひっくり返ったのであろう。



 服は汚れ、髪の毛は乱れて。

 今日一日の、彼女の”激闘”を物語っていた。



「願わくば、このままポッケパンの”全国展開”を狙っていきたいので。これからも精進していこうと思います。」



 やる気に満ち溢れるマロアであったが。



「いや、その前に従業員雇おうよ。」


 やはりミレイは、それを強く勧めた。







 非常に大変な、今日1日を終えて。

 ミレイとキララは共に帰路につく。



 真っ赤な夕焼けが、その身に染みるようで。


 満足気に家へと帰ろうとするミレイであったが。



 何故かその場でしゃがみ込み。

 満々の笑みで背を向ける、キララの姿を見て。



「……あ、そっか。」


 今日、自分が負けたのだと思い出す。






「ふーん。ふふーん。」


 ご機嫌そうに、鼻歌を口ずさみながら。

 キララは非常に楽しい時間を過ごす。


 そんな彼女の頭上で。

 ミレイは、いつもよりずっと高い視点を味わっていた。



 周囲の人々には、姉が妹を肩車しているように見えているのだろう。


 実際、当事者であるミレイですらそう思っているのだから。

 もはや救いようがなかった。



 なので、これ以上の恥の上塗りは勘弁と。

 ミレイは縮こまり、キララの頭にしがみつく。


 それにより、キララはますますご機嫌になるのだが。

 ミレイには知りようがなかった。



(てか、こいつ。ガリガリなのに、よく肩車なんか出来るな。)


 確かに、身長差こそあるものの。言うほどミレイは軽くなく。

 何なら、危険な痩せ方をしているキララのほうが、むしろ軽いのではないか、という疑惑すらあった。


 それだと言うのに。

 ミレイを肩車するその身体には、何一つとして揺らぐ気配はなく。


 しっかりと力強く、その重さを支えていた。



(……まぁ、わたしが単純に知らないだけで。キララは本当は、もっとずっと強いのかも。)



 そう、今日の勝負にしてみても。

 キララは何一つとして手を抜かず、全てのチラシを配り終わった。

 それは、本当に凄いことである。



 そんな、キララの強さに。

 ミレイはまるで自分のことのように嬉しくなる。



(――お疲れ様。今日も本当に頑張ったね。)



 可愛い妹分の頭を、ミレイはそっと撫でた。




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