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白の覚醒






 異世界、アヴァンテリア。

 怪人たちによる侵攻が開始して、一晩が経過した。




 一日目、怪人によって壊滅、占領された都市は一つもなく。アリサやマキナたちの尽力もあり、地上も浮遊大陸も戦況は拮抗しているように見えた。

 怪人たちの当初の目論見は、失敗したと言える。


 だがしかし、その結果を受けて一人の怪人が立ち上がる。魔獣大陸にて座していた大物、幹部怪人ゼストである。


 この戦いを終わらせるために、最強の戦士が動き始めた。















 帝都ヨシュア。街の防壁の上で、アリサは仮眠を取っていた。いつでも戦えるように、魔法少女の姿のまま。

 そんなアリサであったが、その気配に気づき、目を開けた。




「……来たわね」




 アリサは空を見上げ、迷うことなく飛翔する。

 その手には、あらゆる敵を斬り裂く二振りの聖剣。


 魔法少女アリサ☆ブレイヴ。

 地上へとやって来た上位怪人をたった一人で迎え撃った、紛うことなきこの世界の最高戦力。


 しかし、これより対峙するのは規格外の怪人であった。




 その怪人は、単独で帝都へと飛来する。

 恐るべき力を秘めた、漆黒の魔剣を手にして。




「ふぅ」



 対するアリサは、二振りの聖剣を構え。

 全力を持って、怪人ゼストを迎撃する。





「――コズミック・ブレイヴ!!」





 二つの聖剣を同調させた、究極の一閃。


 それに対し、ゼストは黒雷を剣に纏わせ。




「遅い」



 アリサの一閃を上回るスピード、鋭さで、強烈な斬撃を放ち。




「ッ」



 その斬撃に薙ぎ払われ。

 アリサは、地平線の彼方まで吹き飛ばされた。






 最強の魔法少女を、難なく撃退し。そのまま変わらず、ゼストは帝都に落ちていく。

 魔剣に、膨大なエネルギーを凝縮させながら。




「都を滅ぼせば、その心も折れるだろう」




 帝都を跡形もなく吹き飛ばし、この戦いを終わらせるために。

 ゼストは、魔剣の一撃を解き放った。

















「はぁ、はぁ」




 帝都の地下、最深部のモノリスを目指すキララたちであったが。

 その道のりは、”地獄”に等しかった。




 病原菌を撒き散らす害獣。


 攻撃の通用しないゴースト。


 知性を持った凶悪な獣人。


 戦ってはならない強大なドラゴン。


 水溜りに潜む黒いナニカ。


 そして、執拗に追い回してくる不死の怪物。 




 地下では無数の異界の門が開き、異世界から来た様々な生物がカオスな生態系を形成していた。

 その危険度、混沌具合は今までの冒険の比ではなく。一介の冒険者であるキララ、不死の獣フェンリル、神の力を失ったアリアでは、あまりにも難易度が高すぎた。




 フェンリルは、何度も致命傷を負い。キララとアリアも疲労困憊。

 今もこうして、対処不能な不死の怪物を相手に苦戦している。


 度重なる魔法の行使により、キララの弓には亀裂が生じていた。




「キララ、こいつらはもう諦めて、下を目指そう」


「……そうだね」




 帰りのことなど考えない。ただ深くまで潜って、モノリスへと辿り着く。そこでキララのカードを修復できれば、この怪物たちもどうにかできるはず。

 殺せない怪物を避けて、キララたちはより地下へと進んで行った。















「……」




 帝都の地下深く。モノリスを望める場所まで辿り着き。そこで、キララたちは言葉を失う。


 先程から執拗に追いかけてくる、不死の怪物。それがどこから溢れてくるのか。



 それは、”ここ”であった。



 巨大なモノリス。その周囲に無数の異界の門が存在しており、そこから怪物たちが落ちてくる。


 この世界は、どれほどの敵に囲まれているのだろう。地上は、今まさに攻撃を受けており。このような秘境では、得体の知れない怪物たちが静かに数を増やしている。

 誰かが、何とかしなければ。この世界の滅びは止められない。

 しかし、その可能性を持つ唯一の人間が、今は別の世界に連れ去られている。


 まさに、絶体絶命の状況。

 それでも、彼女たちは諦められない。




「キララ、上まで飛んでいって。敵はこっちで引き付ける」


「……わかった」




 アリアとフェンリルが怪物たちを引き付け、その間にキララはモノリスの上部を目指すことに。




――モノリスの上部に、カードを差し込む場所がある。そこに白紙化したカードを差し込んで。




 そうすれば、キララのアビリティカードは力を取り戻せる。怪人との戦いにおいて、戦力の一つになるかも知れない。

 それだけに希望を託し、アリアを乗せたフェンリルは怪物の群れに突っ込んでいく。




(キララの実力から考えて、出てくるカードは多分4つ星。ここを切り抜けるだけの力は手に入るはず)




 欲を言えば、やはり5つ星相当の戦力が欲しい。あのプロメテウスを倒すには、それでも足りていない。

 だがしかし、5つ星に選ばれるのはほんの一握りの強者のみ。世界中を見ても、一人か二人。残念ながら、キララにそこまでの力はないだろう。

 それでも、奇跡を起こしてくれると信じて。





 空間を自在に跳び回り、キララは何とかモノリスの上部に到達。


 それらしき場所を見つけて、何とかカードを差し込むことに成功した。





『エラーカードを確認しました。修復を開始します』




 モノリスから機械音声が流れ、そこから光が溢れる。




 魔力でもない。

 世界に直接繋がる、神秘の光。




 その光が消え去った時、キララの手には一枚のカードが授けられていた。






「成功した?」




 アリアを乗せたフェンリルが、モノリス上部へと登ってくる。


 果たして修復は完了したのか。

 キララの持つカードへ視線を向けるも。




「……うそ」




 それを見て、アリアは言葉を失う。


 なぜなら、キララの持つカードは”白いまま”。

 星も、文字も、何も描かれていなかった。




 役割を終えたかのように、モノリスから光が失われる。






「やっぱり、ミレイのカードじゃないと」




 モノリスを正常化できるのは、ミレイのカードのみ。今の状況では、カードの修復すらできないのだろう。


 モノリスの周辺には、不死の怪物が大量に溢れている。これを切り抜けて地上に戻るのは絶望的であろう。


 まさに、万事休す。




「キララ、ここにはもう意味がない。地上に逃げないと」


「……」




 アリアが声をかけるも、キララは反応せず。

 真っ白なカードを見つめて、黙っている。




「キララ!!」




 大きく呼びかけても、それは変わらず。


 気づけば、キララは”涙”を流していた。





「……そこにいたんだね、ミレイちゃん」





 カードを抱き締めて、キララは全てを理解する。


 ミレイが今どこで何をしているのか。

 何を考えているのか。

 どれだけ信じてくれているのか。

 そして、自分がこれから何をするべきなのか。




 ”流れてくる情報”を、キララは全て受け入れる。




 モノリスの周りを見れば、おびただしい数の怪物たち。モノリスを登って、こちらへと迫ってくる。


 不死の怪物、抗えない脅威。魔法では倒せない相手。

 だったら、”魔法以上の力”を使えばいい。



 キララはその力を知らない。

 ならば、知っている誰かになればいい。




「――わたしには無理だけど。”他のわたし”なら」




 白いカードが、キララの中へと入っていく。

 すると、彼女の中の何かが変わった。




 同調、完了。




「……無限再生。多分、魂に術式が刻まれてるタイプ。なら、魂ごと破壊すればいい」




 怪物たちを眺めながら、キララはその特性を理解。倒すための方法を思いつく。



 壊れかけの弓に視線を送り。

 すると、弓が勝手に修復を開始する。


 その様子を見て、アリアは目を見開いた。




「魔力じゃない。その力は、”エーテル”?」




 何気ない感じで、壊れかけの弓を修復し。

 キララはそれを構える。



 彼女が解き放つのは、魔法を超越した力。

 ”この世界では誰も到達していない”、別次元の神秘。





「――殲滅界法(せんめつかいほう)ヴブウス」





 流星のように。美しい光の束が、キララの弓から溢れ。



 不死の怪物たちへと降り注ぐ。 



 その光は、肉体だけでなく魂をも貫き。

 おびただしい数の怪物たちを、ほんの一瞬で消し炭へと変えた。






「ふぅ……」




 力の行使を終え、キララの体からカードが排出される。

 慣れない力を使ったせいか、表情には疲労の色が窺えた。


 とはいえ、立ち止まっている暇はない。




「地上に戻ろう」




 キララは上を見上げた。

















 大きな力の覚醒を感じて、フェイトは目を覚ました。


 ベッドを体を起こし。周囲を見渡せば、大勢の人々が眠りについている。

 九条瞳に、皇帝セラフィムなど。怪人との戦いで傷ついた者たちが、この場に大勢いた。


 部屋の装飾を見るに、ここは皇帝の暮らす宮殿であろうか。

 フェイトはベッドから起き上がり、重たい体を引きずって外を目指す。




「一体、何がどうなってんのよ」




 世界は、ミレイはどうしたのか。それを知るために、フェイトは足を動かした。















 街では、二つの影が熾烈な戦いを行っていた。


 一つは、幹部怪人ゼスト。

皇帝セラフィムなど、並み居る強者を寄せ付けなかった最強の幹部怪人である。


 そしてもう一人は、”無数の剣”を操る冒険者。




「誰よ、あいつ」




 フェイトにとっては、見覚えのない人物であった。




 彼の名は、”アルトリウス・ジータン”。花の都からやって来た冒険者にして、ミレイの知り合いでもある領主のバカ息子。


 なおかつ、アリアによって見出された”最強のカード”の持ち主でもある。




 5つ星 『アルティマ・セブン』




 アルトリウスが操るのは、強大な力を秘めた七つの聖剣。


 彼は初めから分かっていた。自分が選ばれた人間であると。もしも世界が危機に瀕した場合、それを救わなければならない存在であると。

 しかし、彼は臆病であるがゆえにその責務から目を逸らし、20年もの間ただのバカ息子として生きてきた。


 しかし、自分よりずっと弱い人達が、怪人相手に戦う姿を。街を守るミレイたちの背中を見て、彼は冒険者を目指し。


 恐怖を乗り越えて、ゼストに立ち向かっていた。




「はあぁぁ!!」


「なかなか、やるな」




 神秘を秘めた、七つの聖剣。ほぼ初めての実戦であるものの、最強の怪人と互角に渡り合うことができていた。


 この世界で、最高峰の才能の持ち主。

 本来であれば、ミレイとパートナーになるのは彼のはずであった。


 ミレイが世界中のモノリスを修復し、アルトリウスが彼女の盾となる。もしも運命が狂わなければ、そんな未来もあったのかも知れない。

 しかし世界は、神の定めた運命を越え、誰も知らぬ結末へと進んでいく。





「……まったく、ムカつくわね」



 傷もまだ癒えておらず、フェイトはその戦いを眺めることしかできなかった。






 両者ともに、一歩も譲らぬ戦いを。

 だが次第に、アルトリウスが押され始める。




「くっ」


「凄まじい力だが、練度が足りないな」




 たとえ、潜在能力では勝っていても。アルトリウスにとってはこれが初めての死闘である。

 経験値という一点のみで、ゼストは七つの聖剣を上回っていく。





 だが、そんなさなか。

 ”無数の光の矢”が、ゼストのもとへと降り注ぐ。


 その全てを、魔剣で打ち払い無傷なものの。

 ゼストは新しくやって来た敵を見る。





 冒険者の少女、キララ。


 地下の地獄を潜り抜けてきたはずだが。

 その体には傷一つなく、服も新品のように綺麗だった。




「ちょっとキララ! あんたの実力じゃ」




 多少、魔法が上手くても、この領域の戦いにはついて行けない。

 フェイトが止めようとするも、キララはただ微笑むのみ。




「大丈夫だよ」




 その手にあるのは、彼女だけの”白のカード”。




「今のわたしは、何にでもなれるから」




 白のカードが、キララの体へと入っていき。

 驚くほどに、彼女の雰囲気が”変質”する。




 キララは、アルトリウスのもとへと近づくと。




「これ、借りるね」



 彼の操る、聖剣の一つを拝借した。






「ふぅ」



 ゼストと向かい合い、キララは聖剣を構える。




 キララの戦法は、弓矢や魔法を使うことが多い。少なくとも、剣を使ったことなど見たことがない。




 しかし、今の彼女から放たれる雰囲気は、どんな剣よりも鋭く見え。

 その美しさに、誰もが目を奪われる。





――緋天冥明流(ひてんめいめいりゅう)絶技、絶景花火。





 キララの手から放たれたのは、異次元の剣技。

 聞いたことがない。”この世界には存在しない技”を放ち。





「ッ!?」



 ゼストの体を、深く斬り裂いた。






 なぜ、そのような剣技を使えるのか。

 なぜ、魔法を超えた神秘を扱えるのか。



 無数に存在する平行世界。そこに存在する別の自分から、力を引き出すことができたら。

 繋がり、情報を得ることができたら。



 そこにあるのは、無限の可能性に他ならない。



 それこそが、キララの得た力。

 ”白のカード”の能力であった。






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― 新着の感想 ―
[一言] ミレイの黒カードに対してのキララの白カードっていうのがいいですね キララは全パラレルワールドのキララを把握できるのかな?
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