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日陰の勇者

感想等、ありがとうございます。






「みんなー、たっだいまー!」




 特殊なスーツを着た少女、キララが。巨大なコンテナを抱えて帰ってくる。


 すると、大勢の子供たちが集まってきた。




「キララ〜!」


「キララだ! やった〜!」


「おかえりー」




 重たいコンテナを地面におろし。

 キララの周囲に、子供たちが寄ってくる。

 彼女は人気者であった。




 ここは、地下に築き上げられた居住区。

 地下鉄を利用した場所であり、迷路のように入り組んでいるため、怪人たちにも見つからない。


 キララを含めた生き残りの人間たちは、このような場所で細々と暮らしていた。




 居住区の奥から、一人の女性がやってくる。

 エプロン姿で、いかにも主婦という風貌をしている。




「キララさん、収穫はどうでしたか?」


「缶詰とかいっぱい見つけたから、しばらくは大丈夫だと思います」


「そう。なら安心ね」




 キララがコンテナを開け、集めてきた戦利品をみんなに見せる。




「わー! お菓子もいっぱいある!」


「ほんとだ〜」




 子供といえば、やっぱりお菓子。

 みんなの笑顔が見れて、キララはそれだけで幸せであった。


 だがしかし、




「わっ、人間だ!」




 子供たちが、驚きの声を上げる。

 食料に混ざって、”人間の少女”が入っていたのだから。




「あっ、そうだった」



 キララは、完全にど忘れしていた。




「キララさん、この女の子は?」


「あー、えっと。スーパーで見つけて、拾ってきたんですけど……」




 子供を保護するのは、これが初めてというわけではない。ここにいる子供たちは、みんなそうなのだから。


 しかし、この少女は明らかに今までとは事情が違っていた。

 髪の色も、着ている服も、今の世界には似つかわしくない。




「どこかのお姫様、とか?」




 その少女は、遠い世界からやって来た。

















 崩壊した城。

 瓦礫の山の上に、プロメテウスは立ち尽くしていた。



 被害の大きさとは裏腹に、彼には傷ひとつ付いておらず。服装にも汚れがない。

 しかし、その表情は険しかった。




「……一筋縄では、いかないようだね」




 彼が立ち尽くしていると。

 そこへ、一体の怪人が降り立つ。


 最速の幹部怪人、ソドムである。




「申し訳ありません。周囲一帯を探しましたが、姫君の姿はなく。捜索範囲を広げようと思います」


「そうか」




 報告を受けながら、プロメテウスは崩れた城を見渡す。

 苦労して築き上げた物も、壊れるのは一瞬だった。




「かなりの力だったけど、流石に大気圏の外には出ていないだろう。……残った怪人たちを使って、必ず彼女を見つけるんだ」


「かしこまり」




 主の命を受け、ソドムはその場から姿を消した。















 いつもと違う感覚の中、ミレイは目を覚ます。



 あまり寝心地のよろしくない、簡素なベッドに。

 薄汚れた空間。



 なにがなんだと思いながら、周りを見渡していると。

 見知らぬ子供たちと、目が合った。




「……どうも」


「しゃべった!」


「日本語だ!」




 ミレイの発した言葉に、子供たちは大はしゃぎ。


 真紅の瞳に、真っ白な髪の毛と。完全に日本人離れした容姿の上に、豪華な純白のドレスを着ているのだから。子供たちは、外国のお姫様か何かと勘違いしていた。


 残念、ミレイは単なる庶民である。




「ねぇ、お名前は?」


「ミレイ、だけど」


「どこから来たの?」


「お腹空いてる?


「そのドレス本物?」


「あー、えっと」




 子供たちによる質問攻めに、ミレイは圧倒される。

 流石に、これに付き合えるほどの若さは持っていない。




(……)




 だがしかし、ここに怪人たちの気配は感じない。


 ここがどこなのかは不明だが。

 それでもミレイは、ようやく安心することができた。















「さぁ、皆さん。ご飯の時間ですよ〜」




 女性が声をかけて、子供たちが一斉に集まっていく。




「あぁ……」



 よくわからないので、とりあえずミレイもそれに混ざることに。




 大きなテーブルと、人数分の椅子が用意され。

 ミレイにも席が用意されていたので、そこに座らせてもらう。


 見た目が若干異質だが、完全に子供たちの中に馴染んでいた。




「缶詰とか、軽く調理しただけだから。お口に合うかしら」



 用意された食事は、豆やら魚など、確かに缶詰の中身といった見た目。




「いえ。火が通っていれば、何でも食べれるので」


「そう?」




 こんな馬鹿みたいな格好をしているが、ミレイはただの素朴な人間である。




 普通に、子供たちの一員としてカウントされているが、それを訂正できるような雰囲気でもないので。

 ミレイはそのまま、”お子様”として食事をいただくことに。




「わっ。ミレイちゃん、箸の使い方きれい」


「ねぇ、外国から来たの?」


「外国にも怪人っているの?」


「ねーねー」


「ねーねー」


(……おぅ)




 食事中だろうとお構いなしに、子供たちはミレイに質問攻め。

 どうしようかと、ミレイが考えていると。





「――こら! 食事中は騒がない。いい子にしてないと、おやつ抜きだよ」





 聞き覚えのあるその声に、衝撃を受けて。


 その声の主を見て、更なる衝撃を受ける。





「キララが怒った〜」


「ひど〜」




 きっと、仲が良いのだろう。子供たちはそんな反応をして。

 しかしミレイは、衝撃でそれどころではなかった。





(――”違う子”だ)





 顔や声は、まさに瓜二つ。

 おかしなスーツを着ていること以外は、自分の知る彼女と何の違いもない。


 だがしかし、このキララと呼ばれる少女は、自分の知っている彼女と、何もかもが違う。

 全くの別人だと、ミレイは本能的に理解した。




(この世界のキララ、なのかな)




 顔は同じでも、”胸にグッと”来ない。

 自分でも不思議なほど、ミレイはこの事実を受け入れた。 





「元気そうで良かった〜 ご飯、食べれる?」


「う、うん」




 平行世界の同一人物、パラレルツイン。

 自分自身と出会う可能性もあるのだから、こうなるのも必然なのかも知れない。




「ここは安全な場所だから、大丈夫だよ。悪い怪人も寄って来ないし」


「えぇー ザイードは?」


「あいつはいいもんじゃん!」




 キララと子供たちの話を聞いて、ミレイはほっと胸を撫で下ろす。


 ここには怪人も居ないし、プロメテウスも居ない。

 知らない人だらけの世界だけど。自分がここにいれば、大切な人たちにも危険が及ばない。


 なら、これでいいのかも知れないと。

 ミレイは静かに食べ物を口に運ぶ。




(……サフラ、いる?)


『ああ、もちろん』




 一人じゃない。自分の中には、まだ仲間がいる。

 それだけで、ミレイは心強かった。




(一体、何がどうなったの?)


『そうだな――』






 あの時、ミレイが口にしたボトルの中身は、やはりお酒であった。

 それにより、ミレイは魔力を爆発させ、暴走に等しい大人モードへと変身した。



 そんなミレイに対しても、プロメテウスは紳士的に対応しようとしていた。

 だがしかし、大人モードのミレイはコミュニケーション能力が欠如しており、結局はガチンコの殴り合いに発展した。



 これまでと同様に、ミレイは圧倒的なパワーを有していたものの。それでも、プロメテウスには遠く及ばず。

 しかし、ミレイを相手に彼も本気を出せなかったのか、戦いは想像以上に長引き。



 しばしの間、世界が揺れ動くほどの攻防が続いた。



 そして、最終的に両者の力が正面からぶつかり合い、ありとあらゆるものが吹き飛ばされた。

 力で劣る、ミレイも含めて。



 なかなかに、リスキーな手段ではあったものの。

 結果として、ミレイは城からの逃亡に成功した。






 ここは、どこかの地下か、あるいはシェルターだろうか。

 怪人たちから逃れるために、女性や子供たちが協力して生活している。


 不思議なことに、いわゆる成人男性の姿が見当たらないが。

 おそらく、何らかの事情があるのだろう。





「ねぇ。しばらく、ここでお世話になっていい?」



 ミレイは、キララに尋ねてみる。




「もっちろん! しばらくなんて言わず、ずっと居ていいんだよ? 食べ物だっていっぱいあるから、安心して」


「……うん。ありがと」




 ここにいれば、怪人たちにも見つからない。


 本当は、元の世界に帰りたいけど。

 そうしたら、またみんなに迷惑がかかる。




(ここで生きていくのが、正解なのかな)




 心に、影。

 それを照らせる少女は、この世界には居ない。

















 廃ビルの中で、一体の怪人が静かに息を潜めている。



 高い知性を持つ、上位怪人。

 元は二本角であったが、今は片方の角が折れてしまっている。



 彼の名は、ザイード。

 人類に味方する、唯一の怪人である。





 ビルの中から、僅かに身を乗り出し。ザイードの見つめる先には、数多の怪人たちが集まっていた。


 知性のない雑魚怪人たちの群れに、それを指示を出す上位怪人たち。

 それだけなら、大して珍しくもない光景なのだが。




(……奴は、まさか)




 怪人たちに命令を下す、ひときわ異質な一体の怪人。

 それが何者なのか、ザイードは知っていた。



 幹部怪人の一人、ソドム。


 幹部クラスがこのような場所に顔を出すなど、今までになかったことである。




 明らかな異常事態。

 怪人たちが、いまだかつてない動きをしようとしていた。




(厄介なことに、ならなければいいが)




 決して、彼らに悟られないよう。細心の注意を払いながら、ザイードはその場を後にする。


 ともに戦う仲間に、このことを伝えるために。






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