アナザーサイド
感想等、ありがとうございます。
とある世界、とある地球。
そこは圧倒的な種の登場により、人類を含む多くの生命が激減していた。
大地には文明の名残が立ち並び、人の営みも消え失せている。
そんな世界に築かれた、一つのお城。
それは人ではなく、怪人の手によって築かれた建造物である。
城の主は、相応しい姫を手に入れ、喜びに浸っていた。
だがしかし、一つを手に入れたら、より良いものを求めてしまうのがヒトの性。
城の中、王座の間にて。怪人たちの王プロメテウスの前に、三体の幹部怪人がひざまずく。
プロメテウスの表情には、微かに憂いが見えた。
「どうやら、彼女はこの場所がお気に召さないらしい」
「と、言いますと」
ゼストが尋ねる。
「城の外を見れば、一目瞭然さ。この世界は彼女の暮らす場所として相応しくない」
城の外には、何も存在しなかった。戦闘の余波により、砕かれた街並みが広がるのみ。そこには美しさのかけらもない。
「壊すのは簡単だけど、逆はちょっとね。だからこれを機に、引っ越しをしたいと思うんだ」
そう言って、プロメテウスは微笑む。
「最近見つけた、”良い土地”があるだろう?」
「なるほど、確かに美しい世界でしたね」
「ああ。向こうに城を造れば、彼女もきっと気に入るはずだ。……だがそうなると、”邪魔な存在”が大勢居る」
彼には確信があった。もしもミレイと一緒にあの世界へと戻れば、きっと敵が取り返しに来るはずだと。そうなれば、戦いになるのは明らかである。
戦って負けるとは、彼は微塵も思っていない。神の如き者、プロメテウスに敵う生き物など存在しない。部下に全てを任せても、きっと征服は可能であろう。
だがしかし、派手な戦闘によってミレイに危害が加わったり、美しい世界を台無しにしてしまう可能性があった。
「ゼスト、君に全て任せよう。あの世界を、なるべく美しい形で手に入れてくれ。僕と彼女が、平和で静かに暮らせるような、そんな楽園が欲しい」
「……その任務、必ずや成功させます」
今度は、世界を手に入れるべく。
怪人たちが動き出した。
◇
窓の外の風景を眺めながら、ミレイはため息を吐く。
自分に用意された衣装は、真っ白なウェディングドレス。それも、サイズがぴったりなのが妙にムカついた。
この世界に連れ去られる際、プロメテウスに武器を捨てるように言われ、ミレイは聖女殺しを手放してしまった。カードの入った魔導書も向こうの世界に置き去りである。今のミレイには、戦う手段も、ここから逃げる手段もない。
せめて、いくつか隠し持っていれば。そう後悔しても、すでに遅かった。
だがしかし、全てを手放したわけではない。ミレイには困ったときの切り札が、黒のカードがあるのだから。
「ふぅ」
この現状を打開するような、なにか強いカードが欲しい。そう願って、ミレイはカードを起動した。
1つ星 パーリィーサングラス
LEDで光り、文字だって出せるパーティの必需品。これで君もパーリィピーポー。
「うぅ……」
カードを握りながら、ミレイはその場でうなだれる。
(何がどうなってるんだ!? ここ最近、本当にろくなカードが手に入らない! 星1や星2ばっかで、偏りが過ぎてる。ガチャってこんなんだったか? …………まぁ、こんなもんか)
悲しい現実というものを思い出す。
ガチャってこんなもん。強力なアイテムが一発で手に入ることがあれば、ひどい爆死が続くこともある。
(……大丈夫。確率は収束するはず)
そう自分に言い聞かせて、ミレイは立ち上がった。
「逃げねば」
窓の外を見て、ミレイは決意する。
大切な人たち、大切な街を守るためにミレイは身を差し出した。だがしかし、このままプロメテウスの花嫁ルートに行くのは受け入れられない。というより、無理である。色々な意味で。
アヴァンテリアに戻っても、また彼らが襲ってくるかも知れない。だからもう、向こうに戻ろうとも思わない。
でもせめて、この城からは逃げたかった。
この世紀末のような世界で、なんとか一人で生きてみせる。
とはいえ、ここは大きな城の中。飛行手段も無いため、逃げるのは容易ではない。
飛行系のカードが手に入るまで、ここでなんとか粘ってみるか。ミレイがそう考えていると。
『なんなら、壁を伝って逃げるのはどうだ?』
脳内に、頼れる相棒の声が聞こえてくる。
「サフラ! もう、もっと早く声かけてよ〜」
『すまない。奴らに感づかれる可能性があったからな。なるべく息を潜めようとしていた』
ミレイの体から、真っ白な触手が生えてくる。
柔らかくなったり、固くなったり。これなら、壁を伝って脱出することも可能である。
「ふっふっふ」
これで逃げれると、ミレイが興奮していると。
「――おや、随分と意外な姿だね」
「あ」
今、一番会いたくない男。
プロメテウスが部屋にやってきた。
◆
ガラガラと音を立てながら、プロメテウスは料理の乗ったワゴンを部屋に運び入れる。
目を向けてみると、運ばれてきたのは普通に美味しそうな料理に見えた。
「怪人たちの中には、料理ができる者も居てね。君のために用意をさせたんだ」
微笑みと、純粋な善意。のように見える。
しかし、ミレイは素直に喜べない。
「結構、量が多いけど。一緒に食べるの?」
「いいや。僕を含めて、怪人は食事を必要としない。全部君が食べるといい」
「そう」
ゆっくりと、触手を体内に引っ込める。
「今のは、君の能力かい?」
「まぁ、そんなところ。高い所の物を取ったりとか、結構便利な」
「ふふっ、なるほどね」
適当に説明するも、彼はそれで納得した様子。
ミレイがどんな力を持っていたとしても、まるで脅威とも感じていなかった。
「ドレスは気に入ってもらえたかな?」
「……確かに、すっごく綺麗だけど」
ひらひらと、動いてみる。
「これって、結婚式とかに着るやつじゃない?」
「ああ、そうだよ。僕と君に相応しい格好だ」
そう言って、プロメテウスはぐいぐいと距離を狭めてきて。
ミレイもとりあえず距離を離す。
「ふふっ。そのベッドも、他の家具も、全部君のために用意したんだ。このお城もね」
「そ、そう」
異性に、ここまで尽くされた経験はないので、少々むず痒いものの。色々と恨みもあるので、それで好印象になったりはしない。
「やっぱり、わかんない。何でわたしを選んだの?」
「そうだね。……例えば、君のその髪の色、元から白かったのかい?」
「いや、前までは黒かったけど」
「じゃあ、どうして白色に?」
「それは、」
異世界から来た怪人に、”おかしな液体”を投与されたから。
「その液体は、パンドラゲノム。僕の遺伝子を培養したものだ」
「ッ、そんなっ」
つまり、ミレイの体内には彼の遺伝子が混ざっているということ。
確かに、真っ白な髪の毛に、深紅の瞳など、特徴は同じである。
「僕はずっと、自分と同じ存在と出会いたかったんだ。だから、この世界の人間にもゲノムを投与して、仲間を増やそうとした。……でも、結果はご覧の有様さ。ゲノムを投与して生まれたのは、怪人という”出来損ない”の化け物たち。僕とは似ても似つかない」
プロメテウスは、怪人たちを蔑む。
彼にとっては、全てが失敗作なのだから。
「おまけに、女性はゲノムとの相性が悪いのかな? 大抵は耐え切れずに破裂して、怪人にすらなれなかった」
ミレイはかつて、花の都で怪人たちと戦った時のことを思い出す。
そういえばその時にも、同じ話を聞かされた。
「――でも、君だけが例外なんだ」
プロメテウスは笑みを浮かべる。
心の底から、喜びを表現するかのように。
「外見から分かるように、君は怪人化しなかった。そして死にもしなかった。……僕と同じ、”上位存在”へと至ったのさ」
それが、彼がミレイを求めた理由。
ミレイだけが、自分と同じ存在だから。
何万、何億もの失敗を経て、異なる世界にまで根を広げて。
そうして出会えた、唯一のヒト。
「僕と君で、新しい人類の歴史を作ろう」
「……だから、アダムとイブってことか」
神の如き者でも、一人では子孫を残せない。
しかし、自分と同じ領域に立つ者が居れば、ともに愛し合い、子孫を残すことが可能になる。
ミレイはようやく、自分がとんでもない状況にあると気づいた。
(それもう、”そういう事”をするってことじゃん!)
人生始まって以来の大ピンチである。
ミレイは思わず後ずさる。
「ちょっと待ってよ。見ての通り、わたし子供だよ? 無理だって」
普段は、とにかく大人であることをアピールするものの。この場においては、必死に子供アピールをするしかない。
気分はもう、”変態”に襲われる少女である。
「さぁ、おいで」
「ひぃ」
手を広げて、プロメテウスはゆっくりと近づいてくる。
たまらず、ミレイはベッドへと逃げる。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
なんとかして、彼から逃げようと。
その刹那、ミレイは目にした。
彼が食事を運んできたワゴン。
そこに、”ワインボトル”のようなものがあると。
つまりは、お酒。
ミレイは瞬時に判断する。
もう絶対に、暴走はしたくないと思っていた。大切な友達に危害が加わるし、大切なカードも乱暴に扱ってしまうから。
だがしかし、ここは守るべき世界ではない。
大切なものは一つもなく、むしろ何を壊したっていい。
「サフラ!」
ミレイと繋がっているため、サフラはその意図を瞬時に理解。
真っ白い触手を伸ばし、ワインボトルを手元に引き寄せた。
そして、そのまま栓をこじ開ける。
(……乱暴しちゃったら、ごめんね)
『気にしないでくれ』
サフラとしても、これしか手段がないと知っていた。
今のミレイが行える、最大級の抵抗。
ボトルの中身を、一気に口に流し込み。
瞬間、ミレイの魔力が爆発した。
◆
「ふんふ〜ん♪」
荒廃した街並みの中。
”巨大なコンテナ”を抱える、一人の少女がいた。
コンテナの中には、大量の保存食や飲料水が詰め込まれている。
当然、とてつもない重量だが、少女は苦もなくそれを運んでいた。
その身に纏う、パワードスーツの恩恵である。
白を基調としたデザインに、胸にはドクロマークが刻まれている。
この世界の人々は、そのスーツを纏う者を”スカルレンジャー”と呼ぶ。
「ふふっ、大漁大漁」
怪人に滅ぼされたこの世界で、彼女は数少ない”反逆者”であった。
少女はコンテナを抱えたまま、軽快な足取りで駆けていき。その道中で、スーパーマーケットのような建物を見つける。
すでに、放置されて時間が経っているものの。中には、まだ食料等が残されているかも知れない。
「人も増えたし、ちょっと寄ってこ」
幸いにも、コンテナにはまだ空きがあるため。彼女はスーパーに寄ることに。
「……おおっ、ギリギリいけそう」
賞味期限などを確認し、缶詰などの保存食をコンテナに詰めていく。
文明が崩壊し、人間たちは表立った活動もできないため、入手できるのはこのような食料ばかり。
本来なら、作物の栽培などを行うべきだが。怪人に支配されたこの世界では、なかなかに難しいことであった。
ある程度自由に歩き回れるのは、少女のように戦える者だけ。
お腹をすかせた子どもたちのためにも、食料集めに奮闘する。
そうして、スーパーの奥の方へと入っていき。
それと出会う。
「……なんだろ」
穴の空いた天井。
粉々になった棚を見るに、何かが落ちてきた形跡がある。
もしも怪人がいたとしても、少女には戦う力がある。
ゆえに、恐れることなく近づいていき。
「あっ……」
それに目を奪われる。
純白のドレスを身に纏った、白き少女。
まるで眠り姫のように、その姿は美しい。
キララと、ミレイ。
もう一つの出会い。




