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落日






 悪魔の力を宿した強力な大鎌。聖女殺しとの憑依融合を果たし、ミレイはプロメテウスへと戦いを挑む。




「はあぁ!」




 大鎌から放たれる一閃。巨大な漆黒の斬撃が、一直線に解き放たれる。

 凄まじい魔力の込められた一撃だが。



 プロメテウスはそれを片手で受け止め、力ずくで握り潰した。



 とは言え、彼は僅かながら”手のしびれ”を感じ取る。




「……驚いたよ。今の攻撃は、さっきの彼女より強かったかも」




 そう称賛するものの。

 この程度の力では、彼にはまるで通用しない。





「こんのぉ!」



 ミレイは漆黒の翼をはためかせ、プロメテウスへと接近。

 大鎌を用いた、全力の近接攻撃を繰り出していく。




 プロメテウスは、それを片手のみで捌いていくも。




「ッ」



 表情には、若干の焦りが見え始めていた。




「……やれやれ。君には手荒な真似はできないし。かといって、無視できるような攻撃でもない。……どうしようかな」




 先ほどのフェイトとは違い、彼にとってミレイは”特別な存在”であった。下手に攻撃して、傷つけるようなことはしたくない。それゆえ、対処に苦戦してしまう。


 しかし、そんな事情などミレイには関係なく。





「――元の世界に、帰れ!!」





 今まで以上の、渾身の一撃を近距離で叩き込んだ。





「ッ」



 プロメテウスは両手を使い、その一撃を何とか受け止めるものの。




 衝撃が大きすぎたのか。

 帝都に広がっていた、彼の力が消失。


 街の人々が自由に動けるようになる。




 当然、すぐ近くにいたマキナも、それにより動けるようになり。

 瞬時に光に変化すると、ともにプロメテウスへの攻撃を開始した。





「ッ」



 ミレイとマキナ。二人揃っての攻撃には、流石の彼も鬱陶しさを感じるようで。




「”ゼスト”、有象無象の相手を頼む」


「了解しました」




 そう言って指示を出し、ミレイ以外への対処を三体の怪人たちに任せることに。




「ぐっ」



 邪魔なマキナを、軽い衝撃波によって吹き飛ばし。




 プロメテウスは、再びミレイと向かい合う。

 彼女を無傷のまま手に入れるために。




「街をめちゃくちゃにすんな!」


「したくてやってるわけじゃないさ。君が大人しく来てくれれば、すぐにでも手を引こう」


「……勝手な奴!」




 言葉では止められないと確信し。

 ミレイは再び、攻撃を開始した。















 街を縛り付けていたプロメテウスの力が消え。

 帝都の人々はこの事態への対処のために動き出す。



 しかし、それと同時に、三体の幹部怪人たちも行動を開始した。




「敵を主に近づけるな」




 三体の中でも、リーダー格であろうか。

 マントの怪人、ゼストが他の二体に指示を出す。




「ソドムは、あの素早い女の足止めを。ゴモラは巨大化して暴れろ」


「「了解」」




 指示を受け、細身と巨体の怪人が動き出し。


 その場に残ったゼストは、上空へと目を向けた。




 そこに見えるのは、空中戦艦アマルガム。


 アマルガムに対し、ゼストはゆっくりと指を向けると。




「――墜ちろ」




 凄まじい”黒雷”が、指先からアマルガムへと解き放たれ。


 その一撃で、アマルガムは撃墜された。










「くっ」



 衝撃波によって、吹き飛ばされたマキナ。

 すぐさま体勢を整え、ミレイのもとへ援軍に向かおうとするも。


 そんな彼女に対し、凄まじい速度で”蹴り”が放たれる。




「失礼、レディ」




 細身の怪人、ソドム。

 ひょろりとした体つきながら、その足から繰り出される蹴りは強靭であり。


 受け止めたマキナの腕が、軋むように音を立てる。




 マキナとソドム。

 双方が、建物の上で対峙する。




「いやはや、驚いた。まさか、生身の人間でここまで強いとは。異世界とは素晴らしい」


「……」




 ソドムはおちゃらけた様子で軽口を叩き。

 対するマキナは、無駄口を好まない。




IV(イヴ)=ミューラー」




 その手に、光の剣を生成する。

 彼女にできること、するべきことはこれしかない。



 最強の冒険者と、幹部怪人との戦いが始まった。










 その頃、帝都の街中では。



 恐れおののくような、市民たちの悲鳴が鳴り響いていた。



 人も建物も、容赦なく蹂躙されていく。


 突如として現れた、一体の”怪獣”によって。





――オオオオオオォォッ!!





 幹部怪人、ゴモラ。

 彼の持つ能力は、巨大化。


 その姿は100m近くまで巨大化し、もはや怪人などというカテゴリーには当てはまらない。

 ただ、大きくなる。単純ながらも、あまりにも強大な力であった。





 巨大化したゴモラによって、帝都の街が蹂躙されていく。





「戦える奴は、あいつの足止めを! 他の冒険者は市民の避難を優先して!」




 サーシャを筆頭とした、五人の受付嬢たちが対処に当たる。

 普段は悠々と仕事をこなす彼女たちだが、この異常事態は流石に理解の範疇を超えていた。



 この五人の受付嬢は、全員がAランク冒険者以上の力を持つ凄腕の魔法使いでもある。

 しかし、圧倒的な怪物を前にしては、他と同じく無力に等しかった。




 帝都の冒険者達が攻撃を加えるも、ゴモラの巨体には通用しない。




「なんて巨体なんだ」


「これは流石に、規格外だな」




 ロボット兵士であるブラスターボーイと、漆黒のアーマーを纏ったエドワードが戦地に立つ。


 ブラスターボーイも、人より遥かに大きなロボットではあるものの、そのサイズは18mほど。勝負の成り立つ大きさではなかった。


 けれども彼らは、少しでも街の被害を抑えるために参戦する。

 この世界には、”もっと強い人々”がいると知っているから。






 だが、しかし。






 その強者たちが集められた、ハートレイ宮殿では。


 集められた大会参加者たちが、すでに”壊滅状態”に陥っていた。




 地に伏した、選りすぐりの強者たち。

 その光景を生み出したのは、黒雷を纏った幹部怪人、ゼスト。



 浮遊大陸からやってきた天使や、魔法使い、サムライなど。先ほどミレイたちと自己紹介を交わしていた少女、レイ=エフも意識を失っている。



 その中には、Sランク冒険者にも引けを取らない実力者も混じっていたが。


 立っているのは、ごく僅か。





「化け物め」


「……ぁ」



 古びた魔法の杖を握り締めた、皇帝セラフィムと。

 その背後で守られていた、弟子であるキララ。





「ふぅん」



 そして、黄金の魔力を纏った九条瞳と。




 花の都からやって来た、二人の参加者たち。




「何なんだ、こいつ」


「シャキッとしろよ、バカ」




 領主のバカ息子、アルトリウスと。

 九条と同じ世界から来た因縁の少女、七瀬奈々(ななせなな)





 ゼストの”初撃”を受けて無事だったのは、その五人だけであった。





「なるほど。お前たちなら、少しは楽しめそうだな」



 五人を前にして、ゼストは不敵に笑う。





 三体の幹部怪人が、帝都を蹂躙していた。

















 帝都から、かなり離れた場所。

 修復中の遊園地にて。




「……なにかしら」




 作業中のアリサが、帝都の方へと視線を向ける。


 不安を感じさせる真っ黒な暗雲が、帝都の上空に漂っていた。








――オオオオオオォォッ!!




 巨大怪人ゴモラが、我が物顔で街を蹂躙していく。



 ブラスターボーイに、エドワード。その他の冒険者や、受付嬢たちが抵抗するも、その侵攻はまるで止められず。




 街の守護者であるイーニアが、街の防壁から生成した巨大ゴーレムで迎え撃つも。




「ッ、何なのよッ!!」




 たとえ同等の大きさでも、屈強な怪人とゴーレムでは、宿る力が段違いであり。

 まるで相手にならず、粉々に破壊されてしまう。




 そんな、絶望的な光景を見て。




「……くっ」




 戦闘中のミレイも、思わず表情が歪む。

 今まで暮らしてきた街並みが、凄まじい勢いで壊されていく。




――自分のせいで。










 壊される街に怒りを覚えるのは、他の者も同じ。

 皇帝の懐刀であるマキナも、すぐさま応援へと向かいたかった。




 しかし、目の前の飄々とした怪人が、それを許さない。




「ッ」



 マキナは光の剣を手に、怪人ソドムへと斬りかかるものの。




「はははっ」



 信じられないほどのスピード、卓越した体術によって、ソドムはマキナの攻撃を受け止めていく。





 この怪人を倒さない限り、他の応援には迎えない。


 だがしかし。

 それを不可能とするほどに、怪人たちは”あまりにも強すぎた”。










 そして、ハートレイ宮殿では。





「はあああぁぁッ!!」



 カードの能力を使い、二人に分身した九条が、ゼストに殴りかかる。




 しかし、その拳は容易に受け止められ。




「ぐぅっ」



 黒雷の放出により、九条は派手に吹き飛ばされてしまう。




 すると、その隙間を縫うように、同郷である七瀬が接近し。

 自らの手のひらを、ゼストの胸に押し当てた。




「――激震ッ!!」



 凝縮された”振動の力”が、ゼストの体内に解き放たれる。




 そこに込められていたのは、街をも破壊する”大地震クラス”のエネルギー。

 彼女がこの世界で手に入れた、切り札にも等しい力だが。



 それでも、ゼストには届かず。




「お返しだ」


「ッ」




 黒雷を纏った掌底を、七瀬に繰り出し。

 その圧倒的な力をモロに受け、七瀬は九条と同じように吹き飛ばされた。





 この世界で、頂点に位置する実力者たち。その力がまるで通用しない。

 ゼストという怪人は、他の幹部と比べても別格の力を有していた。





「……そんな、奈々が一瞬で」



 ともに修行した仲間が倒され、アルトリウスは戦意を喪失してしまう。



 その身には、他の誰よりも”大きな力”が宿っているものの。

 生来の臆病さと、実戦経験の少なさから、動くことができなかった。




 すると、そんな彼の肩に、セラフィムがそっと手を置く。




「無理をするな。後ろに下がっていろ」




 そう言って、セラフィムが前に立ち。

 握られた杖に、魔力が集う。




「キララ、お前も動くなよ。足手まといになる」


「……はい」




 師であるセラフィムの言葉に、キララは従うしかない。


 自分が役立たずであると、理解しているから。




 他のみんなのように、圧倒的な魔力もない。

 他のみんなのように、強力なカードも持ってない。



 ちょっと魔力が高くて、ちょっとセンスがあって。

 自分の才能はそこ止まり。





 ”超越者”の領域には届かない。





 立場的には、皇帝であるセラフィムを守らないといけないのに。

 その背中を見つめながら、自分は何もできない。


 大切な、ミレイのもとにも向かえない。





 セラフィムとゼスト。


 両者の力の衝突を、ただ見つめることしかできなかった。
















「はぁ、はぁ」





 街が、壊されていく。

 人が、傷ついていく。


 それを命じている男が、目の前にいるのに。

 自分の力では届かない。



 ミレイは、胸が張り裂けそうだった。





「……やめてよ」


「それは、君次第だ」





 プロメテウスは変わらずに笑う。

 運命は覆らないと、知っているから。





「彼らは、僕の一言で戦いを止めるし。逆に、もっと苛烈にもできる」


「そんなっ……」






 人の力では、抗えない領域がある。

 敵わない世界がある。



 そんな事実を、無理やり押し付けられ。






「わかった……」






 ミレイは、その一言を口にし。



 やがて、戦いは終わりを迎えた。






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― 新着の感想 ―
[一言] あー、またキララが脳破壊されちゃう()
[一言] いきなり現れ世界を人質に初対面の女に強引に求婚する男! いろいろな意味で最低だ!
感想一覧
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