最強の魔法少女、異世界で遊園地を経営する
「あら、帰ってきたわね」
「きました」
「ました〜」
ギルドに戻ってきたミレイたちを、受付嬢のサーシャが出迎える。
いつもと変わらない、元気そうな二人。
だがしかし、そこにアリサの姿はない。
「もしかして、彼女……」
「あー、いえ。別に怪我とかはしてないですよ」
最悪を予感するサーシャであったが、ミレイがそれを否定する。
「ただちょっと、”居残り”があるとかで」
◇
崩壊した遊園地。瓦礫の山の上に、ミレイたちは立っていた。
熾烈な戦いに勝利し、行方不明の人たちも助けることが出来た。結果としてみれば、この上ない勝利と言えるのだが。
「……」
瓦礫の上で、キララはしょんぼりとしていた。
あれほど楽しかった遊園地が、粉々に壊されてしまったから。
「仕方ないって。元々、この世界のものじゃないんだし」
「うーん。そうだけど」
ミレイの慰めも、今のキララには通用しない。
キララにとって、ここは本当に楽しい場所であった。たとえ、どんな目的で動いていたとしても。この場所は、キララの心に楽しさを刻み込んだ。
「――でも、ここはまだ”生きてるわ”」
ミレイとキララは、完全に落ち込んでいたものの。アリサだけは、すでに別の地点を見つめていた。
「地上は破壊されたけど、地下のメインフレームは無傷のはず。なら、上手くシステムを動かせれば、きっと元通りに蘇る」
「それって、直してくれるの!?」
「ええ、もちろんそのつもりよ」
キララの問いに、アリサは肯定する。
その様子を、ミレイは意外そうに眺めていた。
「へぇ〜。遊園地、嫌いって言ってたのに」
「今でも嫌いよ。むしろ、この一件で更に嫌いになったわ」
「え、じゃあなんで」
それだけ毛嫌いしている遊園地を、再建しようとしているのか。
「だって、この世界に遊園地は無いんでしょ? なら、絶好の”ビジネスチャンス”じゃない」
アリサは完全に、打算で動いていた。
「タイムレコードを見るに、この遊園地のシステムは”31世紀の地球”で作られたものよ。物質変換、ナノテクノロジー、他にも高度な技術が組み込まれていて、しかも全自動で運営が可能。――つまり適切に稼働できれば、この遊園地は巨万の富を生むはず」
すでにその脳内では、遥か未来のことを考えていた。
「まさか、異世界に来て早々、遊園地が手に入るなんて。わたしたち、ついてるわね」
「……えーっと、つまり。ここを使って、お金を稼ぐってこと?」
ミレイは、若干呆れた様子。
「当たり前じゃない。わたし自身、そんなに執着はないけど。お金って、どれだけあっても困らないのよ」
二人と違って、アリサは冒険者の報酬だけで生きていくつもりはなかった。
どちらかと言えば、彼女は”犯罪者寄り”の思考回路を持っているため。楽に、ズルして金を稼ぐ方が性に合っていた。
『最強の魔法少女、異世界で遊園地を経営する』
主人公、真神アリサ
「というわけで、わたしは少し残っていくわ。クエストの報酬は、二人で分けていいわよ。わたしは、ここを貰うから」
「……そっか」
アリサのたくましさに、ミレイは何も言えなかった。
「アリサちゃん。直ったら、すぐに教えてね!」
「ええ、もちろん。あなた達なら、特別料金で利用させてあげる」
「金を取るんかい!」
そんな冗談を交えながら、くだらなく笑い。
波乱を呼んだクエストは、こうして終結した。
◆◇
次の日の夜。
ルームシェアをしているイーニアの家で、ミレイたちは全員で夕食を食べていた。
家事や料理は、便利な執事ロボットに任せて。
六人ものメンバーが、楽しく食事を行う。
「わたしのアビリティカード、色が薄くなっているけど。これって大丈夫なのかしら」
「そうですね。一週間ほどあれば、自然に直りますよ」
アリサの問いに、ソルティアが答える。
「ちなみに、こうなったらお終いです!」
キララはそう言うと、珍しく自身のアビリティカードを具現化する。
白紙化し、能力を失ったカードを。
才能を恨んだ村の大人によって、キララは赤子の頃にカードを壊されていた。
「それは、残念ね」
カードの経緯を聞き、アリサは表情を暗くする。
「ううん! 別にこれは、物心ついたときから、ずっとだから」
カードの強さなど、キララには関係がなかった。
人の持つ価値は、能力の強さではないと知っている。
「それに、もしも大会で優勝できれば、師匠が直し方を教えてくれるんだよ!」
ミレイとキララの師匠。パーシヴァルこと、皇帝セラフィムが残した言葉。
もしも、自力でSランクに上がることが出来たら、白紙化したカードの直し方を教えると言っていた。
そして、その一番の近道こそが、帝都最強決定戦での優勝である。
「あー。だから、珍しく本気だったのね」
フェイトは、予選会での戦いを思い出す。
「うん。今までは、全然気にしてなかったけど。最近はちょっと、”強くなりたい”なって思ってて」
キララが、力を求める理由。
それはもちろん、”大切な一つ”を守りたいから。
「でも、そんな無理する必要ないんじゃない? 別にキララは、今のままでも……」
「よくなーい! 全然、よくないよ!」
ミレイの言葉に、キララは反論する。
今のままでは、守られてばかりになってしまうから。
「ぶー!」
「こんにゃろ、可愛い顔しやがって」
ミレイとキララ。
何も変わっていないようで、その関係性は少しずつ変化している。
「……この二人、見てると和むわね」
アリサは小さくつぶやいた。
◇ 今日のカード召喚
1つ星 『復刻版ブーブーアニマル(キリン)』
懐かしのおもちゃ、ブーブーアニマルの復刻版。背中のゼンマイを回すと動き出す。
「ぷっ」
その召喚を真横で見ながら、フェイトは笑う。
このようなカードが出る時もあれば、フェイトのような存在を呼ぶこともある。
カードの召喚とは、なんとも不思議であった。
「よかったね、フェイトちゃん。まだライバルが出てこなくて」
「はぁ〜? アタシ、そんなの別に気にしてないんですけど!」
キララの言葉に、フェイトは大きく反応する。
5つ星、自分に匹敵する存在が呼ばれないか。事実、彼女は毎日気にしていた。
◆◇
それは、始まりの日。
ミレイが、この世界にやってきた日。
この世界のどこにもない。
不思議な空間にある城に、ミレイは招かれていた。
とはいえ、どうやら様子がおかしく。
なぜか、ミレイは気持ちよさそうに眠り。
白髪の少女アリアは、色々とボロボロになっていた。
眠っているミレイの側には、酒瓶のようなものが転がっており。何が原因かは、一目瞭然であった。
「まさか、ここまで豹変するなんて。……流石、魔女と同じ名前を持つだけある」
とはいえ、眠れば小さくなるようで。
安全を確認すると、アリアはミレイの元へと近づいた。
「ミレイ。まだ、最後の願いを聞いてない」
この世界を救ってほしい。
それを頼む見返りとして、ミレイは”三つの願い”を叶えてもらうことになっていた。
残念なことに、ずっと忘れていたが。
一つ目の願いは、”アリアと一緒にお酒を飲みたい”というもの。二十歳の誕生日を迎えたミレイの、純粋な願望であった。
これが原因で、ある意味全てが台無しになってしまったが。
二つ目の願いは、”五歳ほど若返らしてほしい”というもの。
せっかくの異世界なので、ミレイは気持ち的にちょっと若返りたいと思っていた。
そして、三つ目。
「ミレイ、最後の願いは?」
ぺしぺしと、頬を叩くものの。ミレイはまるで起きる気配がない。
まさか、これで記憶まで吹き飛んでいるとは、アリアは思ってもいなかった。
「起きて」
「んん」
「起きて」
「うぅ」
必死に体を揺さぶっても、ミレイは起きない。
口から漏れるのは、単なる寝言のみ。
と、思いきや。
「……アリア、一緒に来て」
それが、ミレイの三つ目の願い。
この世界で出来た最初の友だち、アリアと一緒に、ミレイは異世界を冒険したかった。
しかし、アリアは首を横に振る。
「わたしには仕事がある。この世界のために、もっと力が必要だから」
いくらミレイの願いとはいえ、それは叶わぬ願いであった。
「”その代わりに、使える奴を用意する”。向こうについたら、そいつを頼って。ミレイと共通点の多い人間だから、きっと仲良くできるはず」
その話を、ミレイは覚えていない。
「そいつの名前は――」
「――ッ」
真夜中。
ベッドの中で、ミレイは唐突に思い出した。
ずっと忘れていた、始まりの記憶。
世界を救ってほしいという、アリアという少女のことを。
なぜ、こころなしか若返っていたのか。なぜ、最初の記憶を忘れていたのか。
それを思い出しただけなら、何の問題もないのだが。
――その代わりに、使える奴を用意する。
アリアの言葉が、頭の中から離れない。
(……それって)
ミレイが思い出すのは、とある出会いの記憶。
初めて訪れた冒険者ギルドで、期待と不安で胸が一杯で。
そんな時に、少女の手が触れた。
その名は、キララ。
忘れられない、運命の出会い。
(あの出会いって、そういうことなの?)
奇跡でも、運命でもない。
ただ自分の願いのために、仕組まれた出会いだったのか。
その記憶は、ミレイの中に不安を生んだ。
第一部 終章 『ネオ』




