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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
魔法少女大戦
134/153

孤独な戦い

感想等、ありがとうございます。






『逃げなさい!!』




 上空に佇む龍神の口から、超威力の衝撃波が放たれる。

 その刹那、ミレイは聖女殺しの言葉に反応し、キララを抱えると全速力でその場から離脱した。



 まさに間一髪。

 ミレイたちのいた場所は、大爆発が起きた後のように吹き飛ばされた。

 今のミレイでも、食らったらひとたまりもない威力である。



 今までとは次元の違う相手。先日戦った魔法少女たちも強かったが、今回の敵は”質”が違いすぎた。

 思い返せば、あの魔法少女たちは優しかったのかも知れない。敵同士ではあるものの、互いの攻撃は”相手を止めようとする程度”の力に収まっていたのだから。


 しかし、目の前の怪物はそれとはまるで違う。

 明確な殺意を、ミレイはひしひしと感じていた。




「……フェイト、頼む」




 自分だけの力では敵わない。これほどの存在と戦うなら、こちらも常識外の力が必要になる。

 ゆえに、それを可能にする唯一の存在、すなわち最強の仲間を呼ぼうとしたのだが。




『――ごめん! 今ちょっと手が離せないの!』


「えぇ!?」




 遥か遠方にいるであろうフェイトから、”召喚拒否”を告げられてしまう。


 非常に遺憾ながら、フェイトは力が強すぎるため。向こう側から拒否されると、ミレイでも引っ張ってくることが不可能であった。

 自由意志を持つがゆえの弊害である。




「いや、その、フェイトさん。ほんとに、シャレにならない相手というか。ぶっちゃけ、来てくれないと困るというか」


『ほんとにごめん! ぜーったいに無理! 少なくともあと数分。いや、十分くらいは待ってて!』




 一体、フェイトは何と戦っているのだろうか。これほどに拒絶するということは、向こうもかなり危険な状況なのかも知れない。

 もしかしたら、帝都にも強大な敵が現れたとか。


 なにはともあれ、フェイトを呼べないという最悪の事実だけが、脳内を駆け巡る。

 この龍神を相手に、今ある力だけで抵抗しなければならない。




「――ミーティア!!」




 戦闘が可能で、なおかつこのレベルの相手とも張り合える存在。

 ミレイがこの場で召喚できる戦力は、ミーティア・ドラゴンだけであった。

 3つ星以下では相手にならず、フェンリルは自己修復に時間がかかる。



 敵が巨大なら、こちらはスピードで勝負するしかない。

 漆黒、悪魔の翼をはためかせ、ミレイは空へと飛翔する。




「……ミレイちゃん」




 今のキララでは、その背中を見つめることしか出来なかった。















「あら。あなた、意外と根性あるのね」




 崩壊した遊園地の上空で、ミレイと龍神が対峙する。

 周囲にはミーティアが飛び回っているものの、彼女の眼中にはなかった。


 ”4つ星程度の力”では、もはや相手にはならない。

 ミレイが”憑依融合”という超常の力を行使して、ようやく敵として認識されていた。




「ねぇ。今のあなたと、小さい時のあなた。どっちが本当の姿なの?」


「……小さい方、かな」


「そう! 子供を殺すのは久しぶりだから、興奮しちゃいそう!」


「ひっ」




 衝撃的な言葉に、ミレイは戦慄する。

 何よりも恐ろしいのは、それが嘘偽りのない”本心”ということ。




「あ、アクメラさん。あれに勝てますでしょうか?」


『……』




 聖女殺しの中の人に尋ねるも、不穏なことに返事がない。




「あの」


『……尻尾を巻いて逃げるか、ぶち殺されるか。あんたはどっちを選ぶの?』


「……了解」




 勝てる勝てないの問題ではない。例えどんな敵が相手でも、今のミレイに逃げるという選択肢はなかった。


 キララだけじゃない、地下にはアリサだっている。

 その時点で、道は一つしかなかった。




(勝つ必要なんてない。時間さえ稼げれば、フェイトもこっちに来てくれるはず)




 これほどに強大で、恐ろしい相手と戦ったことはない。

 しかし、この世界に来て、ミレイは様々な困難を乗り越え、経験を積んできた。


 決して、一人じゃない。

 その想いを胸に、ミレイは”本気マジ”になる。















 自分よりも強い人間は知っている。

 魔法少女であるアリサに、修行後の九条瞳、師匠であるセラフィムなど。

 最強の冒険者であるマキナや、頼れる仲間であるフェイトも自分よりずっと強い。


 それでも、彼女たちのことを怖いと思ったことは一度もなかった。

 確かに凄まじい力を持っているが、それ以前に人として好きだから。


 しかし、この世界にいるのは善人だけではない。




 4つ星カード、聖女殺し。

 その力と心身ともに一つとなり、ミレイは漆黒の翼で空を飛翔する。


 瞬間的な加速力は、ミーティアにも匹敵するほどであり。

 巨大な敵を翻弄するかのように飛び回る。




「うぅ、ちょこまかと〜」




 事実、龍神はその巨体故にミレイとミーティアの動きを把握できていなかった。

 スピードという一点において、ミレイたちは敵の追従を許さない。


 だがしかし。




「ッ」




 敵の巨体めがけて、ミレイは大鎌から黒い斬撃を放つものの。

 龍神の防御力が高すぎるのか、表面を軽く斬り裂くのが精一杯であった。




「チクチク、いったーい!」




 龍神も、痛み自体は感じている。

 しかし、文字通りのかすり傷程度であり、何一つ決定打とはなり得ない。


 ただ速いというだけでは、この勝負に勝つのは不可能であった。




『マスター、力に”憎しみ”が乗ってないわよ。もっと本気で、ぶち殺すつもりで戦いなさい!』


「それは、分かってるけど」




 聖女殺しという力は、敵への憎しみ、攻撃衝動の大きさに左右される。

 つまり相手を憎むほど、殺したいと思うほどに威力が上がる。


 ゆえに、ミレイとの相性は最悪であった。

 誰かを本気で憎んだことなど、今の今まで無いのだから。





 ミレイの攻撃でも、かすり傷。ミーティアに至っては敵とも認識されていない。


 巨大な龍神を相手に、完全に攻めあぐねていた。





「わたしも、頑張らないと」




 その頃、地上では。

 キララが足の治療を完了し、何とか立ち上がろうとしていた。



 上空へと弓を構え、魔力を集中。

 ミレイを援護するべく、渾身の一撃を解放する。



 キララの放った一射は、見事な軌道を経て。

 龍神の顔面付近へと命中した。



 しかし、傷一つ付けられない。




「かゆーい!」



 嘲笑うかのように、龍神はキララの方を見つめる。




「ほんと、世界って残酷よねぇ。どれだけ努力しても、どれだけ善行を重ねても、現実は何一つ覆らない」




 余裕を見せる龍神に対し、ミレイは怒涛の斬撃を浴びせるものの。

 その行動を抑制することすら出来ない。




「モブキャラがどれだけ頑張っても、無駄なのよ!!」


「くっ」




 鬱陶しそうに、龍神が身体を激しく動かす。

 たったそれだけの行動だというのに、付近にいたミレイは簡単に吹き飛ばされてしまった。


 攻撃ですらないのに、ただ暴れるだけで災害となる。





「……ねぇ。もしかしてあなた達、何だかんだ殺されないって思ってる? 可愛い女の子だから、ひどいことしないだろうって」



 ミレイたちに対し、龍神が尋ねる。




「今までどうだったのか知らないけど、わたしはそんなに優しくないのよ? ……わたしの大好きな趣味、特別に教えてあげる」





 龍神が口を開き、そこに魔力が集っていく。

 狙いは、地上にいるキララ。





「あなた達みたいな連中を、絶望に叩き落とすことよ!!」





 遊園地ごと吹き飛ばすような、超威力の衝撃波が放たれる。

 避けようにも、それはあまりにも巨大で、絶望的で。

 キララは、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。




 だがしかし、




「――エネルギーバリア、出力全開」





 衝撃波を迎え撃つような形で、遊園地上空にドーム状のバリアが出現。


 その威力を、真正面から相殺した。





「ちょ、何でよ!」




 龍神が悪態をついていると。

 この場に、もう一人の戦士が。




「やっぱり、とんだ敵だったわね」


「アリサ!」




 魔法少女、アリサがやって来る。 






「この僅かな時間で、ここのシステムを掌握したわけ? このレベルのテクノロジーを?」




 アリサの登場に、龍神は動揺を隠せない。

 現れたことよりも、セキュリティシステムを掌握されたことへの驚きが大きかった。




「ムカつくッ」



 彼女自身、システムを理解するのにかなりの時間を使ったというのに。





「――”ケラウノス”」





 そんな相手の苛立ちなど知らず、アリサは自身のアビリティカードを起動。


 龍神の真上に、巨大な空中要塞が出現する。





「デカブツには、デカブツよね」



 一切の迷いなく、アリサは指令を送り。





 龍神めがけて、ケラウノスの主砲が火を吹いた。


 極太のレーザー光線が、その巨体に直撃する。





「ぎゃああああ!?」




 5つ星カード、人界剪定機構ケラウノス。

 主砲から放たれる一撃は、街をも消し去るという。


 強大な龍神であっても、流石にダメージは免れない。




「痛い痛い痛い痛い!!」



 街をも消し去る一撃。それを背中に浴びて、龍神は悲鳴を上げる。






「……これで、仕留められればいいけど」




 破壊力に秀でた、こちら側の最大戦力。

 もしもこれで倒せないのなら、非常に面倒くさいことになる。


 しかし、敵はどこまでも強大であった。





「こんのっ!!」




 龍神は、ビームの濁流から抜け出すと。

 ケラウノスに対し、反撃とばかりに衝撃波を解き放つ。



 その直撃を受け、空中要塞は傾き。

 激しい爆炎を上げ始めた。



 明らかに、ダメージは甚大である。




「……どんだ化物ね」




 龍神と化した女と、巨大な空中要塞。

 同じ5つ星相当の力とはいえ、全くの互角とはいかなかった。




「やっぱり、頼れるのは自分自身」




 ケラウノスだけでは、あれには勝てない。

 アリサは二振りの剣を手に、上空に佇む神を見上げる。



 最強の魔法少女、アリサ☆ブレイヴ。

 果たしてその力は、神の領域にも届くのか。




「ふぅ」



 力強く、空へと飛翔した。

















「ッ」




 滅茶苦茶な威力の衝撃波を、二振りの剣で受け止めながら、アリサは考える。

 世界の広さというものを。



 魔法少女、妖精の国、その程度の存在に驚いていた頃が懐かしい。

 様々な物を召喚する人や、自己増殖する未来の遊園地。果てには、巨大な龍と戦っている。



 ただの魔法少女から、伝説級の力へと昇華し。もはや無敵とも思えたこの力。

 だがしかし、それをもってしても、勝てるかどうかという相手が目の前にいる。



 まさに、井の中の蛙。

 一つの世界では敵無しでも、他の世界では分からない。




 アリサは別に、戦いが好きというわけではない。

 自身を最強と自負しつつも、物事を暴力で解決するのは好きではない。

 出来ることなら、この遊園地の問題も、力に頼らずに解決したかった。




「……面倒くさいわね」




 アリサが戦う理由、そこに使命感はない。悪を許さないという、善意もそこまではない。

 ただ、ここで終わるわけにはいかなかった。



 なぜなら、まだこの世界のことを全然知らないから。

 ”彼女の言った通り”、この世界は本当に素晴らしい場所なのか。



 それを知るまでは、絶対に負けられない。





「――コズミック・ブレイヴ!!」





 完全同調させた、二振りの剣による全力の一閃。

 それは衝撃波を真っ向から叩き斬り、龍神の体に大きな傷を付けた。


 しかし、それでも決定打とはならず。





「痛いわねッ!」


「ッ」




 龍神が体を振るうと、アリサは軽々と吹き飛ばされた。




「大丈夫!?」


「ええ、何とか」



 吹き飛ばされたアリサの元へと、ミレイがやって来る。




「もう少し時間を稼げれば、たぶん強力な助っ人が来てくれるんだけど」


「例の、最強さんかしら」


「うん」




 ミレイが召喚しようとしたものの、なぜ拒否されてしまった、最強の仲間であるフェイト。


 一体、何と戦っているのかは不明だが。

 彼女を呼ぶことさえ出来れば、戦況は大きく変わるはず。




「分かった。――でも、倒すつもりで戦うわ」




 アリサにもプライドはあった。

 これは、”自分たちの戦い”なのだから。








「もう、しぶといわね!」




 小さな光が集まり、巨大な龍神へと対抗する。


 格上相手でも関係ない。

 全力の、その先を引き出すように、必死に食らいつく。




「攻撃が、通じないなら」




 キララも、ただ黙ってはいられないと。

 純粋な破壊ではなく、それ以外の方向への力を練り上げる。



 その弓から放たれた一射は、龍神の顔面付近へと飛んでいき。

 そこで弾けると、真っ黒な煙を広範囲へと拡散させた。

 狙いはもちろん、視界を奪うため。



 それをチャンスとばかりに、ミレイは”別の力”を右腕に具現化。





「――ライノ!!」



 真っ赤なガントレットから放たれる爆炎を、ゼロ距離で敵の胴体にぶち当てた。





「うぐっ」



 それには、龍神もたまらなく声を漏らす。





「三対一なんて、卑怯だわ!」



 苛立ちと、叫び声を上げる彼女であったが。

 それと対峙する魔法少女には、何一つ関係なく。





「――卑怯もラッキョウも、無いのよ!」





 二つの剣から放たれる斬撃を、その顔面へと命中させた。


 深く、鋭く、最大の一撃を。





「ぎゃああああッ!!」




 流石に、その一撃は堪えたのか。

 痛みに悶絶するように、龍神は大暴れ。


 これは危ないと、ミレイたちも距離を取る。






「……よくも、やったわね」




 確かな憎悪とともに、龍神がアリサを睨みつけると。

 より上空へと浮かんでいき、口元にエネルギーを溜めていく。




「絶対に、許さないッ」




 そこにあるもの、全てを吹き飛ばすために。

 最大威力の衝撃波を、解き放とうとして。






「――ッ!?」



 遥か彼方から飛来した、”巨大な氷の剣”に胴体を貫かれてしまう。






 どこからの攻撃なのか、どれほどの威力なのか。

 貫かれた彼女には、何一つ理解が出来ず。


 それを知るミレイとキララは、この上ない安心を感じる。





 剣が体に刺さったまま、龍神はゆっくりと高度を下げる。

 いかに彼女といえども、そのダメージは甚大であった。




「……これは流石に、分が悪いわね」




 周囲には、目障りな敵がうろちょろし。更には、得体の知れない強者も控えている。そんな状況では、最悪命を失う可能性まであった。

 ゆえに、彼女の戦いはここまでである。




「ねぇおチビさん、あなたの名前は?」



 龍神がミレイに問いかける。




「わたしは、ミレイ」


「そう。……わたしの名前は”シャクティ”よ。縁があったら、また会いましょ」




 二人は、互いの名前を交換した。





「覚えてなさい。いつか必ず、とびっきり残酷な方法で殺してあげる」



 最後に、そんな言葉を残して。

 傷ついた龍神、シャクティは遥か彼方へと飛んでいった。





「出来れば、もう二度と会いたくないわね」


「……うん」





 ミレイたちの記憶に、確かな脅威を刻んで。















 遊園地のある場所から、遥か彼方。

 帝都ヨシュアの上空。




「ふぅ……」



 強大な敵を感じながら、天使モードのフェイトはため息を吐く。



 たった一発の攻撃だが、それで戦いが終わったのなら十分である。

 今の彼女は、応援として駆けつけることすら出来ないのだから。



 天使モードが解除され、フェイトは街へと。

 すぐさま、イーニアの家へと戻っていく。




「うぐっ、お腹が……」




 この日、ミレイとアリサの好物である寿司を、自分も食べられるようになるべく。

 フェイトは秘密裏に、”生魚”への挑戦を行っていた。



 だがしかし、選んだ魚と自己流の食べ方が悪かったのか。異世界の寄生虫による、深刻な食中毒に陥っていた。



 彼女の孤独な戦いを、知る者はいない。






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