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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
魔法少女大戦
133/153

究極の敵






 16の春。それはまだ、彼女の心が人間だった頃。


 人と人。複雑な関係を構築する、学校という環境の中で、少女は孤立していた。

 他者との関係を築こうとはせず、一人”小さな画面”と向かい合う。


 流行りの携帯ゲーム機。学校のクラスメイトの中にも、それを所有する者はいるだろう。

 しかし少女は、いつも一人だった。ただうつむいて、無言で、カチカチとボタンを押すだけ。

 それが少女の世界、たった一人で完結する世界だった。




――うわ、あの子。また一人でピコピコやってる。




 周囲の環境か、それとも元々少女の精神が歪だったのか。

 完結しているはずの彼女の世界は、やがて周囲の世界を敵視するようになっていた。




「ッ」




 他者からの視線、他者からの言葉を受けるたびに、その心は黒く染まり、ボタンを押す力が強くなっていく。

 少女は、”善人”では無かった。自分こそが正しいと疑わない性格であり、自分以外の世界が間違っているとさえ思っていた。




 わたし以外、みんな馬鹿。




 ゲームのNPCと何も変わらない。ただ自分を苛立たせる、なんの価値もないオブジェクトに過ぎない。




 16の春、少女の心は悪に染まった。









 繰り返される毎日。

 一日の始まりを告げる、駅のホームで。




――ほんと、あいつマジうざいよね〜




 少女は、クラスメイト達の背中を見つめていた。

 いつもいつも、こうやって自分が後ろにいるのに気づいていない。愚か者が、愚か者を蔑む。そんな吐き気を催す会話を、毎朝のように聞かされる。




 死ねばいいのに。




 駅のホームから飛び降りて、ぐちゃぐちゃになって死ねばいい。そうしたら、学校に行くのが遅くなる。邪魔なクラスメイトも減ってくれる。これほどまでに嬉しいことはない。


 わたしを楽しませるために、その命を散らせてほしい。

 しかしながら、彼女たちが飛び降りることはないだろう。


 後ろから押す勇気もない。そんな事をしたら、自分が悪者になってしまう。




 落ちろ、落ちろ。

 落ちて死んでしまえばいい。




 心の底から、少女は呪詛を吐き続けた。

 もしも彼女が普通の人間だったのなら、きっと何の問題にもならなかっただろう。世界は何も変わらずに、秩序が乱されることもない。

 しかし、少女は違った。




 吐き続ける呪詛を体現するかのように、彼女の瞳は”輝き”を宿し。





――あ。





 何かに突き動かされるかのように、クラスメイトは前へと歩き出し。

 少女が最も望むであろうタイミングで、駅のホームから飛び降りた。





 その瞬間のことを、少女は一生忘れることはないだろう。

 コメディのように、人体が列車に巻き込まれ。この世の快楽を凝縮したような、美しい音色が耳に響く。

 ほんの僅かな余韻の末、世界は混沌に包まれた。何が起こったのか、なぜこうなったのか。何も知らないNPCが騒ぐ。




 少女は笑っていた。歓喜していた。

 この世界は、自分を中心に出来ている。望めば願いは叶うのだと。




 自分に宿る力を自覚し。

 やがて少女は、”怪物”となった。










◆◇










 それは一瞬の出来事だった。

 追い詰めたはずの女が、虹色のカードを起動し。ミレイたちのいた地下通路は、猛烈な力によって崩壊した。




「う、くっ」




 憑依融合を使っていたことが、ミレイにとってが何よりも幸運であった。もしも彼女が生身であったのなら、それはもう無惨な死を迎えていだであろう。


 自分に覆いかぶさる瓦礫をかき分けて、ミレイは地上へと這い上がった。




 何とか、地上に手が届き。ミレイが見たのは、崩壊した周囲の様子だった。

 アトラクションは瓦礫と化し、土煙が視界を塞ぐ。遊園地の全てが滅んだわけはないが、少なくともミレイの周囲は跡形もなく吹き飛んでいた。


 一体、どんな能力を使ったのか、ミレイが呆然としていると。




「……ミレイちゃん?」


「キララ?」




 どこからか、キララの声が聞こえてくる。

 声が聞こえた方へと、ミレイは足を動かし。




「ッ」



 そこで見た光景に、言葉を失った。




「……ミレイちゃん。無事だったんだね」




 人の体は、そこまで赤く染まるのか。

 キララの体は、服は、おびただしい量の血に塗れていた。どう見ても、出していい量の血液ではない。




「あっ、大丈夫だよ、ミレイちゃん。これは、”わたしの血じゃないから”」


「……え?」




 冷静に見てみれば、キララの側にはフェンリルの巨体が横たわっている。

 生きているのか、一時的に死んでいるのか。かなり損傷が激しかった。




 あの女がカードを起動した瞬間、フェンリルはキララの元へと駆けていた。

 主ではなく、キララを選んだのは、きっとそうするべきだと分かっていたのだろう。憑依融合をしたミレイよりも、キララのほうがずっと脆いと。

 故に、キララはこうして助かった。




「まぁ、足が潰れちゃったけどね」




 とはいえ、彼女も無傷とはいかず。瓦礫の重さによって、左足が押し潰されてしまった。治療はもちろん可能であろうが、すぐさま動くのは不可能である。




「ちょっとまって、すぐに薬を出すから」




 キララの傷を癒やすために、ミレイは2つ星の”即効性キズ薬”を具現化。その手にスプレータイプのキズ薬を握り締める。

 それをすぐさま、キララの足に使おうとするも。





「――あーらら? おチビちゃん達、そんな所にいたのね」





 怪物に、その存在を気取られてしまった。




 ふぅ、と。軽く吐息を吹くようにして、周囲にあった土煙が散らされる。


 急な突風に、ミレイは困惑しつつ。

 大きな声がした、空へと顔を向け。


 まるで蛇に睨まれた蛙のように、その場から動けなくなってしまう。





 そこには、”神”がいた。





 太陽の光を背に、神々しく宙に浮かぶ。

 視界に収まらないほど、長く巨大な体。

 いわゆる龍のようにも見えるが、体には無数の翼も生えている。


 ドラゴン、魔獣。そのような生物の領域には当てはまらない。

 自然の摂理を超越した、”絶対的なる龍神”。


 それが、上空からミレイたちを見つめていた。





「……」



 ただ見ただけで、ミレイは理解してしまう。

 聖女殺しと融合し、魔力の扱いに長けた今だからこそ、分かってしまう。

 自分と相手との、絶対的な力の差に。




 そんな彼女を嘲笑うかのように、龍神は優雅に空に佇む。




「驚いたかしら。これが、わたしに与えられたアビリティカード。”主人公”に相応しい、絶対的な破壊の力よ!」




 その龍神は、カードによって召喚されたものではない。

 カードの能力によって、女が”変異”したもの。


 何か、明確な攻撃をしたわけではない。ただその巨体が出現したことにより、地下通路が吹き飛び、ミレイたちは被害を受けたに過ぎない。


 アリとゾウのように、その差は遥か。




「ふふっ、驚いて声も出ないって感じね。いたぶりがいがあるわぁ」




 龍神と化した事により、その表情は分かりにくいものの。もしも彼女が人のままであったなら、これ以上無い笑みを浮かべていたであろう。




「どっこいしょ!」



 何気ない感じで、龍神は口から”衝撃波”を放ち。

 その圧倒的な威力によって、遊園地の半分ほどの面積が吹き飛んだ。




「ッ」



 もしも、今のがこちらに向けて放たれていたら。そう考え、ミレイは戦慄する。

 神の如き見た目は伊達ではない。その龍神は、紛れもない超越者だった。




「わたし、遊園地って嫌いなのよねぇ。馬鹿な連中が、馬鹿みたいな乗り物に乗って、馬鹿騒ぎしてる。……あーあ、事故って死ねばいいのにって。よく思ってたし、”現実にした”こともあるんだけど」



 龍神は思い出を語る。




「この世界の人間って、馬鹿というよりも”無知”よねぇ。ふふっ、遊園地が何なのか知らないから、セキュリティシステムに捕まって。相手はただの遊園地なのに、化物だ!、って大騒ぎ」



 彼女にとって、人間は単なるおもちゃに過ぎなかった。




「それを眺めるのが楽しかったのに。ほんと、あなた達って空気が読めないわよね〜」



 ぎょろりと、龍神はミレイとキララを見下ろす。




「まぁ、いいわ! ”今回のゲーム”は、あなた達の勝ちって事にしてあげる。どのみち単なる暇つぶしだし。たまたま、いい感じの遊園地を見つけたから、暴走させただけだし」




 けらけらと、龍神は笑う。


 大事となった今回の事件だが、彼女自身それほどの労力を使ったわけではなかった。

 たまたま偶然、どこかの異世界から漂着した”遊園地の残骸”を見つけ、その高度なシステムを再起動したに過ぎない。




「……」



 軽々と、現状を楽しむ龍神に対し、ミレイは反応に困る。

 こういうタイプの相手とは、今まで対峙したことがなかった。





「ちょっと、なんか反応薄くない?」


「えっ、いや……」


「そんな勝手なことをさせるか!、とか。わたしが相手になってやる!、とか。そういう反応を期待してたんだけど」




 だんまりを決め込むミレイたちに対し、龍神は文句を口にする。

 ”こんなに楽しいのに”、なぜなのかと。




「あなた達って、ゲームとかやったことある? 遊園地を知ってるってことは、この世界の人間じゃないのよね」


「あー、えっと。わたしはそこそこ!」



 仕方がないので、ミレイは正直に答えた。




「やっぱり! なら分かるでしょう? 強者に一方的に叩き潰される、いわゆる”負けイベント”ってやつ。今のわたしはそういう存在なのよ。ムカつくでしょうけど、我慢してね♪」




 龍神は得意げに、自らの立ち位置を説明する。

 だがしかし、





「――わたし、”みんなでやるゲーム”が好きだから! 別にそれはどうでもいいや!」





 なんてことはない、ミレイのそんな一言を受けて。




「……はぁ?」



 雰囲気が、ガラリと変わる。




 一体何が気に食わなかったのか。

 嬉々とした雰囲気が消え去り、気配が静まり返った。





「あなた、もしかして。友達と一緒になって、わいわいやるのが好きなタイプ?」


「もちろん! 一人でやっても面白くないし!」





 後になって思えば、これは絶対的な運命だったのかも知れない。


 お互いに、決して相容れない主張。




 溢れるような善意を、小さな胸に抱く者。


 溢れるような悪意を、周囲に垂れ流す者。




 すなわち、”究極の敵”と。





「今回は遊びで終わらせよっかなって、思ったけど。やっぱり気が変わったわ」



 龍神の女は、ミレイを明確な敵と認識。





「あなた達全員、”ゲームオーバー”よ」





 跡形もなく吹き飛ばすために、その口から衝撃波を解き放った。






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― 新着の感想 ―
[一言] 一人で生きられるが故に他人は邪魔でしかないのか ミレイはその逆だし、ほんとに相性が悪いな… アビリティカードも龍神化という個の強化と、複数のカード(他人)の力を借りて戦うっていうので対比さ…
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