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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
魔法少女大戦
132/153

純粋なる悪意






「あー、もう。ムカつくったらありゃしない!」




 遊園地の地下。コントロールルームと呼ばれる部屋に、その女はいた。


 バイオレットカラーの髪を持つ、正真正銘の美女。


 だがしかし、その表情は苛立ちに歪み、恨み節を口にしていた。

 ここには彼女しか居ないため、その正体を隠す必要もない。


 女はホログラムの操作盤を弄り、この遊園地のシステムを書き換えていく。




「ちょーっと大人気ないけど。まぁ、いっか」




 混じり気のない、”純粋なる悪意”をもって。
















 ミレイの頭を使った作戦。もとい、バカ正直な行動が功を奏し。迷子センターに囚われていた冒険者たちは、全員まとめて解放された。


 色々と、釈然としないものの。これ以上の面倒は勘弁だと、冒険者たちは遊園地から帰ろうとする。




 すると、突然。




――緊急事態発生。これより、セキュリティレベルを最大に引き上げます。




 遊園地全体の雰囲気が、一瞬のうちに変化し。

 解放された冒険者たちを、再び襲い始める。




「おいおい、嘘だろ!」




 彼らは何一つとして、遊園地のルールに反するようなことはしていない。しかし、そんな事はお構いなしとばかりに、ハッピーくんたちも押し寄せてくる。

 その圧倒的な力に、冒険者たちは抗う間もなく蹂躙されていく。



 そして、襲われるのは彼らだけではない。




「ヘ、ヘルプ!!」



 急に、地面が底なし沼のようになり、ミレイは無様にも沈んでいく。




「……まったく」



 再び魔法少女となったアリサが、ミレイの周囲を粉々に切断。

 手を差し伸べ、救い出した。




「二人とも! ハッピーくんがこっちに来るよ」



 キララが叫ぶ。


 この遊園地に来てから、彼女たちは一度もルールを破っていないというのに。そんな事はお構いなしに、遊園地は矛先を向けてくる。




 機械の翼、魔法での跳躍などを駆使し、ミレイ達は上空へと避難した。







「急におかしいわね。明らかに動きが変わったわ」




 ハッピーくんに飛行能力が無いのが、唯一の救いであろう。

 地上に居た冒険者たちは、すでにその姿を消してしまった。恐らくは、再び地下へと引きずり込まれたのだろう。ミレイたちも、そうなっていた可能性は十分にある。




「あっ、フェンリルが」




 ホテルのバルコニーを見てみれば、暴れ回るフェンリルの姿があった。どうやら動物も、セキュリティシステムの対象になるらしい。





 今までの、一定のルールに則った動きとは違い。

 遊園地の防衛機構は、無差別に対象を襲うようになった。





「……どうやら、”黒幕”がいるようね」




 明らかな違和感。

 アリサの中で、疑惑が確信に変わった。















 もの凄い勢いで、三つの影が遊園地の地下通路を疾走する。




 一つ目は、二振りの剣を手にする、魔法少女アリサ☆ブレイヴ。

 圧倒的な攻撃性能をもって、障壁となる存在を薙ぎ払っていく。




 二つ目は、聖女殺しと融合したミレイ。

 前と後ろが優秀なので、特に何もしていない。




 三つ目は、魔獣フェンリルと、その背中に乗ったキララ。

 後方から迫りくるハッピーくんを、魔法弓の速射によって寄せ付けない。




 それぞれの出し得る全力をもってして、ミレイ達は地下にあるであろう管理施設を目指していた。






(ミレイだけじゃない。キララの動きも、想像を遥かに超えてる。……雑魚ばかりじゃないのね)



 二人に背中を預けながら。この世界の持つ力に、アリサは感心する。






 セキュリティを全く寄せ付けない、圧倒的な力で。

 三人は地下通路を駆け巡り。



 その最奥。

 ”コントロールルーム”へと、辿り着いた。






 分厚い扉を吹き飛ばすと、中にいたのは一人の女性。

 ミレイたちの到来に、驚いたような表情を見せる。




「な、何なんですか、あなた達! わたしは今、この遊園地を止めようと必死に作業してるんです!」




「えっ、そうなの?」




 バイオレットヘアの女性は、あくまでも自分の正当性を主張する。

 しかし、そんな戯言を信じるのはミレイくらいなもの。




「……ダメだよ、ミレイちゃん」


「キララ?」




 これまでになく真剣な。というより、深刻そうな表情で、キララが制止する。




「”この人は、絶対にダメ”」




 これほどまでに直感が危険を告げるのは、”花の都で出会った商人”以来。

 それに匹敵するほどの脅威が、目の前に立っていた。




 ミレイたちは初めて、”巨悪”と対峙する。

















「わたしも同感ね。十中八九、この女が事件の黒幕よ」




 直感ゆえに、女を警戒するキララと違い、アリサは理性的に敵を見定める。

 こんなあからさまに怪しい人間、信じるのはよほどのお人好しだけ。




「二人とも、何か捕縛手段は持ってる?」


「うん。わたしに任せて」




 アリサの要望に応え、キララは粘着性の魔法の矢を射出。

 謎の女をぐるぐる巻きにしてしまう。




「そんな! どうして、こんな酷いことをするんですか!?」




 女は悲痛な叫びを上げる。

 ミレイからしてみれば、本当に悪い人には思えないのだが。

 アリサもキララも、その敵意を隠そうとしない。




「ミレイちゃん、不用意に近づいちゃダメだよ」


「う、うん。わかった。」




 捕縛した女を下がらせて、アリサはコントロールパネルへと近づく。


 その二人が、すれ違う瞬間。

 女は確かに、微笑んだ。















 遊園地を管理するメインフレーム、その操作盤を前にして、アリサは絶句する。




「……これは」




 アリサが知るものよりも、数十年、いや数百年は進んだ技術であろうか。

 非常に高度なテクノロジーによって構築されたものであり、彼女の頭脳をもってしても理解が出来ない。




「ッ」




 しかし、分かりませんが通じる状況ではない。この遊園地がどのようにして機能しているのか。そして、あの女が何を行ったのか。それを解明するために、アリサは操作盤を動かし始める。




 奮闘するアリサを応援しながら、ミレイとキララは謎の女の監視を怠らない。




「皆さん、何か勘違いをしていませんか? お願いします、わたしを解放してください」


「……」




 自分は無実であると、女は訴えるものの。キララは聞く耳を持たない。

 何があっても対応できるように、弓を握る手には力がこもっていた。




「あなたも、どうか助けてください」


「……ごめんなさい。二人が、ダメだって言うので」




 ミレイとしては、助けを求める相手には応えてあげたいが。

 流石に、見ず知らずの女性よりも、仲間の意見の方が優先された。




「どうしてですか? どうして、こんな酷い仕打ちを?」


「いや、その」


「わたしの目を見て話してください。嘘なんてついてません」


「あー、うん。わたしもそう思うんだけど」





 解放してもらえるよう、ミレイを相手に女は食い下がる。


 その瞳は、妖しく輝いていた。





「ダメなんですか?」


「はい。どれだけ頼まれても、わたしは二人の言うことを信じるので――」





 ミレイは、そう言いながらも。

 持っていた大鎌を、ゆっくりと動かし。




 女を拘束していたキララの魔法を、自らの手で斬り裂いてしまう。




「……え」



 自分が何をやったのか、ミレイには一瞬理解が出来ず。





「――ありがと! この恩は忘れないわよ〜!」



 解放された女は、一目散にコントロールルームから逃げていった。




 ミレイが、自らの手で解放したため。

 キララもフェンリルも、女を素通りさせてしまう。




「ミレイちゃん!? 何で逃しちゃったの?」


「いや、その。……自分でも、なんでか」




 ミレイは大鎌を持つ自らの手を見つめる。

 操られた、という感じではない。


 ”ダメだと分かっているのに、なぜかやってしまった”。

 そんな初めての感覚に、ミレイは戸惑う。




「ここは、わたし一人で十分だから、二人はあれを追いかけて。今捕まえないと、たぶん面倒くさいことになるわ」




 つい逃してしまった。

 それで話を終わらせられるほど、”生易しい存在”ではないため。


 アリサは、二人に追跡を要請した。















「きゃー、追いかけないで〜」




 ミレイとキララが、二人がかりで女を追いかける。


 女の走る速度は、常人のそれと変わらないものの。


 まるで彼女を守るように、通路からハッピーくんの集団が出現する。




「やっぱり、あの人だけ認識されてないね」


「……そうなるように、システムを弄ってる?」




 ハッピーくんを大鎌で薙ぎ払いながら、ミレイは思考する。

 やはりあの女性は、見た目通りの人間では無いのかも知れないと。






 ハッピーくんによる妨害が功を奏し、女はミレイたちから距離を取る。

 このまま順調に行けば、逃げ切ることも可能であろう。



 だがしかし。




「うっそ!」




 彼女の行く手を阻むように、先回りをしたフェンリルが立ち塞がる。


 その瞳は、彼女を獲物と認識していた。





 フェンリルの登場に、女が足止めを食らっていると。


 ハッピーくんを全滅させたのか。

 ミレイとキララも、女の元へと追いつく。





「フェンリル、その人を通さないで!」


「わふ!」





 完全に、挟み撃ち。

 何の力も持たない女では、どうしようもない状況であった。





「はいはい。降参、こうさーん! ……せっかく楽しんでたのに。ほんと、おじゃま虫ね、あなた達」





 何かを諦めたのか、女の口調が変化し。


 面倒くさそうに、その手に”力”を具現化させる。





「”触らぬ神に祟りなし”って、知らないの?」





 時には希望を、時には絶望を振りまく。


 ”虹色”に輝く、絶対的な力の象徴。





「無慈悲に、残酷に、殺してあげる♪」





 悪しき神の力が、解き放たれた。






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