表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
魔法少女大戦
131/153

正直者が報われる






 人生において、これほど屈辱的なことがあっただろうか。

 アリサは自分に問いかける。




 ロープでぐるぐる巻きにされて、出来の悪いマスコットキャラに運ばれる。

 ミレイやキララがここに居ないのが、唯一の救いだろうか。もしもこんな光景を見られてしまったら、どちらかの息の根を止めるしかない。

 それほどまでに、恥ずかしい。


 地面の中でもみくちゃにされ、剣を失うどころか、変身すらも解除されてしまった。

 待機状態のステッキも手元には存在しない。こうなったらもう、アリサには戦う手段がなかった。




(失敗した)




 あそこで剣を落とさなければ、こんな無様な結果にはなっていなかった。

 しかし、後悔してももう遅い。変身は解けて、ステッキも失ってしまった。




――わたしなら負けないわ。




 ミレイとキララに、あれだけのことを言っておきながら。

 今の自分は、ハッピーくんに運ばれる、哀れな荷物でしかない。




(……恥ずかしい)















「お父さんとお母さんが来るまで、これで遊ぶポヨン!」


「……」




 そう言って渡されたのは、手のひらサイズのハッピーくん人形。

 一体、これでどう遊べばいいのか。




 アリサが連れてこられたのは、閉ざされた地下施設。

 そこには、沢山の人々が収容されていた。


 先ほどの冒険者の集団に、見知らぬ人々も。

 よく見てみれば、昨日出会った髭面の冒険者もいる。


 つまりアリサは、目的通りに行方不明者を発見したことになる。

 とは言え、自分もその中の一人になったわけだが。




「よう、嬢ちゃん。また会ったな」


「……ええ」




 アリサが思考停止していると、昨日の髭面の冒険者が話しかけてくる。

 その隣には、見知らぬ女性が。剣を所持しているのを見るに、彼女も冒険者だろうか。




「こっちは、俺の女房だ」




 話を聞くに、どうやら彼は行方不明になった妻を探しに、この遊園地へやって来たらしい。

 しかし、やはり何の手がかりも掴めず。

 結果として、同じ囚われの身として再会することになった。




「ごめんなさいね。依頼とか関係ないのに、うちのが邪魔しちゃって」


「……いえ。別に邪魔でもなかったので」




 アリサには、どうでもいい話である。

 どのみち彼からは、有益な情報も得られそうにない。




「しかしやはり、あの”きぐるみ”ってやつの中身には驚いたな」


「……あんた、まだ言ってるの?」


「きぐるみの中身?」


「そうよ。どう見てもあれは空っぽなのに、こいつだけ中に人が入ってるとか言ってるのよ」




 きぐるみ。ハッピーくんの中身と言えば、アリサも空っぽであると認識している。

 でなければ、あれほど容赦なく切断することは出来ない。


 となれば、この男がデタラメを言っているわけだが。




「本当なんだよ! ちょっと目付きの悪い、美人の女だった。”お前と同じ香水”を使ってたぞ」




 彼いわく。ハッピーくんとすれ違った際に妻と同じ香水の匂いがしたため、思わず呼び止めてしまったらしい。


 そして彼は、その中身を暴き。

 気づいたら、ここに運び込まれていたという。




「でもってその時一瞬、女の目が光ったような、気がしなくもないような」


「……そう」




 確たる証拠のない、よく分からない話ではあるが。

 アリサはそれを、”嘘”とは感じなかった。















「……」




 ハッピーくんに貰った人形を弄くりながら。アリサは、つまらなそうに周囲を眺める。

 視線の先では、何人もの冒険者が力を合わせ、この場所からの脱出を図ろうとしていた。




 アビリティカードの能力だろうか。


 燃える剣を持つ者。

 小さなドラゴンを召喚する者。

 他にも、様々な武装をした者たちが扉を破壊しようと試みている。


 しかし、扉は非常に強固なようで、まるで破壊できる様子がない。

 多少のダメージは入るものの、扉や壁は見る見るうちに再生してしまう。




(あれでは無理、まるで火力が足りてない。向こうの剣も切れ味が足りない。……わたしの力なら、簡単に倒せる連中ね。冒険者って、この程度のレベルなのかしら)




 アリサは冷静に戦力を分析する。


 この場にいる冒険者が力を合わせても、ここを脱出することは不可能だろう。

 魔法少女の力を持たないアリサも、それは同じであるが。




(あの二人が、ここを見つけられるとは思えない)




 アリサは、自身のアビリティカードを具現化した。

 5つ星、人界剪定機構ケラウノスを。




「……とりあえず、使ってみようかしら」




 重い腰を上げて、アリサはカードを起動してみる。


 だがしかし。

 何一つ、目立った変化は起きず。




「?」





 この瞬間、ハッピーハッピーランドの上空には、巨大な空中要塞が出現していたという。


 地下施設からは、気づきようのない事だが。





(出現、してるのかしら)



 見えない場所に出現していると、アリサは予想する。




(カードのテキストによると、街を吹き飛ばすほどの砲撃を行える。でも、この状況では絶対に使えない。……他に有効な使い道はないのかしら)




 考え事をしながら、アリサは扉の前へと近づいていく。



 周囲の必死の攻撃など、気に留める様子もなく。

 他の冒険者たちも、仕方なく攻撃の手を止めた。



 扉を前にして、アリサは考える。




「……ねぇ。わたしみたいに誰かが連れて来られた時に、攻撃して逃げようとは考えなかったの?」




 周囲の冒険者たちに、アリサは当然の疑問をぶつけた。




「あの化け物に見つかると、ここに連れ戻されるんだよ。だから、あいつが居ない時にここを出ないと」


「……そう」




 どうやら、この部屋から出ることだけが問題ではないらしい。

 ここから脱出しつつ、なおかつハッピーくんにも見つかってはならない。




(無駄に抵抗せず、ここまで来ればよかったわね)




 そうしていれば、ステッキを失くすこともなかった。

 魔法少女の力さえあれば、ここから逃げ出すことも――




(……可能、なのかしら)




 アリサは考える。


 ここは狭い地下空間。おまけに、この人々も連れて行かなければならない。そんな状況で、ハッピーくんとこの遊園地を相手にしなければならない。

 それは中々に、難易度の高い話である。


 たとえ、魔法少女として万全の状態だったとしても、この現状から抜け出すことは出来ないかも知れない。




(でも、わたしがどうにかしないと、”あの二人”が――)




 そうやって、アリサが思い詰めていると。




 突如、目の前の扉が開く。

 また別の人が連れて来られたのだろうか。




 まさか、ミレイたちが捕まったのか。アリサはそう危惧するものの。


 扉を潜ってくるのは、ハッピーくんが一体だけ。アリサの時とは違い、誰も抱えていない。




「……」



 アリサが、無言でハッピーくんと対峙していると。





「――ふふふ」



 ひょっこりと。ハッピーくんの後ろから、ミレイが顔を出してくる。




「ふふっ」



 続いて、キララも同じようにひょっこりと。





 二人とも、何とも憎たらしい笑みを浮かべていた。





「それで、迷子になったのは、どの子だポヨン?」


「へっ? あー、えっと」




 ハッピーくんに尋ねられて、ミレイは部屋の中を見渡し始める。

 目の前に立つアリサ以外にも、何十人もの人々が収容されている。


 ミレイは、ほんの少しだけ悩み、頭を捻らせて。





「――この子、うちの子です!」





 そう言って、アリサのことを指差した。

 だが、それだけでは終わらず。




「あっちの人と、あの人、こっちの人もうちの子です」




 次々と、片っ端に指をさしていく。

 右から左へと、一人ひとり。




「あと、最後にあの人も」



 そうやって、ミレイはこの場にいる全員を指差した。





「ほ、本当に全員、君の子供ポヨン?」



 珍しく、ハッピーくんも困惑してしまう。




「もちろんです! わたしを疑うんですか?」


「そうそう! ミレイちゃんは、嘘つかないんだよ」




 ミレイとキララは、大真面目に主張を行う。


 それ受けて、ハッピーくんは機能が停止。


 そうして、しばらく固まった末に。





「――わかったポヨン。みんな、気をつけて帰るポヨン」





 たった一言、”それだけ”で。

 あまりにも呆気なく、冒険者たちは解放された。

















 ”保護者”としてやって来た、ミレイの一言により。

 冒険者たちは全員、地下から脱出することが出来た。




 自分たち以外、誰も居なくなった地下施設で、ミレイ達は話をする。




「どうして、ここの場所が分かったの?」




 アリサは地上でどれだけ探索しても、地下施設の所在に気づくことが出来なかった。

 それなのになぜ、ミレイは容易くここに辿り着けたのか。アリサには分からない。




「ふふっ、ここは遊園地だからね。人を閉じ込める場所なんて、無いと思ったんだよ」



 ミレイは、胸を張って答える。




「だから人が集められる場所、保護される場所はどこかなって思って。ハッピーくんに、”迷子センター”はどこって聞いたのさ」




 遊園地のマスコットなら、迷子センターの場所くらい教えてくれる。

 ミレイとキララは、それに案内されるままについていき。




 ものの見事に、その場所が”正解”だった。




 この遊園地が、何らかのシステムに従って動いているのなら。きっとそのシステムも動揺しているのだろう。

 不審者として捕まえた冒険者たちの処遇に困り、苦肉の策として”迷子”というカテゴリーに当てはめた。


 ゆえに、対応も迷子向けのものとなる。

 親御さんが現れるまで、責任を持って子供を預かる。そのための厳重な扉と、ハッピーくんが存在していた。




「……狂ってる」



 色々な事を理解し、アリサは頭が痛くなる。




「そういえばアリサちゃん、”まほー少女”の力は?」


「……ここに来る途中に、失くしてしまったわ」




 今思い出しても、致命的な失態である。




「じゃあ、とりあえず。”落とし物センター”に行こっか」


「……あるわけないじゃない」




 ミレイの提案に、アリサは呆れるものの。






「――ポヨヨン! 落とし物には気をつけるポヨン!」



 あまりにも呆気なく、魔法少女の力は帰ってきた。






 正直者。


 素直に生きる者だからこそ、順応することが出来るのか。




「……」




 自分の持つ常識と力が、まるで通用しない。

 異世界の洗礼に、アリサは恐怖した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 人形憑依の人、怪人の上位存在、謎の瞳をもつ美女…悩みの種がいっぱいだ [一言] アリサの頑張りがまるで意味ないくらいあっさり解決してよかったw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ