敗北!? 魔法少女アリサちゃん
誤字報告等、ありがとうございます。
「不審者が確認されました。来園中のお客様は、係員の指示に従ってください」
それは異様な光景だった。
不審者、つまり冒険者の数が多いからだろうか、大量のハッピーくんが一箇所に集まってくる。
現代人として、マスコットキャラクター、遊園地という概念を知っているアリサから見ても、かなり恐ろしい光景だというのに。
何も知らない冒険者たちからすれば、一体どれほどの恐怖なのだろう。
「近寄るな!」
冒険者の一人が、鋭い剣を振るい、ハッピーくんの頭部を斬り裂く。
するとその中身は、人の影すら無い、見事なまでの空洞。
このハッピーくん達は、”空のきぐるみ”だけで動いていた。
「……なるほど。捕まった人間が、強制労働させられてるわけじゃないのね」
アトラクションの上から、アリサは冷静に地上を分析する。
助けようという考えは、残念ながら微塵も持っていなかった。
「この、化け物め!」
ハッピーくん相手に、武力で抵抗する冒険者たちであったが。
「なっ」
突如として、足が地面に沈み始める。
まるで、底なし沼にはまってしまったように。
「あ、あ。……いや、おい!」
冒険者たちは、逃れようと必死にもがくも。
体がどんどん地面に沈んでいき。
「抵抗は止めてください。ただいま制圧中です」
さらに追い打ちをかけるように、ハッピーくんが覆い被さってくる。
「……」
そのあまりの光景に、アリサは言葉を失った。
行方不明になった他の人々も、同じような目に遭ったのだろうか。
そこに残ったのは、大量のハッピーくんだけ。
必死の抵抗も虚しく、冒険者の一団は”跡形もなく消えてしまった”。
やがて、遊園地は通常営業に戻った。
何ごともなかったかのように、散り散りになっていくハッピーくんを眺めながら、アリサは考える。
冒険者たちを一方的に瞬殺した、セキュリティシステムとやらの脅威。
人抜きで動くハッピーくんと、沼のように人を吸い込む地面。
空を飛べる人間でなければ、これへの対処は難しいだろう。
(やっぱり、遊園地そのものが動いてるわね)
地上を見てみれば。斬り裂かれたハッピーくんだけでなく、戦いで壊れた建造物も、綺麗サッパリ元通りに修復されていた。
ハッピーくんを含めて、この遊園地には高度な自己修復機能が備わっているらしい。
これだけの芸当が可能なら、あの増殖スピードにも納得ができる。
(それにしても。どうしてわたしたちは、今まで狙われていないのかしら)
この遊園地のカラクリ。
セキュリティシステムについて、アリサは思考を巡らせた。
◇
冒険者たちの悲惨な一部始終を見届けて、アリサはミレイたちの元へと帰ってくる。
「どうだった? 正直、ここからじゃよく分かんなかったんだけど」
ミレイが純粋な疑問を口に。
「……」
「あはは」
間近で眺めていたアリサと、目を強化して見ていたキララは、何とも言えない表情になった。
「もしかしたら、あなたの言った通りかも知れないわ」
「え?」
「ほら、言ってたじゃない。”某テーマパークの都市伝説”。行方不明になった人間が、地下の施設に連れて行かれてるって」
少なくとも、あの冒険者たちは地面に吸い込まれていった。
あのまま、どこかに閉じ込められているのか、それとも”養分”として遊園地に吸収されたのか。
どのみち、謎を解く鍵は地下にありそうだった。
「話が単純になったわね」
「……そうかな」
ミレイは首を傾げる。
「地下施設を暴いて、捕まった人々を救出。それが完了したら、ここを跡形もなく吹き飛ばせばいい」
そう言って、アリサは自らのアビリティカードを具現化する。
5つ星、”人界剪定機構ケラウノス”。
カードテキストを信じるなら、街を消し去れるほどの超兵器である。
「たとえ修復機能を持っていたとしても。消滅させれば、大体の問題は解決するわ」
本当なら、今すぐぶっ放してもいいくらいだが。
あくまでも依頼は行方不明者の捜索のため、消すのは最後に後回し。
「今日で、終わらせましょう」
アリサは決意した。
今日この日の内に、遊園地を跡形もなく消し去ると。
「えぇ……」
話の進むスピードに、ミレイは取り残された。
「でもアリサちゃん、どうやって地下を探すの?」
「もちろん、”掘るわ”」
その覚悟を示すように、アリサの纏う衣装が変化する。
純白のドレスに、美しい青が混じり。
左手には、もう一振りの剣。
――魔法少女アリサ☆ブレイヴ/ミラクルモード。
「……本気じゃん」
まさかの最終形態に、ミレイは唖然とする。
「たとえ大量のハッピーくんが相手でも、わたしなら負けないわ。手遅れになる前に、片を付けられるはず」
連れ去られた人々の安否が分からない以上、のんきに入り口を探す時間はない。
ハッピーくんに尋ねたとしても、きっと分からないの一点張りであろう。
ゆえに、アリサは強硬手段に打って出る。
「地面を掘削する以上、わたしは”ルールを破る”ことになる」
「?」
「ルール?」
ミレイとキララは、ともに首を傾げた。
「ルールを守って遊んでいる間は、この遊園地は”お客”として扱ってくれる。だからあなた達は、きっとこのままでも大丈夫」
バカ正直に、この遊園地を楽しもうと思ったため、ミレイ達は不思議と平和に過ごせてきた。
それが、”他の行方不明者たちとの違い”である。
「わたしは暴れるから、二人はルールを守ってて」
「あー、うん。……了解」
「頑張ってね!」
かくして、魔法少女は異世界で初めての戦闘を行うことに。
◆
「――破壊行為は止めてください。武器を下ろしてください」
遊園地のど真ん中で、魔法少女は地面を破壊する。
それを止めるべく、大量のハッピーくんが集まっていた。
しかし相手は、高すぎる戦闘力を持つ最強の魔法少女。
ハッピーくんは、近づく前にバラバラに斬り刻まれる。
アリサは、本気だった。
「すっご」
「激しいね〜」
遊園地を破壊し続ける魔法少女。
そんな特殊な光景を、ミレイとキララはホテルのバルコニーから眺めていた。
掘削に協力しようとも思ったが、とても近づけるような雰囲気ではない。
果たして、あの戦闘力とやり方が、本当に合っているのだろうか。
「それにしても、やっぱり空っぽなのか」
斬り刻まれるハッピーくんたち。
もしも中に人が入っていれば、今頃あそこは地獄絵図になっていただろう。
(……じゃあ、連れて行かれた人は?)
ミレイは、ここに来て思考を開始する。
行方不明になった人々。
ハッピーくんの中身は空っぽなので、恐らくは地下に捕らえられているはず。
(地下に牢屋がある? ……いや、”ここは遊園地なんだから”、そんな場所は無いはず)
純粋に、ここを遊園地であると仮定して。
人がいっぱい捕らえられている場所。もしくは、集められている場所はどこなのか。
――もしかして、”迷子”ポヨン?
「あ」
ミレイはひらめいた。
「あのー。ちょっといいですか?」
「何かようポヨン?」
ミレイとキララは、ホテル内にいたハッピーくんに声をかける。
「えっと、――”迷子センター”って、どこにあります?」
それこそが、単純にして唯一の正解であると。
◇
二振りの剣を持って。
地面を滅茶苦茶に破壊しながら、アリサは遊園地の地下を目指す。
そうしていると。
掘削された周囲の壁が、まるで”触手”のようにアリサを襲い始めた。
「やっぱり、そう来るわね」
ハッピーくんだけではない。
この遊園地の壁や地面も、同様にセキュリティとして機能する。
しかし、彼女は魔法少女。
こんな得体の知れない敵を相手に、絶対に負けたりしない。
だがしかし。
彼女にも誤算があるとすれば。
ここに遊園地とは異なる、”別の悪意”が存在したことだろう。
「――あーらら。随分と強い子がいるのねぇ」
掘り進められた穴の上から、”一人の女性”が覗いていた。
アリサはそれに、気づかない。
「悪いけど、この子はまだ終わらせないわ」
女性の瞳が、妖しく光った。
「この調子なら、余裕で行けそうね」
圧倒的な力で、アリサは地下へと斬り進んでいく。
二振りの剣から繰り出される剣技は、まさに無双。
彼女と正面から戦える者は、この世界にもそうはいないだろう。
そんな、彼女であったが。
なぜか急に、”持っていた剣を手放してしまう”。
「え」
すっぽ抜けた。
というより、なぜ手を開いてしまったのか。
アリサは一瞬、思考が停止し。
それが、致命的な隙となった。
「あ、ちょ」
周囲の触手が、アリサの体にまとわりつく。
「そんな、とこっ」
地表からは、大量のハッピーくんが覆い被さり。
ついにアリサは、もう一振りの剣も落としてしまう。
「くっ」
そうして魔法少女は、遊園地に飲み込まれた。




