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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
花の都の冒険者
13/153

強者の条件




「あぁ、疲れたぁ〜」


 地獄の山脈を行進するかのように。ミレイは重い身体を引きずる。


 その有様は、もはや歩く屍のようであり。

 花の街並みには相応しくなかった。


「ミレイちゃん、流石に疲れ過ぎじゃない?」


 一緒にクエストをこなしてきたものの。

 ミレイとキララとでは、疲労の度合いがまるで違っていた。


「……言っておくと、これでもわたしは”20歳”なんだぞ? もういい年した大人なんだよ。」


 定期的に言っておかないと、忘れられてしまいそうなため。ミレイは20歳という単語を強調する。


「それなのに、あの”ガキども”。わたしを同世代だと思ってやがる。」



 ミレイが思い返すのは、先程まで”遊び相手”をしていた子どもたち。

 彼らが安全に遊べるよう、見守るだけの仕事だったのに。


 何故かミレイだけが仲間に入れられ、子供の体力に振り回される結果となった。


 基本的に、それを見守っていただけのキララには、当然のように疲れはない。


「でも、お母さんたち、すっごく喜んでたよ? ”ちっちゃい”のに頼りになるし、またお願いしたいって。」


「わたしたちは冒険者だぞ? ベビーシッターじゃないんだよ。」


「ふふっ。でも仕方ないよ。他に良いクエストも無いし。」


「……だよなぁ。」



 薄々、気付いてはいたものの。

 ジータンの街に、”ハラハラ・ドキドキ”の冒険は存在しなかった。

 だが、よその土地の依頼を受けようにも。ミレイたちには資金も乏しく、必要なランクすらも持っていない。

 このままでは、街の便利屋まっしぐらである。


「そう言えば、さっき黒のカードを使ってたよね。今日はどんなのが出たの?」


 キララに尋ねられて。


 ミレイは小さくため息をつくと。

 黙ってカードの中身を実体化させ、キララに手渡した。


「なにこれ?」


 それは、小さな筒状の物体であり。キララにはまるで馴染みのない代物であった。


「……”単6乾電池”。」


 ミレイが、小さくその名を呟く。


「かんでんち?」


「端的に言えば、雷の力を宿したマジックアイテムってところかな。」


 物は言いようである。


「なにそれ、すっごーい!」


「あぁ。”星1つのレアカード”だよ。」


 クエストも大変なら、ガチャの結果も悪い。

 ミレイの足取りは重かった。







 意気消沈のまま、ギルドへ向かうミレイたちだったが。


 ふと視線の先に、見知った後ろ姿を見かける。


「あっ、ギルマスだ。」



 他の住民たちを圧倒する、場違いなまでの巨体。

 はち切れんばかりの筋肉に、溢れ出す歴戦の雰囲気。

 後ろ姿だけでも、彼がソルティアの父、ギルドマスターであることは明白だった。



「そうだね。あんな人、他には居ないもんね。」


 好印象かはともかく。キララにも一目瞭然の様子。


「そうだ。手っ取り早くランクを上げる方法がないか、ちょっと聞いてみようよ。」


 先程までの疲労を跳ね飛ばして。

 ミレイはギルドマスターの方に向かっていく。


「……そんな方法、あるのかなぁ。」


 キララは、あまり乗り気ではなかった。






「ギルドマスター!」


 呼ばれて、振り返り。


「おお、お前たちか。相変わらず元気そうだな。」



 屈強なその腕には、何故か”綺麗な花”の植木鉢が抱えられていた。



「……あー、えっと。なんと言うか。」


 綺麗な花と、屈強な巨体。

 そのミスマッチさに、ミレイは言葉を失う。


 何のようかと、首を傾げるギルドマスターだが。



「――なんだか、全然似合わないですね。」



「ちょ、おま。」


 そう、思ってはいたものの。

 臆面もなく言い放ったキララに、ミレイは唖然とする。


 しかし、慣れたことなのか。

 ギルドマスターに気分を害した様子はなかった。


「あぁ。こいつはギルドに飾る予定なんだ。中々綺麗だろう。」


「まぁ、そうですけど。」


 こんな屈強な男に抱えられては、花も萎れてしまいそうに見えた。


「こういうのって、ギルマスが飾ってたんですね。」


「あぁ。全部、昔からそうだ。全て”俺の趣味”で選んでいる。」


「へぇ。」


 確かに、ギルドの内装は中々にオシャレで、街の景観にも合っている。


「こういう美しい花には、目がなくてな。」


「なるほど。」



 ただ、それを飾っている本人が、街の景観に”最もそぐわない存在”であった。



「――でもそのガタイじゃ、説得力ゼロですよね。」



(こいつ、オブラートに包むってことを知らないのか。)


 いつか、キララが誰かの地雷を踏み抜くのではないかと。

 ミレイは気が気でなかった。



「まぁ、そう思われるのも無理はないか。」


 ギルドマスター本人も、気づいてはいた。

 どれだけ花が好きだと言っても、自分の見た目では何の説得力も無いということを。


「だが、俺がこの街を愛しているのは本当だぞ? 咲き誇る花々も、そこで生活する人々もな。」


 そう。彼は紛れもなく、この街のギルドマスターなのだから。


「だから俺は現役を退く時に、ここで愛する娘たちを育てると決めた。この美しい花々に囲まれて成長すれば、きっと優しく素敵な子になってくれると思ってな。」


「……へぇ。」

(優しく、素敵な子?)


 ミレイの脳内には、花嫌いでサボり癖のある受付嬢の姿が思い浮かんでいた。


「お前たち、虹の花畑には行ったんだろう? 俺はあそこでプロポーズしたんだ。」


「そうなんですか。」


「素敵ですねぇ。」



 ギルドマスターによる、街への愛を聞き続ける2人であったが。



「――って、じゃない。」


 ミレイは、わざわざ話しかけた理由を思い出す。


「ギルドマスター。わたしたちのランクって、もっとガツンって上がらないんですか?」


 身長を伸ばすような動作で、ミレイはアピールする。


「もっと高ランクの依頼が受けたいんです。例えば、”魔獣討伐”とか。」


 その要望を聞いて。ギルドマスターの表情も変わる。


「……はやる気持ちは分かる。なにせ4つ星の所有者だからな。」


 4つ星のアビリティカード。

 それは非常に希少な力であり、子供のお守りに使うようなものでは決して無い。


「だが、規則は規則だ。どうしても高ランクの依頼が受けたいなら、”他の冒険者”のクエストに付いていけば良い。」



 そう。Cランク未満の冒険者は、自力で魔獣討伐の依頼を受けることは出来ないものの。他の高ランク冒険者が受けた依頼に、付き添いという形で参加することは可能である。

 現に、他の多くの冒険者達は、そうすることで経験を積んでおり。徐々にその功績がギルドに認められて、ランクもそれ相応に上がっていくのである。



 だがしかし。



「それはちょっと、”ハードルが高い”と言うか。」


「わたしも。知らない男の人とは、”極力話さないようにしてる”ので。」



「……お前たち。もうちょっと、頑張ろうとは思わないのか?」


 年頃の娘の扱いは難しいと、ギルドマスターは難儀する。


「というより、そもそもうちのギルドに、”高ランクの冒険者”って居るんですか?」


 ミレイは、かねてから疑問に思っていたことを口にする。


「いつもギルドで見る人達って、なんか全員パッとしないと言うか。わたしが”初めてギルドに来た時”って、もっと強そうな人が居た気がするんですけど。」



 思い返すのは、ギルドに足を踏み入れた時の記憶。


 鋼の剣を腰に刺した、ただならぬ雰囲気の剣士に。

 深い紺色のローブを身にまとった魔法使い。

 そして、不思議な仮面を被った、謎の異種族らしき人物。


 それらを鮮明に覚えているものの。

 よくよく考えたら。それ以来、1度たりとも遭遇していなかった。



「――あぁ。あれは”ヴァルトベルクの冒険者”だな。あの日は”山越えの準備”をするために、たまたま通り掛かっただけだ。」



 その衝撃的な事実に、ミレイは言葉を失う。


(そんな。あれが冒険者のアベレージだと思ってたのに。)


 残念なことに。

 初日に声をかけてきたナンパ連中こそが、この街の平均的な冒険者であった。


「まぁ、お前たちも評判は悪くないからな。地道にやってけば、その内ランクも上がるだろう。」


 その、”地道に”という言葉が。

 ミレイには、途方もない遠回りに思えた。


「そう言えば今日。珍しくローカルに、”高ランク向け”の依頼があったじゃないですか。あれって、ここの冒険者で処理できるんですか?」


 ミレイは1つ、問いかける。



「……Bランクの、”ワイバーン討伐依頼”か。」



 この街のローカルクエストのため。その存在は、ギルドマスターにも覚えがあった。


「そう、それです。何なら、わたしたちが受けても良いと思うんですけど。」


 ミレイには、そう言えるだけの”自信”があった。


「えっ、ミレイちゃん。そんな事思ってたの?」


 キララには意外な様子。


「まぁ、そこまで無理な話じゃないんじゃない? キララだって一緒だし、わたしには”フェンリル”も居るから。」


 それこそが、ミレイの自信の源であった。


 あの異界の生物たちを蹴散らしただけでなく。

 ”貴重な4つ星カード”ということで、周囲にも一目置かれている。


 その”慢心”を、ギルドマスターは見逃さない。


「……なら、受けてみるか? 」


「ホントですか!?」


 まさか、要望が通るとは思わず。ミレイは驚いた。


「ただし、”条件”がある。」


「条件?」




「――ああ。俺を、倒してみろ。」









 場所を移して、ホロホロの森。

 ギルドマスターの提示した条件を果たすために、ミレイたちは揃って森に訪れていた。



 開けた場所で向かい合う、ミレイとギルドマスター。

 両者ともに、やる気は十分であった。



 そんな彼らを見守るように。

 ミレイの相棒であるキララと、”たまたま”森で居合わせたソルティアが立っていた。



「でも、ホントに奇遇ですね。まさか森で出くわすなんて。」


「ええ。栗拾いが趣味なので。」


「……あぁ、あれ。気持ち悪いですもんね。」


 人面栗を部屋中に飾っている様子を想像して。

 キララは、ソルティアと若干距離を取った。



「本当に、一対一で良いのか? 俺としては、キララも勘定に入れてたんだがな。」


「大丈夫ですよ。」


 ミレイは自身に満ちた表情で、黄金のカードをかざすと。



 自らの持つ最強の矛、魔獣フェンリルが出現させる。

 その圧倒的な威圧感に、森全体の空気が変わる。



「こいつはかなりの暴れ馬だから。むしろ、1人のほうが戦いやすい。」


 ミレイはその矛に、絶対の信頼を寄せていた。


「……そうか。それが命取りにならなきゃいいが。」


 ギルドマスターは忠告するも。


「?」


 ミレイは首を傾げるのみ。


「まぁ、やってみれば分かる。」


 ギルドマスターは、銀色、3つ星のアビリティカードを手に持ち。

 それを具現化。



 その巨体に相応しい、鋭く強靭な”槍”を出現させる。



「死なない程度に、本気でやろう。」


 槍を構えるその出で立ちは、まさに歴戦の猛者というものであった。


 威圧感のあるその姿に、僅かに震えるミレイだが。


「分かりました。」


 自分には、最強の魔獣がついているのだと。

 その拳を強く握る。


「フェンリル、本気でやってね。でも絶対に、殺しちゃ駄目だよ。」


 主人の要望を受け。

 フェンリルは低く唸り、敵を見つめる。


 それ以上の言葉は、もう不要であった。




 互いに沈黙を、決闘の始まりと認識する。




「――行くぞッ。」


 槍を構えて、突進するように。

 ギルドマスターが鋭い一歩を踏み出す。


 鍛えられた肉体。

 そして、内なる力を燃やすことによって、人の限界を超えた速度を出す。


 数多の魔獣を狩ってきた、Aランク冒険者の妙技である。



 しかし相手は、”いずれは神にも届きうる”、常識外の獣である。



 気づけば、その鋭い爪が、彼の眼前へと迫っていた。


 ギルドマスターは、とっさに槍で受け流そうとするも。

 その剛腕に秘められてた力は、彼のそれを遥かに凌駕しており。


 勢いを殺しきれず、軽々と吹き飛ばされてしまう。


 だが、それで終わらないのが、フェンリルの恐ろしい所。



 吹き飛ばされる最中。

 ギルドマスターが目にしたのは、すでに”次の攻撃”へと移行している魔獣の姿だった。



(嘘だろッ。)


 かつて、これ程までに”殺意に満ちた存在”と戦ったことがあるだろうか。

 ふと、走馬灯のようによぎるも。



 意地と根性で反応し。


 吹き飛んだ先の木を足場にすることで、なんとか次撃をかわす。


 フェンリルの鋭い爪は、頑丈な巨木を紙のように引き裂いた。



 地面へと倒れる、巨木を尻目に。



 魔獣と槍使いが対峙する。



 他を圧倒する空気の中。

 再び、互いの刃が交わされた。






「……凄い。」


 目の前で繰り広げられる”死闘”を見て。

 キララは想定外と声を漏らす。


「あのフェンリルと、まともにやり合ってる。」



「――いえ、そう見えているだけですよ。」



 父の力量を”知り尽くしている”からこそ。

 ソルティアには、戦況が冷静に見えていた。


「流石は、4つ星のカードです。父もなんとか、食い下がってはいますが。」



 たしかに未だ、両者ともにまともなダメージを追っていない。

 それは事実ではあるものの。


 戦況という見えない天秤は、明らかに”フェンリルの側に”傾いていた。



 理由は単純に、圧倒的なまでの”能力差”。



 これが単なる力比べであったのなら、ギルドマスターに食い下がる余地は無かったであろう。

 だが、これは己の全てを用いた”戦闘”であり。

 ギルドマスターの中には、数十年という長きにわたる”記憶と経験”が宿っていた。

 格上相手の戦いも、これが初めてではない。



「120%の力を出し切って。”それでようやく”、防戦に持ち込めているに過ぎません。」



 本来ならそれは、勝ち目すら無い戦いである。

 槍と爪が”まともに”衝突すれば、槍はいともたやすく砕けてしまうだろう。



「――ですが。”カードの性能”に胡座をかいているような相手には、まだ負けませんよ。」



 そう。この戦いは、魔獣と槍使いの戦いではなく。

 ”ミレイと、ギルドマスターの戦い”なのだから。





「ふっ。」


 こちらの戦闘を、”棒立ち”で眺めるミレイを見て。

 ギルドマスターの中には、すでに勝ち筋が出来ていた。


(確かにこいつの性能はあっぱれだ。いずれは、Sランクにも届きうる逸材だろう。)



 フェンリルの剛腕によって、槍が宙に弾かれる。



「よしっ。」


 その光景に、ミレイとキララの2人は、こちら側の勝利を確信した。



 だが、しかし。



「――心構えが、なってないぞッ。」



 ギルドマスターが手をかざすと。

 弾かれた槍が空中で停止し。



 ”彼の手元”を目掛けて、飛翔してくる。



 そしてその射線上には、彼を襲おうとするフェンリルの背があり。




――勢い良く、その背中に突き刺さった。




 想定外の攻撃に、ほんの一瞬ながらフェンリルの動きは止まり。


 その僅かな隙を、ギルドマスターは見逃さない。


 彼は魔獣の壁を突破すると。

 かざしたその手に、再び槍を出現させ。



「うっ。」


 立ち尽くすミレイの眼前に、鋭く槍を突き立てた。



「これで、勝負有りだ。」


 ギルドマスターの口から、この”条件”の取り消しが言い渡される。


 これが、正々堂々たる勝負であると理解してか。

 背に軽傷を負ったフェンリルも、それ以上の攻撃を行おうとはしなかった。






「そんな。ミレイちゃんが、負けるなんて。」


 予想を覆した結果に、キララは動揺を隠せない。


 だが、隣のソルティアにとっては、ある程度予想の出来た結果であった。



「……もしも、これが実戦で。相手が凶暴な魔獣や、危険な犯罪者だったら?」



 ソルティアは静かに問いかける。



「これが、未熟な冒険者に、高ランクの依頼を受けさせない理由です。」



 冒険者の仕事は、常に命がけである。

 高ランクのカードを所有していたとしても、あらゆる脅威から身を守れるわけではない。



 ジータンの冒険者ギルドが目指すのは、”アットホーム”なギルド。


 それ故に。

 ”家族同然”である冒険者を、みすみす危険に晒すわけには行かなかった。






「ごめんね、フェンリル。わたしの考えが甘かった。」


 背中に傷を負った魔獣を、ミレイは優しく撫でる。


 フェンリルは小さく鳴き。

 主と同様に自分の不甲斐なさを悔いると、元の黄金のカードへと姿を変えた。



 背に傷を負ったからか。

 僅かばかり、カードの色は薄くなっていた。



「ゆっくり休んで、傷を癒やしてね。」


 カードを消失させ。



 何も無くなった小さな手を、ミレイは見つめた。



「そう落ち込むなよ、嬢ちゃん。」


 ギルドマスターが側に近づく。


「まだ若いんだ。これから経験を積めば、いくらでも強くなれる。」


 それは、彼の本心からの言葉だった。


 ミレイ、そしてキララも。

 自分よりも”遥か上”を目指せるだろうと、ギルドマスターは予感していた。


「こっちはもう、身体がガタガタだ。」


 限界以上の力を出し切ったからだろうか。

 ギルドマスターは、たまらず地面に腰掛ける。



「もういい年なんだから。そんな無理して、張り切らなくて良かったのに。」


 戦いを見ていた、ソルティアとキララがやって来る。


「そう言うな。俺だって、まだまだやれるだろう?」


 強がってはいるものの。

 規格外の魔獣を相手に粘ったせいで、彼はそれ以上動けそうになかった。


「お前も、久々に修行でもどうだ? 最近は、ろくに運動すらしていないだろう。」



 ソルティアがサボっている間。

 一体どこで何をしているのか、知る者は居ない。

 そしてそれを、ソルティア自身も話さない。



「ソルティアさんも、同じように戦ったりするんですか?」


 キララが純粋に尋ねるも。

 ソルティアは、いつも通りの無表情を崩さず。



「――いえ、わたしは単なる受付嬢なので。」



 燃え盛る闘志は、未だ内に秘めたまま。







「ミレイちゃん、大丈夫?」


「……うん。だけど、なにも反応できなかった。」


 フェンリルが居れば大丈夫。

 その”慢心”が、ミレイを完全に殺していた。



「そっか。」


 キララはしゃがみ込むと。

 ミレイの隣に寄り添う。


「冒険者って、強い人は強いんだね。」


「うん。やっぱり、別のパーティにでも入れてもらったほうが良いのかな。」


 経験を積むためには、それも必要なのかと。

 ミレイは考える。


 だがしかし。


「でも、男の人はちょっとなぁ。」


「ね〜」


 とりあえずは、保留ということになった。







 ジータンの街の、遙か南。

 ヴァルトベルクへと繋がる、チタン山脈の山頂付近に。


 ”光り輝く球体”が飛来する。


 意思を持ったように動くそれは、平坦な場所に着地すると。

 途端に消失し。



 中から、ローブを纏った1人の老婦が現れる。

 その出で立ちから、魔導に通ずる者であるのは明白であった。



「……まったく、こんな辺境に降りてしまうとは。」


 その場所へ降り立ったのは、狙っての事では無い様子。


「もうしばらく、”カジノ”で粘っても良かったですね。」


 そんなあれこれを呟きながら。

 老婦は、山の頂から遙か先を見つめる。



「花の都。ただの観光で終われば良いですが。」



 その”出会い”は、すぐ側まで迫っていた。




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