湖に墜つ
「ここはわたしに任せて、先に行って!」
成長し、白銀の鎧を身に纏ったミレイが、たった一人で敵と対峙する。
とはいえ、敵は三人の伝説級魔法少女。どう考えても、ミレイが太刀打ちできる相手ではない。
「いくら何でも、無謀だと思うけど」
「いいから、早く!」
しかし、ミレイは譲らなかった。
「……」
ここで言い争っても仕方がないため。
アリサは観念して、単独で女王の城を目指すことに。
三人の魔法少女を避けて、アリサは城へと一直線に飛んでいく。
だが、それを見逃すような相手ではない。
「行かせるとでも?」
風の魔法少女、フレイヤ☆オーバーループが飛翔し、圧倒的な速度でアリサに追いつく。
そのまま、攻撃を加えようとするも。
それを”上回る速度”で、ミレイがフレイヤに接近。
「なっ」
「ごめん!」
魔力のこもった拳で、フレイヤをぶん殴る。
背後から思いっきり殴られ。
フレイヤは反応すら出来ず、そのまま湖へと落下。
激しい水しぶきが発生した。
その一部始終を横目に見て、アリサはミレイの持つ力を認識する。
「わたしが戻るまで、持ちこたえて」
「むしろ、倒すつもりで頑張るよ」
ここはミレイに任せて、アリサは城へと向かった。
「――まったく、だらしがない」
伝説級魔法少女の一人。
炎の魔法少女、レジーナ☆ネイバスター。
様子見をしていた彼女であったが。
飛んでいくアリサに向けて手をかざし、そこにエネルギーを溜めていく。
だが、それを見たミレイが、光の翼を全開に急接近。
溜めたエネルギーを放出する前に、レジーナを蹴り飛ばした。
「くっ」
ミレイに蹴り飛ばされながらも、レジーナは空中で姿勢を立て直す。
確かに、スピードでは魔法少女を圧倒するものの、ミレイの攻撃力はさほど高くはない。
「思ったよりも、やりますわね」
湖に落とされたフレイヤも、ほぼ無傷で浮上してくる。
「――お二方。まずは、このイレギュラーを捕らえましょう」
三人目の魔法少女。
カティ☆メテオールも、ミレイを敵と認識した。
伝説級魔法少女が三人、ミレイと対峙する。
ミーティアと融合したことで手に入れた、圧倒的なスピード。
これを駆使して、相手を翻弄しようとするミレイであったが。
”重力使い”、カティが手をかざすと。
「ぐっ!?」
唐突に、ミレイの体に猛烈な重力がかかり、そのまま湖へと突き落とされる。
伝説の魔法少女、その力は伊達ではない。
「ちょっと、カティさん?」
「こっちにも効いてるぞ」
「……すみません、上手く加減が出来ないもので」
しかし、その力の制御は難しいらしく。カティの高重力攻撃は、仲間の二人にも影響を与えていた。
同格の魔法少女でなければ、きっと彼女たちも湖に落とされていたであろう。
重力に引っ張られ、ミレイは湖の底へと落ちていく。
しかし、そう簡単には負けられない。
光の翼をフルパワーで展開し。
圧倒的な推力をもってして、湖から浮上。
そしてそのまま、空へと飛翔する。
「重力を弱めてください! これでは追えませんわ」
「……しょうがないですね」
カティは、渋々能力を解除。
するとフレイヤは風を纏い、ミレイを追いかけた。
ミレイとフレイヤ。
以前遭遇した時には、フレイヤは圧倒的な速度でミーティアに追いつき、ミレイたちを手玉に取っていた。
しかし、憑依融合を行うことにより、ミレイとミーティアの持つ力は”より高次元”へと昇華。
光の翼によって生み出される速度は、フレイヤの追従を許さない。
「……確かに、トップスピードでは負けますが」
とはいえ、フレイヤも負けっぱなしではいられず。
鋭い風の刃を形成し、それをミレイに向かって解き放つ。
「ッ」
まるで銃弾のように、無数の風の刃が襲ってくるも。
研ぎ澄まされた感覚をもって、ミレイはその全てを回避する。
伝説の魔法少女を、華麗に翻弄していた。
しかし、敵は一人ではない。
飛び回るミレイを見上げながら、レジーナはその手に膨大なエネルギーをチャージ。
そのエネルギーを、一気に解放すると。
「――落ちろ」
竜王の一撃に等しい、強力な”破壊光線”を発射した。
「なっ」
放たれた光線を、ミレイは紙一重で回避する。
凄まじい光線の威力によって、雲には大穴が空いていた。
(……当たったら、死んでまう)
敵の攻撃力に、ミレイは戦慄する。
風の魔法少女、フレイヤと。
炎の魔法少女、レジーナ。
4つ星との憑依融合を果たしても、一切油断の出来ない強者であった。
そして、敵はもう一人。
「――引っ張ります」
重力使い、カティが手をかざすと。
「うっ」
彼女の元へと、ミレイの体が引っ張られる。
光の翼の出力なら、それに抗うことが出来るも。
結果として、ミレイは空中で身動きが取れなくなってしまう。
「止まっていれば、単なる的だな」
炎の魔法少女、レジーナが破壊光線の第二射を放つ。
完全に、ミレイへの直撃コースであり。
「ッ」
命の危機を感じ、ミレイは咄嗟に”サンドボックス”を起動。
大量の砂を盾にすることで、光線の威力を殺した。
しかし、抑えきれなかった爆発に吹き飛ばされ、ミレイは湖へと落下していく。
(……やっぱ、無理かも)
アリサに対して、カッコよく見栄を張ったものの。
三対一でボコボコにされ、ミレイは涙目になっていた。
◆
ミレイが三人の伝説級魔法少女と戦ってる頃、女王の城では。
城にいる大量の魔法少女を相手に、アリサが一騎当千の大暴れをしていた。
――きゃあああ!
研ぎ澄まされた剣に、並の魔法少女では太刀打ちできず。
悲鳴を上げながら、次々と倒されていく。
たった一人のために、城にいる全ての魔法少女が集まってくる。
しかし、アリサは負けられない。
伝説の魔法少女と比べれば、その他の魔法少女など有象無象に過ぎず。
ブレイヴより強いAランク魔法少女が相手でも、アリサには関係なかった。
『ステッキの保管場所は、城の地下研究所にあるわ』
モニカに教えてもらった情報を頼りに、城の地下を目指していく。
その頃、玉座の間では。
「――女王陛下、敵が城内に侵入しました!」
妖精界の新たなる支配者、”女王レイシー”が襲撃の報告を受けていた。
本来であれば、玉座には正しい女王が座っているはずである。
だが今、そこに君臨するのは、”魔法少女の王”だった。
「敵の数は一人。おそらくは、研究所を目指していると思われます」
部下の魔法少女から報告を受けながらも、レイシーはまったくもって動じない。
まるで、全てが”予想通り”であるかのように。
「……悲しいものね」
ただ、哀れみを口にするのみ。
そんな事など、つゆ知らず。
天井を力ずくで突き破って、アリサは地下の研究所へとやって来た。
「ふぅ」
無理やりな突撃をしたせいで、白銀のドレスはかなりの損傷を受けている。
城の地下にある研究所。そこは明らかに、他とは雰囲気が違っていた。
ファンタジーの世界から、急にSFの世界にやって来たかのように。人間界でもお目にかかれないような、ハイテクな電子機器で溢れている。
「はわわっ」
この研究所のスタッフだろうか。一人の妖精が、アリサを見て後ずさる。
「伝説のステッキは、どこに保管してるの?」
「ふぎゅ」
妖精を掴み上げて、アリサは彼を尋問する。
「し、知りません」
「嘘、ここにあるはずでしょう!」
この戦いに勝つためには、こちらも伝説級のステッキを手に入れる必要がある。
そのために、アリサは珍しく声を荒らげていた。
「ほんとに知らないんですぅ」
しかし、妖精からは何も情報を聞き出せず。
仕方がないので、アリサは自力で杖を探すことに。
「……一体どこに」
この場所でステッキを管理しているのは確かなようで、関係のないステッキは大量に出てくる。
けれども、お目当ての伝説級ステッキは見当たらない。
「早くしないと」
こうやって探している間も、城の外ではミレイが戦っているはず。
そんな彼女の頑張りを無駄にしないためにも、どうしてもステッキを手に入れる必要があった。
しかし、いくら探しても伝説級のステッキは見当たらず。
アリサが焦っていると。
「――残念。あれはもう”破壊”したのよ」
研究所に、一人の少女がやって来る。
「こんな風に、万が一があったら困るもの」
倒すべき敵にして、魔法少女たちの王。
伝説の魔法少女、レイシーが現れた。
◇
空から飛来する”隕石群”と、地上から発射される”破壊光線”。
そして、後ろから追尾してくる”風の刃”を避けながら。
傷だらけのミレイは、まだ何とか戦いを続けていた。
「ッ」
しかし、いくら速度で勝っていても、三対一では分が悪く。
敵の猛攻を前に、ミレイの集中力もすり減っていく。
「うぐっ」
そしてついに、破壊光線の直撃を受けてしまった。
光の翼が消失し、ミレイは湖へと落下していく。
もはや彼女に、体勢を立て直す余裕は残っておらず。
そのまま湖に着水し、激しい水しぶきが舞い上がった。
水面の光を見つめながら、ミレイは湖の底へと沈んでいく。
力なく伸ばされた手では、何も掴むことは出来ない。
ミーティアとの憑依融合が解除され。
ミレイは、元の小さな姿へ戻ってしまう。
そんな彼女を助けるために、傷だらけになったミーティアが具現化。
ミレイの体を背負って、水面へと持ち上げていく。
そのさなか、
――待って、ミレイちゃーん!!
思えばなぜ、こんな事になったのか。
ミレイは全てを思い出した。
 




