よみがえる剣
およそ一年前、この日本の地に魔法少女の力がもたらされた。
力を与えられたのは、14人の美少女たち。
それだけなら、まだ良かったのだが。
その14人の美少女は、全員が全員、何からの罪を犯した”極悪美少女”であった。
傷害、売春、窃盗、詐欺、殺人未遂、通り魔、強制わいせつ。
明らかに普通ではない者に、魔法少女の力が与えられた。
とびっきりの激ヤバ魔法少女。
そしてその中には、真神アリサも含まれる。
「……まぁ。あいつらと同列に扱われるのは、正直不本意ね」
ピンチから救ってくれた、アリサと因縁のある魔法少女たち。そのとんでもない素性を聞いて、ミレイは絶句する。
そんなの、絶対に魔法少女じゃない。
「アリサちゃんは、一体何をやったの?」
「……わたしは捕まってないから、実質無罪よ」
自分が何をやらかしたのか、アリサはそれを説明しない。
なので、代わりに”彼女たち”が口を開く。
「そいつは、最悪のコンピュータウイルスを生み出したんだよ!」
「そうそう、仮想通貨を崩壊させた極悪人」
「よっ、天才少女!」
魔法少女たちに素性をバラされて、アリサの表情が怒りに染まる。
「……天使。わたしが前歯をへし折ったのに、よくステッキに適合できたわね」
「うぐっ、本名を呼ぶんじゃねぇ!」
巨大な銃を持った魔法少女、天使とアリサには色々と因縁があるらしい。
それにしても、見事なまでのキラキラネームである。
「実際、最初は適合できなかったのよ?」
「魔法で治して、なんとかね〜」
美少女でなければ、魔法少女にはなれない。
適合にはルックスが条件なため、歯が欠けたりすると変身できなくなるらしい。
「それにしても、どうしてここへやって来たの? ステッキだって、前に没収されたはず」
「それは、わたしが手引したのよ」
そう言って現れたのは、ふわふわと宙に浮かぶ”ピンク色の妖精”。
コロンボとは別の個体であり、声質も女性っぽい。
その妖精の顔を見て、アリサの顔がこわばる。
「……モニカ」
「久しぶりね、アリサ」
どうやら彼女たちの間には、浅からぬ関係があるらしく。
ミレイは困惑しつつも、二人の様子を見つめる。
「……むぅ」
敵であるフレイヤも、空気を読んで展開を見つめていた。
その妖精の名はモニカ。
コロンボと同様に、一年前ステッキの回収にやって来た妖精である。
ステッキの管理者でもあった彼女は、卓越した頭脳を有しており。
ハッカーであるアリサの住所を特定すると、ステッキの回収を手伝うようにお願いしてきた。
それだけなら、百歩譲って許すことは出来たが。
「――モニカは、あの事件の全ての元凶だった」
悪の妖精、モニカは微笑む。
かつての事件を懐かしむように。
「どういうこと?」
「こいつは、ただ”面白いもの”を見たいという理由で、人間界にステッキを持ち込んだの。しかも、よりにもよって”あんな連中”にね」
あんな連中、上空の魔法少女たちが手を振ってくる。
可愛い顔をしつつ、どいつもこいつも”凶暴”。
一年前の事件の後、ほとんどが少年院に送られた。
「でもあなたも、わたしと同じで”退屈”してたでしょう? かなり良い刺激になったんじゃないかしら」
戦いと混乱をもたらしておいて、モニカには悪びれる様子もなかった。
彼女は、正真正銘の悪なのだから。
「……あの戦いで学んだことは一つだけ。この世界は、どうしようもないクズで溢れてる」
最悪の魔法少女たちと戦い、モニカには裏切られ。
一年前の事件を経て、アリサは本格的な”人間嫌い”になった。
他人に対する容赦を一切しなくなり。
学校で自分をイジメてくる連中にも、本気の”仕返し”をするようになった。
嘘と悪意にまみれた、この世界。
だが、しかし。
空からやってきた異世界人。
ミレイと出会って、アリサは衝撃を受けた。
――あぁ、こんな人間がいるのね。
おバカで感情的で、それでいて優しい。
そしてそんな彼女が、”素晴らしい”と絶賛する世界がどこかにある。
その事実に、心が震えた。
「でもあなた、妖精界に連行されたはずじゃ」
「ふふっ。新しく牢獄の仲間になったお方、女王陛下に頼まれたのよ。この事態を解決してくれれば、わたしに恩赦を与えてくれるって。……正直わたしも、あの”新しい女王”は嫌いだから」
敵の敵は味方。
捕らえられた女王の手を借りて、モニカは牢獄から脱走した。
「よりにもよって、あいつらに力を渡すなんて」
「いいじゃない。その凶暴性と強さは、あなたもよく知ってるでしょう?」
かつて戦った魔法少女たち。彼女たちは、単なる美少女ではない。
ほぼ全員が、少年院送りになる”激ヤバ連中”である。
だが、その実力は本物であり。
現に敵の魔法少女軍団を撃破していた。
「彼女たちには、”一年前と同じステッキ”を与えたわ。ということで、もちろんあなたにも」
モニカは、奪った最後のステッキをアリサに手渡す。
アリサにとって、”忘れられない力”を。
「……」
本気で戦う覚悟を決め、アリサはステッキを握りしめた。
この力を使うのなら、もう絶対に負けられない。
「変身」
アリサがステッキを起動すると。元々使っていたニックスの変身が解除され。その代わりに、別の衣装に変わっていく。
汚れなき純白のドレスに。
固い決意で握られた、”白銀の剣”。
「――魔法少女、アリサ☆ブレイヴ。参上」
最強の魔法少女が、帰ってきた。
◆
アリサの変身が終わる。
フレイヤは、律儀にそれまで待ってくれていた。
たとえ洗脳されていても、根っこの優しさが隠しきれない。
「ブレイヴ? たかがBランクのステッキで、一体何が出来ますの?」
「……ちゃんと、戦える」
アリサはフレイヤに急接近すると。
白銀の剣を、思いっきり振るった。
あまりにも鋭い太刀筋。
フレイヤはそれに危機感を覚え。防ぐのではなく、回避を行う。
フレイヤはそのままの勢いで、くるりと空中で舞い。
アリサに向かって、風の刃を解き放つ。
アリサはそれを、剣の一閃で切り捨てた。
「ッ」
Bランクの魔法少女に、伝説級の攻撃が弾かれた。
その事実に、フレイヤは戦慄する。
「ですがっ」
フレイヤは、自身を中心に強烈なトルネードを生み出した。
「わわっ」
ミレイはミーティアの背中に乗って退避し。
他の魔法少女たちも距離を取る。
「ふふっ」
何人たりとも寄せ付けない、伝説の魔法少女の力。
それに酔いしれるフレイヤであったが。
アリサの放つ、剣の一閃が。
トルネードを容易く斬り裂いた。
「なっ、どういうことですの?」
「……このブレイヴの能力は、”剣一本”に集約されてる。他には一切魔法が使えないけど。この剣は、”他の全てを凌駕する”」
剣の魔法少女、アリサ☆ブレイヴ。
かつて彼女は、たった一本の剣だけで他の魔法少女たちを下した。
研ぎ澄まされたその一撃は、伝説の魔法少女にも通用する。
「でしたら」
とはいえ、フレイヤも負けてはいられない。
全身に風を纏うと。
これまでとは比べ物にならないスピードで、アリサに接近。
圧倒的な身体能力を持ってして、アリサに近接戦闘を仕掛ける。
「ッ」
類まれなセンスで、アリサはフレイヤの攻撃に対応するも。
流石に、これほどの性能差は埋められず。
攻撃を捌くのが精一杯で、防戦一方になってしまう。
だがしかし、この戦いは彼女たちだけのものではない。
「――あははっ」
待機していた魔法少女たちが、一斉にフレイヤに攻撃し始める。
流石のフレイヤも、それは無視できず。
アリサから距離を取ると。
「死ねゴラァッ!」
砲撃の魔法少女、天使が攻撃を加えてくる。
「ッ」
それを回避すると、容赦ないアリサの剣戟が繰り出され。
「潰れちゃえ!」
他の魔法少女たちも、絶え間なく攻撃を仕掛けてくる。
(――なんですの!? この人たち)
明らかに、”殺意”の度合いが違う。
最悪の魔法少女たちによる怒涛の攻撃に、フレイヤは押されてしまう。
「はぁあああッ!」
これでは埒が明かないので。
フレイヤは猛烈な風を生み出し、邪魔な魔法少女たちを引き離す。
「……流石に、この数は厄介ですわね」
ステッキの性能差を物ともしない、凶悪な魔法少女たち。
フレイヤは、このままでは勝てないと判断する。
「あの方にお伝えしますわ。あなた達という”脅威”を」
最後に捨て台詞を残すと。
倒された周囲の味方を回収し、フレイヤはその場から逃走した。
◇
「伝説の魔法少女っつっても、大したことなかったな!」
「いや、こちらの攻撃は一度も当たってなかっただろ」
フレイヤを撃退し、魔法少女たちは勝利を分かち合う。
とはいえ全員が全員、いわくつきの美少女であり。
その悪事を聞いてしまったミレイは、完全にビビっていた。
「で、なんなんだ? そのチビっ子は。……お前の✕✕✕か?」
「いいえ、きっと✕✕✕したのよ。✕✕✕して✕✕✕✕✕✕に違いないわ」
「あ、あ」
今まで聞いたことのない暴言に、ミレイは顔を真っ赤にする。
正真正銘、根っこからヤバい連中である。
「この子はミレイ。あなた達とは、”住んでる世界”が違うのよ」
「何だよそれ」
比喩ではなく、文字通り世界が違っていた。
「んで、あたしらで世界を救うんだろ?」
砲撃の魔法少女、天使が銃を担ぐ。
「そうね。向こうが体制を整える前に、こっちから攻めるべきね」
敵は、こちら側を完全に脅威と認識した。
正面からまともに戦えるのは、おそらくは一度が限界であろう。
なんとしても妖精界に突入し、敵の親玉を倒さなければならない。
「――おもしれぇ、魔法少女大戦だッ!!」
世界の命運は、14人の魔法少女と、1人のドラゴン使い(?)に託された。
 




