新たなる支配者
感想等、ありがとうございます
「おおー」
電車の窓から見える風景に、ミレイは驚きを隠せない。
一面に広がる青い海、青い空。まるで映画のワンシーンのように、幻想的な風景が広がっている。
初めての四国。同じ日本なので、それほど珍しいものも見れられないだろうと思っていたが。車窓から見える風景だけで、すでにミレイは感動していた。
世界は広い。わざわざ別の異世界に行かなくても、新しい発見がいくらでも存在する。そんな当たり前に、ミレイはようやく気づく。
伝説のマジカルステッキを求めて、ミレイたちは四国にある高知県を目指していた。
どんな事が待ち受けているのか、色々と不安に思うことはあるが。
決して一人ではないため、ミレイは不安ではない。
むしろ、楽しさすら感じている。
「随分とテンションが高いわね」
「四国って、初めてだから」
「異世界と比べたら、珍しいものなんて無いと思うけど」
どうしてミレイは楽しそうなのか、アリサには理由が分からなかった。
パクパクと、甘いお菓子を口に運んでいく。
美しい風景と相まって、とても有意義な時間である。
元の世界に戻ったら、こういった日本のお菓子も食べられなくなるので、ミレイは死ぬ気でお腹に詰めていた。
カバンの中にいるコロンボは、そんなミレイを見つめている。
「そんなに食べると、太っちゃうコロン」
「……分かってる、分かってるんだけど」
次はいつ食べられるのか分からないので。
ミレイは、体重より食欲を優先した。
「ステッキの封印って、どうしたら解除できるの?」
アリサがコロンボに尋ねる。
「”相応しき者”が現れれば、ステッキは自ずと姿を現すコロン」
「……そう」
アリサはそれで納得する。
しかし、ミレイには相応しき者の意味が分からない。
「相応しき者って?」
「もちろん、”美少女”だコロン!」
コロンボは、当然のように答えた。
魔法少女になれるのは、選ばれし”美少女”のみ。
その法則に、ミレイは微妙な気持ちになる。
「それって、ちょっと嫌だよね。もしもステッキを手にしても、起動できなかったら悲しいような」
お前は可愛くないと、そう宣言されるようなものである。
そんなミレイに対して。何を思ったか、アリサは自身の持つ指輪に触れて、”ニックス”のマジカルステッキを具現化。
それを、ミレイに手渡した。
「え?」
「先端に付いてる宝石が光れば、適合者である証よ」
杖を握って、試してみろ。そんな圧が感じられる。
「あぅ」
ミレイは、怖くて握りたくなかった。
「大丈夫だコロン。Cランクは”守備範囲”が広いから、ミレイでも起動できるコロン」
コロンボからの、謎の励ましを受けつつ。
恐る恐る、ミレイはステッキを握ってみた。
すると、ステッキの宝石部分が”光”を宿す。
これはつまり、ミレイがステッキに認められた証拠。その気になれば、ミレイは魔法少女になれるのである。
「おおー」
何だかんだ言いつつも、ミレイは素直に嬉しかった。
ミレイとアリサが、楽しそうにお菓子を食べていると。
「……あと、一つコロン」
カバンに詰められたコロンボが、ちょっと苦しそうに話しかけてくる。
「僕はいつまで、”これ”と一緒に居ればいいコロン?」
コロンボはカバンの中で、”真っ黒な水晶”と一緒に詰められていた。
ミレイの召喚した2つ星のカード、暗黒水晶。理屈は不明だが、”魔力を吸収する”特性を持っており。
現在進行系で、コロンボから魔力を吸い取っている。
「我慢して。あなたが探知される可能性があるから、それで抑えているだけ。これは必要な措置よ」
「コ、コロン」
少しでも、魔法少女に見つかる可能性を減らすために、コロンボは謎に魔力を吸われ続ける。
「これって、死んだりしないコロン?」
「……」
その問いに答えられる者は、ここにはいなかった。
◆
「あははっ」
泊まっているホテルの部屋で、ミレイはくだらないバラエティ番組を見る。
大量のお菓子を食べながら、番組の内容に無邪気に笑う。
世界が違うからか、知らないタレント、知らないお笑い芸人ばかりであったが、それでも十分に面白い。
ミレイがごろごろと過ごす中、アリサはスマホを使って、明日の目的地を確認していた。
「三嶺神社の境内に、樹齢10万年の大樹がある。わたしの考えが正しければ、伝説のステッキはここに封印されているはずよ」
「へぇ。そんなの、よく見つけたね」
「ネットで30分も探せば、この程度の情報は簡単に手に入るわ」
「え」
まさかの言葉に、ミレイは驚く。
「じゃあ何で、図書館で調べる必要があったの?」
「一番、”情報の少ない場所”へ行きたかったから」
「?」
言っていることの意味が、ミレイにはよく分からない。
「敵はすでに、伝説級のステッキを一つは所持してる。なら、他の所在を知っててもおかしくないわ。向こうもステッキを回収しようとするでしょうし、それと鉢合わせにはなりたくない」
アリサは、自分なりに色々と考えていた。
「わたしの予想では、伝説級のステッキは全部で”5本”存在するはず。そして、それが封印された場所の中で、一番”マイナー”な場所が、明日向かう三嶺神社よ」
世界各地に点在する、ステッキの封印場所。それら全ての場所を把握した上で、アリサは最も安全な場所を選んでいた。
とはいえ、他の封印場所は全て海外にあるため、若干消去法なのは否めないが。
「へぇ」
アリサの真面目な話を、ミレイはテレビを見ながら聞いている。
テレビの内容と、お菓子の味に夢中で、あまり話が耳に入っていない。
そんな様子に、アリサはため息を吐いた。
「……明日が心配ね」
ミレイが、くだらないバラエティ番組を眺めていると。
突如として、その画面が切り替わる。
「へ?」
画面に映し出されているのは、知らない”お城の中”らしき場所。
薄暗い照明に照らされて。
画面の中央にある椅子に、”一人の少女”が座っていた。
それは、とても美しい少女であった。
気の強そうな表情に、アリサと同じ”桜色の髪の毛”。
ただの少女ではないことは、画面越しにも理解できる。
これは一体、どういう映像なのか。
ミレイが疑問に思っていると。
『世界中の皆さん、こんにちは。わたしの名前は”レイシー”。新しく、この世界の支配者となる者よ』
画面の少女、レイシーが自己紹介を行う。
『意味が分からない、そう思っているでしょうね』
レイシーが、指パッチンを行うと。
彼女の背後に明かりが灯り。
そこに立っていた、”何十人もの少女”が映し出される。
少女たちの手には、マジカルステッキが握られていた。
『総員、変身なさい』
レイシーの命令に従い、後ろの少女たちが一斉にステッキを起動。
多種多様な魔法少女へと変身した。
『これがわたし達、魔法少女という存在よ。ニュースとかで、知っている人も多いでしょう』
何十人という数の魔法少女。
レイシーという少女は、その全てを支配下に置いている。
『わたし達魔法少女は、世界に対して”宣戦布告”をするわ。この世界は、あなた達人間には相応しくない。だからわたし達が、代わりに世界を管理するの』
『そして、魔法少女以外の武力は、一切認めません』
すると、再び画面が切り替わる。
続いて映し出されたのは、どこかの軍事施設らしき場所。
激しい攻撃を受け、無惨にも炎上していた。
映し出されるのは、一箇所だけではなく。他にも様々な場所に切り替わっていく。
そして、そのどれもが完全に破壊されていた。
『今流した映像は、世界各地の軍事施設よ。見ての通り、我々魔法少女の手によって、完膚なきまでに破壊したわ』
流れる映像、レイシーの話す内容に。
ミレイは言葉を失う。
『人類の時代は、今日をもって終了します。明日からは、魔法少女の時代になるわ』
『”新たなる支配者”を、迎える準備をしておきなさい』
最後に、そう言い残して。
魔法少女による電波ジャックは終了した。
とんでもないものを見てしまい。
ミレイは、開いた口が塞がらない。
「……とりあえず、敵の目的は分かったわね」
対して、アリサは冷静に判断をしていた。
魔法少女による支配。
紛うことなき、”世界征服”である。
「お菓子、食べてる場合じゃないかも」
「そう?」
ミレイは驚きで頭がいっぱいだが。
アリサは気にした様子がなく、ミレイのお菓子を食べ始める。
「やることは何も変わらないわ。今日はゆっくり休んで、明日に備えましょう」
恐れることはない。
単純に、”殴るべき相手”の顔が分かったのである。
その名は、レイシー。
世界を手中に収めようとする、伝説の魔法少女。
◆◇
朝日が登る時間帯。
人も少ない田舎町に、ミレイたちはやって来た。
山の上にある三嶺神社を目指して、ミレイとアリサは長い階段を登っていく。
時間帯が時間帯なので、彼女たち以外に人の姿はない。
境内へと繋がる階段は、鬱蒼とした木々に囲まれ。
どこか異様な雰囲気に包まれている。
「なんか、いかにもって感じの場所だね」
「ええ」
伝説のステッキを手にするべく、二人は神社を目指す。
「ここまで来て、何もなかったらどうしよ」
「いいえ、必ずここにあるはず」
アリサには確信があった。伝説のマジカルステッキが、この場所に封印されていると。
もしも、ここにステッキが無かったとしたら。
それはきっと――
唯一の希望に懸けて、二人は境内に足を踏み入れる。
 




