もこもこセクシー
感想等、ありがとうございます。
『さぁて、波乱の続く予選会ですが、これより二回戦を開始します!』
帝都ヨシュアで行われる、帝都最強決定戦の予選会。一回戦全ての試合が終了し、続いて第二回戦が始まろうとしていた。
特設の闘技場にて、受付嬢タバサの実況が響き渡る。
『二回戦一試合目は、ミレイ選手vs 鬼童丸選手だ!』
(……鬼童丸?)
武舞台の上に、ミレイが立つ。相変わらず、パンダと融合した姿であり、いつもより背が高い。
そんな彼女と対峙するのは、フルプレートアーマーを身に纏う大男。ミレイとの身長差は歴然であり、非常に重そうな大剣を背負っていた。
鎧のせいで顔は見えないが。文字通り、鬼のような男である。
(めっちゃ強そう)
本当に同じ人間かと、そう思わずにいられない。
『一回戦では、対戦相手を圧倒したミレイ選手だが、今度の戦いはどうだー? 鬼童丸選手は、帝都でも指折りの実力者にして、Aランク冒険者。果たして、Eランクの彼女に勝ち目があるのか!?』
「うっそー!」
ミレイの悲鳴も関係なく。
『――それでは、試合開始ッ!!』
二回戦は幕を開けた。
試合のゴングが鳴り。ミレイは緊張しつつ、対戦相手を見つめる。
憑依融合があるとはいえ、大男が相手では流石に恐怖の方が勝っていた。
(めっちゃ武器がおっきい)
ドラゴンでも真っ二つに出来そうな、巨大な大剣。もはや、アクションゲームでしか見たこと無い。
ミレイが内心怯えていると。それを見かねて、対戦相手の鬼童丸が話しかけてくる。
「君、Eランクなのかい?」
「ええ、まぁ」
鬼のような大男だが、声は優しげであった。
「とはいえ、あのヴァイオラを倒すとは。侮っていては、こちらが痛い目を見そうだな」
そう言って、鬼童丸は大剣を構える。
「あぁ、やっぱそれ使うんだ」
巨大な大剣。どう考えても、人間相手に使う武器ではない。
「では、お手並み拝見だ」
鬼童丸は大きく跳躍し。ミレイに向かって、思いっきり大剣を振り下ろす。
「ッ」
ミレイは、真後ろに跳んで攻撃を避けるも。
とっさの判断で跳び過ぎてしまい、そのまま武舞台の外へと。
(あかん!)
場外に落ちる寸前のところで、”機械の翼”――フォトンギア・イカロスを起動。
華麗に宙を舞い、武舞台の上に戻っていく。
「ふぅ」
しかし、戦いには使わない予定なので、翼の具現化を解いた。
「……なるほど、それが君の能力か」
「ええ、まぁ」
正確には、そのうちの一つである。
「なら、これにはどう対処する?」
鬼童丸は大剣を構えると、刀身に魔力を纏わせ。
「フンッ」
ミレイに向けて、鋭い斬撃を飛ばした。
「ッ」
ミレイは、思わず冷や汗をかくも。
「負けるかッ!」
拳に魔力を纏わせて。渾身のパンチを放つことで、鬼童丸の斬撃を打ち消した。
「やるな」
地面を蹴り、鬼童丸がミレイのもとに接近すると。思いっきり大剣を振り払う。
ミレイは、華麗な跳躍をもって攻撃を回避。
そのままの勢いで、鬼童丸の頭に”かかと落とし”を放った。
魔力の籠もった一撃。
重い衝撃が発生する。
だが、鬼童丸はそれに耐え切り。
「フンッ」
ミレイの足を掴むと、武舞台の真ん中へとぶん投げた。
「うっ」
着地に失敗し、ミレイは地面を転がる。
「……いてて」
全体的に体が痛むも。
「――避けなさい!!」
「ッ」
どこからか聞こえた、フェイトの声に反応し。
ミレイは、咄嗟にその場所を離れる。
すると間髪入れず、ミレイのいた場所に鬼童丸の拳が突き刺さる。
地面が砕けるほどの、恐ろしい威力であった。
「ふぅ」
流石に、Aランク冒険者と言うこともあり。ミレイの全力の打撃を与えても、そう簡単に倒せそうにない。
「……」
どうやったら倒せるか、ミレイは考える。
困った時には、聖女殺しの力に頼るべきだが。あの力では”手加減”が出来ない。正確には、中の人が手加減を好まないため、無理に手加減しようとすると憑依融合が解けてしまう。
正真正銘の化け物相手でないと、聖女殺しは使えない。
ならば、
「ここは、君の力を借りようかな」
ミレイは両手を合わせて、その中にあるカードを呼び寄せる。
この世界で初めて召喚した、”原点”とも呼べる黄金のカードを。
「行こう」
心を、一つに。
――憑依融合/Ver.フェンリル――
パンダからフェンリルに、力を切り替え。ミレイの姿が変わっていく。
ぶっつけ本番。フェンリルとの融合は初めてだが、失敗する理由はどこにもない。
服装が完全に変化し、その体に強力なパワーが宿る。
フェンリルとの融合なら、絶対に勝てるはず。そう思って、ミレイは変身したものの。
――おおー!
会場内が、妙な雰囲気に包まれる。
対戦相手の鬼童丸は、気まずそうに視線を外していた。
ミレイは、何となく察してしまう。
(……なんか、”涼しい”)
先程までと比べて、圧倒的に肌で風を感じている。
『おおっと、ミレイ選手! なんだ、その格好は!? 一瞬のうちに、”もこもこセクシー水着”に着替えたぞ!!』
若干のオオカミ要素があるものの。それは紛うことなき、ビキニタイプの水着であった。
今のミレイは、”普段より成長した姿”ということもあり、周囲からの熱い視線が突き刺さる。
「あー、君。その格好で戦うつもりかい?」
鬼童丸からの、なんとも言えない反応を受け。ミレイの顔が、赤く染まっていく。
(……こ、ここに居たくない)
ミレイは、完全に戦意を喪失していた。
「戦う気がないのなら、もうリタイアしたほうが――」
話しかけながら、鬼童丸が近づいてくる。
それに対して、ミレイはうつむいたまま。
「……む」
「む?」
りんごのように、真っ赤に染まった顔をして。
「――むりぃー!!」
それ以上、近づかないで。そう言わんばかりに、手を思いっきり振り払い。
”鋭い爪”のような、強烈な衝撃波が発生。
「がっ!?」
鬼童丸を、いとも容易く吹き飛ばす。
フルプレートのアーマーを、無惨にも引き裂きながら。
圧倒的な力に抗えないまま、鬼童丸は場外に落ちた。
『おおっと、何という威力だ! ミレイ選手、鬼童丸選手を一撃で吹き飛ばし、次の戦いへと駒を進めたぁ!!』
かくして、ミレイvs鬼童丸は、ミレイの勝利で幕を下ろした。
だがしかし。ミレイは武舞台の上から動けず、その場で丸くなってしまう。
(……は、恥ずかしい)
水着同然の姿で、大勢の観客たちに見られて。
ミレイは、精神的な大ダメージを負った。
◆◇
電車での戦いを終えた後。ミレイとアリサは急いでその場を離れ、タクシーでの移動に切り替えていた。
2人は後部座席に座り。
アリサはスマートフォンを弄っている。
「……とりあえずは、大丈夫そうね。あなたの写真は、ネットに出回ってないわ」
「よかった〜。SNSに晒されたら終わりだもん」
アリサの言葉に、ミレイは一安心する。
「でも、ドラゴンと魔法少女に関しては、かなり動画が上がってるわ」
「ほんと? 見せて見せて」
「ええ」
アリサのスマホで、ネットに上がった動画を見てみることに。
そこに映っていたのは、派手な空中戦を繰り広げる、ミーティアと魔法少女の姿だった。
魔法少女みやびは、様々な氷の武器をばら撒き、それが周囲のビルに当たりまくっている。
「うわ、派手だねぇ」
「そうね。……なぜ彼女は、こんな白昼堂々と」
動画の中で、激しい攻撃を繰り返す魔法少女であったが。
ミーティアによる、”異次元のスピード”にはまるで対処ができず。
「あ」
尻尾による攻撃で、呆気なく吹き飛ばされてしまう。
おそらくは、それが決定打となったのだろう。
ミーティアがその場を離れていくシーンで、動画は終了した。
「でも、ほんとに良かった。もし怪我人が出てたら、わたしじゃ治癒できないから」
ミレイはほっと一安心する。
「あっ、でも、回復薬が。……いや、やっぱ無いな」
もしも、魔導書が同じ世界にあれば、様々なカードを呼び出せるのだが。今のミレイは、ほとんど無一文である。
現状、手元にあるカードは、たったの3枚。
ミーティア、サンドボックス、そして暗黒水晶と。
魔法少女という未知なる存在がいる以上、これだけでは心もとない。
「ていうかそもそも、魔法少女って何なの?」
「……さぁ」
ミレイの質問に、アリサははぐらかす。
「ほんとに知らない?」
「ええ」
「ほんとにほんと?」
「ええ」
「……そっか」
アリサがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。
ミレイはあまり深追いせず、話を終えることに。
とはいえ、タクシーの中は微妙な空気になってしまう。
アリサにとっても、それは居心地が悪かった。
「……ごめんなさい」
「え?」
「実はわたし、ほんとは知ってるの、魔法少女について」
”昔”を思い出すように、アリサは窓の外を見つめる。
「でも、あまり深入りしない方がいい。魔法少女に関わったら、ろくな結末にならないわ」
それが、アリサの導き出した”結論”であった。
「……もうすぐ、着くわね」
話は終わり。
2人を乗せたタクシーは、目的地である”ミレイの実家”までやって来た。




