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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
魔法少女大戦
107/153

その名は、魔法少女






「うん、間違いない。」



 自分の手に戻ってきた、ミーティアのアビリティカード。

 その細部までを、ミレイはじーっと凝視して、本物であることを確かめる。



(”繋がり”は、ちゃんと残ってる。)



 なぜ、このような状況で日本に戻ってきたのか。なぜ、ミーティアが九十九里浜に打ち上げられていたのか。まったくもって意味は分からない。

 だが、1枚でもカードが戻ってきたことで、ミレイはとても安心できた。




「……あ。」



 安心しきったところで、ミレイは思い出す。

 自分にはもう一つ、”頼みの綱”とも言えるアイテムが存在することを。



 手のひらを前にかざして、ミレイはそれを呼び寄せる。

 絶対に壊れない、失くさない、”黒のカード”を。




「……うん。」 



 なぜ今まで、このカードの存在を忘れていたのか。パニックとは恐ろしいものである。





「なにそれ。」



 新しく現れたアイテムに、傍観していたアリサも口を開く。



「黒のカード。」


「?」



 尋ねられても、ミレイにはそうとしか言えなかった。

 これが何なのかは、未だによく分からない。




「ふふふ、ちょっとした手品をお見せしよう。」



 そう言って、ミレイは黒のカードを起動。

 小さな光の輪から、新たなカードが出現する。





 4つ星 『サンドボックス』


 強力な”魔法の砂”が収められた箱。所有者の意のままに砂を操れる。





「おお、4つ星!」



 思わぬ高ランクカードに、ミレイは歓喜する。




「その金色のカードが、なにか特別なの?」


「まぁ、そうだね。いくつか種類があるんだけど、こいつらは凄いよ〜」




 ミレイは試しに、”サンドボックス”を具現化してみる。


 現れたのは、幾何学模様が描かれた四角い箱。

 嬉しいことに、ミレイでも片手で持てる程度の大きさであった。




「よしよし。」



 サンドボックスに念を送ってみると。

 箱の上側に穴が開き、そこから砂が溢れ出てくる。




「……凄いわね。」



 種も仕掛けもない、本物の魔法の力。流石のアリサも、それには驚きを隠せない。




 このサンドボックスは、強力な4つ星カード。やろうと思えば、部屋中を砂で埋め尽くすことも出来る。

 だがそうなったらもう、大惨事という次元ではないので。

 ミレイは、サンドボックスの実体化を解いた。




「4つ星が2枚もあれば、当分は大丈夫かな。」




 この平和な日本で、果たして使い道があるのかは疑問だが。

 たとえ、ライオンが動物園から逃げ出したとしても、どうにか出来るだけの力は手に入れた。










◆◇










 翌日。


 駅の改札口前で、ミレイとアリサは向かい合う。




「ほんとに、色々とありがとね。」


「別に気にしてないわ。家に、隕石が落ちてきたようなものよ。」


「はは。」



 まさかの隕石扱いである。




「でもごめんね。渡せるの、これくらいしかなくて。」



 そう言って、ミレイはアリサに金貨を手渡す。




「別に、お金には困ってないんだけど。」


「なら、思い出にとっといてよ。この世界に一つしかない金貨だから、記念にもなるし。」


「……そう、ね。」




 思い出にとっといて。その言葉に、なにか不思議なものを感じつつ。

 アリサは、金貨を大事に握りしめた。







「じゃあ、またね。」


「ええ。」




 最後にお別れをして、ミレイは改札の中へと入っていく。


 その後ろ姿を、ほんの少しだけ見つめた後。

 家に帰ろうとするアリサであったが。




「ッ。」




 ミレイの後を追うように、改札へと入っていく、一人の少女。

 その少女の指に、”可愛らしい指輪”がはめられているのを、アリサは見逃さなかった。

















(ふんふん♪)



 久々の電車に、ミレイは気分が上がっていた。


 今日は休日ということもあり、かなり人は多いものの。

 電車という物への懐かしさが勝り、立つのは微塵も苦ではない。


 相変わらず、つり革には手が届かないが。

 しっかりと柱を掴んで、安心安全である。




(しっかし、スマホとイヤホンばっかだな。)




 電車の中でミレイが特に気になったのは、周囲にいる人々の様子。みんなスマホを弄って、ゲームをやったり、音楽を聴いたり、自分の世界に閉じこもっている。

 かつてはミレイも、同じようなタイプの人間であり。スマホが無い生活など、絶対に不可能だと思っていた。


 しかし、異世界で生活するようになって、ミレイは成長していた。

 スマホがなくても生きていける。

 異世界では、そんな物は必要ないのだから。




(ふっふっふ。)



 スマホという呪縛から解き放たれ、ミレイは無敵モードに入っていた。



 だが、しかし。




――ふに。



(!?)




 お尻付近に触れた感触に、ミレイは戦慄する。

 ただの偶然ではない。明らかに人の手のような感触が、自分に触れている。




(……ち、痴漢だ。)




 それはもう間違いなく、明らかな痴漢であった。




 ミレイは今まで、痴漢というものに遭遇したことがない。

 というより、”自分を狙うようなタイプ”は、別の分野でも捕まりかねない。




(ほ、ほんとに居たんだ、変態って。)



 未知との遭遇に、ミレイは動揺を隠せない。




 だが、異世界で様々な経験をしてきた、”今の自分”なら。たとえどんな敵が相手でも、恐れることはない。


 大声で叫ぶ準備をしつつ、ミレイはゆっくりと後ろを振り向いた。




「――あら?」




 しかし、そこにいたのは”高校生くらいの黒髪少女”。

 予想外の存在に、ミレイは固まった。




「……いや。」




 とはいえこの少女が、”現在進行系”でお尻を触り続けているのは事実。

 たとえ相手が少女でも、ミレイは立ち向かう。




「君、なんでお尻触ってるの?」


「うふふ、ごめんなさい。可愛かったから、つい。」


「……なるほど。」(――やっぱ変態だ!)




 ミレイは困惑する。

 自分の中のマニュアルに、このパターンへの対処法は存在しない。




「いや。その、ね? わたしは平気だけど、人によっては不快な思いをするかもだから。こういう行為は、やめたほうが良いと思うよ。」


「えぇ〜 でも、あなた平気なんでしょ? なら気にせず続けましょうよ。」


「あー、ごめん。言い方がちょっとあれだったかな? わたしは別に、許可してるとかじゃなくてね。こう、道徳的な観点から見て――」




 そうやって、ミレイが道徳心に訴えている間も、少女は痴漢行為を止めようとしない。




(……あれ、言葉通じてないのかな?)




 あまりにも平然と触ってくるため、ミレイはどう対処するべきかと考える。

 これで捕まったりしたら、ちょっと可哀想だし。自分も今の状況で、警察のお世話にはなりたくない。




 そうやって、ミレイがあたふたしていると。


 ”別の人間”の手が、痴漢少女の腕を掴み上げる。





「――この子、わたしの知り合いなの。ふざけた真似はよしてちょうだい。」




 そう言って、助けに入ったのは。

 ついさっき別れたばかりの少女、真神アリサであった。















「ア、アリサちゃん? なんでここに。」



 ついさっき別れたはず。

 あまりにも早すぎる再会に、ミレイは驚く。




「……電車、好きだから。」



 そんなわけがない理由だが。

 アリサはとても、真剣そうな表情をしていた。




「へぇ。」



 痴漢少女は、アリサの様子を観察する。

 下から上まで、まるで舐め回すかのように。




「白髪ロリも良いけど、こっちもまた凄いわね。」



 嬉しそうに、少女はつぶやいた。

 もはや”無敵の人”である。




「ふふっ。あなた達なら、”いい魔法少女”になれるわ。」


「魔法少女?」


「……。」




 痴漢少女の口から出た、魔法少女という単語。

 ミレイにとっては、ちんぷんかんぷんな単語だが。

 アリサはより一層、警戒心をあらわにする。




「……他の車輌へ移りましょう。」



 そう言って、アリサはミレイの手を引っ張り。

 別の車両へ移ろうとするも。




「うげっ。」



 ミレイのもう一方の手を、痴漢少女が掴む。




「酷いわね〜 なにも逃げることないじゃない。」



 笑顔で、それでいて力強く、ミレイの手を引っ張ってくる。





「ちぎれる、ちぎれる。」



 双方から引っ張られ。

 ミレイはまるで、古代の拷問にかけられているようだった。





 人も多い電車の中で、二人の少女がミレイを引っ張り合う。

 なぜ、こんなカオスな状況になってしまったのか。





 しばらくすると、ようやく観念したのか、痴漢少女がミレイの手を離す。




「あ、諦めた?」


「……。」




 けれども、アリサは決して振り向かず、別の車両へとミレイを引っ張っていく。

 少しでも、あの”敵”から距離を取るために。






「ふふっ。”へんし〜ん”♪」






 ミレイたちの後ろ姿を見ながら、少女は言葉を発し。

 全身が光りに包まれる。



 電車の乗客たちは、その突然の光に驚き。




「ッ。」



 アリサは、舌打ちをした。






 光が、崩れ去り。


 現れたのは、真っ白なドレスに身を包んだ少女。


 その周囲には、”氷の結晶”のようなものが浮かんでいた。





「――魔法少女、みやび☆アルティスタ、登場♪」





 高らかと名乗りを上げる。


 その名は、”魔法少女”。






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― 新着の感想 ―
[一言] ソシャゲ脳すぎてミレイが星4当てる瞬間が1番好きだったりする()
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