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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
魔法少女大戦
106/153

アリサとミレイ

感想等、ありがとうございます。






『さぁて。帝都予選会の一回戦、最初の戦いは! ――Bランク冒険者、ヴァイオラ vs Eランク冒険者、ミレイの2人だ!』




 特設の闘技場にて、受付嬢タバサによる実況が響き渡る。


 ようやく始まった帝都最強決定戦。

 その一試合目という事もあり、会場の盛り上がりは凄まじかった。




 武舞台の上に立つのは、ともに冒険者であるヴァイオラとミレイ。


 ヴァイオラはいかにも”魔女”という風貌をしており、その手には”真っ白な杖”を持っていた。


 対するミレイは、緊張により顔が引きつっているものの。

 すでにパンダとの”憑依融合”を済ましており、白黒のチャイナ服を身に纏っていた。

 身長も、いつものチビではない。


 武舞台の上で、両者は向かい合う。




「あなた、知らない顔ね。対人経験はあるの?」


「えっと、こういうのは初めてかも。」


「……そう、なら安心しなさい。怖い思いをせずに、”一瞬”で終わらせてあげる。」




 ヴァイオラは魔女である。所有する杖には強力な魔法が込められており、その総合的な実力は”Aランク冒険者”にも引けを取らない。




『――それでは、試合開始!』




 タバサの声と共に、試合が開始する。



 それと同時に、ヴァイオラは真っ白な杖を構え。

 杖の周囲に魔力が発生する。




「我が、”アムムの杖”の虜になりなさい。」




 ミレイに向かって、その魔法を解き放とうと――




「――てりゃあ!」




 だが、それよりも速く。地面を蹴ったミレイが、ヴァイオラの眼前へと迫り。


 そのお腹に、思いっきり”蹴り”を叩きつけた。




「うぐっ。」



 ヴァイオラは、まったくもってその動きに反応できず。

 蹴り飛ばされた勢いで、武舞台の上から落下した。



 あまりにも早い決着に、会場は騒然とする。 





『おおっと、何という番狂わせ! ミレイ選手、ヴァイオラ選手を一撃で場外に。これは鮮やかな勝利です!』




 実況がミレイの勝利を宣言し。

 それと同時に、会場からは大きな歓声が鳴り響く。




「……や、やった?」



 思ったよりもすんなり勝ててしまい、ミレイは不思議な感覚であった。




「ミレイちゃん! カッコいいよ〜!」




 選手用通路から、キララが大声で叫んでいる。

 そんな彼女の顔を見て、ようやくミレイは勝利を実感した。




「……わたし、案外いけるかも。」




 一回戦。ヴァイオラvsミレイは、ミレイの勝利で終わった。










◆◇










 真神アリサは、少々変わった少女である。



 学校ではいつも一人。授業中も休み時間も、絶対に誰とも話さない。教師に当てられた時は返事をするが、彼女には教師ですら声をかけたがらない。

 同じ空間にいながらも、まるで違う世界に生きているようだった。



 彼女が、”ただ可愛い”だけだったなら。もっと別の生き方をしていただろう。クラスの人気者になるか、あるいはイジメの対象になっていたかも知れない。

 だがこの学校に、彼女にちょっかいをかける生徒は存在しない。かつては居たかも知れないが、”もう”この学校には存在しない。



 窓際の席で、アリサは退屈そうに外を眺める。

 空には分厚い雲がかかり、雨でも降りそうな天気であった。










「えらいこっちゃ。」




 ミレイは、ピンチに直面していた。

 地球に戻ってきて2日目。未だに体調が優れないため、アリサが学校に行っている間、ベッドでごろごろしていたのだが。


 穴の空いた天井から、とんでもない量の雨水が流れ込んでいた。


 浴室から桶を持ってきて、受け皿代わりにするものの。それでどうにかなるような量ではない。




「うぐぎぎ。」




 仕方がないので、頼みの綱の魔法を使ってみようとするも。

 残念ながら、一切の効果なし。



 病み上がりということもあり。

 ミレイは、軽いパニック状態で対処を行っていた。





 すると、勢いよく扉を開けて、家主であるアリサが帰ってくる。

 傘を差していないのか、びっしょりと濡れた状態で。

 ”巨大な木の板”のようなものを抱えていた。




「天井直すから、手伝って。」




 驚くべきことに、アリサは自力で修理を行うつもりであり。

 部屋の奥から、釘とトンカチを取り出してくる。




「……アリサちゃん。こういうのって普通、業者とかに頼むんじゃ。」


「そういうの、面倒くさいの。」



 アリサはやる気である。



「いやでも、自力でやる方が面倒くさくない?」


「人と話すのが、面倒くさいの。」


「……なるほど。」




 このタイプの人間は、絶対に自分の意志を曲げない。

 ミレイは何となく察して、アリサと一緒に、雨に打たれながらの修復作業を開始した。









 用意した脚立に乗って、アリサが天井に板を打ち付ける。

 彼女の身長では、脚立を使っても天井に届かないため、ちゃぶ台を土台代わりに使っていた。

 バランスが非常に危ういため、ミレイが全力で押さえている。




「釘、ちょうだい。」


「わかった!」




 雨水に打たれながら、ミレイとアリサは天井を修復する。

 非常に大変な作業だが、ミレイは弱音一つ吐かずに頑張っていた。




「……あなた、(つら)くないの?」


「え、なにが?」



 その言葉の意味が、ミレイには分からない。



「体調も良くないのに、こんな作業をして。なのにあなた、”笑ってる”じゃない。」



 それが、アリサには理解が出来なかった。

 雨に打たれながらの作業は、たとえ健康体でも辛いものがある。なのにミレイは、愚痴の一つもこぼさずに協力している。

 その”態度”が、不思議でたまらない。



「いや、その。」



 ミレイはほんの少しだけ、返答に困った。




「……こうやって、”誰かと一緒にやるの”、大好きだから。」




 こんな過酷な状況でも、その嬉しさの方が勝ってしまう。

 ミレイは、”協力プレイ”が何よりも好きだった。




「……あなた、変わってるわね。」


「そう? わたしの周りと比べたら、”真人間”に近いと思うけど。」



 少なくとも、同居人がいるのに部屋で”毒物”を調合したり、一週間で自室をゴミ屋敷にすることはない。




「あなたからは”嘘”を感じない。普通の人間は、もっと言葉の中に嘘が混じる。バレないと思って、平然なふりをして。」



「?」




 アリサにとって、嘘というものは特別な意味を持つらしい。


 相手のことを、ちょっとずつ知りながら。

 2人は屋根の修理を行った。

















「とりあえず、完了ね。」


「やった〜」




 アリサとミレイの尽力によって、天井の大穴は塞がった。

 正確に言えば、”9割”を防げるようになっただけだが、成功は成功である。


 部屋も2人も、信じられないくらい濡れていた。




「もう、死んでもいいや。」



 ミレイは、床で丸くなる。



「とりあえず、シャワーを浴びてきたら?」


「……うん、お言葉に甘えようかな。」



 昨日からずっと寝ていて、汗もかいて、今は色々とぐちゃぐちゃである。

 お言葉に甘えて、ミレイはシャワーを借りることに。







「♪」



 汗を流し終わり、ミレイが部屋に戻ってくると。


 すでに、アリサが床を拭き終わっていた。

 凄まじい手際の良さである。




「ベッドは濡れてないから、普通に使えるわ。のどが渇いたなら、冷蔵庫から勝手に取って。」


「うん、ありがとう。」




 またまたお言葉に甘えて、ミレイは冷蔵庫を開けてみる。


 冷蔵庫の中には、大量の水”しか”入っていなかった。




「おぅ。」



 冷蔵庫の中身に驚きつつも、ミレイはペットボトルを手に取って。


 アリサの側に、ちょこんと座る。




「そう言えば、昨日も食べてる様子がなかったけど。アリサちゃんって、ご飯とか食べないの?」


「……忘れてた。」


「ご飯って、忘れるの?」



 それならもはや、才能の一種である。



「違うわ。あなたの分の食事を忘れてたの。」


「あー、うん。別に、わたしは大丈夫だけど。」




 ミレイは微笑む。

 しかし、アリサに”嘘”は通じない。




「……なら、食べに行きましょう。」



 2人は共に、夕食を食べに行くことに。










 ミレイとアリサがやって来たのは、近所にある”回転寿司店”。

 一般的なチェーン店であり、夕食時なので人もかなり多めであった。


 2人はテーブル席に座る。




「おお、ひっさしぶり〜」



 お皿の回る様子を見て、ミレイはテンションを上げる。

 寿司文化は異世界にもあったが、流石に回転寿司はお目にかかれない。




「でも大丈夫? わたし、お金持ってないけど。」


「心配はいらないわ。」


「そう? ……あ。」




 ミレイは何かを思い出し、懐から1枚のコインを取り出す。

 ボルケーノ帝国で流通する、”金貨(ゴールド)”である。




「1ゴールドだけあった。」


「……それって、”純金”?」


「うん、多分。偽装防止の魔力が込められてるけど。」




 ”物質の創造”は、魔法の基本中の基本である。そのため、いくらでも複製可能な貴金属や宝石は、アヴァンテリアでは価値を持たない。

 そのため、通貨として流通する金貨には、偽装防止の魔力刻印が施されていた。




「売ったとして、その大きさなら4万円くらいかしら。これで交通費には困らないわね。」








 ミレイは、久々の回転寿司を堪能する。

 アリサも普通に食べてはいるが、ミレイの勢いには敵わない。




「食欲は戻ったのね。」


「うん、ずっと落ち込んでてもあれだし。」



 パクパクと寿司を口に運ぶ。



「それに、ちょっと元気になれたから。」


「……そう。」




 気持ち次第で落ち込んだり、元気になったり。

 その様子が、アリサにとっては不思議であった。




「アリサちゃん、普段は外食ばっかなの?」


「そうね。基本的に、買って食べるか、行って食べるか。」


「ふーん。」




 そんなこんなで、ミレイは久々の回転寿司を堪能した。















「ちぇー」


「仕方ないわ。」




 アリサのアパートに戻って来て、ミレイはちゃぶ台の上でコインを転がす。




「身分証さえあればなぁ。」




 夕食を食べた後。ミレイとアリサは、金貨を持って貴金属買取店に行ったのだが。

 アリサは普通に高校生。ミレイは一応大人だが、それを証明できる身分証を所持していない。

 ”未成年者”の買取は不可能と言われ、金貨を換金することが出来なかった。




「まぁ、交通費くらいなら出してあげるから、気にせず行きましょう。」




 アリサもちゃぶ台の側に座り、テレビの電源をつける。


 適当にチャンネルを切り替えていって。

 ”あるニュース番組”が目にとまる。





『――九十九里浜に漂着した”巨大生物”ですが。一目見ようと、この時間になっても次々と人が集まっています。』





「なんだか、凄いことになってるわね。」


「なにが? ……って、えぇ!?」




 テレビを見て、ミレイは驚愕する。


 そこに映っていたのは、浜辺に打ち上げられた巨大生物の映像。

 まるで、神話の世界から飛び出してきたような、”白銀のドラゴン”が映っていた。

 確かに、衝撃のニュース番組だが。


 ミレイはそのドラゴンを知っている。




「”ミーティア”!?」




 浜辺に打ち上げられていたのは、ミレイのカードである、”ミーティア・ドラゴン”であった。




「知ってるの?」


「う、うん。あれって多分、わたしのドラゴンだと思う。」


「……わたしのドラゴン。」



 言葉で表すと、凄まじいファンタジー感である。




「でも大変ね。あんなに目立ってたら、助けにも行けないわ。」




 テレビを見る限り、現場には大量の野次馬が集まっていた。

 ドラゴンと合流しようにも、近づくことすら出来ないであろう。



 だがしかし。



 ミレイは、テレビに向かって手を向ける。





「……戻ってきて。」





 すると、中継映像の中で、ミーティアの体が光の粒子となって消えていき。

 ミレイの手の中に、黄金のアビリティカードが現れる。





『き、消えました。謎の巨大生物が、跡形もなく消えてしまいました!』





 テレビの中では、ニュースキャスターが驚きの声を上げ。

 現場は騒然となっていた。





「……。」



 その光景を、間近で眺めるアリサも。

 驚きで言葉を失う。





「――あぁ、良かった。夢じゃなかった。」





 黄金のカードを抱き締めながら。

 ミレイは静かに、喜びに震えていた。






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