Dear My Friend
感想等、ありがとうございます。
「おおー、大きな会場。」
早朝。
ミレイは機械の翼で飛翔し、大会の舞台である闘技場を見に来ていた。
魔法によって創られた、巨大な闘技場。
今日のイベントのために、すでに多くの人々が集まっていた。
予選会の開始までは、まだ少々時間があるため。
気分転換を兼ねて、ミレイは一人空を飛ぶ。
「さて、と。」
優雅に空を飛びながら、ミレイは黒のカードを起動する。
気分は占いと同じ。
良いカードが出れば、今日は良い結果に。
悪いカードが出れば、今日は悪い結果に。
そんな気分で、ミレイはカードを召喚した。
1つ星 『マジックシガー』
魔界のアンダーグラウンドで流通しているタバコ。非常に依存性が高く、耐性がないと死に至ることもある。
「……うわ、最悪。」
召喚したカードは、過去最悪に匹敵する代物であった。
使い道どうこうではなく、絶対に使えない。
とはいえ、それで落ち込んではいられない。
”自分に何が出来るのか”。それを探すためにも、今日は重要なイベントである。
「やるぞ。」
ミレイは気合を入れ、大会に臨んだ。
◆◇
――ようやく、見つけた。
◆◇
不思議な感覚に包まれながら、ミレイは目を覚ました。
目に入るのは、穴の空いた天井。
”青く美しい空”が、その穴から覗いている。
なぜ、穴が。
なぜ、青空が。
不思議に思いつつも、ミレイは体を起こし。
呼吸が、止まる。
「え。」
そこは、”知らない部屋”だった。
女子寮とは違う。それよりもかなり狭い、いわゆるワンルームの部屋である。
『――突如消滅した台風8号ですが、専門家によりますと。』
壁際には小さな”テレビ”が置かれており、ニュース番組が流れている。
ミレイが、呆気にとられていると。
「やっと起きたのね。」
声をかけてきたのは、見知らぬ少女。
桜色の髪の毛をした、とても美しい少女である。
少女はちゃぶ台でノートパソコンを弄っており、その周囲には大量の木の破片が散乱していた。
「えっと、君は?」
「真神アリサ。あなたは?」
「ミレイ。」
「名字は?」
「……星奈。――”星奈ミレイ”、だけど。」
「そう。」
ミレイとアリサは、互いに自己紹介を終える。
「ここって、君の家?」
「そうよ。昨日の深夜に、あなたが”天井を突き破って”落ちてきたの。」
「えぇ……」
見に覚えのない事実に、ミレイは困惑する。
「それであなた、どこの子? 小学生?」
「いや、これでも社会人なんだけど。」
そうやって話すうちに、ミレイは気づく。
「ここってもしかして、”日本”?」
「あなた、外国人なの? 確かに奇抜な髪の毛だけど。」
「いや、元は普通に日本人というか。」
ミレイの容姿は、白髪に赤い瞳。
ぱっと見、日本人には見えない。
「……あれ。どういう、こと?」
何がどうなっているのか。ミレイは一つとして分からず、混乱した。
◇
「明日が大会。いや、今日が大会か?」
ベッドの上で、ミレイは状況を考える。
アリサはそんな様子を見つつ、再びパソコンに向かっていた。
「……魔導書がない。」
ミレイの魔導書。そこには、今まで召喚した全てのカードが収められている。別に、魔導書がなくても能力は扱えるが。それが”同じ世界”に存在しなければ、呼び出すことは出来ない。
試しにミレイは、聖女殺しを呼び出そうとするものの。
その手には何も現れない。
他にも、RYNOやフェンリルに念じてみるも、誰も応えてはくれない。完全に、アビリティカードと切り離されていた。
「日本に、帰ってきちゃった?」
武道大会、帝都最強決定戦の予選に挑もうとしていたはず。
それなのに、なぜか地球に戻ってきてしまった。
なぜ、戻ってきたのか。その理由、記憶が思い出せない。
またいつもの、”悪い癖”が出てしまったように。
「なんで急に。夢じゃ、ないの?」
呼吸が乱れ、胸の鼓動が騒がしくなる。
ミレイはベッドから起き上がると、部屋のカーテンを開けてみた。
すると、窓の外に広がっていたのは、閑静な住宅街。
アヴァンテリア、帝都の建物ではない。
ミレイの見覚えがある、日本の建築物が建ち並んでいた。
「そんな。」
あまりのショックに、ミレイはその場で尻餅をついてしまう。
「……ちょっと、大丈夫?」
アリサが声をかけるも、ミレイには届かない。
「さ、サフラ? 居るよね?」
自分の中に、ミレイは呼びかけてみる。
しかし、返事はない。
ミレイは正真正銘、一人ぼっちになっていた。
「……うそ。嘘、でしょ。」
呼吸を荒くしながら、ミレイは立ち上がり。
洗面所へと向かうと、鏡で自分の顔を見る。
鏡に映る自分の姿は、いつもと変わらない。髪の毛は真っ白で、瞳は真っ赤。向こうに居た時と、まったく同じ。
だが、それ以外には何もない。
魔導書がなければ、サフラも居ない。
他に何もない。
「……みんな、キララ。」
何よりも大切な、絶対的な。
”自分の世界”に必要な要素が欠けていた。
「あなた、大丈夫?」
流石に様子が心配になり、アリサが声をかける。
「……ちょっと、無理かも。」
「あなた、顔が真っ赤じゃない。」
急激な環境の変化と、精神的なショック。サフラという同居人が体から抜けたことにより。
ミレイは、体調を崩した。
◆
ベッドに寝た状態で、ミレイは天井を見つめる。
その額には、冷却シートが貼られていた。
天井には穴が空き、青い空と白い雲が目に映る。
「薬、飲める?」
「うん。これでも大人だから。」
ミレイのために、アリサが薬と水を用意してくれる。
「それであなた、どこから来たの?」
「えっとね――」
アリサに尋ねられ、ミレイは自分についてのことを話した。
元は普通の人間で、アリサと同じ日本人だったこと。
ある日、仕事からの帰り道で意識を失って、”アヴァンテリア”という異世界に飛ばされたこと。
そこで、沢山の友だちが出来て、沢山の戦いを経験して。
それでも、これ以上なく楽しい生活を送っていた。
記憶が正しければ、今日は大きな武道大会があって、自分はそれに参加するはずだった。
だがしかし、目が覚めたらこの部屋に居た。
事情を、事細かく説明したミレイであったが。
「……あなた、変な薬とかやってない?」
アリサから出たのは、そんな言葉。
「いや、嘘、なんかじゃ。」
「ごめんなさい、そういうつもりで言ったわけじゃないの。だから怒らないでちょうだい。」
アリサは謝罪する。
「あなたが嘘をついていないのは分かる。でも、あまりにも話が滅茶苦茶だから、頭でも打ったのかと思って。」
ミレイの語った内容は、よどみなく真実を告げたものであり、下手な嘘が入った様子も無かった。
だがしかし、それを正面から信じられるほど、アリサは夢の世界に生きてはいない。
「お詫びに、わたしのことも話すわ。」
発熱に苦しむミレイのために、アリサは自分の身の上話を聞かせた。
「アリサちゃん、高校生なのに一人暮らしなんだね。」
「ええ、家族が嫌いだから。」
真神アリサ、高校2年生。
”嫌いなものは人間”。
「今日、学校は?」
「体調不良ってことで、休みにしておいたわ。天井から人が降ってきたのに、のんきに学校に行けないから。」
「ほんとにごめんね。」
「気にしないで。普段から、あまり学校には行ってないの。だから休むのはいつも通り。」
本当に、アリサは気にした様子がなく。
ミレイと話しながらも、何やらパソコンで作業を行っていた。
「熱が冷めるまでは、ここに居ていいわ。治ったら、さっさと帰ってもらうけど。」
「うん、ありがとう。」
人間嫌いではあるものの、決して悪い子ではない。
ミレイは、アリサのことをそう感じ取った。
「……それにしても、どうやって帰ればいいんだろう。」
一番の問題は、”なぜこうなったのか”、理由が不明なこと。
とんでもない事件に巻き込まれたのか、それとも異界の門を潜ったのか。
どちらにせよ、経緯が分からなければ帰りようがない。
「あなた、元は日本人なんでしょう。なら、普通に家に帰ったら?」
「……まぁ、そうするしかない、かな。」
世界を越える方法は知らないが、”この世界での居場所”は知っている。
「ちょっと、電話貸してもらえる?」
ミレイは実家に電話をすることに。
アリサにスマホを貸してもらい、ミレイは実家の電話番号を入力。
久々なので、非常に緊張しつつも、電話を発信した。
「――あっ、もしもし? わたしだけど。うん、わたし、ミレイ。……えっ、いや、あの。……すみません、人違いでした。」
ミレイは電話を切る。
「……番号間違えた? いや、でも合ってるし。」
電話の相手は、まったくもって知らない相手であった。
意味が分からず、ミレイは困惑する。
「あなたの家って、どこらへんにあるの?」
「……神奈川、だけど。」
「そう。なら熱が冷めたら、とりあえず行ってみたら? 電車賃くらいはあげるから。」
「ほんとに、色々とごめんね。」
ここに飛ばされた衝撃と、キララたちと離れ離れになったショックで、ミレイはまともに動けない。
体調が回復するまで、アリサの部屋でお世話になることにした。
◆
怖い。
一人、怖い。
嫌だ。
一人は嫌だ。
「――うっ。」
深夜に、ミレイは目を覚ます。
こみ上げてくるのは、強烈な”吐き気”。
ミレイは急いでベッドから飛び起きて、トイレに向かうと。
胃の中のものを、思いっきり吐き出した。
気持ち悪くて、苦しくて。
涙を流しながら、ミレイは嘔吐する。
そんなミレイの背中を、アリサがさすってあげた。
「……大丈夫? 何かの病気かしら。」
ミレイの体調不良を、アリサは病気と考えるものの、そういうものではない。
その心が、軋んでいた。
「……不安に、なっちゃって。もしも戻れなくて、”キララ”にも会えないって思ったら。」
夜に眠る時は、いつだって隣りにいてくれる。
こっちが笑ったら、それ以上に笑い返してくれる。
居なくなったら探してくれて、きっと会いに来てくれるはず。
でも、世界が違ったら。
決して届かないほどに離れ離れになってしまったら。
その不安が、唐突に押し寄せてきた。
「そのキララっていうのは、友だち?」
「うん。」
「友だちと会えないからって、そんなふうになるの?」
「……うん。」
「それって、普通なの?」
「……どう、だろう。わたしは元々、一人じゃ何にも出来ないから。」
「そう。」
ミレイの話を聞いても、アリサには理解ができなかった。
寂しさ、恐怖。そういったものとは、”生来無縁”であるがゆえ。
「わからないわ。わたし、友だちいないから。」
友だちがいないアリサと。
友だちがいないと、何も出来ないミレイ。
穴の空いた天井の下で、そんな2人の奇妙な物語が始まった。
◇◆ 第4章 魔法少女大戦 ◆◇




