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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
105/153

Dear My Friend

感想等、ありがとうございます。






「おおー、大きな会場。」




 早朝。

 ミレイは機械の翼で飛翔し、大会の舞台である闘技場を見に来ていた。



 魔法によって創られた、巨大な闘技場。

 今日のイベントのために、すでに多くの人々が集まっていた。



 予選会の開始までは、まだ少々時間があるため。

 気分転換を兼ねて、ミレイは一人空を飛ぶ。





「さて、と。」




 優雅に空を飛びながら、ミレイは黒のカードを起動する。



 気分は占いと同じ。

 良いカードが出れば、今日は良い結果に。

 悪いカードが出れば、今日は悪い結果に。


 そんな気分で、ミレイはカードを召喚した。





 1つ星 『マジックシガー』


 魔界のアンダーグラウンドで流通しているタバコ。非常に依存性が高く、耐性がないと死に至ることもある。





「……うわ、最悪。」




 召喚したカードは、過去最悪に匹敵する代物であった。

 使い道どうこうではなく、絶対に使えない。



 とはいえ、それで落ち込んではいられない。

 ”自分に何が出来るのか”。それを探すためにも、今日は重要なイベントである。




「やるぞ。」




 ミレイは気合を入れ、大会に臨んだ。










◆◇










――ようやく、見つけた。










◆◇










 不思議な感覚に包まれながら、ミレイは目を覚ました。




 目に入るのは、穴の空いた天井。

 ”青く美しい空”が、その穴から覗いている。



 なぜ、穴が。

 なぜ、青空が。



 不思議に思いつつも、ミレイは体を起こし。




 呼吸が、止まる。





「え。」





 そこは、”知らない部屋”だった。


 女子寮とは違う。それよりもかなり狭い、いわゆるワンルームの部屋である。





『――突如消滅した台風8号ですが、専門家によりますと。』





 壁際には小さな”テレビ”が置かれており、ニュース番組が流れている。


 ミレイが、呆気にとられていると。





「やっと起きたのね。」





 声をかけてきたのは、見知らぬ少女。

 桜色の髪の毛をした、とても美しい少女である。


 少女はちゃぶ台でノートパソコンを弄っており、その周囲には大量の木の破片が散乱していた。





「えっと、君は?」


真神(まがみ)アリサ。あなたは?」


「ミレイ。」


「名字は?」





「……星奈(ほしな)。――”星奈ミレイ”、だけど。」


「そう。」





 ミレイとアリサは、互いに自己紹介を終える。




「ここって、君の家?」


「そうよ。昨日の深夜に、あなたが”天井を突き破って”落ちてきたの。」


「えぇ……」




 見に覚えのない事実に、ミレイは困惑する。




「それであなた、どこの子? 小学生?」


「いや、これでも社会人なんだけど。」




 そうやって話すうちに、ミレイは気づく。




「ここってもしかして、”日本”?」


「あなた、外国人なの? 確かに奇抜な髪の毛だけど。」


「いや、元は普通に日本人というか。」




 ミレイの容姿は、白髪に赤い瞳。

 ぱっと見、日本人には見えない。




「……あれ。どういう、こと?」




 何がどうなっているのか。ミレイは一つとして分からず、混乱した。















「明日が大会。いや、今日が大会か?」




 ベッドの上で、ミレイは状況を考える。

 アリサはそんな様子を見つつ、再びパソコンに向かっていた。




「……魔導書がない。」




 ミレイの魔導書。そこには、今まで召喚した全てのカードが収められている。別に、魔導書がなくても能力は扱えるが。それが”同じ世界”に存在しなければ、呼び出すことは出来ない。


 試しにミレイは、聖女殺しを呼び出そうとするものの。

 その手には何も現れない。


 他にも、RYNOやフェンリルに念じてみるも、誰も応えてはくれない。完全に、アビリティカードと切り離されていた。




「日本に、帰ってきちゃった?」




 武道大会、帝都最強決定戦の予選に挑もうとしていたはず。

 それなのに、なぜか地球に戻ってきてしまった。


 なぜ、戻ってきたのか。その理由、記憶が思い出せない。

 またいつもの、”悪い癖”が出てしまったように。




「なんで急に。夢じゃ、ないの?」




 呼吸が乱れ、胸の鼓動が騒がしくなる。

 ミレイはベッドから起き上がると、部屋のカーテンを開けてみた。




 すると、窓の外に広がっていたのは、閑静な住宅街。

 アヴァンテリア、帝都の建物ではない。

 ミレイの見覚えがある、日本の建築物が建ち並んでいた。





「そんな。」



 あまりのショックに、ミレイはその場で尻餅をついてしまう。




「……ちょっと、大丈夫?」



 アリサが声をかけるも、ミレイには届かない。




「さ、サフラ? 居るよね?」




 自分の中に、ミレイは呼びかけてみる。

 しかし、返事はない。

 ミレイは正真正銘、一人ぼっちになっていた。




「……うそ。嘘、でしょ。」




 呼吸を荒くしながら、ミレイは立ち上がり。

 洗面所へと向かうと、鏡で自分の顔を見る。


 鏡に映る自分の姿は、いつもと変わらない。髪の毛は真っ白で、瞳は真っ赤。向こうに居た時と、まったく同じ。

 だが、それ以外には何もない。


 魔導書がなければ、サフラも居ない。

 他に何もない。




「……みんな、キララ。」




 何よりも大切な、絶対的な。

 ”自分の世界”に必要な要素が欠けていた。






「あなた、大丈夫?」



 流石に様子が心配になり、アリサが声をかける。




「……ちょっと、無理かも。」


「あなた、顔が真っ赤じゃない。」




 急激な環境の変化と、精神的なショック。サフラという同居人が体から抜けたことにより。

 ミレイは、体調を崩した。

















 ベッドに寝た状態で、ミレイは天井を見つめる。

 その額には、冷却シートが貼られていた。


 天井には穴が空き、青い空と白い雲が目に映る。




「薬、飲める?」


「うん。これでも大人だから。」




 ミレイのために、アリサが薬と水を用意してくれる。




「それであなた、どこから来たの?」


「えっとね――」





 アリサに尋ねられ、ミレイは自分についてのことを話した。



 元は普通の人間で、アリサと同じ日本人だったこと。


 ある日、仕事からの帰り道で意識を失って、”アヴァンテリア”という異世界に飛ばされたこと。


 そこで、沢山の友だちが出来て、沢山の戦いを経験して。

 それでも、これ以上なく楽しい生活を送っていた。



 記憶が正しければ、今日は大きな武道大会があって、自分はそれに参加するはずだった。

 だがしかし、目が覚めたらこの部屋に居た。





 事情を、事細かく説明したミレイであったが。



「……あなた、変な薬とかやってない?」



 アリサから出たのは、そんな言葉。




「いや、嘘、なんかじゃ。」


「ごめんなさい、そういうつもりで言ったわけじゃないの。だから怒らないでちょうだい。」



 アリサは謝罪する。



「あなたが嘘をついていないのは分かる。でも、あまりにも話が滅茶苦茶だから、頭でも打ったのかと思って。」




 ミレイの語った内容は、よどみなく真実を告げたものであり、下手な嘘が入った様子も無かった。

 だがしかし、それを正面から信じられるほど、アリサは夢の世界に生きてはいない。




「お詫びに、わたしのことも話すわ。」




 発熱に苦しむミレイのために、アリサは自分の身の上話を聞かせた。









「アリサちゃん、高校生なのに一人暮らしなんだね。」


「ええ、家族が嫌いだから。」




 真神アリサ、高校2年生。

 ”嫌いなものは人間”。




「今日、学校は?」


「体調不良ってことで、休みにしておいたわ。天井から人が降ってきたのに、のんきに学校に行けないから。」


「ほんとにごめんね。」


「気にしないで。普段から、あまり学校には行ってないの。だから休むのはいつも通り。」




 本当に、アリサは気にした様子がなく。

 ミレイと話しながらも、何やらパソコンで作業を行っていた。






「熱が冷めるまでは、ここに居ていいわ。治ったら、さっさと帰ってもらうけど。」


「うん、ありがとう。」




 人間嫌いではあるものの、決して悪い子ではない。

 ミレイは、アリサのことをそう感じ取った。




「……それにしても、どうやって帰ればいいんだろう。」




 一番の問題は、”なぜこうなったのか”、理由が不明なこと。

 とんでもない事件に巻き込まれたのか、それとも異界の門を潜ったのか。

 どちらにせよ、経緯が分からなければ帰りようがない。




「あなた、元は日本人なんでしょう。なら、普通に家に帰ったら?」


「……まぁ、そうするしかない、かな。」




 世界を越える方法は知らないが、”この世界での居場所”は知っている。




「ちょっと、電話貸してもらえる?」



 ミレイは実家に電話をすることに。






 アリサにスマホを貸してもらい、ミレイは実家の電話番号を入力。

 久々なので、非常に緊張しつつも、電話を発信した。





「――あっ、もしもし? わたしだけど。うん、わたし、ミレイ。……えっ、いや、あの。……すみません、人違いでした。」





 ミレイは電話を切る。



「……番号間違えた? いや、でも合ってるし。」



 電話の相手は、まったくもって知らない相手であった。

 意味が分からず、ミレイは困惑する。




「あなたの家って、どこらへんにあるの?」


「……神奈川、だけど。」


「そう。なら熱が冷めたら、とりあえず行ってみたら? 電車賃くらいはあげるから。」


「ほんとに、色々とごめんね。」




 ここに飛ばされた衝撃と、キララたちと離れ離れになったショックで、ミレイはまともに動けない。


 体調が回復するまで、アリサの部屋でお世話になることにした。

















 怖い。


 一人、怖い。




 嫌だ。


 一人は嫌だ。





「――うっ。」




 深夜に、ミレイは目を覚ます。

 こみ上げてくるのは、強烈な”吐き気”。


 ミレイは急いでベッドから飛び起きて、トイレに向かうと。





 胃の中のものを、思いっきり吐き出した。





 気持ち悪くて、苦しくて。

 涙を流しながら、ミレイは嘔吐する。


 そんなミレイの背中を、アリサがさすってあげた。




「……大丈夫? 何かの病気かしら。」




 ミレイの体調不良を、アリサは病気と考えるものの、そういうものではない。

 その心が、軋んでいた。




「……不安に、なっちゃって。もしも戻れなくて、”キララ”にも会えないって思ったら。」




 夜に眠る時は、いつだって隣りにいてくれる。

 こっちが笑ったら、それ以上に笑い返してくれる。



 居なくなったら探してくれて、きっと会いに来てくれるはず。



 でも、世界が違ったら。

 決して届かないほどに離れ離れになってしまったら。


 その不安が、唐突に押し寄せてきた。




「そのキララっていうのは、友だち?」


「うん。」


「友だちと会えないからって、そんなふうになるの?」


「……うん。」


「それって、普通なの?」


「……どう、だろう。わたしは元々、一人じゃ何にも出来ないから。」


「そう。」




 ミレイの話を聞いても、アリサには理解ができなかった。

 寂しさ、恐怖。そういったものとは、”生来無縁”であるがゆえ。





「わからないわ。わたし、友だちいないから。」





 友だちがいないアリサと。

 友だちがいないと、何も出来ないミレイ。





 穴の空いた天井の下で、そんな2人の奇妙な物語が始まった。








◇◆ 第4章 魔法少女大戦 ◆◇








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