決戦前夜のような何か
「せい!」
女子寮の自室にて、ミレイは正拳突きの練習をしていた。
帝都最強決定戦は明後日。今からの鍛錬が果たして意味を成すのかは不明だが、ミレイは考えないようにしていた。
真剣に練習を行うミレイを、同室のキララは不思議そうに見つめている。
「ミレイちゃん、どうしたの?」
「鍛錬してるんだよ。明後日が大会だしね。」
昨日、ソルティアに教わったことを復習する。ミレイなりに、努力をしようとしていた。
そんなミレイを、やはりキララは不思議そうに見つめる。
「キララも、大会に出るんでしょ?」
「うん。みんなというか、ミレイちゃんと一緒がいいし。」
みんな出るから、わたしも出る。キララの考えは、ミレイとほとんど同じであった。
”戦い”へのこだわりは、特にない。
「キララは、なにか特訓とかした?」
「ううん。そういうのは、いっかな。」
「そう?」
「うん。正直、わたしは筋肉とか必要ないと思ってるから。」
キララの思想は、ソルティアのものとは真逆であった。たとえ肉体が貧弱でも、魔力で補えば何とかなる。
”恐るべき才能”を持ちながらも、キララはあまり好戦的ではなかった。
とはいえ、大会で勝つための準備は行っている。
「部屋に籠もって作ってたのって、もしかして大会用の?」
「ふっふっふ。」
キララは笑みを浮かべながら、タンスの引き出しを開ける。
そこに入っていたのは、謎の液体が入った大量の瓶。
瓶の中身は、非常に毒々しい色をしていた。
「……それって、使っても大丈夫なやつ?」
「ミレイちゃん。”殺す以外、何したっていいんだよ”。」
キララは柔らかな笑みを浮かべる。話す内容は、恐怖でしかないが。
元々、キララの趣味は”毒作り”である。それを自分で試すという”悪癖”の影響で、出会った当初はかなり痩せ型であった。だがミレイに注意されたことで、現在は人並みの体型に戻っていた。
しかしながら、毒作りという趣味は未だに継続中であり。おまけに魔法の才能を開花させたことにより、そのレベルは飛躍的に向上していた。
言うなれば、”魔法薬”の開発である。
魔法薬の効果は以前の毒物や薬物とは桁違いであり。強い耐性を持つキララですら、少々危うくなるような薬も完成していた。
「安心してね。ミレイちゃん用の”おくすり”は、一番の自信作だから。絶対に安全だよ?」
「え。」
キララは大会に備えて、身近にいる”全員”に勝つための準備を行っていた。無論、その中にはミレイやソルティア、フェイトですら含まれている。
キララは、”本気”であった。
「一番の敵は、ここに居たのか。」
「えへへ。」
キララは無邪気な笑みを浮かべる。
こういう人間が、一番ヤバいやつだった。
夜中。
女子寮のトイレの中で、ミレイは寝る前のカード召喚を行う。
「勝てるやつ、安全なやつ、凄いやつ。」
出来れば、毒などを完全に無力化してくれるアイテムが欲しい。そんな願いを込めて、召喚を行った。
1つ星 『花売りのかご』
花売りの少女が持っていたかご。母親の手作りであり、この世に一つしかない。
「おお。」
この上なく、戦闘に向かないカードが召喚された。
運命的な何かが、”無理をするな”と言っているような気がした。
◆◇
次の日、大会前日。
敵情視察も兼ねて、ミレイはフェイトの部屋に遊びに来ていた。
”お手柔らかにお願いします”、なんてことを言いに来たわけではない。
ミレイは部屋のドアをノックする。
「……ミレイ、あんた?」
「だよ〜」
とはいえ、本当に遊びに来ただけなので、ミレイは非常にのんきであった。
だがしかし。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
フェイトは非常に慌てていた。
その理由は、すぐに判明することに。
部屋の中に入って。
ミレイとフェイトは”大量のゴミ山”の上で対面する。
凄まじい量の衣類と、よく分からないゴミの数々。
必死にゴミを掻き分けることで、なんとか部屋のドアを開いていた。
ここ数日、ドアが埋もれて使えないため、フェイトは窓から出入りしていたらしい。
この世界でミレイに召喚され、冒険者になったことで、フェイトは”買い物”という文化に目覚めていた。
高難易度のクエストをイーニアに斡旋してもらい、その報酬の大半を買い物で消費。
しかし、女子寮の部屋はそこまで広くもないので、すぐに”新品のゴミ屋敷”になってしまっていた。
「あっ、可愛い服。」
「言っとくけど、ちゃんと洗濯に出してるわよ。」
ミレイはゴミ山の中から可愛らしい服を発見する。
以前とは違い、一応洗濯には出しているらしい。
「いや、畳んで片付けようよ。」
覚えることは、まだまだ沢山あった。
「そもそも、この部屋が小さすぎるのが悪いのよ。わたしという存在の大きさに、世界が間に合ってないの。」
「世界?」
何とも、スケールの大きい話である。
「うわ、こんなの履いてるの?」
続いて、ミレイは下着を発見。
「うっさい。ゴミ漁んないでよ。」
フェイトは、すぐさま取り返した。
「フェイトって、どこで寝てるの?」
「そんなの、簡単な話よ。」
そう言って、フェイトは”カードの状態”に戻る。
「え?」
ミレイが呆気にとられていると、再びフェイトは実体化した。
「結局の所、カードの状態が一番安心して寝れるのよ。」
「そりゃ知らなかった。」
フェイトは、かなり不思議な生態をしていた。
「まぁ、この狭い部屋で暮らすのも、そのうち終わるわ。大会の賞金”1000万G”が手に入ったら、大きなお屋敷に引っ越す予定なの。」
「おおー」
「ふふっ。どうしてもって言うなら、あんたらに部屋を分けても良いわよ?」
フェイトは優勝する気満々であった。
「まぁ、明日は安心しなさい。もしも対戦相手になったら、優しく遊んであげるから。」
「わー、うれしい。」
当然のことながら、フェイトはミレイのことを敵とも認識していなかった。
まぁ、事実なので仕方がないが。
とはいえミレイも、ただ黙っているわけにはいかない。
「こんちく、後で吠え面かいても知らないぞ!」
ミレイは、黒のカードを具現化。
今日のカード召喚を行った。
3つ星 『バーニングアックス』
炎の魔力を宿した斧。太古の技術で造られている。
ミレイは、召喚したカードをフェイトに見せつける。
「……しょぼ。」
「ぐぐ。」
ミレイは何も言い返せなかった。
フェイトは”5つ星”という特別な存在。並のカードでは太刀打ちすら出来ない。
「……ぶっちゃけ言うと。4つ星クラスが相手でも、わたしは”無傷で勝てる”自信があるわ。イーニアとか、Sランク冒険者相手でも変わらない。そんなわたしに、大会で敵う奴がいると思う?」
フェイトは、圧倒的な自信に満ち溢れていた。
自分が、”最強”と理解しているから。
「うーん、どうだろう。」
しかし、ミレイは知っている。この街にいる”強者”の存在を。
「正直、無傷で優勝は難しいと思うよ?」
最強の5つ星。
それに匹敵する者は、もう一人この大会に出場予定だった。
◆
特徴的な髪の毛、金髪縦ロールをなびかせながら、九条瞳は優雅に歩く。
向かった先に居たのは、同じ屋根の下で暮らす科学者、エドワード。
彼は自身の持つ戦闘用アーマー、”ライザースーツ”の整備を行っていた。
「ねぇ、わたしもそのアーマーが欲しいわ!」
「何だと?」
突然の要求に、エドワードは驚く。
「明日の大会で目立つためよ。そのアーマー、ヒーローっぽくて”カッコいい”じゃない。」
何とも、ひどい理由であった。
「却下する。このアーマーは、明日わたしが使う予定だ。それに、”特別な傷”を持ってないと、このアーマーの力は引き出せない。」
そう言って、エドワードは自身の眼帯を指差す。
「あら、貴方も大会に出るの? なら、わたしたちはライバルね!」
「はぁ。」
九条瞳は、これでもかと言うほどにテンションが高かった。
年齢も年齢なので、エドワードはついていけない。
「金はいくらあっても困らないからな。どっかの誰かさんは、”一日でシャンプーを使い切る”。」
一日でシャンプーを使い切る。
そんな毛量の持ち主は、帝都に一人しか存在しない。
「……貴方、頭が良いなら自分でシャンプーを作ったら?」
「君は、まるで貴族だな。」
「ふふっ。褒め言葉として受け取っておくわ。」
天上天下唯我独尊。
九条はそっち系の人種である。
「優勝賞金があれば、きっとシャンプー工場だって買えるはずよ!」
「……頭痛がする。」
そんな、九条瞳とエドワードだけでなく、同居する巨大ロボット、”ブラスターボーイ”も大会に出場する。
隣の建屋にある、”新兵器”を携えたタマにゃんも同様である。
騎士団に所属する強者や、帝都で活動する他の冒険者たちも参加する。
そして、”ある目的”のために送り込まれた”異世界の化け物”も、帝都にひっそりと紛れ込んでいた。
帝都最強決定戦が、幕を開ける。




