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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
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涙の数だけ






「「「おす! おす! おす!」」」




 ここは道場、武道を習う場所。

 道着を着た子供たちが、今日も正拳突きの練習をしている。


 それを見つめるのは、ミレイ、ソルティア、イーニアの3人。




「……ソルティア、なにここ。」


「子供たちに武術を教える場所です。お二人には、ぴったりな場所かと。」




 お二人にぴったり。身長的な意味であろうか。




「これでもわたし、Sランク冒険者なんだけど?」


「でも、子供ですよね。」


「ぐぐぐ。」



 上から言われては否定できない。




「それに、武術を教えて欲しいと言ったのは、お二人ですよ。」


「……まぁ、そうだけど。」




 武術の心得を教えてもらおうと、ミレイはソルティアに頼み込んだ。

 ちょうどその時、イーニアも同じことを考えていたらしく。

 2人に頼み込まれたソルティアは、この”ちびっこ道場”へと連れてきた。




「ではまず、道着に着替えましょうか。」


「ちょっと、そんなの勝手にいいの?」


「まぁ、大丈夫でしょう。今ここを管理しているのは、”彼”なので。」



 ソルティアが指をさす。


 そこに居たのは、ミレイのカードである”パンダファイター”。

 彼はなぜか、子供たち相手に武術を教えていた。

 体型は、元のぽっちゃりに戻っている。




「あいつ、なにやってんの?」


「さぁ、わたしも詳しい事情は。」




 とりあえずミレイたちは、パンダの元へ向かう。 




「ねぇ、パンダ。なんでここで働いてんの?」


「わ、わん……」



 パンダの言葉を、ソルティアが通訳する。



「お店で食べまくっていたら、お金が足りなくなり。それで困っていたところ、この道場の師範に立て替えてもらったそうです。その恩返しのために、ここで武術を教えていると。」


「……なるほど。」



 聞いても、よく分からなかった。















「よっし。」



 ミレイとイーニアは、真っ白な道着に着替え終わる。ピカピカの白帯である。

 ソルティアは、面倒くさいのでそのまま。




「いいですか、魔力を使うのは無しです。使うのは体のみ、心を鍛えると思ってください。」


「「おす!」」



 それっぽく返事をして、2人はすっかりその気だった。




「ではまず、正拳突きから行きましょう。」



 ソルティアは拳を前に構え。

 それを素早く、交互に突き出す。




「腰を若干低くして、お腹に力を入れてください。分かりましたか?」


「「おす!」」



 とにかく、やる気は十分である。




「では、わたしの”お腹”を的にしてください。」


「え。」



 ソルティアの言葉に、2人は固まる。




「それって、痛くないの?」


「まぁ、鍛えているので。流石に、”おこちゃまパンチ”には負けませんよ。」




 むか。

 ミレイとイーニアは、不服そうな顔をする。




「ふん、吠え面かいても知らないわよ!」



 イーニアが拳を構え。



「せい!」



 本気のパンチを、ソルティアのお腹に叩きつけた。




――ぽす。



 軽い音が鳴る。

 ソルティアは、微動だにしていない。




「はい。おこちゃまパンチ、頂きました。」


「うぐぐぐ。」



 思いっ切り子供扱いされ、イーニアは顔を赤くする。



「このー!」



 怒りに身を任せて、とにかくソルティアを殴りまくる。


 ぽこすか。

 ぽこすか。




「……はぁ、はぁ。」



 イーニアは息を荒げ。

 殴られたソルティアは、涼しい表情をしていた。




「痛たた。」



 イーニアは拳を痛めてしまう。




「貴女のお腹、どうなってるわけ?」



 気になって、ソルティアのお腹を触ってみる。

 硬いというよりも、”強かった”。


 イーニアは自分のお腹と比べてみる。

 ぷにぷにとして、同じ部位とは思えない。




「お二人も、鍛えればこうなれますよ。」


「……いや、それはいい。」



 そこまでの筋肉は欲していない。



 2人はソルティアという名のサンドバッグを相手に、パンチの練習をしまくった。









「では続いて、お互いに技を当て合いましょう。」


「組み手ってこと?」


「いえ、それはまだ早いので。ミレイさんがイーニアさんの太ももを蹴り、次にイーニアさんが蹴る。その繰り返しです。」


「なるほど。」


「まぁ確かに、攻撃するだけじゃなくて、受けるのも大事よね。」




 2人は向かい合い、お互いに蹴り合うことに。


 まず最初は、ミレイから。




「行くよ?」


「ええ。」




 2人は真剣な表情。




「はっ。」



 ミレイが回し蹴りを繰り出し。

 イーニアの太ももにヒットする。




「いった。」


「だ、大丈夫?」


「……これくらい平気よ。」



 そう言いつつも、あまり平気そうではない。




「じゃあ次、わたしが蹴るわよ。」


「う、うん。」




 続いて、イーニアの回し蹴り。




「はっ。」


「あいた!」




 ミレイのももにヒットする。




「……普通に痛い。」



 ミレイは、すでに涙目であった。





「まぁ、初めはそういうものです。」



 2人のリアクションを見て、ソルティアは微笑む。



「鍛錬を重ねることで、人は強くなります。ほら、あの子供たちを見てみてください。」




 道場では、子供たちが真剣に稽古をしている。

 まだ幼い子供なのに、ミレイたちよりも激しく技をぶつけ合っていた。




「みな、痛みに負けず頑張っています。」




 ソルティアもそう、小さい頃から鍛錬を続けてきた。

 他のみんなも、大なり小なり同じである。


 キララは小さな村の狩人であり、九条は喧嘩が日常的。

 そしてフェイトは、最も過酷な世界で生きていた。

 そういった下地が無いのは、カードの能力に頼り切りなイーニアと、平和育ちのミレイのみ。




(頑張らないと。)



 鍛錬する子供たちを見て、ミレイは奮起する。




「それで、この蹴りは何回やればいいの?」


「そうですね。お二人はまだ初心者なので、”50回ずつ”にしましょうか。」


「え。」




 ソルティアは容赦がない。



 ミレイとイーニアは、お互いに太ももを蹴りあった。

 ほんの少しだけ、痛みに強くなった気がした。

















 道場の真ん中で、ソルティアとパンダが向かい合う。

 その様子を、ミレイとイーニア、他の子供たちが見つめていた。





「ねぇ君、どこの子?」


「……わたし?」




 子供たちに、ミレイは同年代だと思われていた。








「では、行きます。」



 ソルティアが、力強く踏み込み。

 距離を詰めると、上段回し蹴りを叩き込む。



 パンダは、それを腕でガードし。

 すかさず蹴りで反撃する。



 だが、ソルティアはそれを逸らし。

 カウンターでパンダの顎を拳で狙う。



 パンダは、それを首を下げることで回避。

 同時に、ソルティアの脇腹に拳を叩きつけた。




「ッ。」




 それはクリーンヒットし、ソルティアは微かに声を漏らす。


 両者はまた、互いに距離を取った。







「すっご。」



 ソルティアとパンダの攻防に、ミレイは見惚れる。

 隣のイーニアも同様である。



「確かに凄いわね。どっちも魔力を使ってないし、素の身体能力で戦ってる。」





 両者は、単純な身体能力のみで戦っていた。



 双方ともに一歩も退かず。

 鍛え上げられた人間と、武術使いのパンダが戦う。



 蹴りや拳のぶつかる、激しい音。


 ソルティアとパンダは、ほぼ”互角”であった。





「……パンダも、凄い。」




 ここ最近は他のカードに頼り気味だったため、パンダの動きを見るのは久々であった。

 魔力抜きの戦いとはいえ、あのソルティアと互角であり。動きのキレが凄まじかった。


 ファイターという名は伊達ではない。

 ソルティアの修行相手として殴られ続けたことにより、その戦闘力は確かに向上していた。



 紛れもない、武術の使い手たち。

 一歩も退かぬ両者の戦いを見て、ミレイは拳を握りしめる。





「……よし。」



 何のためにここへ来たのか、それを思い出した。








 組み手を終えて、ソルティアとパンダは互いに礼をする。


 するとそこに、ミレイがやってくる。




「ねぇ、ソルティア。次はわたしと組み手しない?」


「組み手、ですか。」




 ソルティアはミレイを見つめる。

 足先から、頭の上まで。




「では、ハンデはどうしましょう。何なら、指一本でお相手しましょうか?」


「ううん。むしろ、全力でやろう。”魔力もあり”で。」


「……正気ですか?」


「うん。でもその代わり、こっちはパンダの力を借りようと思う。」


「パンダ、ですか。」



 ソルティアは首を傾げる。



「正直、彼は魔力を使えないので、わたしの相手にはなりませんよ?」




 先程の組み手は、”魔力なし”だからこそ互角だった。

 魔力込みでの戦いであれば、パンダはソルティアに刃が立たない。




「ふふ、それはどうかな。」




 だがそれを聞いても、ミレイは自信ありげであり。

 パンダの元へと足を運ぶ。




「わん?」




 ミレイとパンダが、じっと見つめ合う。


 真っ黒な瞳と、真っ赤な瞳。

 言葉が通じないゆえ、心が繋がる保証はない。


 それでもミレイは、信じてみる。




「パンダ、力を貸してくれる?」


「わん!」




 パンダは、やる気に満ち溢れていた。


 一人と一匹は、手を合わせる。





「行こう。」



 手と手を繋げて、心を一つに。





――憑依融合/Ver.パンダファイター





 パンダと融合し、ミレイの姿が変わる。

 身長は伸び、服装は特殊な衣装へ。



 ”パンダ風のチャイナ服”を身に纏う。



 その姿は、もはやちびっこではない。





「ちょっと、何よそれ!?」



 イーニアは目を疑ってしまう。

 服装が変わっただけでなく、身長すら伸びているのだから。




「これぞ新技、憑依融合(アビス・フュージョン)だ!」




 ミレイは、格好良く格闘家のようなポーズを決める。

 体が、自然と動いていた。




「……なるほど。単なる手品、というわけではなさそうですね。」




 引き締まった魔力の雰囲気を、ソルティアも感じ取る。


 かくして、2人は組み手をすることに。









 道場の真ん中で、ミレイとソルティアが向かい合う。

 大きくなったミレイだが、それでもまだソルティアのほうが背が高い。


 イーニアは、そんな2人を不安そうに見つめていた。





「お先にどうぞ。」


「うん。」




 ミレイは拳を構える。

 当然ながら、武術の型など何も知らないが。


 今は、”この魂”が知っている。




「行こう、パンダ。」




 ミレイは地面を蹴り、ソルティアに拳を叩き込む。

 確かな、”魔力”の宿った拳を。



 それを、ソルティアが受け止める。

 双方ともに、肉体に魔力を纏っていた。




「……驚きました。まさか、拳に魔力を纏えるとは。」


「この変身中は、ちょっと特別だから。」




 暴走状態ではないが、普段通りとも違う。


 この状態のミレイは、”ありのままに強くなれる”。




「はぁっ!」



 ミレイは回し蹴りを繰り出し。

 ソルティアは後方に回避する。




「では、こちらも。」




 くるりと回りながら、ソルティアは後ろ回し蹴りを放つ。


 ミレイはそれを両腕で受け止めた。




「くっ。」




 強くて、重い衝撃。

 それでも、ミレイは踏みとどまる。





 ミレイとソルティアは互いに技を打ち合い、互角の戦いを演じた。


 それを、驚きながら見つめるイーニアであったが。

 あることに、気づく。





「ちょっとミレイ、泣いてるじゃない!」





 ソルティアと技を打ち合いながら、ミレイは涙を流していた。


 その理由は、もちろん”痛み”から。

 相手とぶつかる場所、たとえ魔力を纏っていても、痛みは免れない。


 戦う相手が”純粋な敵”であったら、根性で我慢ができたかも知れないが。

 今戦っているのは、友だちであるソルティア。


 まるで、”喧嘩をしているような気分”になってしまい、それも涙を誘発していた。




「ミレイさん、もう止めにしますか?」


「……ううん。いま、頑張って。頑張ってるから。」




 ミレイは、自分自身と戦っていた。

 武道を習う子供たちと同じ。最初は泣いてしまう子もいるが、それを乗り越えて強くなる。



 いまこの瞬間に、ミレイは”成長”しようとしていた。






「はぁっ!」


「ッ。」




 ミレイとソルティア、双方の拳がぶつかり合う。



 激しい衝撃。

 まるで、空間が軋むような。





「くっ。」



 ミレイは、歯を食いしばって耐えた。





 2人は、再び距離を取り合う。





「……ここは、引き分けということにしませんか? 大会も近いですし。」


「……うん。」





 引き分けであると、ソルティアはミレイの力を認めた。

 ミレイとパンダのタッグなら、拳でソルティアに対抗できる。





「またいずれ、決着をつけましょう。」


「おうとも!」




 決着は別の機会で。

 2人はそんな約束をした。










「ちなみにわたしは、大会では普通に”刀”を使うので。今のうちに、”斬られる痛み”にも慣れてみますか?」


「……いや、真顔でそんなこと言わないでよ。」




 やはり、痛いのは嫌いである。








◇今日のカード召喚 71日目





 1つ星 『サーベルタイガーの牙』


 太古の猛獣、サーベルタイガーの牙。特別な力は宿っていない。




「うーん。」






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