鋼鉄のダークホース
感想等、ありがとうございます。
「ようこそ! ここがミーの研究室にゃん!」
昨日、お風呂に入りながら約束した通り、ミレイはタマにゃんの研究室を訪れていた。
ミレイの持つ”黒のカード”、その調査をするために。
「ほぇ〜」
初めて見る光景に、ミレイは目を輝かせる
果たして、ここは本当に”同じ世界”なのか。
パソコンやディスプレイといった、ミレイの馴染みある物体が普通に存在している。電気を使ってるのか、魔力を使ってるのかは不明だが。
興味をそそる、”謎のガジェット”が盛り沢山であった。
「……これって、スマホ?」
見覚えのある物体を、ミレイは手に取ってみる。
機械文明の代表格、スマートフォンである。
「にゃん。それは試作型の”魔導デバイス”にゃん。」
「へぇ。」
「プログラム化した魔法を、好きなタイミングで気軽に発動できる代物にゃん。これがあれば、冒険者の戦闘力を底上げできる。と、思ったけどにゃ……」
「上手く行かなかったの?」
「にゃん。こいつを使うには、自力で魔法を発動できる才能と、自力でプログラムを組める能力が必要にゃ。でもそんな奴、冒険者には居ないにゃん。」
「そりゃそうだ。」
もっと単純な仕組みでなければ、ミレイにだって扱えない。
「じゃあ、早速調べてみるにゃん。」
「うん、お願い。」
黒のカードをタマにゃんに渡し。
その間、ミレイは研究室を物色することに。
「ふんふーん。」
つい、気分が上がってしまう。
何となく、日本に居たことを思い出す。
”科学の匂い”を漂わせる、ハイテクっぽい物品が大量にあった。
「ねぇ、触ったら危ないのってある?」
「大丈夫にゃん。今ここにある物に、殺傷能力は無いにゃん。」
「ほいほい。」
安全を確認し、ミレイは純粋な好奇心で物品を見る。
とはいえ、”殺傷能力が無い”だけであるが。
何に使うのか分からない装置を、まじまじと眺めていく。
(……こっちの部屋は、なんだろ。)
好奇心に動かされ、ミレイは隣の部屋へとやって来る。
すると、そこにあったのは。
「おおー!」
鋼鉄の輝きを放つ、巨大なロボット。
大きさとしては、ブラスターボーイと同等程度か。
だがしかし、あくまでも”人型”である彼とは違い、このロボットは”蜘蛛”のような形をしていた。
新車のように輝いているが、どこか刺々しい雰囲気を感じる。
「タマにゃーん、これなに?」
ミレイの呼び声に応じて、タマにゃんがやって来る。
「にゃーん。これは都市防衛用に作った魔導兵器、”スキュラ”にゃん。」
「へぇ〜、すっご。」
ミレイは、まじまじとスキュラを見上げる。
他の発明品とは、明らかにレベルの違う存在であった。
こいつはヤバい、という雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。
「これ、動くの?」
「にゃーん。一応バッテリーを取り付けたけど、魔力の供給が追いついてないにゃん。これじゃ、いつになったら起動できるやら。」
「そうなんだ。」
動かないのは残念である。
まぁ、動いたら動いたで怖そうだが。
「そうだにゃん! ミレイはかなり魔力が多そうだから、ちょっと分けて欲しいにゃん。」
「えっ。」
まさかのお願いに、ミレイは固まる。
「それって、献血みたいに?」
「まぁ、間違ってないにゃん。」
「えぇ……」
献血なら、ちょっとやだ。
痛いのは嫌いである。
「でも献血と違って、痛みはないにゃん。それに、そんなにいっぱいは取らないから、安心して欲しいにゃん。」
「うーん。まぁ、それなら。」
せっかくの頼みなので、ミレイはスキュラに魔力を供給することに。
◇
「体に異変を感じたら、すぐに言うにゃん。」
「了解。」
ミレイは台の上に寝っ転がる。
台の隣には医療機器のような物が置いてあり、たくさんの線がミレイの体に繋がっていた。
その機器から、さらに線が伸び、最終的にスキュラへと繋がっている。
もしもこれが献血なら、全身からがっぽりと吸い尽くされそうだった。
「じゃあ、抽出を始めるにゃん。」
タマにゃんがボタンを押すと、装置が起動し。
ミレイの体から魔力を吸い始める。
「おおー? なんか気持ちいい。」
多少の痛みくらいは覚悟していたが。意外にも、ミレイは”快感”を感じ取る。
例えるなら、マッサージを受けているような。
不思議な心地よさに包まれながら、魔力の抽出が続いていく。
「……えっと、まだ大丈夫にゃん?」
「うん、平気平気。」
辛くなるどころか、むしろその逆。
もっともっとやって欲しいと、ミレイは思う。
魔力抽出の心地よさに、表情が緩む。
「あぁ〜」
まさに”革命”、生まれて初めての快感。
こんなに気持ちいいのなら、定期的にやって欲しいくらいである。
「せんせい、もっと強く出来ますか?」
「え。……ま、まぁ、出来るにゃん。」
ミレイの要望に従い、タマにゃんは魔力の抽出速度を上げる。
すると、
「お、おおー!」
刺激が強まる。
尋常じゃない魔力が、体から吸われていく。
だが、それに伴い快感も上昇する。
(……たまらぬ。)
あまりの快感に、ミレイは涙ぐむ。
「ま、まだ平気にゃん!?」
「うん。だいじょぶ、だいじょぶ。」
魔力抽出。元はと言えば、タマにゃんが頼み込んだことだが。
体から引き出される魔力の量に、タマにゃんは思わず引いてしまう。
しばらくの間、魔力を代償に快感を得るミレイであったが。
やがて、装置が停止する。
「ん、どうしたの?」
「いや。……もう、満タンにゃん。」
「あー」
魔力の抽出が終了し、体中から管を外される。
軽く伸びをしながら、ミレイは体の調子を確かめると。
「お?」
驚くほどに、軽さを感じる。
まさにマッサージである。
「……また来てもいい?」
「も、もちろんにゃん。」
ミレイは、新しい趣味に目覚めた。
◇
「これだけの魔力があれば、スキュラは完璧なパフォーマンスを発揮できるにゃん!」
若干、怖かったが。念願の魔力が手に入り、タマにゃんはご満悦であった。
微かな起動音と共に、スキュラの心臓に火が宿る。
瞳が光を発し、全身に魔力のラインが走った。
「おおー」
ミレイは感嘆の声を漏らす。
自分の魔力で、これだけの機械が動く。
流石に驚きである。
「システムオールグリーン。完璧にゃん!」
「やったぜ!」
ちょっと寝っ転がって、気持ちよかっただけだが。
ミレイはタマにゃんと一緒に喜ぶ。
「ねぇタマにゃん、これって強いの?」
「もっちろんにゃん! ミーの設計した兵器の中では、紛れもなく最高傑作! 国一つを落とせるにゃん。」
「へ、へぇ。」
タマにゃんは、異様にテンションが高かった。
「全身に余すことなく魔力を供給し、秒速100メートルを超える圧倒的な機動力を発揮するにゃん! もちろん、戦闘時には装甲に多重構造の障壁を形成するから、核攻撃を食らっても壊れないにゃん!」
「そ、そりゃ凄い。」
スキュラの能力もそうだが、タマにゃんの早口が凄まじい。
「早く、こいつが戦ってる姿が見たいにゃん。」
「なにと戦うの?」
「にゃーん。こいつは都市防衛用に作ったロボットだから、侵略者でも来ない限り出番はないにゃん。」
「うわ、そりゃ残念。」
せっかく、自分の魔力で起動したのだから。ミレイは動くのを見てみたかった。
「……あっ、そうだ。”今度の大会”に持ち込んだら?」
「にゃんと! その手があったにゃん。」
「うんうん。武器とかは何使ってもいいって話だから。こいつもセーフだよ。」
元受付嬢(仕事はしていない)が言うのだから、間違いない。
「ふっふっふ。最強の座はいただきにゃん!」
こうして、衝撃のダークホースが誕生した。
◆
タマにゃんの装置が、自動で黒のカードのスキャンを行い。
それが終わるまで、ミレイたちはお菓子を楽しむことに。
他愛のない話に花を咲かせる。
「それじゃあ、ミレイも大会に出るにゃん?」
「うん。多分、そっかな。」
帝都最強決定戦。その予選会が、あと数日で始まる。
「冒険者らしいにゃん。」
「いや、まぁ。……”みんな出るから”。」
結局の所、それが一番の理由であった。
「もちろん、優勝目指すにゃん?」
「いや、それは流石に。」
ミレイはそこまで本気ではない。
「そもそも、本戦に出れる可能性すら無いと思う。枠は2つあるけど、1つはフェイトで埋まってるし。」
ミレイの知る限り、フェイトより強い存在はこの街に居ない。
「昨日のあれを見るに、瞳ちゃんにも絶対勝てないから。」
恐ろしいことに、昨日はパンチの余波で死にかけた。
「キララとソルティアも、多分なんかやってるし。」
キララは部屋で謎の液体を調合し。ソルティアに至っては、毎日のように修行をしている。
何をしてくるかが分からない故に、恐ろしくてたまらない。
「にゃ〜。でもミレイのポテンシャルなら、結構行けると思うにゃん。現に昨日だって、魔力的には陛下たちに負けてなかったにゃん。」
「……一撃でやられたのに?」
今までにない、圧倒的な敗北である。
「にゃん! そもそもミレイは、”攻撃を受ける”ことに慣れてないにゃん。」
「あー。確かに、そうかも。」
ミレイは昨日の敗因を考える。
「陛下は昔からの武闘派で、”力で”皇帝の座を奪ったらしいにゃん。それに瞳も、見るからに喧嘩慣れしてるにゃん。」
「確かに確かに。」
「ミレイはこの世界に来るまで、殴り合いの喧嘩とかしたことあるにゃん?」
「いや、一度も。」
「”それが”、みんなとの差だにゃん! 本来戦いとは、力と力のぶつかり合いにゃ。でもミレイは打たれ弱いから、一発殴られただけで戦意喪失しちゃうにゃん。」
どれだけ強い力を持っていても、心が弱くては意味がない。
「大会に挑む前に、”武術”の心構えを習ったほうがいいにゃん。」
「……うん、そうしよっかな。」
ミレイは修行を決意する。
幸いにも、身近には修行好きの友達がいた。
◇
「にゃ、スキャンが終わったにゃん。」
解析装置から音が鳴り。
タマにゃんがその結果を確かめる。
「これ、とっても大丈夫?」
「にゃん。」
ミレイが装置から黒のカードを外す。
相変わらずの真っ黒である。
「どう?」
「にゃーん。」
調査結果が、思った通りでなかったのか。タマにゃんの表情は芳しくない。
むしろ、深刻そうな表情をしていた。
「……どっか悪いの?」
「いや、そうじゃないにゃ。」
タマにゃんは髪の毛を弄る。
「”なんにも”、分からなかったにゃん。」
「まじか。」
まさかの解析結果であった。
「普通のアビリティカードなら、ある程度中身の情報が見えるにゃん。でもこの黒いカードは、プロテクトが異常に固いにゃん。正直、お手上げにゃん。」
タマにゃんの持つ技術力。科学、魔法を持ってしても、解析ができない。
黒のカードは、まさに”ブラックボックス”であった。
「あと、そうだにゃ。カードを召喚する瞬間も調べたいにゃん。」
「あ、うん。いいよ、今日はまだだったし。」
召喚は1日に1回だけ。それも、黒のカードのルールである。
「こい!」
なにか来いと願いつつ、ミレイは黒のカードを起動する。
2つ星 『下級騎士の盾』
シンプルなデザインの盾。鋼鉄製で、使い勝手は悪くない。
「……うん、シンプル。」
ミレイは召喚したカードを見つめる。
使えるのか使えないのか、いつも通りのクオリティ。
「それで、なにか分かった?」
「にゃは〜。これもさっぱりだにゃん。」
タマにゃんは観測装置を弄るも、結果は芳しくない様子。
「でも召喚する瞬間に、”どこか”と繋がってたにゃん。」
「どこか?」
ミレイは首を傾げる。
「……運営のサーバーかな。」
「にゃん! ”ゲームのガチャ”じゃないにゃん!」
「おおー!!」
この世界に来て、初めて説明無しに会話が通じた。
ミレイは、とっても嬉しかった。
予選会まで、あと4日。




