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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
101/153

悪魔とお風呂

感想、誤字報告等、ありがとうございます。






「ただいまー。ご飯食べてきちゃったんだけど。」




 熾烈な修行の後、ミレイは宮殿で夕食をご馳走になり。

 その後、女子寮の自室へと戻ってきた。



 キララに声をかけながら部屋に入るも、それに対する返事は無し。




「……ねとる。」




 キララは机に突っ伏して、夢の世界へと旅立っていた。

 スヤスヤと寝息を立てて、微かに体が揺れている。




(何してたんだろ。)



 机で寝てしまうほど、キララが何に熱中していたのか。

 近付いてみると、




「うげ。」




 机の上には、”謎の液体”の入った瓶が散乱していた。一個二個という次元ではなく、全部違う種類の瓶が大量に。


 キララが調合したのだろうか、そこら中に液体が飛び散っている。

 というより、床が溶けている。




(なんか、変な臭い。)




 今までの人生で嗅いだことのない、”形容し難い臭い”。


 ミレイは鼻を摘んで、何も見なかったことにした。










「おっふろ〜」



 そうつぶやきながら、ミレイは部屋から出ていく。

 いつもならキララと一緒にお風呂へ行くが。無理に起こすのもかわいそうなので、今日は1人で行くことに。


 すると、




「にゃはん?」



 お隣さん、タマにゃんも部屋から出てくる。

 持っている手荷物からして、彼女もお風呂へ行くらしい。


 どうせなので、一緒にお風呂へ向かう。







「――でね、瞳ちゃんって、けっこう味音痴みたいでさ。」




 他愛のない会話をしながら、浴場へ。


 するとその道中、2人はソルティアと顔を合わせる。

 見た感じ、お風呂上がりな様子。




「今日は、また一段と寒いですよ。」


「にゃ〜ん。」




 ソルティアいわく、お風呂が冷たいらしい。

 つまり、フェイトが長風呂をしたということ。




「いやー、”うちの子”がすみません。」




 本人に聞かれたら、軽く怒られそうだが。

 ミレイにとって、フェイトはうちの子だった。















「「にゃ〜」」



 2人揃って、お風呂に浸かる。

 今日は冷たいという話であったが、中々に良い湯加減だった。





「うぅー」



 大浴場の外で、寮長であるシャナが必死にお風呂の温度を上げていることは、あまり知られていない。

 小さな体で、頑張っていた。





「あったか〜い。」



 裏で働く妖精のおかげで、ミレイたちは気持ちのいいお湯を堪能できた。

 今日はかなりの運動をしたため、全身にお湯が染み渡る。


 師匠に、とんでもない一撃を当てられたような気がするが。幸いにも、ミレイの身体に怪我はなかった。


 心地よさに浸っていると。




「にゃ〜ん。”陛下のぶっ放し”を見た時は、流石にミレイも死んだと思ったにゃん。」


「ふぇ?」




 タマにゃんから、そんな一言が。




「タマにゃん、もしかして見てたの?」


「にゃん!」




 タマにゃんは神出鬼没。

 ギルドだけでなく、色々なところと交流がある。




「こう見えても、ミーは帝国の”技術顧問”をやってるにゃん。」


「へ〜」



 技術顧問、よく分からない役職である。




「それにしても、瞳は凄かったにゃん。まるで潜在能力の全てを覚醒させるように、……いや、もしかしたら、”あれでも”まだ――」



 タマにゃんは、九条のことを思い出す。




「計測器を見てみたら、”魔力スケール”が振り切れてたにゃん! あんなの、もう生き物の範疇にないにゃん。」


「……魔力スケール?」



 ミレイの知らない単語。



「にゃん。この世界の魔法使いが使ってる単位にゃん。まぁ、よっぽど研究熱心な奴しか使わないから、覚える必要はないにゃん。」


「へぇ。」




 中々、勉強になる話である。

 少なくとも、師匠の口からそんな単語が出たことはない。




(……そもそも、師匠が皇帝陛下ってどういうことなんだろ。)



 今思い返しても、それが一番の衝撃であった。




(キララが知ったら驚くだろうなぁ。)



 残念ながら、キララはすでに知ってる。









 のんびりと。疲れを癒やすように、お風呂にとろける。

 そんな2人であったが。


 ポロリと、タマにゃんの頭から”付け耳”が取れ。

 ぷかぷかとお湯に浮かぶ。




「あっ、お耳が。」


「にゃーん。気を抜きすぎたにゃん。」




 タマにゃんが拾い上げ、再び頭に付け直す。




「まぁ、ミレイは安全だからいっかにゃん。」




 口の軽さは未知数だが。

 少なくとも、人の弱みにつけこむタイプではない。




「タマにゃんって、猫系の、ケットシーじゃないの?」


「にゃはは、みんなには内緒にゃん。」


「じゃあ、この尻尾も?」



 ミレイは尻尾をギュッと掴む。




「にゃ! そこはダメにゃん!」



 タマにゃんは抵抗するも、動きが妙に弱々しい。

 どうやら、尻尾が弱点らしい。




「こっちは本物なんだ。……どういう種族なの?」



 人間そっくりで、しかも尻尾が生えている。

 ミレイの中に情報はなかった。




「にゃーん。まぁ、特別に教えてやっても良いにゃん!」


「やった〜」



 特別、限定品。ミレイの好きな言葉である。




「たぶん、世界は違うけどにゃ。あの大鎌、”聖女殺しの元になった存在”と、ミーは同胞にゃん。」


「……聖女殺しの、元になった?」




 ミレイは思い出す。聖女殺しの中の人、それがどういう存在なのかを。




「つまり、”悪魔”ってこと?」


「にゃは、正解にゃん!」



 タマにゃんは、小悪魔のように笑う。

 正確には、本物の悪魔だが。



「でも、羽根とか生えてないんだね。」


「ミーの世界の悪魔は、羽根なんて生えてなかったにゃん。たぶん世界によって、悪魔の定義も変化するにゃん。」


「なるほど。」




 つまり、種族は悪魔だが。尻尾が生えている以外、人間と大差はない。




「色々あるんだねぇ。」


「そうにゃん。」




 確かに種族は違うが、それだけ。

 だからといって何も変わらないし、こうやって一緒にお風呂にも入る。


 ミレイにとっては、なんてことない日常だが。

 タマにゃんにとっては、そうでもなかった。




「この世界に来るまでは、人間と仲良くなれるなんて思ってなかったにゃん。」


「そうなの?」


「にゃん。ミーの世界には”致命的な欠陥”があったから、どちらかが滅びるしかなかったにゃん。」


「……悲しいね、そういうの。」





 この世には、多くの世界が存在する。

 平和な世界があれば、戦争をしている世界も。

 誰もが手を取り合う世界があれば、いがみ合う世界もある。



――色々な世界があることを、ミレイは知りつつある。



 今生きるこの世界は、いつまでも平和でいてほしい。

 もしも自分に出来ることがあるなら、きっと何だってしたい。


 最近では、そう思うこともある。





「そう言えば、昼間に驚いたことがもう一個あったにゃん。」


「ん?」



「ミレイの使ってた力にゃん。まさか、この世界で”憑依融合(アビス・フュージョン)”を見れるとは思わなかったにゃん。」



「あびす、ふゅーじょん?」



 またも、知らない単語である。



「2つの魂を共鳴させて、”能力を爆発的に上昇させる技”にゃん。ミーの世界だと、ほとんど伝説レベルのお話にゃん。」


「あー、なるほど。”仲良しフォーム”のことか。」


「……なかよし?」




 伝説、という雰囲気ではない。




「タマにゃんの世界だと、そのアビスなんちゃらっての、使える人とか結構いるの?」


「……少なくとも、ミーは見たこと無いにゃん。」


「そっか。どうせなら、コツとか教えてもらおうと思ったんだけど。」


「コツかにゃ。うーん。」



 タマにゃんは、古い記憶を絞り出す。




「そもそも憑依融合(アビス・フュージョン)は、2つの魂の間に”特別な繋がり”が無いと発動できないはずにゃん。」


「特別な繋がり? 仲が良くないとってこと?」


「にゃ〜、そういう次元の話じゃないにゃん。」




 その程度で発動できるなら、伝説の技とは呼ばれない。




「そもそも魂というのは、魔力よりも”高次元”にある存在にゃん。だからやろうと思っても、ミーたちでは魂に触れることすら出来ないにゃん。」


「……魔力よりも、高次元?」




 かろうじて、魔力を感じられるような、感じられないような。

 そんなミレイには、計り知れない領域である。




「そういった意味でも、ミレイは凄いにゃん。”何であれが出来るのか”、まったくもって意味不明にゃん。」


「えっへへ。」




 よく分からないが、褒められるのは良いことである。




「――あっ、でもさ。カードの能力と仲良くなれば、誰でも合体できるんじゃないの? まぁ流石に、戦艦とかは無理かもしれないけど。」




 物言わぬ物体とは、ミレイもコミュニケーションが取れそうにない。




「……”カードの能力と仲良くなる”、にゃん。そもそも、それがあり得ないにゃん。」


「ん?」




 ミレイにとっては当たり前の感覚でも、他人もそうとは限らない。




「本来、アビリティカードに”魂”なんて宿ってないにゃん。たとえ生き物系、人型の能力だったとしても、”あんなふうに”生きているようには振る舞わないにゃん。」




 タマにゃんが指をさす。

 そこには、お風呂場で体を洗う”雪だるま”の姿があった。




 2つ星 『寒がりスノーマン』


 彼は、”自分の意志”でお風呂場にやって来ていた。




「……というより、あれは何にゃん?」


「えっと。海で召喚した、謎生物みたいな。」






 スノーマンだけではない。

 ミレイは、多くのアビリティカードを”放し飼い”にしている。


 フェンリルやパンダを始めとする魔獣たち。

 カテゴリーは違えど、フェイトもそのうちの一つに当てはまる。


 それらの正体が、カードの能力であると。理解しているのは、ミレイの知り合いだけである。

 他の人達は、かなり”気合の入ったペット”だと認識している。

 フェイトに至っては、普通の人間としか見られていない。



 本来、アビリティカードとは、魂の宿らない”情報の塊”である。ゆえに、憑依融合(アビス・フュージョン)を起こすことは根本的に不可能。


 しかし、ミレイの召喚するカードには、情報だけでなく”その中身”が存在する。




 ”実際に生きた経験”を持つ、本物の魂が。




 かつて、ミレイの師であるパーシヴァルは、彼女の召喚したカードを見てこう思った。


 これは、”アビリティカードではない”、と。





「だからにゃ、そもそもの発生源である”黒のカード”が、謎を解く鍵だと――」



 ミレイのアビリティカードについて、熱心に語るタマにゃんであったが。




「うぐ。」



 ミレイは、完全にお湯でのぼせており。ほとんど話を聞いていなかった。




「にゃ〜ん。」



 流石に、長く浸かり過ぎである。



 タマにゃんはミレイを引っ張り、大浴場を出る。




「もしも、自分の力を理解したいなら。明日、ミーの研究室で調べてみるにゃん?」


「……うん、お願い。」




 ぐったりしながら、2人はそんな約束をした。















「おやすみ〜」


「おやすみにゃん!」




 お風呂から上がり、ミレイとタマにゃんは部屋へと戻ってくる。


 ミレイは、すっかりと回復していた。

 髪の毛の先が真っ赤に染まり、放熱器官のようになっていたが。




(そぉっと。)




 ミレイはゆっくりと部屋に入る。

 机の方を見てみると、やはりキララは眠ったまま。




「……バーバック、キララをベッドに運んであげて。起こさないようにね。」




 ミレイの指示を受け、執事ロボットがキララを優しく持ち上げる。

 ベットへと運び終えるも、幸いにも起きる様子はなかった。


 そっと、ミレイが布団をかける。




「おやすみ、キララ。」




 今日も一日が終わり。

 最後に、頭を優しく撫でた。








 帝都最強決定戦。


 最悪の予選会まで、あと5日。








◇今日のカード召喚 69日目。





『大きなソファ』


 緑色の大きなソファ。家族全員で座れる。





「……置き場が。」



 部屋に、置き場がなかった。






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― 新着の感想 ―
[一言] アビリティカードの定義に当てはまらないカードを複数枚所持していて、何故か異世界に来る時体が若返っていて酒を飲んだら姿が変わって暴走する帝都で1番やべーやつ
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