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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
さいつよ編
100/153

気合と根性の申し子

感想等、ありがとうございます。

100話近く書いてきたので、気分転換にTSモノの投稿を始めました。

とはいえ、こっちが止まるわけではないです。






 パーシヴァルの放った魔力弾が、ミレイたちに迫る。




(やばっ、即死級!?)




 まともに食らったら、体のどこかが千切(ちぎ)れる。

 とっさに、ミレイは聖女殺しを具現化するものの。


 それより速く、九条が動き出し。

 拳へと変形した髪の毛で、魔力弾を迎え撃つ。



 凄まじい衝撃。

 凄まじい重量感。

 魔力弾と髪の毛がぶつかり合い、殺しきれない勢いで九条の体が後退する。




「――はあぁぁっ!!」




 けれども、気合を振り絞り。

 九条の髪の毛が魔力弾を打ち消した。




「ふぅ。」




 この一撃を迎え撃つだけでも、かなりの労力を使った九条であったが。

 悲しいかな、パーシヴァルにとってはこの程度は”遊び”に過ぎず。


 更に強大な魔力を練り上げ、ミレイたちの上空に、先程と同等の魔力弾が無数に出現する。




「嘘でしょ!?」




 流石にその数は、拳で受け止めるのは不可能と判断し。

 九条は髪の毛を広げ、ドーム状の盾として自分とミレイの体を包み込んだ。



 そこに、魔力弾が降り注ぐ。

 まるで雨のように連続して、際限なく。




「ぐっ。」




 雨というよりも、もはや”爆撃”である。

 髪の毛の盾は、その強度をもって攻撃を防ぎ切るものの。

 一方的な攻撃に、九条は手も足も出ない。




「魔法ってズルいわ!」



 理不尽極まりない攻撃に、九条は声を上げた。




 そんな九条に守られながら。

 髪の毛のドームの中で、ミレイは聖女殺しを握りしめる。


 爆撃への恐怖は凄まじいが、ここで丸まっているだけでは示しがつかない。

 なぜなら、自分のほうが九条よりも”年上”なのだから。




(アクメラさん、仲良しフォームが使いたいんだけど。)




 聖女殺しの中の人に懇願する。




『……あの力は、心を一つにする必要があるのよ。』


(うん、分かってる。)



『なら教えてちょうだい。あんたは、本気で敵を倒したいの?』


(……敵を、倒す。)





 心を一つにする、それは言葉で表現できるほど簡単なものではない。


 深海で歯車が合わさったのは、”敵を倒す”というミレイの意志に、聖女殺しが同調したから。

 それ故、敵にとどめを刺したい聖女殺しと、刺したくないミレイとの間に亀裂が入り、一時変身が解けかけた。


 単に武器として使いたいだけなら、別に心を合わせる必要はない。

 しかし、”それ以上の関係”を望むのであれば、お互いの気持ちを考えなければならない。



 例えるなら、この力は”恋愛”である。



 聖女殺しという”若干暴力的な相手”と付き合いたいなら、ミレイもある程度は譲歩しなければならない。




 ”わたしを倒す気でかかってきなさい”。師は確かにそう言った。


 ならば、遠慮はいらない。





「――うん、倒したい!!」


『――しょうがないわねッ!!』





 気持ちが一つに、心が繋がる。



――”憑依融合(アビス・フュージョン)” Ver.聖女殺し――





「なっ、何なの!?」



 謎の輝き。

 自分の背後で何が起こっているのか、九条は困惑する。




 そこに現れたのは、”黒”を身に纏うミレイの姿。


 聖女殺しの力と融合し、髪は黒く、翼も生え。


 力に相応しい、少女としての体へと成長していた。




「瞳ちゃん、わたしを外に出して。」


「そんなこと言ったって、いま出たら普通に死んじゃうんじゃ、……って、えぇっ!?」




 九条はミレイの格好に驚く。




「肌の露出が! おまけに、”色々と”大きくなってない?」


「ふふっ、瞳ちゃんには負けちゃうけどね。」




 体が大きくなって、ちょっぴり気も強くなる。




「いけるの?」


「うん、任せて。」


「……承知したわ。」








 魔力の爆撃を浴びる、金色の髪の毛ドーム。

 そこから、一筋の黒い閃光が発生し、空へと駆け上る。




「ほぅ。」




 上空に現れた黒い存在を見つめ、パーシヴァルは攻撃の手を止める。




「”あの力”は――」




 黒い翼を背中に、ミレイは飛翔する。


 露出の多い服装に、素足がむき出しと。

 普段なら恥ずかしくて表を歩けない格好だが、今の状態なら気分が良い。




『圧倒するわよ!』


「了解!」




 パーシヴァルめがけて、加速する。


 それを迎え撃つべく、大量の魔力弾が放たれるも。


 ミレイは聖女殺しを薙ぎ払い。




 極大の斬撃で、魔力弾を掻き消した。




 そのまま、ミレイは一直線で突き進み。





「――そりゃあ!」




 聖女殺しは、流石に危険なので。

 ”渾身のキック”をパーシヴァルにお見舞いする。


 だが、彼女もやられるだけではなく、強固な魔力障壁によってキックを受け止める。





『もっと強く!』


「とりゃあぁぁ!」





 黒いオーラ、魔力の出力を上昇させ。


 蹴りが、障壁を突破。



 パーシヴァルを、思いっ切り蹴り飛ばした。





「……ほ、ほんとに蹴っちゃった。」


『なに落ち込んでんの! まだまだ来るわよ。』




 蹴りの一発程度、大したダメージにはならず。


 パーシヴァルは体勢を立て直すと、今度は鋭い”風の刃”を放ってくる。




『飛びなさい!』




 アクメラの指示に従い、ミレイは上空に退避する。

 すると、風の刃が背後から追尾してくる。




『落ち着きなさい。十分に対処は可能よ。』




 ミレイは空中で身を翻し、聖女殺しで風の刃を迎え撃つ。


 漆黒の刃が、風の刃をたやすく掻き消した。




「見える、わたしにも攻撃が見える!」


『敵の悪意、攻撃衝動を読み取りなさい。今のあんたになら出来るはず。』





 ミレイは、”悪魔”としての力を引き出していく。

 聖女殺しとのシンクロを高めていき、更にその先へと。



 拳に、漆黒の魔力を纏わせる。





「行きます!」




 さっきよりも強く、決定的な一撃を叩き込むために、ミレイは加速する。



 放たれる風の刃。

 その全てを回避しながら、パーシヴァルに接近。



 拳に魔力を凝縮させ。





「ごめんなさい!」



 謝りながら、ぶん殴る。





 渾身の魔力が込められた一撃。

 凄まじい衝撃が、周囲に波及した。







「……嘘でしょ。」




 戦いを見つめていた九条が、驚きを口にする。


 あの小さなミレイが、あれほどの力を持っていたとは。





「……やったの?」




 九条は固唾を呑んで見守る。



 だが、しかし。





「……え。」



 拳を叩きつけた状態のまま、ミレイは固まる。




 謝罪込みでも、間違いなく全力の一撃だった。


 だがその拳が、あろうことか”素手”で受け止められている。





「――あぁ、見事だ。」





 称賛の言葉が送られる。

 パーシヴァルではない、別の”若い声”で。



 その体を、構築していた魔法が解けていく。

 光の粒子に包まれて、彼女の真の姿が現れる。



 美しい、白の髪の毛。

 服装は魔女のローブから、白銀のドレスへと変わり。


 ”若く美しい女性”へと、変身を遂げた。





「し、師匠?」




 まさかの変身に、ミレイは唖然とする。


 老練の魔女から、見知らぬ美女へ。

 正確には、”映像越し”で見たことがあるのだが。




『――マズい、離れなさい!』



 アクメラの声が響く。

 だが、もう遅い。





「いっ。」



 掴まれた拳が、振りほどけない。




「……ミレイ。貴様の成長、確かに感じたぞ。」




 そう言って。

 パーシヴァル改め、”皇帝セラフィム”は、ミレイを力任せにぶん投げる。


 そして、




「死ぬなよ。」




 今までと段違い。

 ”多重構造の魔力弾”を、ミレイに向けて放った。



 投げ飛ばされながら、ミレイはその直撃を受ける。





「ミレイ!!」




 九条の叫び。


 強力な一撃に、ミレイは為す術なく吹き飛ばされ。


 地面に叩きつけられる。







 ぐでーん







 あまりの衝撃に、憑依融合も解け。


 ミレイは一撃でノックアウトした。

















 セラフィムは指先一つで、大量の魔力弾を生成し。

 それを九条に向かって発射する。




「ぐっ。」




 変身魔法を解き、本来の力によって放たれる攻撃は、先程までの比ではなく。

 九条の髪の毛では耐えきれず、どんどん表面部分が千切れていく。


 やろうと思えば、九条も毛量を増やせるが。

 この調子で削られていくと、やがては限界が訪れる。





 その少し離れた場所では、ミレイが仰向けで休憩していた。






「ふっ。」




 セラフィムは微笑みながら、攻撃の手を一切緩めない。

 修行として成立するのかすら不明な、あまりにも一方的な行為。




 ”一応”、これには理由があった。




 九条瞳という人物。

 聞くところによれば、ミレイとは別の異世界出身であり、”髪の毛を操る”不思議な異能を持っている。



 その”異能”こそが、ある意味で一番の問題であった。



 この世界でも、極稀に異能を持つ者は生まれる。

 一から積み重ねていく魔法とは違い、異能は能力者の”感情”によって覚醒する。

 それ故、魔法使いとは比べ物にならない威力、成長速度を発揮するものの。


 その反面、”異能以外”を扱う能力が極端に低下してしまう。


 つまりは一芸に特化し過ぎた影響で、本来魔法を起動するのに必要な”回路(ライン)”すらも使ってしまっていた。




 それが、ミレイやキララとの決定的な違い。

 九条瞳には、”魔法を使うだけの余力”がない。




 肉体と魂を繋ぐ回路は一本だけ。

 魔法使いは異能に目覚めず、異能者は魔法を扱えない。

 それは”絶対”であると、セラフィムは知っていた。



 だがしかし、最近になって”例外”が現れた。

 ある弟子が召喚した、”冷気を操る異能者”である。



 その異能者は、昂ぶる感情によって”人を超えた存在”へと進化し。

 自前の異能だけでなく、魔力を操る能力すら会得していた。




 セラフィムはその情報を元に、九条の覚醒を促す方法を考え。


 結果として、こうして”追い込み”をかけることにした。




 どうやったら、異能者は壁を超えられるのか。

 セラフィムも、”それはよく分からない”。




 九条瞳は、完全に当てずっぽうで攻撃を仕掛けられていた。


 そんな事とは、つゆ知らず。





「――うぐっ。」




 九条は攻撃を耐え続ける。

 これが、魔法に目覚めるのに必要な修行であると。









「ふぅ。」




 指先一つで、セラフィムは九条を圧倒する。

 九条が覚醒できるように、適度に”ストレス”を加え続ける。


 だが、しかし。

 攻撃を加えながら、セラフィムは考える。




(……果たして、このやり方で合っているのか。)




 ”無論、合ってはいない”。




 たとえ、以前のフェイトがこれと全く同じ状況に置かれたとしても、あの力に覚醒することはないだろう。




 気合で解決できるほど、世の中は優しくない。

 どれだけ根性を振り絞っても、変わらないものは変わらない。


 人間は、そんなに単純ではない。




 だが、





「何の、これしきッ!!」





 九条瞳は、その常識に収まらない。



 怒涛の攻撃を受けながら、髪の毛を引き千切られながら。



 歯を食いしばり、内なる闘志に火を点ける。





「――ツッパリ、舐めんなぁッ!!」





 少女特有の繊細な心、感情の昂ぶりなど必要ない。



 気合と根性によって、九条瞳は”覚醒”した。






 膨大な力の爆発によって、全ての魔力弾が弾き飛ばされる。






「――面白い。」





 セラフィムが見つめる先、九条瞳が大地に立つ。



 燃えるような魔力を全身に、毛先に至るまで纏わせ。

 その圧倒的な存在感に、空気が震えていた。





「ふぅ。」




 しかし、その姿は以前と変わっていない。

 確かに魔力を纏ってはいるものの、あくまでも人間のまま。


 フェイトのように、”人の域”を超えたわけではなかった。




「よく分からんが、魔力には目覚めたのか。」



 九条の状態を、冷静に観察するセラフィムであったが。




(……なに?)




 そこには、目を疑う光景が。



 九条の背後に、”黄金に輝く巨人”のような姿が現れる。



 しかし、すぐに消えてしまった。

 まるで幻のように。





「どうかしたの?」


「……いいや、何でもない。」





 気を取り直し、セラフィムは魔力弾を叩き込む。


 だが、対する九条の動きは、先程とはまるで違っており。




 髪の毛をムチのようにしならせ、迫りくる前に全てを撃ち落とす。


 速さも、硬度も、威力も、”全てが段違い”。





「あら、さっきより威力が弱いんじゃない? もう疲れたのかしら。」


「……まさか、気づいていないのか?」




 自分の今の状況を、九条はまるで理解していなかった。




「こっちが弱くなっているのではない。貴様が、強くなっているだけだ。」


「……どういうこと?」


「……まったく。」




 九条の察しの悪さに、セラフィムは頭を抱える。





「自覚しろ。それが、魔力だ!」





 セラフィムも正真正銘の本気を出す。


 渾身の魔力をその手に凝縮し、空間が軋み始める。




 手加減なしの一撃。

 強烈な魔力光線を発射した。



 それを迎え撃つように、九条は髪の毛を拳の形にし。

 思いっ切り、ぶん殴る。




 拳と光線がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が発生した。





「――めちゃくちゃだ!」




 衝撃波の影響で、庭園が崩壊していく。

 休憩していたミレイも、その崩壊に巻き込まれるが。



 どこからか飛んできたマキナによって助けられ。

 その場から離脱した。






 たった一撃、攻撃が衝突しただけ。


 だというのに、噴水は跡形もなく消し飛び、庭園全体はボロボロになっていた。






「なんて威力。これが、わたしの力なの?」



 その光景に、当事者である九条も驚きを隠せない。




「……カードに刻まれた星の数は、その者の”潜在能力”を示すものだ。5つ星の所有者ともなれば、”それに相応しい力”が必要となる。」




 セラフィムは、右の手のひらを前に出す。




「そういった意味では、わたし達は”同格”と言えるのかも知れん。」





 手のひらに現れたのは、”虹色”に輝くアビリティカード。


 対峙する九条と同じ、5つ星である。





「……なるほどね。」



 それに対抗するように、九条もその手にカードを具現化する。





 双方ともに、伝説と謳われる5つ星の所有者。


 この世界の長い歴史の中でも、それらが衝突したことは”一度もない”。





「今の貴様なら、”その力”を使いこなせるだろう。」





 そう、今の今まで、九条はカードの能力を使ってこなかった。


 5つ星という規格外の力を持ちながら、なぜ使っていなかったのか。それは、その”能力の特性”にある。




 九条の持つ能力は、”所有者が強ければ強いほど”、その効力を発揮する。


 だから、今までは使ってこなかった。

 たとえ使ったとしても、勝敗を覆すほどの力を持たないから。




 しかし、”今の彼女”なら話は別である。


 余すことなく、その力を発揮できる。






「どちらが強いか、試してみるか?」


「……ええ、やってみましょう。」





 魔力に目覚めるための修行ではない。

 互いにカードの能力を使った、正真正銘の”真剣勝負(マジバトル)”。



 2人揃って、カードの能力を起動する。



 だが、その寸前で。





「――これは、流石に見過ごせません。」





 間に、マキナが割って入る。





「え。」




 脇に、ミレイを抱えたまま。





「……どいていろ。せっかくの楽しみだ。」


「いいえ、どきません。」




 皇帝相手に、マキナは一切引かない。




「戦うというのなら、”この身をもって”止めさせて頂きます。」




 強い意志を感じる一言だが。


 忘れていはいけない、ミレイを抱えたままである。




(し、死んでしまう。)




 マキナに抱えられながら、ミレイが恐怖に震えていると。




「……そうね。冷静に考えて、皇帝相手に殴り合いは流石にナンセンスだわ。」




 それを見ていた九条が、カードと魔力を引っ込め。




「……はぁ。」



 セラフィムも、遅れて戦闘態勢を解除する。






 流れ弾などは無い、ただの力のぶつかり合いのみ。



 だというのに、宮殿には深いダメージが刻まれていた。






「少々、熱くなりすぎたな。」



 セラフィムは、ちょっと反省した。















「しかし、動いたら腹が減ったな。」




 ボロボロの庭園を見つめながら、セラフィムがつぶやく。




「料理人に何か作らせよう。貴様ら、何が食べたい?」


「そうね。わたしは、派手な料理なら何でも良いわ!」


「わたしは、お寿司とかが食べたいです。」




 ミレイと九条の頭には、すでに先程の戦いは存在しなかった。




「ふっ、ついてこい。」



「宮廷料理、楽しみだわ!」





 セラフィムと九条は宮殿の中へと向かっていく。



 しかし、ミレイにはどうしても気になることがあった。





「……あの、マキナさん。さっき何で、わたしを抱えたまま止めに入ったんですか?」




 ミレイに尋ねられ。


 すると、マキナは顔を背ける。




「”貴女を人質にすれば、あの2人も迂闊に攻撃できない”。なんてことは、別に考えていませんよ。」



「……マキナさん。」





 そんな、ショッキングな出来事もありつつ。




 ミレイたちはその後、宮殿で料理をご馳走になった。




 おいしかった。






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