☆ 雨の日の過ごし方①
twitterで行ったアンケートで票を集めた、「雨の日のお家デート」番外編です。
社で神子として働くフェリスと、城で侍従兵隊長として働くジン。
二人とも仕事をしているため、朝や夜以外で行動を共にできる日は思ったよりも多くない。それどころか、ジンが早朝勤務をしたり泊まり込みをしたりしたら、何日も顔を合わせられなくなるくらいだ。
そういうことで、珍しく二人とも休みをもらえる日にはたいてい、一緒に過ごすことにしている。
特にジンは愛馬ユキアに乗って遠乗りするのが好きで、フェリスと二人乗りしてロウエン帝国のあちこちに連れていってくれていた。
二人は、「次の休みの日には、郊外にある湿原に行ってみよう」と約束していた。
フェリスもその日のために二人分の弁当の準備をして、外出用の新しいシエゾンも購入して楽しみにしていた……のだが。
「……」
「……」
「……雨、ですね」
「……そうだな」
「昨夜から嫌な予感はしていたのですが、これは止む気配はないですね」
「……そのようだな」
本日の天気は、雨。
窓から見える空はどんよりとした灰色で、少々待ったからといって晴れる見込みはなさそうだ。
寝間着姿のジンが悔しそうに頭を抱え、ため息をついた。
「くっ……ここ数日ずっと晴れていたから、油断していた……! おのれ、雨雲め……!」
「お天気を恨んでも仕方がないですよ……」
ジンをなだめるフェリスだが、がっかりしたのは彼女も同じだ。
フェリスも昨夜のうちから、弁当の具材の仕込みをしていた。だから一階の厨房には下ごしらえを済ませた材料たちが待機しているし、真新しいシエゾンも準備万端で衣装棚にぶら下がっている。
「この様子だと一日中、お出掛けは無理そうですね」
「そうだな……。せっかくフェリスが弁当を作ってくれるということなのに、残念だ」
「……。……あ、そうだ。お弁当の準備もしていますし、屋敷の中でデートをしません?」
「でーと……うちで、か?」
ロウエン人であるジンだが、他国の文化にも堪能であるため「デート」の意味もよく分かっている。
そんな彼だがさすがに、「屋敷の中でデートをする」という発想はなかったし想像も付かないようで、きょとんとしていた。
「そうです。まあ、ただ単に屋敷の中で過ごすだけなんですが、お出掛け用の服を着て、今日行く予定だった場所についてお喋りしたりするのです。お昼ご飯の時間になったら、床に敷物を敷いてお弁当を食べます」
「……つまり、お出掛けごっこみたいな感じかな?」
「そうです。……あ、あの、すみません。今になって、なんだかすごく幼稚な感じがしてきました……」
「いや、そんなことないよ。なかなか斬新でおもしろそうだ」
ジンは微笑み、ほんのり頬を赤く染めたフェリスを愛おしそうに見つめた。
「それじゃあ、今日は屋内でデートをすることにしよう。……せっかくだから、書庫にある風景画などを持ってきて、気分だけでも外出したことにしてみる?」
「いいですね! それじゃあ私、お弁当の準備をしますね!」
「ああ、楽しみにしているよ」
こうしてフェリスの提案により急遽、一風変わったおうちデート作戦が始まったのだった。
屋敷の使用人たちは本日、旦那様夫婦が外出する予定だったということを知っている。そのためこの天気を見て最初は皆、残念そうな顔をしていた。
だがフェリスたちから話を聞くと皆興味津々になり、「では私は掃除を」「では私は書物を」「では私はせっかくなので観葉植物の準備を」と、積極的に動いてくれた。ジンの屋敷の使用人たちは、旦那様夫婦のためなら喜んで動いてくれるのだ。
朝食の後、フェリスは厨房に向かって弁当を完成させて、ジンは書庫から持ってきた風景画集などを精査したり居間の模様替えの指示を出したりした。
そうしてそれぞれの準備を終えてから、今日の外出用に仕立てた服に着替える。
フェリスの方は、この初夏の季節にぴったりな淡い緑色のシエゾンで、ロウエンでは目立つ淡い色の髪は一部だけまとめて、濃い緑色の飾り紐で結っている。
新調した靴も若草色で、足の甲部分にはこの時季のロウエンの野に咲く白い花をモチーフにした飾りが付いていた。
「お待たせしました、ジン様」
「いや、俺もちょうど降りてきたところだよ」
弁当の入った籠を手に居間に降りると、本を抱えたジンが振り返った。
彼も今日のために、新しいシルゾンを準備していたようだ。空色の布地を濃い青の帯で締めており、さらっとした煉瓦色の髪はまとめて、簪で留めている。履いている乗馬靴も新品のようで、滑らかな光沢が見られた。
互いの格好を見た二人はくすっと笑い、使用人たちが少しでも外出の雰囲気を出そうと観葉植物や水の入った瓶、風景画などを飾ってくれた室内を見回した。
「……さすがにここにユキアは連れてこられなかったけれど、これはこれでなかなか趣があるね」
「そうですね。……それじゃあジン様、出発しましょうか?」
「ああ、そうだね」
二人はくすっと笑うと、手を取りあった。
目的地は目の前にある長いすなので、すぐに到着した。




