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70 再会

嬉しくない再会

 キオウ様たちが王城に入って半月ほどだけど、十日ほど前に「縫穣の神子」の名前がノックスにも伝わったそうだ。


 実はジャネット様たちが戻るまでの間に、「縫穣の神子」の名前をじわじわと広めていったんだ。

「称号があるだけで価値が上がるものですよ」と、参謀役のソンリン様がおっしゃっていたけれど……本当のことだったみたい。


「ノックスが派遣した使節団が収穫なしで帰ってきたこともあって、俺が到着した直後はロウエンへの視線も冷ややかなものでしたよ。一度、お偉いさんに『貴重な能力をロウエン帝国で独占するつもりか』って詰られましてね」

「どの口が言うか」

「俺も思ったよ。……でも、今ではめっきりそういうのもいなくなりましたし……むしろ、なんとかしてロウエンの皆様から退魔防具を輸入する話を付けたい、って顔をするようになりましたね。……おまえを使節団長とした交渉、ノックス側は下手したてに出ると俺は読んだな」

「そうしてくれると、俺としてもやりやすいな。……まあ、陛下から命じられた以上の要求をするつもりはないが」


 ジン様の言葉にキオウ様は頷き、そして私を見てきた。


「それで、オランド伯爵家のことですが……俺が村に到着したときには既に撤退した後だった、っていう内容の文は、道中でご覧になりましたよね?」

「……ええ。今回の件で伯爵家を責めることはできないとのことですね」

「はい。俺たちが到着したときにはもう、逃げられた後でしたしね。残念ながら、ジャネットたちの証言を告げても伯爵が『そのようなことはしていない』と言ってしまえば終わりなんです。よくても、話し合いは平行線。下手すれば……王国の伯爵家を侮辱したという濡れ衣を着せられかねません」

「どこまでも面倒な連中だ……」


 ジン様が苦々しく言い、私を見てきた。


「だが、フェリスとフェリスの力がある以上、ノックスは過激な行動には出られないはずだ。……それは伯爵家も同じだろう」

「ああ、俺もそう思った。……これからジンを代表とした使節団が国王陛下と会談をすることになるけれど……多分、伯爵もその場に出てくる」


 ごく、と苦い唾を呑む。

 どくん、どくん、と心臓が高鳴る理由は……何なんだろう。


「どうやら伯爵は神殿にたびたび寄附していたようだし、オランド伯爵家は元々は文官の家系だからな。……だがその場で伯爵が、フェリス様に擦り寄る可能性が高い」

「……もしそうなったら叩き斬ってやりたいが……そうもいかないな」

「ああ、おまえが出ればその場は混乱間違いなしだ。……だからこそ、出るべきなのはフェリス様だ」


 キオウ様が、真剣な顔で私をじっと見てくる。


「フェリス様は、非戦闘員だ。武人である俺やジンが強気に出れば、武力でごり押しする気かと揚げ足を取られて、拡大解釈されかねない。……だが元オランド伯爵令嬢の守護神官で現ライカ家の妻で神子であるフェリス様なら、発言を止められることは絶対にないし、少々……あれこれぶっちゃけたからといって、伯爵家がフェリス様に手を出すことも許されない」

「……フェリスが非力であることを、会議の場で利用するというのか」

「そういうこと。……もちろん、フェリス様があの伯爵家の連中と声を交わしたくないというのでしたら、別の方法もありますけどね。代理人を立てるとかですけれど……どうします?」


 ジン様とキオウ様が、私を見てくる。

 ジン様の灰色の目は不安そうに揺れていて、キオウ様の青色の目は真剣な色を湛えている。


 私は。

 ずっと一人で泣いていた私が、したいことは――


「……やります」


 震えずに、自分の意志を伝えた。

 ここまで来て、「代理人にお願いします」とは言えない。……言いたくない。


 これまでは伯爵家から逃げることしかできなかったけれど、私は立ち向かえる。

 ジン様やキオウ様たちが機会を与えてくださったから……恐れずに、立ち向かおうと思えるんだ。














 しばらく休憩した後、私たちは会議の場に連れて行かれた。


 今回は国王陛下の言葉を皆が聞くのではなくて、国王陛下と皇帝陛下の命を受けたジン様が交渉をして、他の者たちが傍聴する……というのが大まかな形になるから、両国の代表者が同じ立場で話ができる場でなければならなかった。


 会議の場は奥行きがある長方形の部屋で、テーブルを繋げて議席を作っている。

 テーブルを組み合わせることによって、中央に空間のある長方形の議席が作られているけれど、それぞれの長辺の真ん中に各国の代表――国王陛下とジン様が向き合って座り、その両側にずらりと重鎮や助言者、書記などが並び、護衛たちが壁際に立つことになっている。


 使節として訪問している側である私たちが先に会議の場に呼ばれ、ジン様を中心に左に私、右にキオウ様と脇を固めて、その他ソンリン様の部下やヨノム導師様の補佐である中年男性神子が並んで座る。その他のロウエン兵たちは、私たちの背後に並んだ。


 しばらくすると入室を告げるベルが鳴り、国王陛下がいらっしゃった。


 筋骨隆々としていた若いロウエン皇帝とは対照的に、ノックスの国王陛下は六十歳近い高齢で、落ち着いた雰囲気がある。


 国王陛下の右側には第一王子殿下、左側には宰相が座り、その他大臣や騎士団長などらしい人たちが続き――「その人」も、いた。


 でっぷりと肥えた体に、人を馬鹿にしているかのような目つき。

 衣装はやけに煌びやかで、天井から下がるシャンデリアの明かりを受けてけたたましく輝いている。


 ……オランド伯爵。

 私を無理矢理引き取り、養女にして……使えないからと暴力を振るい暴言を吐いてきた人。


 末席に座ったその人とは、目も合わせたくなかった。

 だから意識して、大柄で存在感のある第一王子殿下に注目していたけれど……粘つくような視線をずっと、頬に感じていた。隣に座ったジン様がテーブルの下で手を握ってくれなかったら、緊張のあまり倒れていたかもしれない。


 ――だいじょうぶ? と、声にならないような微かな音が、横から聞こえた。

 そちらを見なくても分かる。ジン様だ。


 私はごく小さく頷いてから、王子殿下の隣に座る国王陛下に意識を集中させた。

 伯爵の方は……今は、注視しなくていい。何事も起きないことだけを、願っていればいい。


 そうして参加者の紹介の後、すぐさま本題――私が作る退魔防具についての会議が始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ノックスが派遣した使節団が収穫なしで帰ってきた いや、それはロウエン帝国側の印象では 「退魔防具が欲しいのなら、ノックス側からの武器の輸入を増やして」という要望に対して ノックス側の使者…
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