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42 それをもらうなんて、とんでもない

 嬉しくて鼻の奥がツンとしてしまい、察したマリカから受け取ったちり紙で鼻をかんだ。


「そ、そう言っていただけて、よかったです。……あれ? ということは私の行動は、みんな知っていて……?」

「ああ。君を保護した兵士が細かに説明したからな。俺も魔物退治の報酬と勲章をいただいたけれど、皇帝陛下はフェリスに対しても、『フェリス・ライカの働き、見事なり』のお言葉をくださった。是非とも城に参上して、慰労の言葉と書状を受け取ってほしいとのことだ」

「……」


 ……ジン様は今、何て?

 陛下の、書状? 城に、参上……?


「……。……え、ええええ!?」

「そんなに驚くことか? 君も功労者なのだから、当然だろう」

「い、いえいえいえいえ! 功労者だなんて、とんでもない!」


 私としては、「さすがライカ様の細君!」くらいの褒め言葉をもらえたら十分すぎるくらいなのに、陛下のお褒めのお言葉……書状……城……うっ、胃が……。


「……ストレスで胃がやられそうです」

「ストレス……神経的衰弱だったか。それほどまでに嫌なら、俺の方から断るけれど……」

「嫌というより、恐れ多すぎてもったいないというか、ありがたいことではあるけれど緊張しすぎそうだという感じです……」

「そうか。それじゃあ、俺が君の代理として城で書状を受け取ってこよう。その時に賜った言葉なども全て君に伝えるという形にするのはどうかな?」

「……それでお願いします、すみません」


 本当は皇帝陛下からのご厚意を蹴るなんてとんでもないことだろうけど、私には荷が重すぎる。

 ノックスでも社交界デビューの時以来国王陛下とお話をしたことがなかったくらいなのに、ロウエンに来て数ヶ月の私が皇帝陛下の御前に参上するなんて……ハードルが高すぎる……。


「いや、こういうのは珍しいことではないし、皇帝陛下にも君のことはお伝えしているから、参上を辞退したからといって不興を買うことはないよ。でもこれできっと、フェリス・ライカの名前はいい意味で広まっていくだろうね」

「……」

「こういうの、嫌かな?」


 ジン様に問われたので、私はしばし考えた後に頷いた。


「……私が今回行動したのは、ジン様のためなんです。だから……まるで私がとんでもない偉業を成し遂げたかのように言われるのは、ちょっと違うと思います」

「……俺のため、ね」

「はい。今回だってもし、魔物を射ようとしているのがジン様以外の兵士だったら、声を上げる勇気は出なかったです。……ジン様が手柄を手にする助けをしたいから、動いたのです」

「……そっか」


 ジン様の返事は短かったし俯いてしまったけれど……小姓がタオルで乾かす髪の隙間から見える耳が、ほんのりと赤い。

 喜んでくださっているのかな……?


「……あの、そういえばジン様」

「なんだか嫌な予感しかしないなぁ。……何かな?」

「ええと、魔物がやって来るよりも前の話ですが……その、キオウ様の」

「……くそっ。本当に、あいつだけは……!」


 チッと毒づいて、ジン様はげんなりとした顔で膝の上に肘を乗せて頬杖をついた。


「……ライナンが言ってたことが、気になる?」

「はい。なんというか……その、ジン様はお城で、私のことを……」

「……。……ここでしらを切るのは格好悪いし、話がこじれるのは嫌だから……今言ってしまった方がよさそうだな」


 呟いた後、ジン様は同室にいたマリカや小姓たちに退出するように言った。

 皆お辞儀をして去っていったけれど、マリカだけはなぜかこっちを振り返り見て……大丈夫ですよ、と言わんばかりの微笑みを向けてきた。


 二人きりになった居間で、ジン様は姿勢を正して私を見てきた。


「……ずっと、言えなかったことがあるんだ」

「……はい」

「俺たちが結婚する前のことだけど。ノックスで開かれた夜会で、俺は酔っぱらいに絡まれていた君を助けた。君はお礼として俺に刺繍入りの手巾を贈ったけれどそれはロウエンでは求婚の証しで、君は図らずも俺に求婚してしまうことになった……だよね?」

「……はい。数ヶ月前のことですが、なんだかずっと前の出来事のような気がします」

「はは、そう? 俺は逆に、昨日のことのように思い出せるね」


 ジン様は小さく笑って、目尻を緩めた。


「……俺は君のことがいい人だと思ったし、お互いに悪い条件ではなかったから、ということで君をロウエンに呼び、俺たちは結婚した。……でもね、本当はちょっと違うんだ」

「えっ、どこがですか?」

「……君から手巾をもらってから俺の方から改めて求婚するまでの間に、君がどんな人かを知るために神殿にこっそり行ってみたって言ったよね? それで、君が仕事を頑張る姿に感心したと」

「……そうですね。えっ、違うのですか?」

「違うというか……追加、かな。俺さ、真剣な眼差しで退魔武器を作ろうとしている君を見ていて……すっかり虜になってしまったんだ」


 ジン様は真面目な様子で言うけれど……虜……とりこ?


 ジン様が、私の虜に?

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― 新着の感想 ―
[一言] ジンが私の好みどストライク過ぎて生きるのが辛い…_:(´ཀ`」 ∠):_ こういう責任感あってしっかりしてるけどお坊ちゃん感の抜けないちょっとかわいい、恋人とかには甘えちゃう系男子大好きです…
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