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28 ライカ家本邸にて①

 その後、ライカ家本邸を訪問する日取りを決めることになった。


 ライカ家は名家なので、お義母様たちも毎日どこかの家を訪問したり誰かを招いたり、時には帝城に参上したり夜会に行ったりと、なかなかスケジュールが詰まっている。


 そこに私の神子としての仕事予定をすり合わせた結果、私が夕方に仕事を終えた後、その足で本邸にお邪魔することになった。


 お義母様たちは今回ジン様をお呼びでないので、彼の都合を考える必要はない。

 それでもジン様は今朝からずっとそわそわしていて、「もし母上たちに嫌なことをされたり言われたりしたら、必ず俺に報告するように」と口を酸っぱくして言ってきた。

 家族を信頼していないというより、ただ単に私のことが心配なんだろうな……。


 神子の社から本邸に直行してそこで晩ご飯もいただく予定だから、迎えに来たマリカには訪問用のシエゾンも持ってきてもらっている。

 仕事の後で、社内にある小部屋で着替えた。


「……あれ? あんた、えらいきらきらしい服に着替えたんだな。これから旦那と逢い引きでもすんの?」


 着替えを済ませて部屋を出たところで、ソイルと鉢合わせした。彼とはさっき終業時に一応挨拶は交わしたから、あっちもここでもう一度私と会うとは思っていなかったようで意外そうな顔をしている。


「逢い引き」と聞いて複雑そうな顔になったマリカを手で制して、ソイルに言う。


「そういうのじゃないです。これから夫の実家に伺うので」

「ああ、そう。貴族の奥様って大変だね。肩が凝りそうだから、僕は絶対そういうの無理だな」

「そもそもソイルは男性だから、貴族の奥様にはなれないかと……」

「言葉の綾だよ。……明日も朝からなんだから、はしゃぎすぎないようにしなよ」

「はい。お疲れ様でした、ソイル」


 私がお辞儀をすると、ソイルは「ん」とだけ言ってぼさぼさの頭を掻きながら去っていった。


 ここで働くようになって十日経ったから、ソイルの人となりも分かってきた。

 だから私はソイルの態度も特に気にならなかったけれど……マリカの方はそうはいかなかったようで、むっとしてソイルの背中を見つめている。


「何ですか、あの方。いくら指導係といえど、だらしなさすぎです」

「そんなことないわよ。ソイルは一見だらだらしているようだけど神子として活躍しているし、とても頼りになるもの」


 すぐにソイルへのフォローを入れる。


 なんだかんだ言って彼は面倒見がよくて、私が集中しすぎで倒れたりしないかしっかり見てくれている。

 それに私が居残りをしようとしたら「そういうの、うちでは禁止だから」と教えてくれるし、社内で道に迷って昼食に行くのが遅れた時にも、私用の食事を残してくれたりしている。


 ……仕事上の指導係、というより私のお守りみたいな感じだけど、そもそも彼は私が無理しすぎないように監視するよう命じられているそうだから、こういうものなんだろう。


「むしろ、本当はしゃきしゃきしているのにわざとけだるげに振る舞っているんじゃないかとも思うくらいよ。それに男の人だから力持ちだし、高いところのものも取ってくれるし……」

「……そうでしたか。では、前言撤回いたしますが……奥様は旦那様にはあまり、ソイル殿のことを話さない方がよろしいかと」

「え、どうして?」


 振り返って問うと、マリカは微妙な顔でなにやら悩んでいるようだ。


「……何と言いますか、男としての矜持の問題というか、あの旦那様もさすがに嫉妬するというか……」

「何のこと?」

「いえ、何でもありません。ささ、外に馬車を待たせております。大奥様方もお待ちですし、参りましょうね」

「う、うん」


 ……なんだかはぐらかされた気がするけれど、まあ、いいのかな?












 ライカ家は、帝都のほぼ中央付近に本邸邸宅を構えている。


 ノックス王国でも、大貴族や財産を蓄える大商人とかはこれでもかというほど広い土地を持っていて、そこに立派な邸宅と庭を造って家族で暮らしいていた。特に大きいものだと、ノックス王城の離宮にも劣らないくらい豪華な屋敷もあったとか。


 オランド伯爵家はそうでもなくて、それが伯爵たちは癪だったようだ。ナントカ家は家ばかり立派だとか、ナントカ家は平民のくせに威張り散らしている、って愚痴っていたっけ。もうどうでもいいいや。


 ロウエン帝国の大貴族も立派な庭を持っていて、むしろ屋敷本体よりも庭に贅を凝らすものらしい。

 水路を張って屋敷の敷地を二つのエリアに分けて、橋を渡して行き来できるようにしていたり、小舟で遊べるようにできていたりする。

 狩猟が好きな人だと小さめの狩り場を作ったり、自然好きな人だとこんもりと森を作ったり、馬好きだと広い馬場を作ったりと、ロウエンの貴族たちは広い庭を自由にアレンジしているようだ。


 ライカ家の場合、男性陣はおしなべて馬好きで女性陣は花好きなので、双方の主張を取り入れた結果、花園と馬場両方を作ることになったそうだ。

 ジン様もたまにご実家に帰って、広い馬場でお義父様やお義兄様たちと一緒に馬を走らせたり、弓を手に騎馬して遠くにある的を射る遊びをしたりなさるそうだ。……いつか、見てみたいな。


 いつもなら、お義母様たちは花園の東屋でお茶をしたりなさるそうだけどもう日没なので、皆様居間の方でお待ちだった。


「緊張する……」

「頑張ってください、奥様!」


 扉の前で私が深呼吸をすると、マリカが励ましてくれた。側にジン様はいないけれど、マリカなら同伴してもいいと言われている。

 さすがにひとりぼっちだったら緊張で食事も喉を通らなくなりそうなので、マリカがいてくれてとても心強い。


 ……うん、そうだ。頑張らないと。

 頑張って、ジン様にいい報告をするんだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライカ様がタイプ過ぎる [一言] キュンキュンします! 主人公もライカ様大好き 応援してます。
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