第3話
ある学園の、あるクラスに、同じ夢を抱く少年たちと少女たちが偶然集っていた。
彼らの夢は「世界平和」。
夢を実現するために、彼らの戦いが始まる。
祖谷納屋 牢は、相変わらずニヤけていた。
面白いと感じたからニヤけているのか、元からそういう顔なのか、わからない。
口元が笑っている。
目元も笑っている。
だが、笑顔ではない。
人を馬鹿にするような顔だ。
世の中を舐めているような顔だ。
真意を掴めない表情だ。
確かなことは、七にとっては不愉快と感じる顔だった。
人によっては、牢を見て、不気味と感じるかもしれない。
牢も七に負けず劣らず、背が高く、また肌の色がやたらと白かった。
髪の毛の量は多く、ツヤが無く、真っ黒である。
体躯も七同様に、細身であった。
どこか人間離れした、得体の知れない存在であるような雰囲気があった。
そういう意味では、七と牢は似た者同士と言える。
「面白いな、お前ら」
「舐めとんのか、ワレ」
そう言うと、七は怒気を込めて牢を睨みつけた。
自分とお団子の少女の夢を馬鹿にされたと感じたのだ。
「ちげーけど、気に障ったんなら、謝るよ」
その表情に反して、素直な反応だったが、反省の色はまるで見えない。
七は、まったく謝罪された気にならなかった。
「正直な話、夢ってわけじゃないんだけど、世界が平和になった方が、俺にとって都合がいいんだ」
世界平和は、あくまでオマケ。
牢は、そういう言い方をした。
その言い方が気に入らなかった七は、牢を問い詰めた。
「せやったら、お前にとっての、本当の夢はなんやねん」
「言うかよバカ」
「あぁんッ!?」
「必ず手に入れたいものは、誰にも話さないもんなんだよ」
気に入らない。
世界平和をダシにして何を手に入れたいというのか。
七は不愉快だった。
「世界平和は、世界に生きるすべてが手に入れるべきものや」
「なるほど、もっともだ」
「お前が何を手に入れたいのか知らんけど、邪魔するんやったらウチの敵っちゅうことやで」
「なんでそうなるんだよ」
牢は鼻で笑った。
その行為が七の怒りに拍車を掛けるが、牢は意に介さない。
「邪魔なんてしねーって。むしろ協力させてくれよ」
「邪魔せんなら別にええわ、あんたはあんたで勝手にしたらええ。ウチはウチでやりたいようにやるし」
本来であれば自分の夢の協力者となり得る人物なのだから、歓迎すべき出会いとなるはずであったが、牢に対する七の印象は最悪だった。
「可愛いな、お前」
「はぁ?冗談はそのニヤけヅラだけにしとけや」
七は手首から先で払うような素振りを2~3度繰り返した。
また牢は鼻で笑ったが、七は無視した。
「まぁ、そんな感じ。悪い奴じゃないんで、仲良くしてください」
雑に自己紹介を切り上げ、牢は席に座った。
最後はニヤけ顔ではなく、笑顔だった。
次に起立したのは、女子生徒だった。
この生徒も身長が高く細身であった。
ただ、腕も脚も筋肉質で、がっしりしている。
高身長ではあるが、不健康そうな七と牢とは明らかに違う見た目をしている。
誰が見ても、いわゆる体育会系の生徒であると印象を受ける体躯をしていた。
「梅竹 松です」
低く芯の通った声と口調である。
髪型がベリーショートなこともあり、男子生徒と見紛うような雰囲気があった。
「私は、誓…さっきのあの子の保護者みたいなもんだから、ちょっかい出すバカがいたら容赦しないんで、よろしく」
松は、お団子の少女、誓を見てから、突き刺すような視線を七の後頭部に送った。
そうか、さっきのお団子の子は、誓っちゅうんか。
ええ名前やなぁ。
それと、さっきの殺気は、コイツのやったんか。
気をつけなあかんなぁ。
七は、松の言葉に返事をするように、正面を見たままウンウンと二回頷いた。
誓は、松と七を見て、ニコニコと笑っていた。
この物語は、実際に起きた出来事を基に作られたフィクションです。
作中に登場する人物や団体は実際には存在しません。