第7話 黒き華は拗ねる
お久し振りです。
「おい!いい加減離せ、黒華!」
「…………」
「そろそろ、学校に行かないとまずいんだって!高校生活初め2日連続の遅刻はやばいから!」
「…………」
「ていうか、いつまで無言でいるつもりなんだ!お前は!」
「黒華」
「はっ?」
「お前、じゃない。黒華……」
そう言ってジト目で睨んでくる黒華。俺は溜息をつきながらも、
「黒華」
と彼女の名前を呼んであげる。するとさっきまで睨んでいた黒華の目はへにゃりと力が抜け、嬉しそうにしながら「うん」とだけ小さく呟くのが聞こえた。
ていうか嬉しがるならわざわざそんな小さい声にならなくても……。と思ったが自分から感情表現をする際の黒華は一気に口下手になるので難儀な性格だなぁ。
とはいえ口下手なだけであってわかりやすいのでまぁそこが可愛いところなのかなと思っていた。
「って、そんなことを考えている場合じゃない!」
危ない、危ない本題から意識が逸れるところだった。ちなみにさっきから何をしていたかというと、俺が高校に行こうとするのを黒華が行かせまいと抱きついて離してくれない状況が続いていた。
俺と黒華では当然黒華の方が力関係は上なので小さい体で俺の背中まで腕を回せておらず拘束するには不十分であるにも関わらず、完璧に押さえ込まれている。
「なぁ、黒華離してくれよ。もう高校に行かないといけない時間なんだよ」
俺は頼み込むように黒華に優しくお願いする…………ていうか高校生が小さな女の子に優しくお願いする絵図って端から見たらやばすぎるだろう。
あぁ、家でよかった。先日みたいに高校でやられたら確実にオワリだ。
「いやだ」
「黒華ぁ~」
俺の懇願も虚しくきっぱりと拒否られて先程よりさらにギュッと抱き締められる……痛いんですけど。
「一人、寂しい。行かないで刀哉」
雰囲気が変わる。先程までわがままをごねていた子供だったが、一気に寂しそうな声に変わる。黒華の体もどこかしら震えている気がする。
「今までみたいに、家で勉強してよ。私を一人にしないで」
「そう言ってもなぁ」
縋り付くように嘆願する黒華。
黒華と出会ったのは俺が中学生の時で、中学校のときは俺は一切学校に通うことなく家で勉強して、テストの時だけ皆とは時間帯をずらして学校に行き別の教室でテストを受けていた。
そんな生活を3年間送ったために一切の交流もなく、当然修学旅行といった学校行事全てに参加していないため、俺の存在を知らないどころかアルバムにすら一枚も俺の姿が載っていることはないだろう。
理由としては、当時は世間のことなんか一切知らない黒華と一緒の生活をしなきゃいけなかったりしてなかなか離れられる状況ではなかった。
それになによりも当時は俺もバカみたいに戦いに参加していたし、その時はかなり俺の心も荒んでいたと思う。防衛任務だけでなく、他国に遠征に行ったりして偵察や時々侵攻もしたりするなど戦いの日々に身を投じていた。
それでもなんだかんだで勉強はしていたしテストはちゃんと受けてそれなりによい成績を修めていたために学校側は渋々そうではあったものの認めてもらい、無事卒業式まで過ごすことができた。担任の家庭訪問以外でろくに顔を合わせることもなかったが。
俺はこのままヤマトにいればいいと思っていたが、一葉さんから普通の高校に行くように言われたのだ。
最初は当然断ったのだが、一葉さん曰く『行けるなら、最低限高校も行っておいたほうがいいわ。それにもう遅いかもしれないけども、戦いとは無縁な高校生活を私は刀哉君に過ごしてほしいの』とのことだそうだ。
そのときにちゃんと黒華に『高校は今までと違ってちゃんと学校に行かなきゃいけないから、一緒に過ごせる時間も減るぞ』と忠告したのだが、黒華はイマイチわかっていなさそうな顔で『大丈夫』と黒華の承諾も得られたことで高校も行くことに決めて、なんだかんだで合格したということだ。
思えばあの時しっかりとどういうことか説明しておくべきだったのかもしれない。そうすれば今みたいにきっとごねられることはなかっただろうからな。
「あのなぁ、俺の行く高校は今までみたいに学校に行かなくてもいいというわけにはいかないんだよ。それも前にちゃんと説明したよな」
「そう、だけど……」
俺の言葉を下から見上げながら聞いていた黒華が再び不機嫌になっていく。その黒い瞳からは理解しているけど不満だという気持ちが込められているような気がする。
「だから、お願いだ。俺も黒華と離れるのは寂しいよ。だけど行かなくちゃいけないんだ、高校終わったらすぐに帰ってくるからお留守番して待っててくれないか」
「…………」
「…………」
何かを考え込んでいるようで、固まったままの黒華。俺は時間が差し迫っていることに内心焦りながらも黒華が納得してくれるまで待つことを選んだ。
そして少し考えた黒華が急に首を頷きはじめて自信満々な表情で見上げながら言ってくる。
「じゃあ、私も連れてって」
「無理」
「じゃあ、離さない」
違った、全然納得してもらえなかった。ていうか黒華を連れていく方がもっと無理だから!
「黒華は高校生じゃないから、学校には入れないよ」
「じゃあ、剣にして連れてって……これなら子供だって思われない」
「いや、それ俺が捕まるんだけど」
黒華が「えっ」と言わんばかりの絶望した表情で見つめてくる。いや、そんな顔で見られてもダメなものはダメだから。
武器を普通の高校生が持っているだけでもやばいのにしかも殺傷力は十分すぎるほどある。もし万が一誰かが下手に触れようものならいとも容易く切れてしまうだろう。
「これで、わかっただろう?黒華と一緒に高校には行けないんだよ。大人しく家で待っていてくれないか。ちゃんとご飯も作り置きしておいたから温めて食べてくれ」
そう言って黒華の頭をぽんぽんとしながら諭す。
「無理、刀哉が帰ってくるまで長すぎる……ご飯も刀哉と食べたい」
「…………」
どうしても諦めてくれない黒華。こうなったら最終手段を使うしかないか。
「なぁ、黒華とりあえず電話したいから離してもらっていい?」
「どこに」
「学校、とりあえず今日は休むからって」
俺の言葉に疑いの目でジッと見ていた黒華だったが、連絡内容を伝えると同時にわかりやすいくらいにニパッと笑みを浮かべて「ほんと!?」と問い返してくる。
そんな黒華に「うん」と強く頷いてあげるとようやく黒華から俺の体が解放されて自由になったので電話を取りだしある人に電話をかけた。
「というわけで、いきなりすみませんが黒華をお願いします」
「いーやーだー!離して!」
「気にしなくていいわよ。黒華ちゃんのことはちゃんと見ておくからね」
「よろしくお願いします一葉さん。ではいってきます」
「刀哉の嘘つき!行かないでよ!」
「はいはい、いつまでもわがまま言わないの。ちゃんとお見送りして『いってらっしゃい』って。」
「いってきます、黒華」
「っ、…………いってらっしゃい、刀哉」
不機嫌、寂しさMAXの黒華の視線を背中で受けながらも俺は家を出てドアを閉めた。ドアの向こうでは「なんで一葉さんが来たんですか!?」と声を荒げている黒華の悲痛な叫びが聞こえてくる。
黒華に申し訳ないと思いながらも俺は学校に歩みを進めていく。
ちなみにさっき電話したのは当然高校でもなく一葉さんの電話した。電話先では眠たそうに『どうしたの~』と聞かれて寝不足なのだろうと思ったが、黒華が学校に行かせてくれないことの話をした後、黒華を引き剥がしてもらうのとお守りを頼んだら請け負ってくれた。
電話後すぐに現れた一葉さんの登場に黒華だけでなく俺も驚いたが達人の技のごとく電話を終えた俺に再び抱きつく黒華を引き剥がし押さえ込んだ。やはり武術では黒華でも到底敵わないらしい。
一葉さんは何事もなく幼子を相手しているかのごとく(いや実際に黒華は幼女なのだから比喩表現はおかしいのだが)黒華を手玉に取っており一葉さんの恐ろしさを実感していた。
帰るのが今日は怖いなぁと思いつつ学校に向かうのであった。
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第1章はバトルよりも黒華とほのぼの甘々させようかなと思います。