第2話 黒き華は見て欲しい
「刀哉!帰ってくるのが遅いから、仕方なくお迎えにきてあげたの!」
プリプリと頬を膨らませて怒っている顔をしながらも声は喜々としている。
最悪だ……俺は早々に立ち去りたい気分になったが、当然そんなことをさせてもらえるはずもなく、
さっきまで黒華を囲っていた人達が興味津々な顔で俺に「君は誰?もしかして新入生?」「女の子とどんな関係なの?」などと俺が喋る隙すら与えてくれることはない。
黒華もそのあまりの猛攻に恐れをなしているのか俺の後ろに隠れるようにして俺の制服の裾をぎゅっと掴んで顔を背中に隠している。
一通り聞きたかったことを言い終えたようでようやく沈黙が訪れたのを機に俺は喋り出していいかを尋ねる。
「とりあえず、俺は喋ってもいいですか?」
「どうぞ、まくしたてまくってごめんね、こんなのだけど私達は皆この高校の2年生です」
俺のそんな確認に謝罪と学年を教えてもらえた。
先輩だったらしく俺の予想はだいたいは当たっていたようで丁寧語で話して良かったぁと思いながら、軽く自己紹介をしよう……としたのだが、俺の腕が思いっきり引っ張られたために俺は先輩達が囲っていた輪から抜け出していた。
「黒華!?」
そのいきなりすぎる行動に驚いていると、
「先輩方、時間を取らせてすみません。今日のところは急ぎの用事があるので失礼します。……では行きますよ、刀哉」
「って!?急ぎの用事って何?……ってうわっと、すみません先輩方、痛い痛い!そんな強く引っ張らないで!とれちゃう!腕とれちゃうから!」
悲痛に訴える俺の願いは届くことなく俺を引っ張る形で走り出した。俺は転ばないように足を必死に動かした。
後ろでは先輩達が呆気にとられた顔でボケッとしていた。心の中ですみません、と形だけ謝っておいた。
黒華に引っ張られた俺は、町を駆け抜けて高校の近くにある公園に着いた。走った距離はそこまで長くはないが、黒華のペースで走ったために息が少し荒くなるぐらいにはそれなりに疲労感を覚えていた。
これでもまだ俺が一緒に走っていける速さであったため加減はそれなりにしてくれたのだというのは俺もわかる。
本気のペースで走られたら今頃俺の腕はと体は肘を境目にして別れている違いないだろう。そんな恐ろしい状況が想像されてゾッとしながら合わせてくれた黒華に感謝しておく。
「黒華?何か飲みたいものでもあるか?」
「オレンジジュース」
俺は公園の中にある自販機でオレンジジュースとアイスティーを購入して日陰のベンチに座っている黒華に手渡してベンチに腰を下ろした。
黒華は早速と言わんばかりにペットボトルのキャップを開けてぐびぐびとオレンジジュースを飲んでいた。
「これは飲んだことなかったけど以外とすっきりしていていいかも」
などと地面から浮いた足をバタバタとバタつかせながら黒華は呑気にも感想を溢している。
そんな黒華の呟きを耳に入れながらも買ったアイスティーを体の中に流し込んでいく。自販機でキンキンに冷やされており先程まで走ったことによって発生した熱が収まっていくのを感じた。
心身共に落ち着いたところで、俺は黒華に問う。
「なんで高校まで来てたんだ?」
「それは、入学式の終わりが11時半って書いてあったのにいつまで経っても帰ってこないから迎えに来てあげたの」
自分偉いでしょと手を腰に当ててえっへんとしている。俺はそんな様子が微笑ましく思いながら溜息を吐いて、
「あのなぁ、入学式に遅刻したのにも関わらず、定時に帰してもらえるわけがないだろう?しかも今回遅刻したのだって黒華が離してくれなかったのが原因なんだぞ、黒華がちゃんと起きてくれたら定時に帰って来れたのに」
「ご……ごめんなさい」
今度はショボンとして顔を俯かせながら謝ってくる黒華。反省してくれているのはかなり伝わってくるのだが落ち込みがはげしすぎるので俺は黒華の頭を撫でながら、
「そんなに落ち込まなくてもいい。次から気をつけてくれればいいよ。流石にちゃんと起きてくれよ」
「わかった」
俺は「うんうん」と優しく頷いた。
黒華は年頃の女の子らしくわがままで甘えてくることも多々あるがちゃんと話せばちゃんと良いこと悪いことの分別はしてくれる。
だから俺も基本は黒華のわがままや甘えを受け入れてなんだかんだ甘やかしている。本人はクールを装っているつもりかもしれないが、甘えたがりなのは一切隠し切れてない……というポンコツである。
「ところで、用事ってなんだ?……まさか急な連絡でも来たのか?」
と俺は先程の疑問を黒華に尋ねる。ところが黒華は首を横に振りながら、
「あれは嘘」
「なんでわざわざ」
「それ……は……」
あまりにも淡々と喋っていくので俺は呆気にとられながらも説明を求めたのだが黒華は少し頬を赤くしては顔を背けてしまった。
「いきなり詰まらせてどうした?」
「少しはわかってよ!…………ばか……」
なぜか罵倒されてしまった。その理由がわからない俺は自分のせいなのか?と考えて今日の行動を振り返ってみたのだが悪いと思える点が自分では見いだすことができなかった。そう思った俺は黒華に、
「ごめんな、俺が黒華のことを怒らせたみたいで」
「そうだよ」
「でもなんで怒っているのか一切わからないんだ。だから今後こういうことがないようにしていくためにもダメだった点を教えてくれないか?」
自分の不甲斐なさを感じながら申し訳なく思っていると、黒華は「はぁ~」と深く溜息を吐きながら、呆れたように細い目でじっと見てきて、
「これだから、刀哉は……まったくもう……私に言わせないでよ」
「ごめん最後はなんて言ったんだ?」
「なっ!何も言ってない!……こっちの話だから気にしないで」
『まったくもう』の後にも何かゴニョゴニョと言っていたがその言葉を俺の耳が捉えることはなかった。
きっと普通の人だったらここで聴覚強化の魔法を使うのだろうが前回も話したとおり魔力は持ち合わせていても魔法は使えない。少しぐらいは魔法を使えてもいいじゃないか?と思ってもできないものはできないのでどうしようもなかった。感覚強化の魔装でも作ってもらおうかな……
その間にも黒華はなぜだか顔を赤くしながら体をモジモジさせて聞き取れない言葉を溢しては何か決心を固めたような目で、
「刀哉、お願い言うから聞いて?」
「いきなりお願いって……」
「お願いを守ってくれれば私の機嫌もよくなる」
「じゃあ、頼む。できる限りのことはするから」
「言うよ……」と言ってなぜか深呼吸をする黒華。そんなに重要なことなのかとも思ったが口に出すのはやめたほうがいいと判断して黙っていることにした。
「私のこと、ちゃんと見てて、刀哉」
顔を耳まで真っ赤にくらいに染め上げて、瞳を潤わせながら上目遣いでいつものようにツンとした様子ではなく弱々しく甘えた甘えた声でお願いをする黒華に少しドキッとしながらも黒華の手を優しく包み込んで、
「わかった、よくわかってないかもだけどもっと黒華のことを見るようにするよ」
「ん、もっと、ずっとだよ」
「あぁ、これまで以上にだな」
「そうだよ」
俺にお願いを聞いてもらったことがそんなに嬉しかったのか、とても喜んではにかんでいる。俺はそんな黒華のあどけない一面を見て内心ほっこりしていた。
その後もベンチに座りながら黒華の様子を眺めていると不意に着信音が鳴り響いた。俺はカバンからスマホを取り出して電話の呼び出しの名前を見て、溜息をつきたくなったが、溜息を吐くことすらめんどくさくなりあきらめてスマホの電話を開く。
「もしもし、刀哉です」
「あっ!刀哉君?」
読んでいただきありがとうございます!
面白い?続きが気になるかも?と、
思っていただけた方は評価やブックマークをよろしくお願いします!
黒華が可愛いと思った方も是非!