プロローグ
今回は短編版と同じです。次話以降が新しい話になります。
無事に受験も終わり、受験番号と「合格」の2文字を確認した俺は合格者説明会の日時を確認した後、校門を出て帰路に着こうとする。
あれは・・・・
校門を出ようとしたところで門のすぐ横で、高校の合格発表というこの場に全く似合わない幼すぎてどこから見ても小学校低学年にしか見えない女の子がいた。
校門の壁に身長が隠れてしまっていて、必死に自分の存在をアピールするがごとく背伸びをしているようだった。頭の天辺にある黒髪しか見えていないが。
向こうも気づいたのか、顔を上げてこちらを見ては小さな目を細めてじっと見つめてくる。どうやら早く来いと訴えているようだ。
俺は優しく笑いながらその少女のもとへ早歩きで向かう。俺が笑ってみせると少女は嬉しそうに表情を緩ませたが、すぐに表情を引き締めてクールな雰囲気を身に纏う。
「わざわざ、来てもらってありがとうな、黒華」
「どういたしまして刀哉、別に心配だったから……とかじゃないんだから」
「あぁ、わかってるよ」
俺は顔を横にプイっと背ける少女の頭をそっと撫でてやる。「ふんっ」とご機嫌斜めなように見えるが、口角はきっちりと上がっている。
身長が俺の腰ほどまでしかない少女は年頃の少女が持つ無垢で明るい雰囲気というよりもだいぶ大人っぽくて凜としている。
太陽の光を反射して美しいショートカットの黒い髪は1本1本とてもさらさらしており、撫で心地もとてもよい。
機嫌が直ったのか横を向いていた顔が正面に戻り俺を上目で見上げてくる。少し潤わせながらも漆黒で透き通った瞳、目は丸くてくりくりとしている。
それとは対照的なほどまでの汚れを知らない真っ白な肌、少し紅潮させた頬、小さく赤い唇、髪の間から見える小さい耳、真っ黒なワンピースを着ており裾はフリルが付いている。非常に幼い見た目ではありながらも身に纏う雰囲気や落ち着いた服装からミステリアスな女性も感じさせる。
とはいえ周囲からみれば心配性な年の離れた妹が兄の合格発表まで駆けつけているほどの仲睦まじい兄妹にしかみえないだろう。……もっとも俺達はそんな一言で言い切れるような関係ではないが。
しばらく撫でているとそれなりに周囲の視線が痛くなってきたので撫でるのをやめて、
「ちゃんと合格してたから、帰るぞ」
「おめでと、うん」
そして俺達は受験生や親御さん方が受験結果に一喜一憂している間をくぐり抜けて帰路についた。
その帰り道……
「そういえば、黒華?」
「ん?」
「食材切らしてたから帰りにスーパー寄っていいか?」
「わかった、デザート買いたい」
「はいよ、1つまでな」
時は2120年、地球はエネルギー不足の問題に直面しているが、それに呼応するように人類も進化し、人は誰しもが魔力をもつ時代になった。人々はエネルギー不足を魔力を介して発動する魔法で補いながら生活を過ごしている。
魔力で小規模ながらも発電して蓄電したり、料理の際は火を発生させたり、水を発生させて洗い物や掃除をしたりする。魔力で飛行する者もおり移動に活用している人もいる。今も上を見上げればほら、慌ただしく飛んでいく人がちらほらと。
とはいえ魔力で補えることは限られており人間の社会を維持するには魔力だけでは補うこともできず、限りある資源を巡って他国と戦争が起こったりしている。我らが日本も資源を求めて戦争をしている。俺らの国はそこまで戦争に積極的ではないが、他国から侵攻されないようにある程度の力を示すために時々侵攻している。
そのおかげで世界の貧富の差はさらに拡大、力ある者が上に立ち、弱者は彼らの庇護のもとそれなりには生きられる世の中ができあがっていた。
その中でも日本はまだマシな方だとは思う。社会体制もここ100年ほどの間際立って変わった所はない。強いて挙げるなら魔力関連の制度の整備や軍や戦いに関する制度が非常に緩くなったぐらいだろう。
そろそろ自己紹介をしようか。俺の名前は柊 刀哉、現在15歳。今月初めに中学校を卒業して無事に家から近い公立高校に合格することができた。4月からは青春真っ盛りの高校1年生である。背丈は170cm程で高校1年の始めにしては背は大きい方だとは思う。さっきまで周りにいた生徒はほとんど俺より下の人だった。
そして隣を歩く色々と小さい少女は黒華で、小学校1年生ほどの見た目で、一見すると素直じゃなくて大人ぶった女の子にしか見えなくもないが、……いや性格に関しては言えているか。名前しかないのを聞いて察したのかもしれないが黒華はただの人間というわけではない……。
基本はクールで落ち着いており、凜としている。基本自分と関わりのないことには興味がなくどうで
もよさそうに振る舞っている、本人曰く『刀哉のこと以外は事実どうでもいい』とのこと。実際にはそう振る舞っているだけで実はかなり他のことも気にしているようだ。
俺としてはもう少し外に関心を向けていることをオープンにしてもいいと思っているのだが、彼女の事情を知っている身としてはそうなってしまうのも理解できるので俺は内心で思う程度にとどめて決して口には出さない。黒華は自分の気持ちを素直に表現するのがかなり苦手である。
「ね、今週は仕事って入ってる?」
隣から見上げて話し掛けてくるので俺はカバンからメモ帳を取り出し予定を確認する。
「いや、緊急なことが起こらない限り俺達は休みだ」
「そっか、久々にゆったりと過ごせるね」
黒華がほんのりと嬉しそうに笑みを溢す。そんな黒華に俺は「だな」と相づちを返した。
無事にスーパーに着いた俺達は野菜、魚、肉……と1週間分ほどの食料を買い込んでいく。カートは黒華が押すと言って譲らなかったので周りから見たら小さい子に重いものを押させる薄情な奴だと見られるかもしれないが黒華がそういうのも気にしないのはわかっているので、お言葉に甘えて食品選びに集中する。
できるだけ保ちそうなものを選んでいくようにしているが、生鮮食品を1週間も保存しておくのはあまりよろしくないかもしれないが冷凍しておけば少しは大丈夫だろう。そんなことを考えながら献立を頭に思い描きながら食品をカゴに入れていく。一通り必要なものを入れた俺はデザートが置かれているコーナーまで行く。
黒華は目をキラキラとさせながら悩みに悩んだ結果2つの商品を手に取りどちらにしようか決めきれないようだった。左手にはコーヒー味のシフォンケーキ、右手にはチーズケーキがそれぞれ小さい手の上に不安定ながらも乗っている。
「うーん」とずっと悩んでいるので俺は手の上に乗っている商品を2つとも黒華から奪ってカゴに入れた。
「めんどいから2つとも入れるぞ」と言う俺に黒華はわかりやすいほど嬉しそうにして「ん!」と笑った。
そして、会計をするためにレジで並んでいると、入り口の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前らあ!動くんじゃね!」
そう叫びながら店内に入ってきた30代ほどの小太りした男性は右手に男性の顔と同じくらいの火球を掲げながら気持ち悪い笑みを浮かべる。周囲の人はいきなりのことにその男性に視線が釘つけになって固まっている。
「爆破されたくなかったら、有り金と手頃な料理をカバンに詰めろ!」
そう言いながら、持っていた大きなボストンバッグをドサッと地面に落とす。女性店員は青ざめた顔で体をビクビクと震わせながらも生まれたばかりの子鹿のように覚束ない足取りでお金を持ってきては用意されたカバンに入れていく。
「よし、次は食料だ!……そうだな惣菜をパンパンに入れてこい!……もし余計なことをしようとしたら……」
そこまで言った後男性は手に掲げていた火球を女性店員に向かって投げつけた。その火球は女性店員の顔のすぐ横を通り背後にあった商品棚が爆発すると共に炎が激しく燃え盛っている。
「こうなるかもなあ!ハッハッハッァ!」
店員は完全に恐怖の色に染まってしまったのか腰が抜けてしまっており立ち上がることすらできない様子だった。そんな様子を本人は楽しんでいるのか、
「ほらほらぁ!早く動かないと燃えちゃうぞお!」
再び火球を生成して女性の目の前にぐっと近づける。女性の瞳に光は灯っておらずただ「あっ……」と乾いた声で口をパクパクさせるだけになってしまった。
そんな完全に生気を失った彼女が面白くないと感じたのか、「もういい、お前が見せしめだ」そう言って火球を彼女に投げつける。
「行くぞ、黒華」
「わかった」
そして俺達は駆け出して火球と店員の間に入り込み、黒華の手が火球に触れた刹那、火球は綺麗さっぱりなくなってしまった。
誰もがこの現象に驚いて目をパチクリとさせている。無言の時間がしばらく経ったのち、男性が
「ありえない!なんで!?」
そう言いながら再び火球を展開して投げつけてくるがそれらを全て黒華が触れることで一切の無となる。
俺はその間に女性店員を避難させて戻ってくると、そこには膝に手を置きながら肩で息をして疲弊しきった男性と、全くの余裕の表情で軽蔑した目を送りつけている黒華がいた。
黒華は淡々と告げる。
「これで差ははっきりしたでしょう、大人しく投降してください」
「まだだぁ!」
そう大声で叫ぶと男性は胸ポケットから銃を取り出して銃口を黒華に向ける。
男性が持っているのは魔装まそうと呼ばれる使用者の魔力を圧縮して高火力を発揮する銃型の武器、「ブラスター」である。
一応軍の関係者しか持てないはずなんだよなぁと思いながらもどうしようかと迷っていると、
男性はニタッと笑い銃口を右に向けた。そして引き金に手を掛ける。その先には黒華と同じぐらいの少女がいた。
しまった!
と思ったときにはすでに遅くブラスターからは先程までとは桁違いの高温な熱線が一直線に向かっており商品がちょっとかすめただけでも溶けてなくなってしまっていた。
しかし、その熱線は少女に届くことはなかった。黒華が少女を守るようにして両手を伸ばして必死に熱線をかき消している。
全てを防ぎきると黒華は「あぁあ……っ」と聞くだけでも痛々しい声を発して前に倒れそうになる。
「黒華!」
俺は黒華が倒れる前に黒華の元に駆け寄って小さくて細い体を支える。
「あぁあっ!……ぐっ!」
先程の熱線を打ち消すことはできたものの熱までは消すことはできず、手の皮膚は黒くなってしまったり皮膚が溶けてしまっていた。
尋常じゃないほどの痛みが襲っているはずだが、後ろにいる少女に下手な心配を掛けさせまい手と顔を隠して、叫び散らしたいほどの激痛に襲われているはずなのにそれを黒華はうめき声と体を小さく震わせるだけに抑えている。
俺はすぐに黒華の手に触れて俺の魔力を渡す。するとすぐにいつもの真っ白くて綺麗な両手に戻った。
黒華は申し訳なさそうに小さい声で
「ありがとう」と言って小さい頭を俺の胸に軽く乗せてくる。
俺は「痛かっただろうけどよく頑張った」そう言って手を優しく包む。
「くそがぁあ!残りの魔力を全て込めてやる!消し炭と化してしまえ!」
そう言って再び銃の両手に握りしめて狙いを定めてくる。宣言するだけあって先程とは比にならないほどの熱を放っている。銃口からとんでもない熱量が既に伝わってくる。
俺は黒華に呼びかけて、
「すまない、もう少しだけ頑張れるか?」
黒華は真剣な顔で「ん」と首をコクリと動かした。
俺と黒華は手を立ち上がり手を握った。
すると黒華の周りに光が集まり、黒華が光で覆われたかと思うと光に包まれた黒華は人ではなくなり、周りの景色をも反射して映し出すほどの美しい漆黒の剣へと姿を変えた。
長く美しい漆黒の刀身は剣であるのにも関わらず綺麗な華が咲いているみたいで心がぐっと引きつけられるほど美しい。
俺はその剣を手にして構え直し力を発動させると先程まで凝縮されていた熱が男性の持っていた銃からさっぱりとなくなる。
男性は「なっ!?」と動揺したが、その瞬間に、地面を思いっきり踏み込み間合いに入り込み、男性が持つブラスターを剣で切りつけて破壊した。意外と耐久が脆くて溶かすように切れてしまった。
一瞬の出来事に破壊されたブラスターに驚きの表情を見せるもすかさず足を引っかけて男性を浮かせて、地面に叩きつける。「ぐはぁ」とうめき声を上げるが気にすることもなく、抵抗できないように首に手刀を叩き込み気絶させた。
その様子を見て「ふうー」と一息吐く。漆黒の剣は再び光を放ちながら幼き少女、黒華の姿に戻った。
「特に異変はないか?」
すぐに黒華の状態を尋ねる。
「ん、大丈夫」
黒華は心配を掛けさせまいと優しく微笑む。俺は一通り黒華の容体を眺めて「そうか、よかった」と笑みを返した。
一通りの事情聴取を終えて、男性の身柄を警察に引き渡した後、俺と黒華はスーパーを後にした。店側はお礼として無料でいいといわれたが、それは申し訳なかったのだがなかなか引いてくれなかったのでカゴに入れたものは自腹で黒華が欲しいスイーツをいくつか無料でもらうことにした。
隣では黒華が先程もらったソフトクリームをおいしいのかニコニコしながら小さい口で食べ進めている。
黒華の正体は「魔導兵装」だ。もともと人間だった少女が非人道的な改造を施されてできた結果である。使用者の魔力と互いの同意で人の姿から武器の姿に変化することができる。
能力は人それぞれだが黒華の場合、人の姿の時は触れたものの魔力を打ち消す。そして剣のときは俺が任意で指定した範囲や対象の魔力を打ち消すといったものである。
つまり魔力を用いて戦う人、通称「魔導士」には魔力の使用を一切禁じることができる。魔導士の主力な魔法を封じた状態で戦うことができるのである。
俺も魔導士としてそんな黒華の使い手として選ばれて一緒に過ごし、これまで戦ってきた。
だけど、黒華には年頃の女の子らしく無邪気に笑って過ごして欲しいと思っている。厳しいかもしれないが。黒華には独りでは抱えきれないほどの辛い過去を経験してきている。その辛さを少しでも和らげてあげたい。
「黒華」
俺は少女の名前を呼ぶ。呼ばれた黒華は「ん?」とソフトクリームを口につけながら首を傾げる。口元には白いソフトクリームの立派なひげの跡が残っていた。きょとんしてなんとも間抜けな顔をしている黒華を見て微笑ましい気持ちになりながらも、俺はハンカチで口元を拭いてからポケットにしまった後、空いている黒華の右手を握った。
「帰ろっか」
「ん、刀哉」
互いに手を握りながら俺達は家に帰っていくのであった。
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