織田家に召抱え
村人C「おお、おめーら!無事か!もう心配いらねえ!助けを呼んで・・・・・・へ?」
軍団の後をついてきた村人が予想とは違った村の光景に目を疑った。無理もないだろう。今頃、村の中が荒らされていて山賊の襲撃を受けていたと思っていたのに、村の広場で和気藹々と談笑をしているのだから。
村人A「おお!わしらなら大丈夫じゃ!このお二方のおかげさんでな!」
そう言って湊と海を指さした。改めて2人の方を見ると、2人の傍にはまさしくさっきまで村に攻め込んできていた山賊がゴミのように地面に転がされていた。だが、見ると気を失っているだけで、殺してはいないようだった。
湊「てんで歯応えない奴らだったし、面白くも何にもなかったけどな〜・・・・・・」
海「そんなこと言わない!すみません・・・・・・うちの兄が」
村人A「元気があっていいじゃねーか!にしてもすげーじゃねーか。2人であの山賊どもをのしちまうとは・・・・・・」
全然そんなことないです。そう言おうとした海だったが、それは第3者から放たれた言葉によって遮られることとなった。
殿「暫し良いか?」
2人「「ん?」」
その声は、殿と呼ばれていた”女の武将”からだった。長い茶色の髪をなびかせ、くりりとした紅色の瞳がその髪をなおのこと強調している。甲冑を着ているが、それでもその体つきは女性のそれで、華奢な体つきだ。
殿「その者らはお主らがやったのか?」
2人「「?」」
2人は最初、その者が何を指しているのかわからずに首を傾げていたが、すぐにそれが山賊達であるとわかり、返答を返した。
海「はい。この村に来たときにちょうど居合わせてたので。話聞くのに邪魔そうだったんで排除したんです」
殿「・・・・・・2人でか?」
湊「さっきからそう言ってんだろ〜。ってかあんたは?」
湊がいつもの調子で聞くと、姫武将の後ろに控えていた香織や兵達から『無礼だぞ!』という非難の声が飛んできた。今にも斬り掛かってきそうな勢いでだ。
殿「おけぃ。ふむ・・・・・・あれだけの数をたった2人でか・・・・・・なるほどのう、っとすまぬな。まだ名乗っておらんかったな」
そういうと少し姿勢を正し、殿と呼ばれた姫武将は名乗った。
殿「我は尾張織田家当主、織田上総介沙羅信長なり。見知りゆくがいいぞ!」
2人「「・・・・・・はあ?」」
沙羅「ふむ?どうかしたか?」
目の前にいる姫武将改め、織田信長に2人ともどう返せばいいかわからなくなっていた。それはもちろん、かの織田信長が男ではなく女であるが故だ。誰でもそうなるであろう。
海「いや、えっと・・・・・・」
沙羅「その方らも名乗るが良い」
今度は信長が2人に名乗るよう命令してきた。名乗ってもいいのかと迷っていた海だったが、湊は最初から迷う気などないらしくすぐに名乗った。
湊「俺は椎名湊。でこっちが妹の海な。よろしく。でさ?あんたってほんとに信長なの?」
海「ちょ!?お兄ちゃん!」
またも飛び出した湊の無礼な発言に兵達がイキリを激しくさせ始めていることを察した海はすぐに湊を止めに入った。無論、信長に謝罪しながら。
沙羅「・・・・・・?何度も言わせるでない。我は信長である。とはいえ、あまりその名は好きでないのでな。あまり呼ばないでもらいたい」
湊「じゃー沙羅でいいや」
海「だからお兄ちゃん!!ほんっとーにすみません!!」
沙羅「ふふ・・・・・・面白いな貴様は。湊と海と言ったか?」
海「はい。そうですが・・・・・・?」
すると、突如、信長もとい沙羅は少し顔をにやつかせながら驚くべきことを言い放った。
沙羅「貴様ら、我のもとで働いてみる気は無いか?」
香織「殿!?」
言い放たれたその一言は、現代で言うスカウト的なものだった。あまりにも予想外のことに、海や他の兵達も動揺を隠せずにいた。香織も同じ感じだった。沙羅にどんな意図があってそんなことを言ったのかはわからないが、今詮索してもきっと答えは返ってこない。そう判断した海は返答することに決めた。
海「わかりましーーー」湊「めんど〜。やだ」
沙羅「・・・・・・」
2人の返答は全く逆だった。湊は反対で、海は賛成だった。途端に海は湊に耳打ちをした。
海「(ちょっと何考えてんのお兄ちゃん!こんなわけわかんないとこにいるよりもとりあえずどっかのとこに召抱えられた方が情報も集めやすいでしょ!?断る手なんてないよ!)」
湊「だって、働けって事はそれだけ俺の昼寝の時間が減るってことでしょ?それは勘弁だからさ。だからやだ」
海「そんな理由で断んないでよも〜!!」
沙羅「く・・・・・・く、ははははは!!!やっぱり面白いなぁ湊は・・・・・・」
湊の断った理由がツボに入ったのかしばらく笑っていた沙羅。しばらくして、ようやく笑いが収まった沙羅は改めて2人の方に向き直った。
沙羅「確かに我の元にくれば貴様の時間とやらも減ってしまう。それはすまぬと思っている。だがその代わりに昼寝に最適な静かで快適な家を用意してやろう。・・・・・・それでも駄目か?」
湊「ん〜、昼寝に最適か〜。それならいいかな。いいよ、沙羅のとこ行くよ」
海「はぁ〜〜、なんかすみません。こんな兄で」
沙羅「気にせんでいい。では早速向かうとしよう。貴様ら、馬には乗れるか?」
湊「修行の一環で馬術をやったことあったから多分乗れるかな」
これも2人の父から鍛えられた技術の一つでもある。言ってしまえばこの2人は武道だけでなく他にも学業においても厳しい教育をされていたため、頭のキレはいい。今回の馬術もその一つでしかない。
沙羅「では、我らの後をついてくるが良い。決して逸れるでないぞ!」
海「はい!」
湊「うん」
そうして2人は村の人たちと別れを告げ、沙羅達の居城に向け馬を走らせるのだった。この時の沙羅の判断が、後の織田家や日の本中の全勢力に大きな影響を及ぼすことになることになるとは、この時は誰も気がついてなかった。