新編『堕落した少年』
今から約3年前。
クリスマスの日に完結した『堕落した少年』の新編です。
どうぞ、お楽しみ下さいませ。
……僕は地上へと、地獄へと落ちていった。
この国は何かと「肩書き」というものを求められる。
中高生や大学生なら「学生」。会社員なら「○○会社課長」。人妻なら「専業主婦」など、誰にも肩書きというものはある。
これがあるから人々は社会で自分の居場所を見つけられ、安心して生きてゆける。
しかし、最近は学校に行かない学生や、働かないで家にいる大人が増えている。
こんな人々に今まで肩書きなど無かったが、残念な事に世界はそんな奴らに名前を付けてしまった。
いま現在、名無しなんて人は稀で、物に対しても名前を付けてしまうほど、名前の価値というものは失墜しているが、本来名前とは有り難いものであった。
そして。名付ける事は存在を認める事。肯定し、社会での居場所を作ってしまったのだ。
「引きこもり」「ニート」「自宅警備員」
なんとも立派な肩書きだ。
そして、引きこもりなどの親族は周りに堂々と宣言する。
「うちの子、引きこもりなの。」 と。
その精神は尊敬に値する。僕の親も含めて。
ここまで引きこもりについて色々言っているが、僕も世に言うところの「引きこもり」だ。
母親とは三ヶ月ほど顔を合わせていない。
母は毎日、朝昼晩御飯を作ってくれているというのに、僕は長い間顔を合わせていないのだ。
我ながら親不孝だと思う。馬鹿だが、子供思いの優しい母親なのだ。
尤も子を産んだ親としての責任がある為、どんな子供だろうが育てるのが当たり前という考え方も出来なくはない。
そんな母親の事は嫌いではない。むしろ好きだ。
だが、誰にでも親は二人いるものだ。僕が引きこもりになった理由。
それは全て父親だ。父親さえいなければ僕は引きこもりになんてなりはしなかった。
父親は他人の気持ちが分からない。理解しようともしていない。
家族を大切にせずに仕事ばかり。
そのおかげで皮肉にも少し裕福な生活が出来ている。
でも、僕は金なんか望んでない。
父親からの愛情が欲しかった。
父親は僕のことを「金を食うだけの邪魔者」扱いする。
事実そうかもしれない。
だが、子供は親に縋って生きていくしかない。そんな事、大人も分かっているはずだ。
なのに何故、僕は邪魔者扱いされなければならないのか?
父親は僕が嫌いなのか?
僕は父親に愛されていなくても好きにならなければならないのか。
昔は好きになろうと頑張った。
見てきた面だけ見れば嫌いかも知れないが、それでも親である。
だが、もう限界だ。
親だなんて思いたくなくなってしまった。
しかし、父親が家族を放置し、会社から貪るように取ってきた金で僕は生きてきて、今も生きている。
つまり父親のおかげで生きているんだ。
残念だがそれは逃れようもない事実であり、父はたった一人の父親なのだ……。
何故僕は引きこもりになったのか。
何故僕はここまで父の事が嫌いなのか。
その理由は僕の過去、小学校六年生の頃の出来事にある。
小学生の大半は経験する事なく、存在すら認識しないであろう出来事だ。
僕の人生はある日から崩壊していった。
健全な精神で健全な生活を送れなくなった。そんな僕は………………だ。
義務教育。
大人が子供に押し付ける教育と見るか。
子供が大人から勝ち取る教育と見るか。
いつから勉強というものが苦行に変わったのだろうか。
勉強は、学ぶ事は決して苦行なんかでは無いはずなのに。
より良い環境での苦行を求めて、苦行を行う。
一般的には義務教育の終わり頃からこの苦行は開始されるものだが、最も早いものは幼少期に。
早期だと小学生からこの苦行は始まる。
中学受験戦争。
自分の志望校目指して、早い人は受験の三年前から。
遅くとも一年程前から勉強を始め、毎日塾に通い、夜遅くまで勉強してから寝る。
翌日、早朝に起きて眠たい目をこすりながら勉強してから小学校に行く。
小学校では下らないと思える勉強して、家に帰っても勉強。
そんな生活を送る。並大抵の覚悟では受験戦争に勝利し、合格する事なんて出来ない。
親は受験日まで多額の金と大きなプレッシャーを子供にかける。
子供は日々の疲れのみならず、そのプレッシャーに堪えながら勉強する。
一生懸命努力する。
なのに、模試などで悪い結果だと怒鳴って怒られる。
やりたくもないのにやらされる。強制的に勉強させられる。
僕はこんな生活を強いられていた。
それでも支えてくれる人がいれば、多少は気が楽になる。
僕には母がいた。母は僕を支え、応援してくれた。
ほぼ毎日夜食を作って部屋まで持ってきてくれた。
しかし、週に何度か持ってきてくれない時がある。
それは家に父がいる時。
母は父に逆らえない。
一度、父が家にいる時に持ってきてくれたことがあったが、その時にはしばらくしてから居間で大きな音がした。
尋常ではない事態と、恐る恐る居間を覗きにいってみた。
怒られていた。そんな言葉で済ませたくはない。
中ではとても酷い事が行なわれていたのだ。
母が正座をさせられ、その向かいで父が椅子に座って怒鳴っていた。
母は何度も、何度も頭を下げて、土下座して謝罪していたが、父には許してもらえず、終いには暴力を振るわれていた。
助けたいと思った。
でも、意思に反して体が動かなかった。
父に対する恐怖が僕を束縛していた。
子供は親の操り人形なのか。親の奴隷なのか。子供は親の言いなりになるしかないのか。
親は子に言う。
「嫌なら辞めて良い」
「自分のやりたい事をやったら良い」
子供にとってこれはただの脅しだ。
「嫌と言ったらどうなるか分かってるな」
「言うこと聞かないとどうなるか分かってるな」
まるでそう言われている感覚だ。
事実、僕が習い事を自分から「辞めたい」と言って辞めさせてもらった事がある。
「嫌なら辞めて良い」という言葉を受けての行動だ。
なんら問題ないだろう。
しかし、その後しばらく日が経ってから言われたのだ。
「まだ続けていれば……」
「辞めて得は無かったな」
習い事でここまで言われるんだ。
「受験を辞めさせてください」
なんて口が裂けても言えない。言えるものか。
親の言う事は絶対。
受験しろと言われたらしなければならない。辞めたらこの家から追い出される。
最悪殺される。
今すぐ辞めたい。僕は別に地元の中学で良い。
でも、そんな事は言えない。父親が怖いから。
言う事を聞いていれば怒られはするが殺されることは無い。生命の安全がある。
嫌嫌だが勉強を頑張った。
この命を守る為に、生き続ける為に……。
不思議なことに、どれほど嫌な日々だろうが、振り返ってみればあっという間だったように思う。
二月一日。受験戦争開戦。
ここまで来たら今まで積み重ねてきた努力を信じて戦うしかない。
僕は気合を入れて受験する二校へと向かった。
中学入試は国算理社の四教科受験が主流で、半日で終わる。
その為、午前に一校、午後に一校受ける事が可能なのである。
また、受けた試験の合否は基本的にその日のうちに発表される。
形式はネットだったり、現地掲示だったり様々である。
今日受ける二校のレベルは、共に上の下ほど。
僕にとってはレベルが高い、挑戦校だ。
当然周りの受験生は自分より頭が良いだろう。
だが、そんな事は関係ない。
受験は自分との戦いだ。自分に打ち勝ち、実力を出しきれば必ず合格を勝ち取れる。
午前に第一志望校、午後に第二志望校を受けた。
手応えはある。二校とも合格出来たはずだ。
試験直後の僕は自信に満ち溢れていた。
結果はその日の午後九時までに出た。
パソコンと向き合い、震える手で操作する。
結果が画面に表示される。
第一志望校不合格。第二志望校不合格。
正直ショックだった。手応えがあった分、余計に不合格は響く。
母は父のいない所で僕を励ましてくれた。
しかし、父は僕を怒鳴って怒った。あれだけ勉強したのに落ちた。
僕の自信は全て崩壊した。
一生懸命勉強してきた。嫌でも頑張った。それだけが自信だった。なのに……。
二月二日。二日目。試験は連日行われる。
今日も二校。午前に第三、午後に再度第一志望校を受けた。
第三志望校のレベルはだいぶ落ちて中の中ぐらい。
所謂滑り止めだ。相当の失敗をしなければまず落ちる事はない。
再度受けた第一志望校も昨日より解けた気がした。
今度こそいける、少なくとも滑り止めは取った。
まず、どこでも良いから合格して波に乗るのが重要だ。
結果。
二校とも不合格。
さすがの母も残念な様子を隠しきれずにいたが、ちゃんと僕の事を励ましてくれた。
しかし、僕は立ち直れそうにないほどショックを受けた。
第三志望校にも落ちた。
合格率80%前後で、まず落ちる事はないとずっと言われていたのに。
不合格の波に乗ってしまった僕の心から自信なんてものはとうに消えた。
僕にはもう不安しか無い。
二月三日。三日目。連日精神を擦り減らして試験を受ける。
そろそろ疲れが出る頃。
消極にネガティブが混ざり、混沌とした心。
今日は一校、第二志望校だけ午前中に受験し、午後はまだ試験のある第一志望校に向けて勉強した。
第二志望校の試験はかなり解けた気がした。
しかし、この自分の感覚は全く頼りにならないものだとここ二日間で実感した。
どんなに出来たと思っていても受かるはずがない。
そんな不安を抱えた状態で勉強しても集中出来るわけがない。
試験を受けて足りない実力ですら出せるはずがない。
第一志望校なんかに受かるとは思えない。
結果。
第二志望校、不合格。ついに母からの励ましの言葉すら無くなった。
二月四日。四日目。
まだ合格を一つも勝ち取れていないことによる不安でここ数日はまともに眠れぬ日々を過ごしている。
そんな状況の中でも受験は続く。今日も二校受験した。
第四、第五志望校。合格安全校だ。
レベルは中の下。偏差値は40台後半。第一志望校よりも相当レベルが下。
当然問題も簡単。滑り止めの滑り止め校だから合格率は99.9パーセントだろうと言われていた。
いくら状況が悪くともさすがに合格出来ると信じていた。気は確かに緩んでいた。
結果。
第四志望校、不合格。第五志望校、不合格。
ここ数日何も言ってこなかった父に、今日は怒られた。
「第一志望校よりもレベルはずっと下なのに何故落ちるんだ。まさかわざと落ちたのか?お前にいくらかけたと思ってるんだ。受験するのもタダじゃないんだぞ。しっかり試験を受けろ。真面目のやれ」
ちゃんと試験は受けている。
合格したいと思っている。だからちゃんと試験を受けている。
当たり前の事だ。
だが、そう言っても聞いてもらえるはずがない。何故なら結果が伴っていないのだから。
二月五日。五日目。
最後の第一、第二志望校の試験日。
今日落ちたら第一、第二志望校に行くチャンスを失う。なんとしても合格しなければならない。午前に第一志望校、午後に第二志望校を受けた。
日に日に周りの受験生の数も減っている。出願していても今ここにいない受験生は、もうこの学校や他の学校に合格しているのだろう。
つまり、ここにいる受験生はみんな落ち続けているという事だ。この中で一番頭が良いのは自分。だから絶対合格出来る。
そう思い込んで問題を解いた。そうするしかなかった。
二校とも今までの中で一番出来が良いと思った。
自分の感覚が信じられないといえども、今回はもしかしたら合格出来るかもしれない。
今回の自信は今までとはまるで違う。合格出来る。自信が確信へと変わる。
ただそれを親には言わなかった。もし落ちていたら……。
そう考えると父親はもちろん、母親にも言えなかった。
心の中ではウキウキ、表面的には自信なさそうに沈んだ様子でパソコンに表示される結果を見た……
この時にどちらか一校でも合格していれば、僕の努力は見事報われ、幸せな中学生活へ向かっていけただろう。
だが、世の中そんなにうまくいくはずがない。当たり前だ。
結果。
第一志望校、不合格。第二志望校、不合格。
僕は絶望した。試験は明日もある。でも、もう終わりだ。
この気持ちを切り替えるなんて不可能だ……。
二月六日。受験戦争最終日。
最後の希望、第六志望校。ここのレベルは中の下。偏差値40前半。
元々受けるつもりもなかったほどレベルが低い。落ちるなど考えられない。
問題はとても簡単。何校も落ちて、心がズタボロの僕でも絶対に合格する確信があった。
学校の質は第一志望校より相当悪いが、僕の努力が全くの無駄にならないだけまだマシだ。
夜。合格発表されるホームページを見た。確認するまでもなく合格だろうと思っていたが、一応確認はした。
僕の番号は377だ。
301、339、352、369、384……384、369……
無い。僕の番号が…無い。
意識が遠のいて、床に倒れこんだ。その様子を見た母も結果を見た。
母は怒らなかった。
それどころか慰めてくれた。多額のお金をかけられ、大きな期待をされていながら、どこにも合格できなかった僕を。
人生が終わった訳じゃない。これから頑張ろうと。
母の言葉がなければ、この時間違いなく僕は狂っていただろう。
自宅に放火くらいはやってのけたかも知れない。
倒れた僕はしばらく居間で休んだ。
しかし、そう長くは休めなかった。
すぐに居間は地獄と化す。閻魔大王、父親の降臨だ。
結果を教えろとの事だ。見せたくなかった。
だが、どうせ後で分かってしまう事。今見せないのはただ先延ばしにするだけだ。
結果を見た父親は真顔でパソコンの画面を殴りつけた。鈍い音と同時に画面が割れる。
気にする事なく、父親は僕を凝視した。
それから父親は感情のこもっていない声で淡々と二時間以上僕を怒り続けた。
それで結果が変わるわけでもないのに……。
これで僕の中学受験戦争は終わった。
二年前から勉強を頑張って、何百万という大金をかけられたが、合格校数はゼロ。
公立の地元の中学校に通う事になった。
小学校の行事として公立中学を見学したり、制服などの物品を購入したり、着々と準備を進めた。
父とは受験最終日の夜から会う事は減った。お互いに避けている感じだ。
口数も減って、一言も喋らない日もある。
僕は人形の様になっていた。
小学校を卒業して数週間後。
中学校入学式を迎えた。周りには小学校の頃からの知り合いが多くいた。
噂をされている訳じゃない。それなのに周りの目が異様に気になった。
担任になったのは数学担当の三十代前半の男性教師。
そいつのあいさつと自己紹介で入学式の日のホームルームは終わった。
次の日からは早速授業が始まった。
と、言っても最初の授業は担当教師の自己紹介と教科書配布で終わった。唯一数学だけは担任が担当なので多少授業をした。しかし、簡単すぎて時間の無駄だった。
教師はろくな事を教えない。周りの連中もバカばかり。学校にいてもバカになるだけだ。
入学してから一カ月弱過ぎた頃、僕は学校に行かなくなった。
世に言う「不登校」だ。
しかし、ただの「引きこもり」ではない。ずっと家にいるが、ちゃんと勉強している。
学校に通うよりもずっと効率が良い。
「不登校」をより良い人生の為の選択肢として選んだだけだ。
だから定期テストの時だけは学校には行く。
勉強はしっかりとしているのだから成績を残しておかないと。
定期テストの主要五科全て九割だ。毎回総合順位は学年一位。
独学最高。学校に通ってバカ共と勉強するよりずっと良い。
世に言う「引きこもり」とは家で遊んでばかりいる奴らの事だ。
僕は違う。
定期テストの時以外学校に行かないとしても、学校の授業時間の時には勉強している。
その時間にはゲームやマンガに一切手を触れない。
もちろん、放課後の時間になればゲームもしたりする。それでも、毎日ではない。学校に通っているバカな奴よりも頑張っていると僕は思っている。
なのに、僕が不登校でいる事を知った父は学校に行けと言う。
以前、中学受験の勉強をしている時期に父は言ったのだ。
「地元の公立中学に行っても何も意味がない」
父はその言葉を連発していた。
何度も、何度もはっきりと言った。
何も意味がないと。それを忘れてしまったのか。
今の僕はかつての父の意見と同じ考えだ。
あんな学校、行っても何の意味もない。
だが、父は口先だけ。本当の意見は違う。まぁ、当たり前だ。
あんな奴と意見が同じなんて嫌だ。
父の言う事は全て無視する。聞くはずがない。大嫌いな父の言うことなんて。
そうすると、父の怒りの矛先は母へと向かった。
受験期間中は僕を支え、応援してくれていた母だが、結局僕の事を助けてくれる事はなかった。
感謝はしても、母の為に犠牲を被るなんて御免だ。
僕のせいで母に父の怒りがぶつけられるのなら、自業自得。
仮に死んだとしても因果応報、地獄へ落ちろ、といったところだ。
いつしか両親への怒りは、軽い殺意へと変わっていた。
ギッタギタに切り裂いて殺したてやりたい。
想像で何度殺してやった事だろう。
でも出来ない。出来るはずがない。
いくら殺したくても、未だ僕は父が怖いのだ。
父には絶対に勝てない。殺そうとしたら逆に殺される。
父への殺意と恐怖を持ち合わせたまま何事も起こる事なく月日は過ぎていった……。
不登校生活を始めてからは細かい事以外何も変わらないマンネリ化した日々であったがあっという間に過ぎていき、僕はいつの間にか中学二年になっていた。
登校していないとクラス替えも関係ないし、進級の実感も湧かない。
ただ、登校を促す面倒な相手こと担任が変わるくらいだ。
未だに主要五科九割のテスト結果学年総合一位、出席日数ワースト一位。
義務教育だから進級出来ると分かっていたが、学校に保護者と共に呼び出されて教師と三者面談等くらい覚悟していたが、たまに来る担任を無視する事の他、何もする事なく進級出来たのには驚きだった。
こんなダメ人間でも進級出来てしまうのだ。
そんな余裕気でいられたのも二年の前期までだった。
中学二年になってからか。何故か自分が嫌いになった。
もしかしたらあの父親よりも自分が嫌いかもしれない。
勉強しても内容が全然分からなくなってしまったのだ。
独学は周りに合わせる必要が一切ない為、二年の前期にはテスト前以外、中学二年生後期の内容を勉強していた。
そして、二年の後期から中学三年生の前期の内容を始めたが、これが全く理解出来ない。
勉強方法は変えていない。使っている教材等も同じ系統の物である。
なのに、急に内容が分からなくなってしまった。
勉強中は理解出来る。いや、理解した気になっている。
だから勉強後に行う理解度確認のテストで全然点数が取れない。
ひどい時には全問不正解なんて事も。
だが、分からないからといって質問できる相手はいない。
解説を読んでみて分からないものは、もう分からないままでいるしかない。
独学スランプに加えて、学校の後期テストで追い打ちをかけられた。
入学以来、一度も譲った事のなかったテスト結果学年総合一位を奪われた。
しかも、惜しくも奪われたわけではない。
全科目において一位のものはなく、総合順位は五位。
周りをバカにする事で自分を保ってきた僕にとって、これは死活問題だった。
ふと、自殺という言葉が頭をよぎる。
何故だろう。思考を止める手段がない。
死にたい。自殺したい。殺したい。
コロシタイ。ジブンヲ……コロシタイ……
僕は「壊れて」しまったのだ。既に小学校を卒業する時、受験戦争を大敗で終えた時に「壊れて」いたのかもしれない。
周りよりもずっと出来るという優越感だけで生きてきた僕にとって、見下している周りのバカよりも自分が出来なくなる事は生きる意味を失う事だ。
何の為に生きれば良い?
身体が勝手に動く。部屋の物を破壊し回る。倒して、蹴って、殴って……。
荒れた六畳間を背に、気が付いたら部屋の窓の近くに立っていた。
開け放たれたこの部屋に、秋のひんやりとした風が吹き荒れる。
これは希望を与える神の風じゃない。僕を死の世界へと誘う死神の風だ。
いつでも飛び出せる。一歩。また一歩。どんどん近づいていく。
あと一歩だ。あと一歩で僕を呼ぶ世界へと飛び出せる。
前へと踏み出そうとした刹那。
部屋のドアが勢いよく開いた。母だ。三ヶ月ぶりに姿を見る、母だった。
その顔は……泣いていた。
……シニタクナイ。まだ死にたくない!僕は母と生きたい!母の為に生きたい!
しかし、もう遅かった。
「僕」の足は何者かに掴まれ、引っ張られる。
「僕」の部屋の窓から地上へと、地獄へと落ちていった……。
「僕」の人生はある日から崩壊していった。健全な精神で健全な生活を送れなくなった。
そんな「僕」は堕落した少年だ。
終
コロナ禍が続くこの頃。
嫌でも引きこもり生活を強いられています。
そんな時、「うん?そういえば、私って引きこもりの話書いたことあったなぁ」
なんて思い、新編を書く事にしました。
読み直してみると、現下とは全く違う状況での引きこもりでしたし、新年度早々に受験の話題も時期外れな気もしますが、そんな事は気にせず。
ここから後書きらしい?ことを。
『堕落した少年』を初めて書いたのは、もう何年も昔。
当時の前書き曰く「私が初めて書いたバッドエンドもの」だそうで。
それから何度か書き直し、今作に至ります。
多分、六回目くらいの書き直しですね。
私自身、中学入試を経験した人間でして。
結果としては志望校に合格した、所謂「勝ち組」です。
その為、全落ちした気持ちなんて推し量ることしか出来ません。
しかし!中学入試のみならず、受験経験者の方なら思うはず。受験勉強中に必ず。
もし、受験した学校に全て落ちたら、と。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
また会う日まで、Good-by!




