最終話
「やっぱりみんな見てるね」
電車に乗って大学へ向かっているところだが、周囲の視線が痛い。
俺や愛美には見えないけど、愛美にも最初に見えていたようにみんな俺の頭にヴォムが見えているんだろう。
愛美が一緒じゃなかったら恥ずかしさで死にそうだ。
現実だったらちょっとしばらく外出できない。
もし今俺を見た他人からプークスクスされたら耐えられる気がしない。
ていうか、もしこれが現実で俺一人だったら通報されてんじゃないか?
危ねぇ。愛美がいてくれてホントによかった。
「見えない俺たちは気にしないようにするしかないな。普通にしてたらみんなスルーしてくれるだろ」
「そうだね」
「お、着いたぞ。降りよう」
幸い大学までは駅からすぐだ。
そんなに見られることもないだろう。
歩いて数分で大学に着いた。
学生がチラホラ歩いている程度だ。
昼の一時。
俺がいた時もこの時間はこんな感じだった。
「あんまり見られないね」
「だなぁ。俺たちのことをそもそも気にしてない感じだ」
とにかく教授の研究室に向かおう。
何かヒントでもあればいいけど。
「教授のところに何かあるといいね」
愛美が励ましてくれる。
ん?ちょっとなんか違和感が。
「なに?私なにかヘン?」
愛美もだけど・・・なんだ?何かがおかしい。
そうだ、この人がまばらな感じ。
当時と似てるんじゃない、同じなんだ。
俺は当時外で昼メシ食ってこの時間に来て研究室に行ってた。
そのときの風景そのままなんだ。
「どうしたの?通ってたころ思い出してる?」
そしてこれだ。
愛美はさっきから俺の心を読んでるようなことを言ってる。
「愛美、今この時間、A棟の第3講義室でやってる授業は?」
「え?そんなの知ってるわけないじゃん。翔太だってわかんないでしょ?」
やっぱり俺が知らないってことがわかるみたいだな。
いや、疑ってるからそう聞こえるだけか?
ここやここのことに関する話題は愛美の記憶にはないはずだ。
だからここでは俺の記憶から会話をしようとしてるとすれば辻褄は合う・・・か?
ちょっと強引だしまだ確定とは言い難いな。
今の時間はだいたいどこの講義室でも授業してるはずだ。
それをまず見に行こう。
「それじゃ、答え合わせに行こう」
そう言ってA棟の第3講義室へ向かった。
やっぱりこの世界はゲームの中だ。間違いない。確定だ。
第3講義室どころか建物の中に誰も人がいない。
ここは俺と愛美の記憶を元に作られた世界ということだ。
あとは俺の予想が正しければ、ここからはこの愛美がラスボスまで導いてくれるはず。
そう確信した俺は愛美と共に教授の研究室へ向かった。
研究室に入ると、当時のメンバーが当時の姿のままで俺を迎えてくれた。
多少は変わった俺の姿や愛美を見ても何の反応もない。
「教授は?」
誰にともなく聞いてみると「向こうで翔太を待ってるってよ」と教授の部屋を指差した。
「愛美、俺はあの部屋に行ってくる。愛美はどうする?」
「私、先に入っていい?私も向こうで待ってる」
そうか、やっぱりな。
「10分したら俺も入る。それでいいか?」
「うん。それじゃ、お先に」
全く、どういうつもりなんだか。
まぁ、ここに来た時点で隠すつもりもないんだろうな。
要は俺が難しく考え過ぎてたってことだ。
あの教授だからと深読みしすぎた。
愛美が一枚噛んでると気付けていたら・・・いやそれも含めて難易度高めってことなのかもな。
「よし、10分だ。行くか」
教授の部屋に入ると、そこには教授も愛美もいない。
ただ、教授の机があったはずの場所に見たことのないレバーがある。
「くっだらねー。ダジャレかよ!」
レバーには「ラスボス」と書いてある。
それを見て思わず口にしてしまったが、もしこれを考えたのが愛美で今のを聞いてたら・・・
「イヤーザンシンナハッソウダナー!オレビックリシチャッタヨ」
そう言い直してレバーを、"ラスボス"を倒す。
すると、目の前にウィンドウが現れる。
『ログアウトしますか?』
YES/NO
もちろんYESだ。
YESをタッチすると、周りが白くなっていく。
「はっ!ここは!?」
「あ、起きた!おめでとー!」
パパーン!とクラッカーの炸裂音が二つ同時に鳴る。
起き上がった頭から紙テープまみれにされる。
音のした方を見ると、愛美と教授が次のクラッカーを構えている。
「一体どういうつもりなんだ?」
愛美の真意がわからず、ストレートに聞いてみる。
「えへへ、それはね・・・」
タメが長い。
「お誕生日、おめでとー!」
パパーンと再びクラッカーが鳴る。
「は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
教授はというと、ずっと視線を逸らしている。
「あのゲームで登録してた誕生日って今日でしょ?だからドッキリ付きのお祝いをしようかなーって」
嬉々として語る愛美。
どうしようかな。
「あのさ、愛美。落ち着いて聞いてくれよ?」
「なぁに?」
「アレ、俺の誕生日じゃないんだ」
「ええええええええええ!!!!!?」
「ど、どういうこと!?」
「どういうことも何も俺の誕生日は来月だし、教授も履歴書見て知ってるはずなんだが・・・」
ジロリと教授を睨むが、今度は顔ごとプイッと逸らされた。
「い、いやね。言おうと思ったんだよ?でもね、この子があんまり楽しそうに計画進めていくからさ、言い出せないまま今日になってね・・・」
歯切れ悪く白状する教授。
「えー!?ノリノリで最初喋ってたじゃん!」
「そりゃあ、始めたからにはキッチリやるよ?僕は」
「そうだ、そういう奴だった」
開き直る教授にげんなりしてくる。
「で、どうだった!?楽しめた?」
「いや、もう二度とやりたくないな」
「えーひどーい。一生懸命考えたのに。あ!そうだ!ラスボスのことくだらないとか言ってなかった!?」
「イッテナイヨー」
「もー!」
膨れる愛美が可愛くて思わず頭を撫でてしまう。
「こんなのでごまかされないんだからぁ」
言葉と表情が合ってないぞ、愛美よ。
「で、なんだって教授がこんなことを?」
「そりゃあもちろん新しいシステムのじっけ――げふんげん。自慢だよ」
おい、今何つった?
まさか、試作機の実験台にされたのか?
「勘弁してくれよ、全く」
「本当の誕生日はちゃんとお祝いしようね!楽しみにしてて!」
まさかまた変なことしたりしないよな。
俺の不安はなんとか的中を免れ、誕生日はまともなデートをすることができた。
その後にわかったのだが、実は教授はまともなVRゲームの会社を立ち上げていて、俺も就職することになった。
というか、呼び出されたと思ったら社員になっていた。
そして、今は本当の『New Network Narrative』の開発を行なっている。
その名の通り、シナリオ担当は俺だ。
俺の経験したことを他の人にも体験させようという教授の捻じ曲がった発想から始まったこの企画、意外にも賛同者が多く、通ってしまった。
是非、教授に似たキャラをボコボコにするイベントを組み込んでやろう。
俺ができなかったこと、プレイヤーのみんな、思いっきりやってくれ!
お読みいただきありがとうございます。
どうにも膨らませきれず最終回です。
終わり方自体は予定通りなのですが道中が思った以上になにもなかった。
連載じゃなくもっと練り上げた短編にするべきだったとかいろいろ反省点はありますが、一先ず初完結です。
エタらせたくなかったのでこういう形になりました、すいません。