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五
「その後はどうなったんですか?」
和葉が目を輝かせて言った。
「別に。それこそ一斉にみんなで逃げただけ」
苦笑交じりに彩夏が答えた。
ローズマリーの香りが辺りを包んでいる。
「要はホームレスがそこで暮らしていただけなのよ。でも、それを知らない先輩達はお化けが出たって勘違いした訳」
「じゃあ、幽霊はいなかったんですね」
「さあね」
「え!じゃあ、やっぱり……」
「そんなの知らないわよ、場所柄いたかもね」
はぐらかしに和葉は頬を膨らませる。
「最初に長距離トラックの運転手の話をしたけれど、それと同じで「かえれ」って声に対して、そういう場所だからこそ起きた心霊現象だという思い込みがあったのよ。」
どこか困った様に微笑むと、彩夏はその時を懐かしむ様に少しの間目を閉ざした。
「それにしても、すっかり元気になったんじゃない?」
「え?そうですかね」
「顔色が良くなってる気がする」
「実感は無いですけど」
楽しげに笑う二人の声が響いた。
部室の外の共用廊下ではすっかり天井灯に電気が点いている。