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オカルト研究会の有閑な日常  作者: 賀来文彰
想い出に沈む
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 今日の和風ハンバーグ定食はいつになく美味しかった。ヘルシーなのに腹持ちが良いのが好きなポイントだが、何よりも奢ってもらった食事は特に旨いものである。

 上機嫌な様子の彩夏に、昨日の突撃隊と今回の件に興味を持った何人かの他のメンバー達はただ、ついて行くばかりである。

 電車で六駅とはいえ、ニ十分もあれば到着した。そこから御幣島病院跡地までは徒歩で三十分以上かかるが、一行の歩みはそれ以上に遅かった。彩夏が道中の河川敷や公園にしきりに目を向けるからである。

 そこに何があるのだろうと京香達も目を凝らすが、真新しい光景は何も無い。散歩中の老人や釣りをしている人、子どもを連れた買い物帰りの主婦。そして時々目に映るブルーシートで出来た仮設の住居スペースに入っていく人。日常の風景がそこには広がっている。

 目的地の御幣島病院跡地は山間部の中腹に位置する。と言っても、自転車でも通えるくらいには整備された道があり、山自体もそんなに大きい山では無いので、ワンダーフォーゲル部が新入生向けのトレーニング場所として活用している。なので、山肌沿いの道を歩いている時には既に廃墟が目に映る。四季の移ろいが感じられる風景の中で、一ヵ所だけ無機質なコンクリートがポツンとあるのは、怖いというより何処か寂しいものがあった。


「ようやく着きましたね」


 彩夏達が御幣島病院跡地玄関前に到着したのは午後一時半過ぎのことだった。


「いよいよリベンジね」


 人数が昨日の倍以上になっていることで京香の鼻息は荒い。だが、人数が多くなればなるほど不測の事態に直面した時に統制が取れなくなるものである。特にこういう心霊スポットとされている場所では、パニックは簡単に伝染する。

 昨日の体たらくからその可能性を見越した彩夏は、首を横に振るとその場で話し始めた。


「今回の件に幽霊は関係ありません。あの録音された声は生きている人間の声です」


 全員が彩夏のことを「こいつは何を言っているんだ」という目で見ていた。


「昨日、ここに来て何かおかしいと思いませんでしたか?」

「え?」

「先ず、廃墟なのに歩きやすいスペースがある点です。映像では玄関入って右側は足の踏み場もない状態だったのに、階段がある左側は歩きやすいというのはおかしな話ですよね。そんな偶然は先ず起こらないですから、考えられるのはそこを通る誰かが整理したということです」

「うーん。言いたいことは分かるけど……」

「後、階段でアルコールの匂いがしたって誰か言ってませんでしたか?」

「それ、私」


 京香の後ろに立っていた二回生が小さく手を挙げた。


「先輩、不思議だと思いませんでしたか。いくら病院だったとはいえ、廃墟になってかなりの年月が経っているのに消毒液が残ってると思いますか?」

「確かにそうだ」

「他にも階段にあった木の枝といい、二階のナースステーションにあった物といい、ここには……」


 その時、頭上から大きな声が響いた。


「うるせえ!とっと帰りやがれって!」


 二階の窓から赤ら顔の男が上半身を乗り出して怒鳴り散らしていた。


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