二
御幣島病院跡地と言えば、地元では有名な心霊スポットである。と言っても、大阪にある御幣島という地名とは全く関係が無く、珍しいことに御幣島という名字の一族が設立した病院のことを指す。
ただ、当時こそ立派な建物であったろう病院も、今となっては蔦などが外壁に絡みつく程の廃墟となってしまっている。
「というわけで明後日、見に行かない?」
オカルト研究会の会長である京香が楽し気に話した時、彩夏を含めたメンバーの大半が溜息をついた。
有坂京香はオカルト研究会の会長に相応しく、都市伝説や心霊現象といった科学や常識では説明のつかない物事に対する興味が人一倍強い。だからこそ、大学から電車で六駅離れたところにあるこの心霊スポットに突撃しに行こうと言い出すのは時間の問題だった。
「いや、会長。やっぱり良くないですよ。法律にも触れるでしょうし」
法学部に籍を置く彩夏がブレーキをかけたが、それに対する批判の声は驚くほど無かった。不法侵入になるのではないかという不安よりも、無計画に勢いだけで物事を進める京香に対してみんなが辟易していたからである。
「ふーん。まあ、確かにそうかもね」
京香が窓の外を見やった。彩夏と同じ一回生は胸をなでおろしている様子だったが、彩夏自身はまだ警戒を緩めていなかった。京香がこのくらいの諫言で引くはずが無かったからである。
事実、京香はニヤリと笑ってこう言った。
「彩夏。そうは言うけれど、本当は怖いだけでしょ?」
要はワガママなのである。自分の意のままに物事を進めたい癖が京香にはある。今も彩夏を煽っているのは、それに反応させて突撃させようという思惑があるからだった。
なので彩夏は穏やかに、ゆっくりとこう言った。
「はい、怖いです。法律違反の可能性があることも怖いですが、幽霊自体が怖いです。なので、否定はしません」
それを聞いた他のメンバーも口々に怖いから行きたくないと訴え出した。こうなると話は続かない。
旗色が悪くなったことを感じ取った京香は、悲し気に首を振ると強権を発動した。
「ついてきてくれた人には今日の夕食をごちそうするわ!」
それを聞いた途端に、五人のメンバーが京香の元に集まった。その中には京香と同じ学年の者もいた。最上級生としてのプライドは無いのだろうか。
「というわけで、明後日の午後三時にここへ集合!」
嬉しそうに宣言する京香に、彩夏は諦めに満ちた笑顔を向けた。