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第4話


ひとり遊び


「ごちそうさま」夕食を食べ終わった時、玄関でインターホンが鳴った。

「私、出てくるわ。宅配便みたい」母さんに声をかける。


「ここにサインを・・・。はい、ありがとう・・・ございます」宅配便の若いお兄さんににっこりと微笑まれる。こういう風に笑顔を投げかけられることはよくあった。

エンジン音と共にトラックが走って行く。梅雨前の、蒸し暑い夜だった。


今の宅配便の人、話し方がなんか悠太に似ていたな・・・。控えめで優しそうな感じが。この前の休み時間のことを自然と思い出す。あの時はもうちょっと教室でゆっくりしていけばよかったなぁ・・・。おっといけない、私ったら何を考えているんだろう。これからすることがあるのに。思い出にふけっている場合ではない。


もっとも、受け取った荷物はまさしく悠太のことを思うのに最適のものだったのだが。


〜〜〜


「お姉ちゃんに荷物?なんか買ったの?それとも彼氏からのプレゼント?」部屋に戻ると3歳年下の弟、拓海が騒いでくる。

「さあ、どっちでしょうねー。お子様にはわからないでしょうねー」軽く受け流してそのまま2階の自分の部屋に行った。

確かに自分で買ったものだが、本来私が買うようなものではないからプレゼントと言っても差し支えないだろう・・・。


今月は私の誕生日だ。悠太に何かねだってみようか・・・。ちょっと「夢の力」を使って。だめだ、悠太にはなぜだか効かないんだった。それじゃあどうしようもないなー。夢の力でなしにプレゼントをくれたりは、まさかないだろうな。


そんなことを思いながら小包を開ける。


新しいチェスのセット。

悠太の趣味だから始めないわけにはいかない。そのうちに、二人っきりでチェスを教えてもらったり・・・。試合が白熱したらひたいとひたいがくっついたり・・・。だめだめ、今日の私はちょっと様子がおかしい。冷静にならないと。これからチェスを勉強するんだから。


〜〜〜


これが、キング。これがクイーン、ビショップ、ナイト、ルーク、ポーン。なるほど、こういう風に動くものなのね・・・。すぐ覚えられそう。ルールブックを見ながら理解を進める。

チェスのセットは木製のそこそこいいものを買った。一つは気に入ったものならやる気が出るだろうし、もう一つはいずれ悠太がうちに来た時に(きっとその時が来ると信じている)恥ずかしくないものにしたかったから。


白が先手で、交互に駒を進めて行く・・・。王様が逃げられなくなったら勝ちね。私もこんな風に悠太にチェックメイトされたいなー。違う違う、そんなことを考えてはいけない。慌てて妄想を打ち消す。


十数分後・・・。

じゃあ、ルールもだいたいわかったことだし、一人二役で練習してみようか。私が黒で白は・・・相手はいないがとりあえず悠太としておこう。

さあどう来る・・・?


なるほど、ルーク前のポーンを動かすのね。悠太ったら攻め好きなんだなぁ。じゃあ私はこうやって受けてと・・・。

あ、やめて・・・悠太ーそこは攻めないでよ。私の大切な・・・ポーンがとられちゃう。


一人で駒を動かしているのに楽しくなって来た。ああっ、やめてやめて。またポーンがとられちゃう。どんどん私(の盤面)が裸にされちゃうよ・・・。


じゃあ仕返しいくよー。えいっ、悠太のナイトを取っちゃう。これでぴょんぴょん飛ばれなくて済むもんねー。


チェスの名人が聞いたら卒倒するかぶちぎれられそうだが、これでも真面目に試合をしているつもり。演出は別として。どんなゲームにも楽しみは必要だからね!


そうこうするうちに、私の駒で残っているのはキングとクイーンだけになった。悠太のはまだいっぱい残っている。もう抵抗できない。こうなったら潔く身を任せて・・・。


クイーンを相手陣に突入する。悠太のビショップを取ってと。しかし眼前にはひときわ大きな駒であるキング。次のターンで食べられちゃうわね。ごめんね、私のクイーン・・・先に行っちゃうわ。


そして裸になった私のキングもあれよあれよという間に詰められ・・・。

「チェックメイト」悠太の声(私の声)がかかる。今回は悠太の勝ちね。でも次は負けないわよ。きっと悠太のキングを先に昇天させちゃうから。


すっかりチェスに集中してしまって、暑いのも忘れていた。ひたいの汗が白い駒の上に滴った。優しくティッシュペーパーでふき取る。次もあるんだから大切にしなくちゃね。


〜〜〜


汗もかいたことだし、先にお風呂に入ろうか。寝間着を取って階下に降りると、弟の拓海がテレビを見ている。

「拓海、宿題はやったの?お風呂上がったら見てあげよっか??」

「今日は遠慮しとく。この後見たいのがあるから」

「ちゃんと宿題やって行きなさいよ」たまには世話を焼いておこう。弟がいると小さい頃から自然としっかりしてくるものだ。中1になってしばらくだがかわいいものだ。背は伸びて来たがまだ小学生みたい、と思うことがよくある。


「お姉ちゃん、汗びっしょりだけど。2階で何をやってたの?」拓海が詮索してくる。・・・やっぱりかわいくない。前言撤回!

「別に何にも。ただ暑いだけ。それよりテレビほどほどにしなさいよ」つっけんどんに返す。


〜〜〜


ぬるめの湯船に浸かってリラックス。お湯の中で足を伸ばして伸びをする。


チェスってやったことなかったけど意外に面白いんだな・・・。好きなように駒を動かして、相手もそうして来る。今日は二役やったけど、本当は相手プレイヤーは動かせないからもっと難しいんだろうけれど。

例の「夢の力」もチェスとちょっと似ているな・・・。不思議な力だけれどチェスのようにクラスの生徒を動かせる。どういうわけか悠太にだけは効かないんだけれど。


肩までお湯に浸かってそんなことを考えていると、突然はっと閃いた。

もしかして・・・悠太も私と同じ「夢の力」を持っているんじゃないかしら。だから悠太を動かせないのでは!?

私はプレイヤー、そして悠太も駒じゃなくてプレイヤーだったとしたら・・・?


自分でもびっくりするような発見だった。うん、科学ならノーベル賞級と言ってもいいくらいね。今度はノーベルさんに怒られそうだけど。


悠太も「夢の力」を持っているなら、本人も気づいているだろうか。気づいていたらどんなことに使っているのだろう。


私と悠太の二人だけ持ってる能力なんてなんだか素敵じゃない?深い縁があったりして。

明日はどんな風に近づこう・・・。


せっかく汗を流したのに、また全身火照って来るのを感じた。


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