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第15話


神社


午前10時過ぎ、起床。夏休みは目覚まし時計をかけなくていいのがうれしい。普段たたき起こそうとする時計3つも終業式の日から机の上でおとなしくしている。

すでに蝉が大音量で鳴いている。よくこの中で寝ていられたな、と思う。


さて、今日は特に出かける予定もないし、家で一日ゆっくりと・・・と着替えながら考える。

扇風機を止めて、いつもの習慣でスマホを手に取る。ホームボタンを押すと、珍しく、既に通知が2件も入っていた。


〔ありせりほ〕 おはよう?

「?」マーク付き。時刻は8時12分。夢も見ずに熟睡していたころだ。


〔ありせりほ〕 おはよう??

時刻は9時15分。夢うつつだったころだ。


「おはよう、今起きた」返信する。ややあって・・・。

「おはよう。悠太今日ひまー?」

「特に予定はないけど」

「よかったー。昨日部活で先輩から面白い話を聞いたんだけど・・・悠太も関係あるからどっかで話したいなー」ん?関係あるって何だろう。

「何の話?」

「悠太と私に共通する話。昼くらいに駅まで行っていい?」共通する話って何だろう。ますます「?」になる。

「うちの最寄り駅?」

「うん」

「いいけど、周り何もないよ」僕の住んでいるところはちょっと田舎の住宅街で、平日の日中は閑散としている。スーパーや薬局など日用品を買うくらいの店はあったが、それ以上のところはなかった。あとは、住宅地ができるずっと以前からある田んぼに畑、神社・・・。

まあ自然豊かなところというわけだ。一応ここから電車で20分の終着駅、月の台駅周辺(通っている高校もそこにある)がこの辺りでは街の中心となっていたが、そこも都会というほどではなかった。まあ必要なものはたいがいあるし、人も多すぎず、僕にとっては住み心地の良い街だった。

「いいよー、じゃあ12時くらいに駅でね」莉帆から返信が来る。

今日は外出するつもりはなかったけれど駅までならまあいいか。そういえば3日前にプールに行った時以来どこも行ってなかったし・・・。


~~~


正午前。暑いので冷凍庫の中にペットボトルごと凍らした水(ヨーグルト味)をもって出かける。一応、莉帆用のと合わせて2本。それとお菓子もいくつか。

駅までは住宅地を抜けて、マンションをいくつか過ぎるだけ。歩いて10分ほどだ(学校のある日は走って数分だ)。


駅のすぐ前にあるコンビニに入る。暑いし外では待ちたくない。すぐ前だから分かるだろう。

「やっほー」何となく商品を眺めていると後ろから声がかかった。有瀬莉帆が姿を現す。今日も変わらずかわいい。私服姿が新鮮だ。二人きりか・・・ちょっと緊張してきた。

「やあ」

「暑いね。この辺涼しいところある?」莉帆が聞く。

「コンビニとスーパーに病院・・・あとは神社くらいかな」ほんとにそれしかないのだ。

「悠太の家は?」と莉帆。

「人がいるからだめ!」僕が女の子なんか連れてきたら大変だ。母さんに何と言われることやら。

「じゃあ神社で」消去法でそれしかないよな。

「それならいいよ」近くの八幡神社は正月とお祭りの時以外に訪ねる人もいないし、大きな楠がたくさんあってなかなか涼しい。小学生が遊んでいるかもしれないがそれくらいいいだろう。


~~~


「で、話っていうのは?」駅を出て北の方に向かって歩きながら聞く。神社までは坂道をしばらく歩く必要がある。

「昨日、部活の後で先輩から聞いたんだけどね。私たちの持ってる『夢の力』って前にも持ってる人がいたんだって」

「へえ、そうなんだ。それは一体誰?」僕は興味を惹かれて尋ねた。

「去年卒業した先輩で、今は市内の女子大生だって。部活の先輩と仲良かったみたい。先輩は学校の都市伝説みたいな感じで話してたけど、私たちはまさにその力を持ってるわけね」

「ふーん、そりゃすごいな。まあ張本人以外はとても信じられないだろうけど」

「うん、それでね、その卒業した先輩は私たちみたいになぜかは分からないけど素晴らしい力が手に入ったのに気づいてこっそり使ってたみたいだけど・・・ある時『夢の力』をどうやって手に入れたかが分かったんだって」

「へえ、そうなんだ。どうやって手に入れたの?」僕は話に引き込まれていった。


「学校の中庭にある例の銅像。入学式の日にあれを触った人が『夢の力』を手にするんだって。ただしこの事実を知るより前でなくてはいけないけれど」

「それだったら、僕も触ったよ!朝遅刻して中庭でうろうろしてる時につまづいて・・・。そう言うことなら遅刻して大正解だったじゃないか。運命って分からないものだな。あの時は散々な目にあったと思ったけど。ということは莉帆も入学式の日に・・・?」

「そう、私もよ!もっとも、私の場合は朝早く着きすぎてベンチで休憩してたんだけど」莉帆の口調が熱を帯びてくる。

「へえ、銅像にそんな力があったなんて。僕たちの知っていることはあまりにも少ないもんだね。この宇宙の中で」


いつの間にか坂道が終わって八幡神社に着いていた。石の鳥居をくぐって境内に入ると風が吹き抜けて涼しい。神秘的な雰囲気が漂ってきている。

「その卒業した先輩はよく気がついたね」僕は感心して言った。

「これも又聞きだけどね、夢の中でお告げがあったらしいわ。あと、あの銅像の学生は実在した生徒らしい、とも言ってた。詳しいことは分からないけど」

「ふうん、そうなんだ。じゃあその昔の学生がこの能力に関係してそう。思わぬところに手がかりがあるものだなあ」


「うん、いつかその卒業した先輩に会ってみたいなぁ。直接聞けたらもっといろいろ分かりそう」莉帆が思案している。


参道に立ち並ぶ古めかしい鳥居をくぐり、本殿近くの社務所の階段に並んで腰かけた。しばらく歩いて来たので、休憩すると風が心地よい。境内に人気がなく、ただ蝉の声があたりにこだましている。しばらく二人とも風を受けてゆっくりする。


「悠太?ちょっと手を貸して」出し抜けに莉帆が言った。そして、右手が握られた。

「ど、どうしたの?」どきどきしてくる。

「何かわかるかなと思って」

「何かって??」

「私たち二人とも、入学式の日に銅像に触って力を手に入れたんでしょう。お互い何か通じるところがあるかもよ」

「そ、そうなのかな」手の甲にぬくもりがつたわってくる。ふんわりとしていて他の何にも形容できないような感覚・・・。莉帆の手ってこんな感じだったんだ。ちょっとした感動すらある。

「お互いの力が呼応しあったりしないかなぁ」と莉帆が言う。こんな風に手を握られている時点で普通の感覚ではないから、仮に力が呼応したところで分からないだろう・・・と僕は胸の中で思った。

「・・・悠太の手、あったかいね」と莉帆。そりゃそうだろうけど、わざわざ口にして状況確認しなくてもいいのに。ここで「莉帆の手もあったかいね」なんて返答しようものなら、まるでカップルじゃないか。なぜかそんなことを思ってしまった。


不意にすっと手が離れた。

「あ、そうだ。バゲットつくってきたんだけど、食べる?」と莉帆がバッグを開けながら言う。

「いいの?」

「うん、お昼にしよっか。よく歩いたし」


レタスとハムと玉ねぎの薄切りをサンドしたバゲット。粒胡椒がまぶされていておいしそう。

「すごいね、莉帆ってほんとに何でもできるんだね」僕が若干感激して言うと莉帆はうれしそうに微笑んだ。

「まあ、これくらいなら・・・。そのうちに腕を上げてきれいなお弁当とか作ってみたいな」


〜〜〜


バゲットをごちそうになり、持ってきたスーパーのお菓子も二人で分けて食べると満ち足りた気分になった。二人きりなのもだいぶ慣れて、それを楽しむだけの余裕も出てきた。夏休みっていいなあ。


「せっかくだからお参りして帰ろうか」莉帆に尋ねる。

「いいね」僕も賛成する。

拝殿の方に赴き、苔むした急な石段を登る。それから財布を出して5円玉を取り出す。

「もう一枚ない?」と莉帆。

「えっと・・・あった。ラッキー」一枚を莉帆に渡す。

「悠太からお先にどうぞ」

そこで僕はお賽銭を投げ、一礼して鈴をがらがらと鳴らし、拍手して目を閉じた。


・・・願い事は・・・考えてなかった。特に今欲しいものもないし、こうなってほしいということもないなぁ。それじゃあ・・・。


莉帆が元気に夏休みを過ごせますように。そしてまた一緒にここに来られますように


最後のは余計だったか・・・。まあいいや。


「お待たせ」莉帆に声をかける。

続いて莉帆がお賽銭を入れて、鈴をがらりと鳴らし、手をたたいてうつむく。

後ろ姿もかわいいなあ・・・と見とれてしまう。


悠太にもし読心術ができれば莉帆の願い事に驚いたことだろう。


悠太とまたいっしょにここに来られますように


・・・


「悠太なんの願い事したのー?」ゆっくりと石段を下りながら莉帆が尋ねる。

「願い事って教えたらだめなんじゃ・・・」

「そっかー、じゃ、私のも教えない」石段を降りきって顔を見合わせる。莉帆がなぜだか紅くなっている。急に愛おしさが溢れてきて、一瞬抱きしめたい衝動にかられた。階段の手すりを持ち、危ないところを踏みとどまった。

「悠太ー、どうして紅くなってるの?」

「え?そんなことないって。莉帆こそ・・・」

「んー、そう?なんでもない。帰ろっか」


そうして、八幡神社を後にしたのだった。二人とも神社で祝福を受けたような気持ちで・・・。



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