六話
毎日投稿、きつくなってきましたが、クオリティを落とさないように頑張ります!
今日は少し時間をずらしてみました。
その後つららは「私はそろそろ授業に出ないとマズいから、今日の放課後生徒会室に来てくれ」そう言い残して保健室を去っていった。
「いろいろあったけど生徒会に入れてよかったな。まさか会長があんな趣味を持っているとは思ってもみなかったけど」
それに少々距離を縮め過ぎた気がしないでもない。自分の中に潜む『主人公補正』のことを考えて少しマイナス思考になるが、結果的に良かったのだと無理やりに肯定して、俺は教室に戻ったのだった。
教室では五限目の数学の授業の途中で、俺が気を失っていたことはクラスに知らされていたらしい、授業中の先生は特に遅刻で怒ることは無く、難なく俺は自分の席に着くことができた。
その途中ずっと綾香が俺の心配をしてきていたが、「大丈夫だから」の一点張りでやり過ごす。
優馬もそれなりに心配してくれたようで「これからは俺に位置を知らせるんだな」グへへみたいな歪な笑みを浮かべていたので、絶対にこいつにはあの旧校舎のことは話さないと決めた。
そしてとうとう五限が終わり、放課後になる。俺は生徒会室に行かなければならないため、早急に席を立った。すると、
「ちょっと待って!」
この短期間で大分聞きなれた声が後方から聞こえた。
「いや無理」
振り返らずに返事をしてその場を去ろうとするが、綾香が猛烈なスピードで俺の前に割り込んできて俺の手を引っ掴み、両胸の前で握った。
「ちょ、離せって!」
「ダメだよ、三条君は私と一緒に帰るの!」
「はい?」
「だから、一緒に手を繋ぎながら帰って私たちの愛を確認するの!」
「いい加減にしろ! なんで俺がお前を愛してる前提で話が進んでるんだ!?」
「それはー、だってほら、私ってかわいいでしょ? ね?」
満面の笑みで俺の手を胸にギュッと押し付けてくる綾香。
流石、『学園のマドンナ』なだけあってその笑顔は超一級品だ。
こんな笑顔を見せられたら世の中の男はみんな恋に落ちてしまうのではないだろうか……。
それに右手に当たっている柔らかい感触が俺の理性を飲み込んでいこうとする―――って、これはまずい!
危うくその谷間に飲み込まれそうになった理性を取り戻すために、慌てて手を振りほどいた。
「そもそも俺は今日用事があって生徒会室に行かないといけないんだ、残念だけどお前と帰る時間は無い」
「ええ! そんなぁ」
「おう、すまん。それじゃあな」
危なかった……。もう少し判断が遅ければ落とされていたかもしれない。
あれは好きとか好きじゃないとか関係なく男を恋に落とす悪魔だ、気を付けなければ。
そのまま綾香に背を向けてその場を立ち去ろうとするが、
「ぐは!」
「えへへへ、三条君の背中あったかーい!」
「おいお前何勝手に背中に乗ってんだ!」
しかもこんな公衆の面前で!
チラッと教室の人間を見ると男子が殺意の籠った目つきで俺を睨んでいた。
「おいは約降りろよ、お前!」
「えー? どうしようかなぁ」
「たっ、頼むから早くしてくれ!」
さもないと俺が殺されかねない。もちろん肉体的な意味で。
「んー、じゃあ今日一緒に帰ってくれるならいいよ?」
「いやだからそれはっ」
「生徒会が終わるまで私待ってるからさ!」
「それじゃ結構遅い時間になるだろ、今日は無理だ。諦めてくれ!」
「ふーん? じゃあ私は諦める代わりに降りないけど……大丈夫?」
ニヤつきながら綾香は今にも飛び出してきそうな男子を一瞥し、俺に問いかけの答えを促してくる。
「……クソッ、分かった。分かったよ! 一緒に帰ればいいんだろ」
「流石三条君! それじゃ生徒会の用事終わったら連絡してね!」
一緒に帰ると決まるや否や、綾香はスルッと俺の背中から降りてスマホを俺の前に出す。
「いや、最初から待ち合わせ場所を決めて置けば……」
「でもそーなると私そこから動けないわけでしょ?」
「ああ、まあそうなるな」
「そうなるときっとみんな集まってきちゃうよ?」
その波をかき分けてあたしと一緒に帰るつもり? 俺を見つめる綾香の瞳は言外にそう伝えてきた。
「分かったよ、連絡先は優馬に聞いてくれ、俺はマジで急がないといけない」
なんだかんだ授業が終わって十分は経っているのだ、こちらからお願いしたことであまりつららを待たせるのも気が引ける。
「はーい! 優馬くーん!」
トタトタ優馬に向かって走っていく綾香。
優馬も笑いながらスマホを開いている。
やはり優馬を頼って正解だったな……。
それを見届けて俺は今度こそ生徒会室に向かったのだった。
「すみません、お待たせしました」
生徒会室のドアを開けるとつららが一人でソファに座っていた。
夕日に照らされたその姿はとてもきれいで思わず目を奪われてしまうほどに。
するとつららはようやくこちらを向いた。
「いやあ、ずいぶん遅かったようだけど、何かあったのか? それとも私におあずけを食らわせたかったのかな?」
「おあずけって……。違いますよ、少しクラスメイトに絡まれまして」
「おっとそれは災難だったな。早急に生徒会に入らないと」
「しかし本当に俺は生徒会に入れるんですか?」
「信じられない?」
「流石に生徒会長でも一筋縄じゃ……って近っ!」
いつの間に移動したのか、つららは俺の顔のすぐ近くで微笑んでいた。
「そうか、信じられないのなら身体に直接教え込まないといけないな……」
つららはいきなり俺の首に手を回し、首筋に吐息を吹きかけてくる。
「はうっ! 生徒会長! 止めてください!」
肩に手を置いて引きはがそうと力を入れるが、思いのほか力が強く全く離すことができない。
「まずその生徒会長って言うの、やめようか……」
今度は耳元で囁いてくる。
「はい?」
「つらら。私のことはそう呼んでくれ。いいかい燕?」
「なっ、どうして俺の名前を!」
「フフッ、君が寝ている間に生徒手帳を拝借してね。いい名前じゃないか……」
そう言いながらつららは絶えず吐息を首筋や耳に当て続けている。
綾香とはまた違った魅力に俺は卒倒しそうになるが、すんでのところで耐えていた。
「わ、分かりました。つらら先輩! ほら呼びましたよ! 離れてください!」
「ん? 私は名前を読んだら離れるなんて一度も言っていないつもりだが……」
「いや、ちょっと! それはずるいですって!」
「ずるい? 君が勝手に思い込んだだけなのにそんな言われ方をされると少々傷つくなぁ」
「そんな! ううっ」
今度は俺の背中に手を回し、指でゆっくり背中を撫でる。
「もう……やめてくだ、さい……」
延々と耳元で囁き続けられ、背中や首を優しく刺激されたせいで脳みそは既にトロトロだった。
「おっとどうやら君には刺激が強すぎたようだね。すまないすまない」
会長は俺から離れてもとのソファへと戻っていった。
俺は崩れ落ちそうになる膝を力を入れて耐える。
「フフッ、その様子だと今日は話の続きが出来なさそうだ。また明日……いや今日は金曜日だったからまた来週の昼休み、再び生徒会室に来てくれ。その頃には君も立派な生徒会委員になっているはずだからね」
返事をする気力すらない俺はコクリと首肯するとそのまま生徒会室を後にしたのだった。
「はぁ、一体何なんだあの人は」
氷堂つらら。『学園の女王』にして生徒会長。完璧超人。
「俺は女王にしてやられたっていうのか……」
あの人について考えるのはもうよそう。
俺はスマホを取り出して綾香に連絡を入れるのだった。
三話連続でつらら回でしたね……。
次回は綾香主体の回になるはずですので、是非ともブックマークと評価を宜しくお願いします!
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