五話
毎日投稿続けて行くッ!
「目を覚ませば、そこは見慣れない天井だった……」
「何を言っているんだ、君は……」
「え、生徒会長? なんで?」
「いや、それはだな……そのー」
言いよどむつららを横目に身体を起こして周りを見ると、俺が寝ているベッドの周りにカーテンが掛かっていて外からは体育に励む生徒の声がする。さらにうっすらと漂う薬品の匂いを感じてここが保健室であることが分かった。
しかし何故俺は保健室にいて面識のないつららが俺の隣に座っているのか……。
駄目だ、何も思い出せない。
昼時くらいから記憶が無いのは確かなんだけどな。
「確か俺は逃げるために旧校舎に行って昼ご飯を食べていたんだ……」
どこから記憶がないのかを確認するように記憶を口に出していく。
「その後ゆっくり昼ご飯を食べていたら、謎の足音が聞こえてきて……くっ!」
どうして急に頭痛が!? 隣に座るつららはなぜか顔色が悪い。
「何も思い出せないのか?」
「ええ。旧校舎で昼飯を食べていたところまでは思い出せるんですけど、そこから先を思い出そうとするとこめかみが痛むんです」
「そ、そうか。それは良かった……じゃなくて! かなり大事だな」
ん? この人今良かったって言わなかったか?
「と言うか生徒会長はなんで俺の隣に? もうとっくに授業始まってますけど」
壁掛け時計を見ると五限が始まってもう十分は経過している。
「それは……今日の見回りで旧校舎に行っていてね、そこで倒れている君を見つけて保健室に運び込んだんだよ。とにかく目を覚ましてくれて良かった! 君が言うようにもう授業が始まっているから私は行くよ」
「あ、はい……」
「上手いこと記憶も飛んだようだしね……」
つららが小さい声で何か呟いたが俺の耳まで届くことは無かった。
そのまま居住まいを正すが、心なしか急いでいるように見える。
「それじゃ、これからは旧校舎には入らないように! 君の体調を鑑みて今回は反省文を免除しよう」
「あ、はい! ありがとうございました」
そう言い残して足早に保健室から出ようとしたつららだったが、急いだせいかポケットから何かが零れ落ちてカラカラと音を立てて俺の寝ているベッドの下に潜り込んでしまった。
「あ、俺取りますよ」
ベッドから降りて床を見るとそれはあった。
よく見ると手鏡のようなもので……。
「や、やめろ! 自分で取れるから君はそれに触るなぁ!」
どうやら相当大事な物のようで他の人には触れられたくないらしい。
しかしもう既に俺の手の中にそれはあり、つい好奇心で手の中のものを見る。
可愛らしい装飾が施されていて、生徒会長の持ち物と言うより小学生の持ち物のような……。
俺の中で点と点が繋がり、ダークマターに覆われていた記憶の欠片が姿を現した。
そうだ、俺はあの時見てはいけないものを見て……!
「会長!」
「ななななななな、なんだい?」
額から汗を流し必死に床に這いつくばって手鏡を探している会長に声を掛ける。
そうだよな、そりゃ必死に探すわ。俺が目覚めるまで傍にいたのもあの出来事を覚えているかどうかの確認のためだ。
「お話があります」
「ひゃい……」
なんとも情けない声で返事をしたつららを再び椅子に座り直させて、俺は話し始めた。
「会長、なにか言うことがあるのでは?」
「は、はて? 何のことだろうか。私は感謝こそすれ、君に責められるようなことは何も……」
「正義の使者……」
「ゴメンナサイ。私が悪いです。認めるのでその話はどうか内密に……」
「ほう、自分が悪の組織であることを認めてしまうんですか」
「は、はわわわわわ」
目を白黒させて動揺するつらら。この様子だと今まで人にバレたことは無いらしい。
「まあ、趣味のことは置いておいて。蹴り飛ばされたこめかみが痛むんですよねぇ、ズキズキと」
「そ、それに関しましては! なんと謝罪をすればいいか……」
「生徒会長が無抵抗の生徒を蹴り飛ばすなんて、他の生徒に知られたら?」
「後生ですから、何でもするのでそれだけはぁ!」
「ではあなたに究極の選択をさせてあげましょう、拒んだりするようなら……分かりますね?」
「は、はい!」
やばいな、普段あれだけ威圧的で人を寄せ付けない生徒会長を平伏させてるって思うとついつい興が乗ってしまう。
ま、いいか。お遊びってことで!
「では行きますよ、一つ目の選択。それはあなたが無抵抗の生徒を蹴り飛ばしたということ。二つ目の選択。こちらはあなたが毎月旧校舎で何をしているのかについて。選択した方のみバラします、もちろん選ばれなかった方は墓場まで持っていく所存ですから安心してください」
「そ、そんな酷な! 私からすればどちらもバラされたくない秘密です! どうかどちらも秘密にしていただくということは……!?」
「最初に言いましたよね、拒んだりするようなら、と。そうですか、あの『学園の女王』がよりによって最も愚かな選択をするとは……」
「ど、どうか情けを! それはどちらも同じくらいの機密事項なのです!」
「では、取引しましょうか」
「と、取引ですか?」
「会長、あなたは先程言いましたね? 何でもすると」
「ま、まさかここで脱げと!? 致し方ない、初めては好きな人と決めていたが秘密を守るためなら!」
おもむろにシャツのボタンを外し始めたつららを見て一気に熱が冷めた。
「どうしてそうなるんだ! そんなこと一言も言ってないだろうが!」
「まっ、まさか、よりひどい仕打ちを!? わかりました、私はあなたの奴隷になることすら覚悟しましょう!」
「おいおいおいおいいいいい! 奴隷なんかいらないしそんな変な覚悟するな! はぁ、俺が頼みたいのはもっと単純なことですよ」
「フム、もう少しこのプレイを楽しみたかったのだが……。単純なことと言ったか、それは?」
プレイって……。しかし自分も楽しんでいた手前責めることができない。もしかしたら生徒会長は想像以上にやばい人なのかもしれない。
「俺を生徒会に入れてほしいんですよ」
「生徒会に? それは確かに単純な話だが、何故だ?」
真意を掴めないつららは首を傾げたので、ここ最近の自分の状況と狙いを簡潔に述べた。
「なるほど、要するに茅野綾香の取り巻きたちから身を守るために生徒会の力を使おうと。そういうことでいいか?」
「はい、そうなればもう旧校舎に入ることは無くなりますし、会長は思う存分プリティキュアごっこ出来ますから、ウィンウィンと言うことで一つ」
「プッ、プリティキュア生徒会に入ってもは他言無用で頼むぞ!」
「はい、ってことは生徒会に入れて貰えるんですか!?」
「ああ、丁度人手が足りなくてな。生徒会委員の選抜は、本当は生徒会選挙の時期に行われるがまあ私の推薦ならば十中八九通るだろう」
「良かった! ありがとうございます!」
「感謝はいいよ、私も保身のために行ったことだからな」
「いえ、それでもですよ。怪我の功名みたいなことなんですかねぇ」
話が終わり一息つくと、急に俺の顔につららの顔が近づいてくる。
吐息まで感じられる距離まで近づいた後つららは耳元で、
「……それよりも本当に奴隷にしなくてよかったのか?」
色っぽいお姉さんのような声でからかってきた。
「……なんか性格変わりました?」
なるべく動揺を表に出さないように冷静を意識して話す。しかし俺の心臓はハツカネズミより早く、顔は日本猿より赤くなっていることだろう。
「君にはもう隠し事が全てバレてしまったからな、素に近い私が出ているんだろう……。それに君は中々からかい甲斐があるようだ。……ふー」
「ひゃあ!」
最後の最後で耳に息を吹きかけてくるなんて……。大笑いしている会長を睨みつけて、高鳴る心臓を抑えたのだった。
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やっぱ年上のお姉さんって、いいですよね……。
それと、更新する時間を変更しようか少し悩んでいます。